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「箔押し8回押しでつくる 『 黒い森 』」

コスモテックの青木です。
2025年4月26日(土)より、TOPPANホールディングス株式会社 印刷博物館 主催の企画展 『 黒の芸術 グーテンベルクとドイツ出版印刷文化 』 が開催されます。その図録表紙への加工をコスモテックにてお手伝いさせていただきました。

企画展の詳細は下記よりご覧ください。

TOPPAN よりお声がけいただいた際、企画展のグラフィックデザインを小玉文さん( BULLET Inc. )が手掛け、図録には箔メーカー 関西巻取箔工業( 略称 KANMAKI )の箔をたっぷりと贅沢に使用する予定と伺いました。

KANMAKI とは 『 デザインのひきだし51 』 への表紙加工で連携し、共に製作に挑戦したこともあります。

TOPPAN と小玉さんは京都の KANMAKI へと赴き工場見学を行い、今回の製作で使用するのにピッタリな箔材を選ばれたとのことです。

そしてコスモテックで製作・加工するにあたって、デザイナーの小玉さん、KANMAKI COO 久保昇平さんの大きな後押しがあったと伺いました。お二人との日々の仕事でのやり取りの傾向から、「 おそらく難易度の高い加工なのだろう 」 という予感と 『 絶対押してみたい! 』 そんな思いが私の中にムクムクと湧いてきたのでした。


◉ 驚異の箔押し加工、9回押し!?

TOPPAN とのやり取りの中で小玉さんの今回のデザインを初めて拝見した際、目を疑うようなデザイン、そして加工プランでした。

図録表紙の展開サイズが約800×260mm。
なんとその全面を箔で覆いつくすようなデザインだったのです。

横長の紙のサイズは約800×260mm
なんと表示されている全ての図案を箔押しで表現 「 全面箔押し! 」


しかも、箔押し版の使い方、表現方法が秀逸!

一番左の図案がA版 その隣にあるのがB版 A版で箔押しして その上にB版で箔押し
A版とB版が重なり合った状態が一番右の図案


大きな版( 約200×260mm )でデザインの異なる 「 木 」 の図案が2つ( A と B )。Aの箔押し版・Bの箔押し版共に押した右端を 7mm ずつ重ねながら左から右へ各4回( 箔2色で計8回 )押します。

「 木 」 のパーツを押し重ねるごとに段々と 「 森 」 へと姿を変えていく様子が目に浮かびました。

A版+B版の箔押しのブロックの右端を 7mm ずつ重ねながら4ブロック
すると紙面全体に奥行き感のある 「 森 」 が完成する


A版の 「 森 」 の上にさらに B版の 「 森 」 を重ねることで、 「 深い森 」 を完成させる。
デザイン・加工プランを見た瞬間に 『 箔押しでドイツの黒い森( シュヴァルツヴァルト ) 』 を紙面上に作り出すことは明らかでした。

そして、最終工程である9回目の押しで企画展名や主催である印刷博物館のクレジットを箔押し加工します。 全9回の箔押し加工から完成する図録表紙。「 これは本当にすごい加工プランだ! 」 と度肝を抜かれました。

◉ KANMAKI 製の黒つや箔・黒けし箔でテスト加工

図録表紙で使用する紙色は黒。そして、「 木 」 の図案で使用する予定の箔材は KANMAKI 製。なんと本邦初公開の最新の黒箔を使用してテスト加工できることになりました。

製作の肝は紙地の黒と箔色の黒… 徹底した 『 黒い森 』 づくりです。
下記は TOPPAN の担当者 三木聖也さんと私との校正時のやり取りの一部。

紙×箔でさまざまな 「 森 」 の表現を探る
紙を変え 箔色の組み合わせを変え 「 黒い森 」 はどのように変化するのか


三木さんの閃きとアイデアから KANMAKI 製の黒つや箔( CB-GEM BLACK )・黒けし箔( AB-DF8 BLACK )の双方を使い 『 黒い森 』 製作のアプローチをすることになりました。

データ上の版データに色を付け 見え易くしたもの
今回使用する箔押し版は合計3版
グリーンがA版 ピンクがB版 シアンは最終工程の9回目に使用する箔押し版データ
このように色を付けて可視化させると分かり易い
グリーンの上にピンクを乗せる
濃くなっている部分はそれぞれが重なり合っている部分


校正では紙は2種類の銘柄を使用。黒つや箔のみで表現した場合、黒けし箔のみの場合、双方を組み合わせ、黒つや箔の上に黒けし箔か、黒けし箔の上に黒つや箔か… 等、『 黒い森 』 の 「 黒 」 を意識しつつ、紙地の黒 × 箔色の黒のレイヤー感・奥行き感を三木さん( TOPPAN )と探る作業を行いました。

