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シャボン玉に殴られる

シャボン玉が、子どもたちの笑い声と共に大量に流されていく。
特に今日は風が強い。河川敷ともなると思わず猫背で目を細めてしまうくらいの強い風が容赦なく吹きつけている。

昔は食べられるシャボン玉とかあったけど、今でもあるんかな。

そんなことを考えながら、もっと強い風に当たりたくて、
川べりに向かってずんずん歩を進める。

今日は土曜なので流石に人が多い。
家族連れやカップル、散歩やランニングをしている人で溢れている。
そんな人の波を突っ切り、座り心地が悪くなさそうな場所を見つけて腰を下ろす。大きく息を吐く。

一生懸命水切りの仕方を娘に教えるお父さんを横目に、ポケットでぶるりと震えたスマホを取り出し、震えた理由を敢えてみないようにしながら、電源を切る。

もう全部五月蝿いねん。ほっといてくれ。

ポケットにスマホを突っ込み、体育座りで川を眺める。
座り心地が良いと思ったのに、左尻に確かに刺さる小石の感触を感じながら、耳に流れ込んでくる隣に座る若いカップルのおしゃべりに身を委ねる。

「やっぱり夕日って綺麗〜。やっぱり朝日より夕日が好き。そういや、夕日を綺麗と思うのって全世界共通らしいよ。この間友達が言ってた。名前忘れちゃったけど、有名な歌手も夕日って最強みたいな話をこの前テレビでしてた気がする。ちゃんと聞いてなかったけど」
「なんだそれ。夕日が綺麗って全世界共通というか人によるでしょ。あとその時の状況にもよるんじゃない?怒ってる時に夕日みてもなんとも思わないし」
「えーそんなことないよ。夕日見てたら『あー、なんであんなに強い言い方しちゃったんだろ。自分も悪かったな。帰ったら謝ろ』みたいに心落ち着くじゃん」
「いやそれ反省してるだけで別に綺麗って思えてないじゃん」
「あ、ほんとだ」
「てかこれから喧嘩したら毎回夕日見に行ってもらおうかな」
「なにそれー」

戦争をしているような国に住む子どもは、夕日を見ても今日も無事生き延びられたという安堵しか感じへんのかな。
てか夕日ってどのタイミングから夕日なわけ?地平線に付いた瞬間から?
太陽は一つなのに、色んな呼び方されて人気モンは大変やな。

一際強い風が吹いてカップルの声に意識を戻すと、どうやら夕日の話はもうとっくに終わってしまったらしい。さり気なく目を遣ると、今日の晩ごはんの候補となる店の推しポイントを、スマホの画面を見せながら早口で嬉しそうに彼女が話している。

お腹すいたな。
そういえば朝からなにも食べていない。
本当だったら私も今頃は。

突然着ていたパーカーのフードの部分でなにかが動いた気がして、身体が跳ねた。虫かと思い小さく振り返ると、大量のシャボン玉がこちらに向かって流れてきていた。どうやらフードのところでシャボン玉がひとつ弾けたらしい。

その瞬間、なんだかすべてが馬鹿らしくなって、こんな川べりで風に当たって、自己陶酔のお手本のような自分が途端に恥ずかしく感じて、思わず立ち上がる。

振り返ると、さっきまでたくさんいた人たちは随分減っていた。

、、、あほらし。もう帰ろ。

ポケットに突っ込んだ左手で、スマホを強く握りしめる。
電源を入れるのは、まだもう少しあとで。

沈み切る前の夕日を背に、来た道を歩きだす。



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