僕と連打とハイパーショットと:1985年の夏、ブラウン管の前で競い合った僕らのオリンピック!の巻。
「イーグルサム」と1984年の熱狂
みなさんは「イーグルサム」というキャラクターをご存知ですか? 1984年にアメリカで開催された「ロサンゼルスオリンピック」のマスコットキャラクターでした。星条旗をモチーフにしたシルクハットとリボンが印象的で、日本人受けする愛らしいデザインで、テレビアニメや絵本など色んなメディアで展開していたのを覚えています。
1984年といえば、僕は小学5年生でした。もちろん敬虔なるファミコンキッズで、ロサンゼルスオリンピックのテレビ中継に熱中する家族の合間を縫うようにゲームに熱中していました。当時は自分専用のテレビなど夢のまた夢だったんですよね。茶の間の大きなブラウン管テレビは、お父さんが観るスポーツ中継やニュースが優先。僕らファミコンキッズは、その番組が終わった瞬間や、家族が寝静まる隙を突いて本体の電源を入れる、いわば「ゲリラ戦」のようなゲームライフを送っていました。
しかし、そんな「スポーツ中継 vs ゲーム」の構図を根底から覆す出来事が起こります。ファミコンにもオリンピックの熱狂が訪れたのです。
秘密兵器「ハイパーショット」の登場
オリンピックイヤーに遅れること1年。1985年にコナミから「ハイパーオリンピック」がリリースされました。「ハイパーオリンピック」は1984年の大会と並行してリリースされたアーケードゲーム「ハイパーオリンピック84」の移植作になります。
そして、オリンピックの熱狂を家庭に持ち込むための秘密兵器を携えていたのです。それが専用コントローラーの「ハイパーショット」でした。
「ハイパーショット」に搭載されているのは「RUN」と「JUMP」のボタン2つのみ!「さあ、叩け!」と言わんばかりのフラットなデザインは、日本全国のお茶の間に、デジタルオリンピックの記録更新のための「連射」ジャンキーを生み出しました。そして間違いなく僕もジャンキーの1人!
通常のコントローラー(十字キーとABボタン)とは一線を画す、その武骨で逞しい佇まい。それは単なる周辺機器ではなく、僕らをアスリートへと変貌させるための「競技デバイス」でした。
創意工夫という名の「ドーピング」
「連射」と一言に言っても、そのやり方は個性バリバリ。人差し指と親指の腹をくっつけて、指先を尖らせながらボタンを連打するのは至ってノーマル!左右に激しく指先を擦らせて、ノーマル連打を超越した速さを実現したり、さらにはその上を行くためにドーピングに手を染めるファミコンキッズが現れたのです。
まあ、ドーピングと言ってもお薬に手を出した訳ではありません。己の指先に代わるもの、より堅固で柔軟性があり、速さを追求できるものでハイパーショットを擦り出したのです。
それは「卓球の玉」、「10円玉」、はたまた「竹やスチールの定規」でした。
10円玉: 硬質な摩擦音が鳴り響き、ボタンが削れるのも厭わないストロングスタイル。
卓球の玉: 絶妙な摩擦係数と丸みが、高速な「擦り」を可能にしました。
定規: これが最もテクニカル。定規の端をハイパーショットに固定し、反対側を上下に激しく弾くことで発生する「振動」をボタンに伝えるという、物理学を応用した技でした。
人間の限界を超えた連射に、ハイパーショットが悲鳴をあげている光景を何度見たことでしょうか。そして激しい擦りのあまり、指先が摩擦熱で火傷したことも(汗)。ボタンの周りは削れたプラスチックの色で赤くなり、スプリングはへたり、それでも僕らは叩き続けました。いつしか新記録の更新よりも、連射への熱狂が優っていたような、まさにハイパーショット熱に当てられたファミコンキッズだったのです。
嗚呼、兵どもが夢の跡
しかし熱はいつか冷めるもの。ハイパーショット熱の夢から醒めたときには、「兵どもが 夢の跡」状態の満身創痍のハイパーショットの姿がありました。
当時流行ったファミコンの裏技で、ジョイボールという外部コントローラーを使うとお手軽連射ができてしまうことが広まったことも理由の1つだったように思います。自分の肉体や身近な道具を使って必死に連打していた僕らにとって、「ボタン一つで連射ができる」という禁断の秘技は、福音であると同時に、強烈に虚しさを感じさせるものでもありました。
連射黎明期の1985年
思い返すと、ファミコン版「ハイパーオリンピック」に燃えた1985年は、「連射」黎明期でした。
ハイパーショットの連打に熱狂したのとほぼ同時期に、ハドソンから「スターフォース」が発売され、16連射に魅了されたファミコンキッズが日本全国に爆誕したのです。
新記録とハイスコアのために、ただひたすらに目の前のボタンを速く叩く!テレビゲームの歴史の中で、プレイヤーをあそこまで熱狂させた「連射」は間違いなく文化だと思います。40年以上の時を超えて、ハードオフで中古のハイパーショットを見かけて手に取った僕の指先に、「ボッ!」という音と共に火が灯ったのをたしかに感じたのですから。
