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素浪人わたり放浪奇(十一) 雨葉村の妖怪寺〜役者絵と、水と油の恋心【八の巻】|リライト版

八の巻 贔屓の妙案

 俺たちは紫陽花寺の客間に通された。

 客間は南蛮渡来の調度品で設えた、美しい部屋だった。硝子の扉がついた棚の中には、珍しい皿や南蛮の服を着た人形が飾られている。卓も椅子も向こうのものらしく、椅子には金糸を施した布が貼り付けてあった。

 床には見たこともない複雑な模様の敷物が敷かれている。その上を歩くと、ふかふかとしてなんだか落ち着かねぇ。

 美しい紋様の卓の上には天ぷらと天つゆ、漬物が並べられていて、天ぷらの香ばしい匂いが立ち込めていた。
「おいしそ〜!!」
三吉が目を輝かせた。
「これは美味そうだな……」
ゴクリと唾を飲み込んだ。
「お糸さんの天ぷらは最高に美味しいデス」
シャオは前にもお糸の作った天ぷらを食ったことがあるらしかった。
「シャオったら……ありがとう。うちの天ぷらは搾りたての特別な胡麻油を使ってるのよ。今日の天ぷらは、茄子、南瓜、シシトウ。それから、鮎よ。魚河岸がいい鮎を持って来てくれたの」
お糸が温かいご飯と汁物を配る。
「いただきまーす!」
三吉が大きな口を開けて、天ぷらをかっこんだ。俺もシシトウの天ぷらに手をつけた。
 こんな美味い天ぷら食ったことねぇ。胡麻の油は菜種の油より貴重品だ。なかなか手に入るものじゃない。
 俺が口を隠した手拭いの下から飯を食べているのを見て、お糸が笑った。
「ふふっ、わたり殿、食べにくくないですか?ーーみなさん、おかわりもありますよ」
「さぁさぁ、みんなもっと召し上がれ」
玉庵先生も笑顔で天ぷらを俺たちに勧める。俺たちは腹がぱんぱんに膨れるまで天ぷらを食った。

「あのさ、すごくいいこと思いついちゃった」
飯を食い終わると、三吉はお茶を啜りながら得意げに話始めた。
「それはなんだね?三吉殿」
玉庵先生も身を乗り出してきた。
「お千代ちゃんさ、まだ新人で役者絵がないだろう?シャオが描いた役者絵を刷って、お千代ちゃんに贈るのはどうだろう?」
俺とシャオは三吉の突飛な話に驚いた。
「それはいいかもしれませんね。しかし、版木を作って刷るのにはかなり元手が入りますよ」
玉庵先生は盛り上がる三吉に釘を刺した。さすが寺子屋の経営をしていることはある。金の勘定はしっかりしている。
「それはさ、お千代ちゃんの贔屓を募ってお布施を集めるといいんじゃない?それで、版木を作って、刷った役者絵を参加者たちにも配るの。版木の裏には参加者の名前を書いて、最後にお千代ちゃんにあげるのさ。どう?」
今日の三吉は冴えてるな。
「それは妙案ですね。たくさんの人が支持していると知れば、お千代さんも喜ぶでしょう。お千代さんの舞台が終わってから、出口でお布施を募るビラを配れば、ご贔屓が集まると思いますよ」
金の心配をしていた玉庵先生も乗り気になったようだった。
 トントン拍子に話が進んでしまったが、俺には一抹の不安があった。そのとき、シャオの顔が少し曇っていたのが気がかりだった。



第十二話 九の巻 贈り物の算段 へつづく


 昨年、創作大賞エンタメ原作部門に応募した作品をリライトしてお届けしています。大人になって初めて書いた小説です。1000字の記事が3万4000字に膨れ上がりました。
 別アカウントにありましたが、整理するためにこちらに引っ越しすることにしました。
※名称の一部を変更しました。

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