「今ではわしは、国ですら動かせるというのに」|葬送のフリーレン
『葬送のフリーレン』の世界では、人類は結託して魔法や魔法史を学び、魔族に象徴される「力による支配」と戦っている。
同時に、自らが作り出した権威構造に簡単に絡め取られ、地位や財産、特権を得るために人々は奪い合い、殺し合いすら繰り広げる。
「力による支配」と戦うための武器だったはずの魔法は、大陸魔法協会による権威づけにより、それ自体がヒエラルキーの階段を上がるための力となり、特権的な立場と結びついた。
魔族という名の「力による支配」との戦いと、人間社会の中での権力闘争、という二重構造になっている。
本日に至るまで現実の世界で繰り返されてきた歴史と、そして私たちが今生きる現実社会と、あまりにも似すぎている、と思う。
この構造の中で、権力・財力の脆さや限界をつまびらかにするのが、宮廷魔法使いのデンケンだ。
S1E28『また会ったときに恥ずかしいからね』では、一級魔法使いの選抜試験が終わった後に、フェルン、シュタルクが街中でデンケンとラオフェンに遭遇する。
その流れで4人は、一緒にティータイムを過ごす。
戦いからも競争からも解放された、平和で穏やかなひとときだ。
ここで若者たちにスイーツをご馳走しながら、デンケンが言うのだ。自分には、「金の使い道などない」のだと。
20代半ばで妻に先立たれたデンケンには、子も孫もいない。
若かりし頃、病弱だった妻を救うために富と権力を追い求めた。
だが結局、妻を救うことはできなかった。
ゼーリエが特権を掲げて大陸魔法協会を立ち上げたのは、デンケンの妻が亡くなってから、ほどなくのことだった。
地位も権力も、すべてを手に入れたと評されるデンケンが表情を曇らせ、フェルン、シュタルク、ラオフェンに対し目を伏せて語る、以下のセリフが印象的だ。
あれほどの無力感はない。
本当に、皮肉なものだ。
今ではわしは、国ですら動かせるというのに。
使う目的を失った地位や権力・財力は、何の意味も持たず、役割も果たさない。
「使い道などない」ものと化すのだ。
虚しくも、しかし正しく、デンケンはその現実を生きている。
しかし、デンケンが抱える無力感を知らず、想像することすらなく、彼のことを「すべてを手に入れた老いぼれ」だと評する人間たちは、一級魔法使いという権威を求めて集まり、競い合う。
そのために、人を殺すことも厭わない。
目的と手段を履き違えた争いや対立は、絶えない。
そして、これとよく似た権威構造が存在する
現実世界に生きる私は、こう思ってしまうのだ。
人間とは本当に、皮肉なものだ。
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