アナログ技術者とデジタル技術者の境界
最近はアナログ技術者が減ってきているらしい。
デジタル技術なら3〜4年である程度のことができるようになるが、アナログの電源技術者は1人前になるまでに10年かかるとも言われる。
そんななか、中堅のデジタル技術者Kさんが「電源を勉強したい」と私を訪ねてくるようになった。
ある日、そのKさんが困った顔でやってきた。
「オシロスコープ、変なんです。プローブを何度校正しても、電圧がゼロにならないんですよ」
私は彼の実験机に行きその様子を見た。
測っていたのは、電源回路の整流平滑用の電解コンデンサ。
オシロスコープのプローブをその両端に付けた状態でプローブの校正を行っていた。
電源を入れていないから電圧はゼロだろうと、平滑コンデンサの両端にプローブをつけたまま校正を始めていたのだ。
思わず「ああ〜……なんてことだ」とつぶやきそうになったが、口に出すのをなんとか止めた。
彼は電解コンデンサの特性を知らないうえ、プローブの校正方法も適切では無かったのだ。
デジタルしかやってこなかったとはいえ、これくらいのことは常識だろう──そう考えていた私の思い込みは、根底から覆された。
電源の技術者ならもうお解りだと思う。
特に電源のAC入力平滑コンデンサのような大きな電解コンデンサは一度電圧を印加するとその両端をショートさせ電荷を放出しても再び電圧が上昇することを経験からわかっている。電解液中に残っていた電荷が電極に集まってくるからだ。
私は彼にその電解コンデンサの電圧をオシロスコープで測定した状態で電解コンデンサの両端をショートしてその波形の変化を見るように伝えた。
言われた通りに彼は両端をショートした。
ショートした瞬間はゼロに落ちるが、その後、電圧が少しずつ上昇する波形を見ると「これなんですよ。壊れているんですかね・・・」 という顔をして見ていた。
私にとっては当たり前の現象が、彼にとってはオシロスコープの故障ように見えたのだろう。アナログという世界の“常識”が、まだ彼の中には存在していなかったのだ。
彼の話はこれで終わりでは無い。
ある日、Kさんはまたやってきて「電圧波形がおかしいんです」という。
今度は何かと思い、彼の実験机に行き測定の様子を見ると、電源の2次側整流後の電圧波形を測定していた。
5Vの3端子レギュレータ(一定の電圧を出すIC)前の電圧をオシロスコープで測定していた。
「電圧が大きく上下して大きなリプル電圧が出るんです」と言う。
確かに7V位を中心に7〜10V程度の大きなリプル電圧が波形に乗っていた。この状態を見て私は「ああ・・・そうか、新人と同じなんだ」と思った。
私はオシロスコープで正確な電圧を測定する場合にはプローブの先端とGND線を外し、付属のコイルに似た電圧測定用の”グランドスプリング”(高周波測定用のGND接続補助具)を良く使う。頻繁に使うため、私の机の小物入れには常に置いている。
新人の教育の際、「リプル電圧の測定には、この”グランドスプリング”を使うんだ。」と説明するのが常になっている。
私は通常の波形を見る際は普通のグランド線がついた電圧プローブの状態で使う。何故なら測定が面倒だからだ。だから、急峻な電圧変化が観測されてもいつもこの変化は現実の波形とは異なっているとして頭の中ではこの変化を差し引いている。
でも、新人のようにこのことがわからない人はオシロスコープの波形を鵜呑みにすることがある。
まあ彼はおかしいと気づき私のところに来たのだから何か違和感を感じたのだろう。
彼の弁解をする訳では無いが、私がどのマイコンにするか悩んでいると、数ある中から適切なマイコンを選定してくれるし、どのような通信にしたら良いかもアドバイスをくれる。一人前のデジタル技術者である。
