「ヤブ医者みたいに言わないでよ」|葬送のフリーレン
私が『葬送のフリーレン』が好きな理由はたくさんあるが、その一つは、ほぼ全てのことに関して両面性を描いているところだ。
魔法、言葉、強さ、弱さ。
これらすべてが、優しいものにも、人を傷つけるものにもなりうる。
使い手、使い方、受け止め方次第で変わるものとして、常に見る側に解釈の余地を残してくれる。
私がこれまでさんざん書いてきた、物語に描写される人間社会の権威構造に関しても、それ自体を断罪するような表現は一切出てこない。
むしろ「権威づけ」自体は、必要なものとして描かれている。
象徴的なのは、魔法使いをその技能でランク分けする、大陸魔法協会の階級制度だ。
魔物討伐依頼などを請け負うには、一定以上の魔力や技能がなければ危険だ。そこで任務の割り振りに役立つのが、一級魔法使いという資格である。
危険な区域には結界を張り、一級魔法使いしか入れないようにするのも、安全のためだ。
権威構造からは特権意識や内部闘争が生まれやすい、という負の一面もある一方、社会的な信頼や安全性を担保するために、何らかの権威づけや資格は必要だ。
現実社会にも、公的に認められた資格が必要になる職種がある。
たとえば、医療・福祉の専門職や士業などがそうだ。
人の命や生活、権利、財産に関わる仕事に就くためには、高い専門性だけでなく、社会的な信頼を担保するための公的な資格が必要になる。
こういった構造に、少しおもしろおかしく言及しているのがS1E11『北側諸国の冬』だ。
北側諸国へ向かうフリーレン一行は、北部高原の情勢が不安定で、人の往来が制限されていることを知る。
危険な北部高原へ足を踏み入れるためには、冒険者であっても一級魔法使いの同行が必要なのだ。
フリーレンの魔法・魔力に絶対的な信頼をおくフェルンは、「フリーレン様がいるから大丈夫ですね」と言う。
しかしフリーレンは、実はこの時代に通用する魔法使いの資格を持っていなかった。
この事実が判明したときの、フェルンとフリーレンの会話がおもしろい。
「フリーレン様。
まさか無資格のヤミ魔法使いだったんですか。」
「ヤブ医者みたいに言わないでよ。」
このあとのフリーレンのつぶやきも、秀逸だ。
困るんだよね。
頻繁に管理の基準を変えられちゃうと。
何千年も生きるエルフのフリーレンからすれば、人間が作る制度は「しょっちゅう変わる」ため、時代に即した資格を取り直していなかったのだ。
大陸魔法協会による魔法使いの階級制度は、物語の中では50年以上も前からある仕組みだが、フリーレンにとって50年前は「つい最近」なのである。
資格や権威づけの必要性を示しつつ、それらは時代によって変わるものであり、絶対的なものではない。
この2つのことを、同時に表しているエピソードだと思う。
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