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【洋楽解説×平和学 No.041】The Brazilian 〜 Genesisがナイフとドラムで作った、「地球」の鼓動

🎸楽曲紹介

Title: The Brazilian
Artist: Genesis
Issued in: 1986年(アルバム収録)
Album: Invisible Touch(1986年)/Earthrise: The Rainforest Album(1992年)


 1992年、Earthriseでこの曲に出会いました。インストゥルメンタル、歌詞はない。しかしあのドラムが始まった瞬間、体が動き出しました。

 今でも一人で、この曲を叩いています。我が家のエレドラで。

 以前「シカゴはドラムがすごい」と書きましたが、ジェネシスのフィルもビギニングズのダニーも、私のドラムの「先生」たちです。もちろん一方的に。


1. Background:ナイフとエレドラから生まれた「ブラジル」

 「The Brazilian」の誕生は、トニー・バンクスがイーミュー・エミュレーターにナイフを刺してキーボードに固定したところから始まりました。キーボードのループサンプルを作るためでしたが、「電子的にもできたけど、ナイフの方がかっこよく見えるから」とバンクスは言っています。フィル・コリンズはスタジオで「ただ遊んでいた時」にシモンズ電子ドラムキットでプログラムできるサウンドを実験していた。その二つが合わさって生まれた曲です。

ダブルドラムの構造: 「The Brazilian」ではフィル・コリンズがシモンズ電子ドラムキットを叩き、もう一人のドラマーであるチェスター・トンプソンがアコースティックドラムを叩くという二人のドラマーによる構成になっています。一人でコピーしようとすると、実は二人分のドラムをこなさなければならない。だから一人でエレドラを叩いていると、腕が足りない感じがするわけです(笑)。

核戦争アニメーション映画との縁: 「The Brazilian」は1986年の「When the Wind Blows(風が吹くとき)」というイギリスのアニメーション映画で使われました。これはロジャー・ウォーターズがスコアを担当した、核戦争後の老夫婦の生き残りを描いた作品です。平和学的に最も重要なテーマの一つである「核戦争」を描いた映画に、このインストゥルメンタルが使われたことは、偶然ではないかもしれません。

1977年のブラジル公演: 実はジェネシスは1977年にブラジルで公演を行い、フィル・コリンズはその際ブラジルの打楽器(スルドなどの手持ちの大太鼓)を購入しています。「伝統的なブラジル製の打楽器を買った(工業製品ではなく手作りのもの)」と書き記しています。「The Brazilian」というタイトルは、そのブラジルとの縁から来ているかもしれません。


2. (No) Lyrics:歌詞なしで語る「地球の鼓動」

この曲には歌詞がありません。しかしそれゆえに、音楽だけで語りかけてくる。

ドラムの構造

 フィル・コリンズのシモンズ電子ドラムと、チェスター・トンプソンのアコースティックドラムの二重構造。電子的な正確さと人間的な有機的なグルーヴが絡み合う。「機械と人間」の融合でありながら、どちらが主役かわからない。その曖昧さが、この曲の「地球的」な広がりを生んでいます。

シンセサイザーのループ

 ナイフでキーボードに固定されたループサンプルが曲全体を貫く。そのサンプルは止まることなく繰り返される。まるで地球の自転のように、止まらない鼓動のように。

高まりと解放

 静かに始まり、徐々に積み上がり、爆発し、また静かになる。その構造が「ブラジル」のカーニバルのエネルギーであり、同時に地球そのものの呼吸のように聴こえます。


3. Music:Genesisの「実験室」としてのInvisible Touch

スタジオジャム:この曲が元来収録されているアルバム「Invisible Touch」のすべての曲は、スタジオでのジャム(即興演奏)から生まれました。フィルは「ジャズに最も近い感覚」と表現しています。「The Brazilian」もその産物。遊んでいる最中に生まれた偶然の傑作です。

ポップとプログレの融合:「Invisible Touch」は最もラジオフレンドリーなアルバムでありながら、「The Brazilian」はその最後に配置された「奇妙な締めくくり」として機能しています。ポップとプログレッシブロックの両立というジェネシスの本質が、この曲に凝縮されています。

Earthriseの中での位置づけ:環境問題を訴えるアルバムに、インストゥルメンタルが一曲。「The Brazilian」は歌詞なしで「地球」を語ります。言語を超えた「音楽だけの訴え」として、Earthriseの中で独特の位置を占めています。


4. Lessons:「音楽は言語を超える」という平和学

1. インストゥルメンタルという「普遍の言語」

 Earthriseには英語の歌詞を持つ曲が多く収録されています。しかし「The Brazilian」には歌詞がありません。英語がわからなくても、ブラジルで生まれた子どもでも、アフリカの農村に住む人でも、このドラムは体に直接届きます。

 ビクトル・ハラが「歌は言語と国境を超える」と実践で示したように、「The Brazilian」は「インストゥルメンタルは更に言語を超える」ということを体現しています。地球環境問題というテーマを、言葉ではなくリズムで語る。それがEarthriseにこの曲が選ばれた理由かもしれません。

2. 核戦争アニメーション映画との縁

 Backgroundで紹介した、1986年の「When the Wind Blows(風が吹くとき)」。核攻撃後の英国の老夫婦が、政府の指示通りに行動しながら放射線被曝で死んでいくという、淡々とした恐怖を描いた作品です。この映画に「The Brazilian」が使われたことは、Earthriseで環境問題の文脈で出会い、核戦争の文脈でも使われるという、この曲の「普遍性」を示しています。

3. 「一人でエレドラを叩く」という喜び

 平和学者が一人で"The Brazilian"のダブルストロークを多用したドラミングをコピーしている。これは「趣味」以上のものかもしれません。

 音楽を「聴く」ことと「演奏する」ことは全く異なる体験です。フィル・コリンズのドラムをコピーしながら、体でそのリズムを感じる時、理論や言語を超えた場所で、音楽と繋がれます。その喜びが、「音楽は言語を超える」という平和学的な確信と地続きになっているのです。


5. In sum:ナイフとエレドラが生んだ「地球の鼓動」

Earthriseの「言語を超えた一曲」

 言葉なしに語る「The Brazilian」。Saltwater、Fragile、Here Comes the Rain Again、I'm Still Standingという言葉の曲たちの中に、この無言の曲が置かれている。そのことが、Earthriseというアルバムの懐の深さを示しています。

今日も一人でエレドラを叩く理由

 1992年のバンクーバーでEarthriseというアルバムを手に取り、その中で"The Brazilian"と出会い、30年以上経った今も一人でエレドラを叩いている。それはこのリズムが、言語も理論も超えた場所で「何か」を伝え続けているからです。ナイフでキーボードに固定されたループと、二人のドラマーが作り出す「地球の鼓動」。その鼓動は今も続いています。

「遊んでいる最中に生まれた」

 「The Brazilian」はスタジオで「ただ遊んでいた時」に生まれた曲です。平和学の研究も、コスタリカの「けもみち」も、この洋楽解説シリーズも、「遊んでいる最中に生まれた」という感覚があります。真剣な遊び。それが最も豊かな創造の形かもしれません。

 さて、今回の解説はいかがでしたか?感想お待ちしてます!


📌 アースデイ特集:Earthriseアルバム連載については、こちらの記事をご参照ください。
📌 この連載【洋楽解説×平和学】について、初めての方はこちらの記事をどうぞ。

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