「売れ残りでも、昔のような失敗作でもいい」|葬送のフリーレン
アニメ『葬送のフリーレン』の第2期を見始まってすぐ、私を一番驚かせたのは、ゲナウだった。
大陸魔法協会のトップに君臨する大魔法使いゼーリエに仕える、一級魔法使いのゲナウだ。
第1期では見ることができなかった彼の優しさと意志の強さが、第2期では、じんわりと滲み出る。
強く自己抑制された彼の優しさは、虚しさと共に、彼の心の暗い場所にあるように見えた。
* * *
S2E34『討伐要請』では、ゼーリエから魔族討伐の命を受けたゲナウとメトーデは、北部高原の村にいる。
そこはゲナウの故郷の村だ。
魔族によって破壊され、廃墟のようになってしまった故郷の村で、ゲナウは魔族の残党を見つけては、倒す。
そしてゲナウは、ある瓦礫の下から幼い頃から知っている旧友を見つける。
魔族に襲われ、深い傷を負った旧友を瓦礫の下から引きずり出し、背負って教会へと連れて行く。
ゲナウは旧友を背負って歩きながら、村を襲った魔族は「皆殺しにしたよ」と言葉をかける。
襲われた村の人々は、「みんな無事だ」と、嘘をつく。
「おまえの怪我もすぐ治せるよ」と、さらに嘘を重ねる。
このあたりで、背負われた旧友の身体からは生命の兆しが消え始める。
背負われながらゲナウの服を固く握っていた旧友の手は、脱力する。
やがてその身体は、ゲナウの背中からずり落ち、彼がもう息絶えているであろうことがうかがえる。
ゲナウの旧友は、その村でパン屋をしていた。
彼は昔から、パンを焼くのが下手だった。
ゲナウは、自分の背中に背負われたまま心臓の音が止まった旧友に、声をかけ続ける。
どうだ。
少しはマシなパンを焼けるようになったか?
ここのところ、冷えて硬いパンしか食えていなくてな。
ぜひ焼き立てを食わせてもらいたいものだ。
この際、焼き立てでなくてもかまわない。
売れ残りでも、昔のような失敗作でもいい。
贅沢は言わん。
息絶えた友人を背負い、ずり落ちる身体を抱え直しながら、ゲナウは話し続けている。
最初にこのシーンを見た時、私はとても苦しくなり、画面から目を逸らしそうになった。
「売れ残りでも、昔のような失敗作でもいい。贅沢は言わん」という言葉が、旧友に「ただ生きてほしい」と願う言葉に聞こえた。
* * *
場面は、教会に移る。
教会には多くの村人の遺体が並べられ、メトーデが祈りを捧げている。
ゲナウは背負ってきた旧友を、村人たちの遺体の列に加える。
身体を横たえ、死んだ旧友の顔にかかった髪を、手で払う。
そして、旧友が焼いたパンを「もう食えないんだな」と呟く。
数秒間ずつ細切れに挿入される回想シーン、表情のないゲナウの顔、それとは裏腹に温かさを感じさせる手の動き。
一見ちぐはぐなすべての描写が溶け合って、ゲナウの抑制された優しさが滲み出す。
なぜ彼は、こんなにも感情を抑制しているんだろう。
私の中で問いが生まれる。
理由は、この先の物語で少しずつ見えてくる。
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