その数、全12バリエーションです。

◉ KANMAKI 製の最新箔( コメント KANMAKI COO 久保昇平さん )

今回の最新箔は長い年数を掛けて、紙加工用の箔はもちろんのこと、自動車部品をはじめとするプラスチック工業製品の加飾用、包装材料向けのインクリボン等… あらゆる用途の顔料箔の製造・開発を行ってきた KANMAKI のノウハウと技術が詰まった箔です。

コスモテックの現場に搬入された KANMAKI 製 最新箔

KANMAKI COO 久保さん 「 顔料箔メーカーにとって、白箔と黒箔は “ごまかしが通用しない色” です。 隠蔽性や色の深みなど、他の印刷との差をパッと見で表現できていなければ負け。 今回いただいた黒箔のオファーは、そんな緊張感との勝負なのです! 」

CB-GEM BLACK( 黒つや箔 )について

深い光沢のある黒が特徴的
今回初公開の KANMAKI 製 最新箔の黒つや
写真は KANMAKI にて箔製造のテスト時のもの


黒つや箔 CB-GEM BLACK は、もともと紙加工用の箔ではなく、ヨーロッパのとある自動車メーカーのエンブレムやテールランプの装飾に使うために作られた箔です。この箔は遮光性が非常に高く、わずか3μm( マイクロメートル )( ※ )のコーティングで LEDバックライト を完全に遮ることができます。

※ 1mmの1000分の1を1μm( マイクロメートル )

今回の企画展のテーマが 『 黒の芸術 』 だったので、デザイナーの小玉さんから 「 究極の黒 」 を求められ、この自動車部品で既に評価されている箔を紙加工にも使えないかと考えました。紙加工に使えるように、箔の離型層と接着層を再設計し、試作品を作り、ご提案させていただきました。

AB-DF8 BLACK( 黒けし箔 )について

深いマット調の黒が印象深い
高級画材に使用する濃密な黒を主原料として製造
こちらの写真も KANMAKI にて箔製造のテスト時のもの


世の中には多くの黒箔がありますが、そのほとんどがカーボンブラックという顔料を使っています。しかし、この黒けし箔 AB-DF8 BLACK は、高級画材に使われるアニリンブラックを主原料にして作っています。

先にご紹介した黒つや箔 CB-GEM BLACK と比べて、マットで深みのある質感があり、影や明暗をはっきりと表現できます。アニリンブラックは取り扱いが難しく、条件によって黒が青っぽく見えたり、赤っぽく見えたりします。

この箔を作る際に重要だったのは、箔押し加工した部分に指紋が付かないようにすることです。図録の表紙に使うからこそ、綺麗に見せるため、顔料層の樹脂配合や表面の保護層を工夫して指紋対策を行いました。

◉ 一枚一枚丁寧に箔押し

TOPPAN との幾度ものやり取りとテスト加工を経て、候補となった箔の中から黒けし箔は KANMAKI 製 AB-DF8 BLACK ・ 黒つや箔は 村田金箔 製 P7-つや黒 に決定しました。惜しくも採用を見送られた KANMAKI 製の黒つや箔 ですが、初めての紙へのテスト加工に挑戦させていただき大変参考になりました。今後の実使用に期待したいです!

こうして、最終的に図録表紙で使用する紙は 『 黒気包紙 U-FS 』 に決定。1回目の 「 森 」 づくりは AB-DF8 BLACK( 黒けし箔 )で4回箔押し、2回目で1回目の上に重ねる「 森 」 づくりは P7-つや黒( 村田金箔 製 )で4回箔押しという設計に決まりました。

箔押し加工で使用する 「 木 」 の図案の金属版はこの2枚
この2枚の版を使い 図録表紙に合計8回箔押し


紙色と箔色の組み合わせによって、『 黒い森( シュヴァルツヴァルト ) 』 の深み、奥行き感はもちろんばっちり表現できているのですが、8回も箔を押すことで紙の表面に掛かった圧によって生まれた凸凹によって、よりリアリティが増し、物質感も表現されています。紙面上に作り上げた 『 黒い森 』 に、9回目の箔押し加工で企画展名 等をマットゴールド箔で箔押しして表紙を仕上げました。

全工程を手作業で、押し位置を合わせて9回箔押し加工して作られた図録表紙は前代未聞です!ぜひ、実物をお求めいただき、企画展内容と共にご堪能ください。

◉ デザイナー 小玉文さんより

今回の 『 黒の芸術 』 は、グーテンベルクによる活版印刷術の発明から始まった印刷の長い歴史を振り返る展示です。

黒いインキで紙に文字や絵柄を複製する 「 印刷 」 のことを、発祥の地ドイツでは魔術や魔法という意味を込めて 「 die schwarze Kunst( 黒い技術 ) 」 と呼びました。 印刷という産業の在り方が問われる現代において、「 小玉さんはこのテーマをどうデザインしますか? 」 と問いかけられたかのような依頼でした。

