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パパと私と真っ赤なトマト(創作絵本)

自まんしたいことがある。

真っ赤なトマトに、オリーブオイルをかけた色。

それが私の大好きな車。

名前はトマト。そのまんま。

グレース、ジェシカ、ジュリエット。
クールな名前を考えたのに、

パパはいつもこう呼ぶの。

僕のかわいいトマトちゃん。
太陽に照らされた、こんなにきれいな赤は他にはないよ。

トマトに乗って、コースを走ると、
私は風より早くなる。

太陽がどんなにまぶしくて、コースがどんなに曲がっていても、

私には見える。光っているの。
そこをちゃんとなぞったら、
私はどんどん前に進める。

今、今だよ、そう、ここだ。
トマトの小さな声は、私と同じ。

私はふわりと空気に溶けて、きっと、未来を見ているの。
このままずっとトマトと一緒。
私は世界の一部になるの。

たくさん練習した後は、

パパはトマトに問いかける。

トントン、かぜひいてないですか?
コンコン、痛くないですか?

狭いガレージだけど、トマトはとっても落ち着いている。

うんうん、たぶん、大丈夫!

そっか、良かった。一安心。ってぐっすり眠れる日もあるけれど、

トマトはむっくりだまったまま。怒っちゃう日もある。

パパとわたしは、トマトのどんな小さな声も聞き逃さないよう、
静かに耳を澄ます。

トマトは冷んやりしていて固いけど、
なめらかなボディがすてきなの。

ぐるっと回って手のひらでなでる。

だいだいいつも、小さな声で、

「奥の方がぞわぞわするよー。」

「先っちょの方、ちょっと曲がってるかも。」

「自まんの羽のあたり、ちょっとかゆい。」

なんだかあいまいな言い方ばかりするんだ。

私はもう眠くって眠くって、
だんだん声が聞こえなくなる。

それでもパパは、焦らずに、
ゆっくりゆっくり時間をかける。

トマトの小さな小さな声に、じっと耳を傾ける。

パパだって、昼間いっぱいお仕事をして、
とっても眠いはずなのに、

どうしてパパは疲れないの?
どうしてトマトの声が聞こえるの?

パパは、ふにゃっと目をつむるみたいに笑った。

ナナがまだ赤ちゃんの時、パパは、ナナの寝息をじっと聞いたんだ。

腕の中でスースーって気持ちよさそうに寝る日もあれば、
ピスピスって鼻がつまっているときもあったし、
フガフガって息苦しそうな日もあった。

ちゃんと聞いたらわかるんだ。
ナナが話せなくたって、元気かどうかね。

この車だって、同じさ。
ナナを風よりカッコよく速く走らせてくれる。
それに、万が一事故が起きた時、ナナの体を守ってくれる。

だいじなだいじな、
ナナの一部だからね。

私はなんだか泣きたくなって、
パパをぎゅうって抱きしめた。

次のレースで優勝したら、
真っ赤なトマトと大好きなパパは、世界一すてきって自まんするんだ。

それが今の私の夢。

それなのに。がんばったのに。
私、失敗した。大失敗。

はじめてサーキットのかべにぶつかった。
ガンって大きな音がして、目の前が急にぐるぐるした。

気が付いたら、私もトマトも、
いたい、いたい、いたいよーー!!
って叫んでた。

パパは走ってやってきて、
私を抱っこしてトマトから出した。

ガレージに帰ってきたトマトは、
赤いおなかに黒いすり傷。
羽は折れかけて、曲がってた。

私、失敗ししちゃった。

悲しくて悲しくて、くやしくて。

なんで、って涙が止まらない。

シートでこすれた両ひじが熱い。
ぶつけたひざもじんじんする。

ごめんね、って言って、トマトにさわろうとしたら、

危ないからね、パパにまかせて。
そう言って、パパはトマトをトラックの荷台に乗せた。

家に帰ってバスタブに飛び込み、ひざをぎゅって抱えたら、
てっぺんに穴が空いているみたい。

青くて黒くて、指で押すと、ジンジンする。

遠くのほうで、

トンカン、キコキコ、コンコンコン
トマトを修理する音がする。

音に合わせて青い穴を指でそっと押してみる。
ひじもひざもお湯がひりひりしみる。
だけど、
まだこの音を聞いていたい。

カチャカチャ、キコキコ、トントントン

遠くの方で、お湯がしょっぱくなっちゃうわよ、って
ママの声がした。

はっと顔をあげたら、もう音は聞こえない。
私は急いでガレージへ飛び込んだ。

お気に入りのパジャマのすそで、疲れたトマトの顔をなでた。

もっと上手になるからね。ごめんねトマト。

真っ黒な指でカチャカチャしながら、パパは真けんなまなざしで
トマトを見ている。

心配いらないよ、トマトはすぐに元気になるよ。
パパの声は、とっても優しい。

私はパパをぎゅぎゅぎゅってして、
ふわふわお腹で涙を拭いた。

ゆっくりおやすみって言いながら、パパは頭にキスをした。

それから、私はなんだかおかしい。

たくさん練習したいのに、
いつでもちょっと不安なの。

もっともっとスピード出したい。

なのに、足がふるえちゃう。

トマトの声が聞こえない。

一度こわしちゃったから、
トマトは怒っているのかな。

少ししか走らなかった日も、
パパは変わらずトマトに向かって、

トントントン、コンコンコン、
話しかけては手直ししてる。

このまま早く走れないほうが
トマトはずっときれいなまま。
私もけがをしたりしない。

その方がパパはうれしいかな?
心配しなくてすむのかな?

私はなんだか悲しくて、
だけどちょっぴりほっとして、

ある日雨がふってきたから、
ついにトレーニングをやめちゃった。

1日休むとぼんやりして、

2日目いっぱい昼ねして、

3日目、本をたくさん読んだ。

そしたら、なんだか時間がね、
ゆっくりゆっくり過ぎたんだ。

ああ、なんて楽しいの。

4日目、学校帰りに友達と、アイスクリームを食べてから
公園でいっぱい遊んだよ。

その日のディナーはカレーライス。私とパパの大好物。
だけど、全然おいしくないの。

もちろんパパは怒ってないよ。
でもトマトの声は聞こえない。

ごちそうさま、って言ってから、私はベッドにもぐり込んだ。

だけど全然眠れない。
シーンと静かで眠れない。

ガレージをそっとのぞき込んでも、
真っ暗やみのどうくつみたい。

パパとトマトの声も聞こえない。

私はそっと電気をつけて
トマトのなめらかな体をゆっくりなでた。

いつも一緒にいたはずなのに。
私とトマト、もっと遠くへ行けたのに。
もっともっと速く走れたのに。

私がトマトに乗らなかったら、
トマトはずっとここで眠るのかな。

嫌だよ、トマト。起きてよトマト。
私、もっと走りたい。
色んなところに行きたいの。
もっと強い風を感じたい。
もっと地球にとけたいの。

次の日、私はパパにこう言った。

パパ、もしも私がミスをして、
またトマトがこわれても、

もしもトマトが私を守ってくれたら
私はまだまだ練習できる。
もっともっと強くなれる。

だから、ぶつけちゃうかもしれないけれど、
これからもいっぱい乗ってもいいかな?

パパは目を見開いて、笑って言った。

たとえこわれて乗れなくなっても、
トマトはずっとナナの一部さ。

心の栄ようになるんだよ。

ナナは寝ているだけでもかわいいのに、
サーキットではとっても勇かんだ。

パパとトマトはずっと前から、
君をほこりに思っているんだよ。













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