華城連続殺人事件の“その後”を題材にしたドラマ「かかし」は、頭一つ抜きんでた面白さだった。
配信でドラマ「かかし」全10話を完走する。韓国作品は普段、あまり急いで観ることはないのだが、題材が華城連続殺人事件となれば事情が違う。ポン・ジュノの「殺人の追憶」で取り上げられた、あの事件だ。1986年10月、農村の用水路で女性の遺体が発見される。以後、犯行は相次ぎ、計10名が犠牲となったが、捜査は進まず、迷宮入りかと思われた。やがて模倣犯とされた男性が逮捕され、さらに自白によって他の犯行も認めたため、20年服役することになる。しかし2019年、別件で収監されていた男が真犯人であると判明し、すべてがひっくり返る。
今回の「かかし」は、この事件をもとに、警察の杜撰な捜査、検察による拷問で自白させられた容疑者の冤罪、さらには真犯人の精神構造や崩壊していく家族の姿などを濃密に描いていく。「かかし」とは犯人の犯行手口を指す言葉だ。もちろん「事件を元にしたフィクション」ではあるが、猟奇的な殺人描写やフーダニットに焦点を当てた前半はサスペンスフルで、目が離せない。
主人公は地元警察の刑事(パク・ヘス)。熱血だが貧困層出身で過去にトラウマを抱えている。彼と対峙する担当検事(イ・ヒジュン)はブルジョア層。しかも刑事とは旧知で、様々な因縁がある。さらに、彼らの同級生である新聞記者(クァク・ソニョン)は執拗に事件を追い、真相解明に奔走する。これら登場人物とその家族や知人が、公私の関係を超えて捻じれ、さらに真犯人の影が彼らの周囲にちらつく。その辺が地域も含めてちょっと狭い感じはするが、それはドラマなので目をつぶるとして…。
検察と警察は「なんとしても犯人を見つけなければならない」という圧力のもと、無理に結論を導き出してしまう。その結果、多くの人々が辛く、悲しい30年を背負うことになる。ドラマは全10話(約10時間)をかけて、1990年代以降の韓国社会をあぶり出していく。このプロセスの面白さは格別だった。
とりわけ興味深かったのは、刑事が30年後にプロファイラーとなり、別件で収監されている犯人にインタビューするという設定だ。真理と心理の駆け引きが、2時間の映画尺とは違い、時間をかけてじっくり描かれる――いかにもドラマとして理にかなった作りだと思う。終盤にはさらに課題が次々と提示され、「もしこれで解決しなかったらどうするのか」とハラハラさせられたが、思いのほか着地は見事だった。観終えた後の満足度は高い。