イメージとして浮かんだのは、『 ドイツの黒い森、ブラックレター 』 。

ゴシック建築が樹木の生い茂った森のイメージであるように、「 ブラックレターもまた、ドイツの暗い森のイメージから生まれた書体だったのではないかな……? 」 と想いを馳せていきました。四十二行聖書などに見られる太いブラックレター活字で組まれた黒い紙面は、さながら木々が集まって形成された黒い森のようです。

このようなわけで、太いブラックレターを並べて黒い森をつくることになりました。本来の 『 黒の芸術 』 は白い紙に黒いインキを用いる印刷表現のことをいいますが、それは地と図( 紙と印刷 )の関係の美しさであると私なりに解釈し、今回は 黒い紙 × 黒い箔 で挑戦しています。

量産の箔押し加工の際
デザイナーの小玉さん、KANMAKI COO 久保さん、TOPPAN 三木さんが
コスモテックの現場に集結


この挑戦には、KANMAKI の 『 とても黒い箔 』 の存在が不可欠でした。
また、マットな黒い紙に対して、黒箔を ツヤ or マット どちらにするかで悩んでいたのですが、さすが TOPPAN 三木さん、「 ツヤ と マット 両方混ぜたバージョン 」 のテスト加工をコスモテックに依頼してくださっていました。

わ、わかっておる喃……!!!

図録カバーの袖は長めにしてありますので、広げたときの森のパノラマ感が壮観です。また同じ絵柄が繰り返されていることも、森に迷い込んで抜け出せないループ感があって良いなと思っています。笑

実際に手にとって見てほしい一冊ができました。
ぜひ現物を入手していただけますと嬉しいです!

◉ TOPPAN 三木聖也さんよりメッセージ

小玉さん( BULLET Inc. )とは何度か仕事をご一緒していますが、今回のデザイン案を見たときは肝を冷やしました。 B5サイズに雁垂れ( がんだれ )が引っ付いた 幅800㎜ の表紙は、箔押しのみの表現という潔くも狂気的なデザインで、あまつさえ文字の箔押しは再現できるギリギリの大きさを攻めています。

1冊の書籍に9回もの箔押しを施す設計。
発刊部数が仮に2000部だとしたら、最低でも18,000回の押し加工が必要。

驚愕の箔押し9回押しを実現

ディレクターの立場としてはブラックレターの森よりも、“見積書と設計書の森” に迷い込む予感にぞっとしつつ、気づくとやはり深く迷い込んでいました。 他方、小玉さんが思い描くこの凛として静かな、堂々とした表紙を必ず形にしたいとも思いました。

箔材の打ち合わせに京都の KANMAKI を訪れた際、久保さんのモノづくりの情熱を目の当たりにして、「 こんな最高の箔材に ツヤ( CB-GEM BLACK ) と マット( AB-DF8 BLACK ) があるならどっちも使って校正したい! 」 と思いました。思いがけず2種を使い分けられるデザインだったので、事前の定着テストの端を切り貼りして、ツヤ と マット を混ぜてみると質感が面白く、校正パターンに紛れ込ませて小玉さんにご提案しました。

そしてコスモテック青木さんの細やかで丁寧かつ積極的な対応に何度も助けていただきながら製造設計を詰めていき、高い技術と品質に裏打ちされた表紙がなんとか仕上がりました。

量産の箔押し加工の時
TOPPAN 三木さんがお持ち寄りくださった 完成イメージの束見本
「 これは本当にカッコいい佇まい 」


困難に目を輝かせるようなメンバーが集まって作り上げた、無類の作品です。

ヨハネス・グーテンベルクの発明から500年近くに及ぶ期間、テキスト印刷の主流であり続けた活版印刷術を見つめる今回の企画展示。

図録としての内容はもちろんのこと、造本にもこだわり抜いた本書をぜひお手に取っていただき、活版印刷の森に迷い込むがごとくお楽しみいただけると幸甚です。

◉ 図録製作 クレジット ◉
プリンティングディレクター : 三木聖也( TOPPAN )
デザイン          : 小玉文( BULLET Inc. )
印刷            : TOPPAN
箔メーカー         : KANMAKI COO 久保昇平
箔押し           : コスモテック

【 連絡先 】
ようこそ!行列のできる『箔押し印刷工房』へ
http://blog.livedoor.jp/cosmotech_no1/

有限会社コスモテック 青木政憲
〒174-0041 東京都板橋区舟渡2-3-9
TEL:03-5916-8360 / FAX:03-5916-8362

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