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「避難指示=避難所へ行く」ではない —マイタイムラインという考え方

台風や大雨のたびに、テレビのワイドショーは繰り返す。
「避難指示が発令されました。直ちに命を守る行動を!」と。
呼びかけとしては正しい。
ただ、その先の説明がいつも足りないと感じる。

「命を守る行動」を、多くの人が「避難所へ行く」と読んでしまっている。

「避難」は一つではない

災害時の避難行動は、大きく三つに分けられる。

立退き避難

危険区域から離れ、指定避難所や安全な親族宅などへ移動する。
洪水や土砂災害のリスクが高い地域では基本となる選択肢だ。

垂直避難

建物の上階へ移動し、浸水や津波から身を守る。
移動する時間的余裕がない場合や、すでに外が危険な状況下では有効な判断になる。

在宅避難

自宅にとどまる選択。
建物の構造が堅牢で、かつハザードマップ上のリスクが低い場合、むしろ外に出ることの方が危険になるケースもある。

さらに、事象によって正解は根本的に変わる。
台風・大雨による洪水リスクと、地震・津波とでは、時間軸も取るべき行動も異なる。
たとえば液状化リスクと津波リスクを同時に抱える地域では、地震直後に「避難所まで歩いて移動」という判断が逆に危険を招くこともある。

「避難指示が出たら避難所へ」という単純な図式は、場合によっては命取りになり得る。


「その場で考える」ことの危うさ

災害が起きた瞬間、人は冷静に情報を整理して最善を判断できるだろうか。

答えはほぼ、Noだ。
パニックとまではいかなくても、普段の判断力は大きく低下する。
だからこそ防災の世界では「マイタイムライン」という考え方が重視されている。

マイタイムラインとは、自分の居住地域の特性、ハザードマップが示すリスクの種類と警戒レベル、自宅の建物構造などを事前に組み合わせ、「このアラートが出たらこう動く」という行動の流れを平時に決めておくものだ。

防災に関わる立場から言えば、これを「知っている」と「実際に作ってある」の間には大きな溝がある。


リスクと避難先は状況・条件によって異なる

たとえば浦安市の新町地域でハザードマップが想定する主なリスクは、「内水氾濫」と「高潮による浸水」だ。河川氾濫による浸水や崖崩れ、土石流といったリスクは、この地域では基本的に考慮しなくてよい。

ただし、崖に隣接した地域や河川沿いの住居であれば、当然それらのリスクも視野に入れる必要がある。ハザードマップは地域全体のざっくりとした区分けであって、同じ市内でも場所によってリスクの種類は変わる。

さらに、内水氾濫や高潮による浸水リスクについて言えば、堅牢な建物の浸水想定以上の高さ——たとえば2階以上——に居住しているのであれば、その場にとどまること自体がすでに避難行動として成立している。

住居から「立退き避難」が必要になるのは、平屋の戸建て住宅や、マンション・アパートの1階に暮らしていて、かつハザードマップ上の浸水想定区域に該当する人だ。同じ避難指示を受けていても、2階建て以上の建物の上階にいる人と、平屋に住む人では、取るべき行動がまったく異なる。

このことからしても、テレビなどが「命を守る行動を」以外の具体的な避難行動を言及できないことの理由はわかる。


地域単位で「ひな形」を持つ

個人がゼロから作ろうとすると、ハザードマップの読み方からして難しいと感じる人も多い。
そこで有効なのが、自治会や自主防災組織が地域の特性に合わせたひな形を用意しておくことだ。

全員に同じ行動を強いるのではなく、「この地区ではこのリスクが高い」「このアラートが出た段階でこの選択肢を検討する」という叩き台を共有する。
あとは各家庭が自分の状況——家族構成、建物の階数、要配慮者の有無——に合わせて調整すればいい。

地域特性が近い範囲であれば、この方法はかなり効率的に機能する。


平時に準備することの意味

メディアが短い時間で「ケースバイケース」の全てを解説することは難しい。
それを求めるのは現実的ではない。

ただ、その分を自分で補うことはできる。
ハザードマップを一度開き、自分の地域のリスクを確認する。自宅の構造を把握する。
「避難指示が出たとき、自分はどう動くか」を、穏やかな日に考えておく。

避難所へ行くことが正解の日もある。
在宅が正解の日もある。
その判断を、災害が来てから初めて考えるのか、来る前に持っているのか。
その差が、いざというときに出る。


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