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議員と職員、誰が誰に頭が上がらないのか ―浦安市議辞職に見る地方議会の構造問題

3日間のブログから見える違和感

2026年6月、浦安市議会議員・吉村啓治氏(立憲民主党、2期目)の公式ブログに、立て続けに3本の投稿が並んだ。
6月20日。
地元・入船地域への議会報告ビラのポスティングを終えた報告だった。25,000枚を配り終えた経緯の中で、こんな一文があった。
「議員辞職したら、このビラがポスティングできなくなります」「浦安市議会議員であるうちにと、必死で」配布を終えた、と。

その2日後、6月22日。
今度はまったく別の発表が載った。
「本日をもちまして、浦安市議会議員を辞職いたしました」「立憲民主党を離党させていただきました」。
投票してくれた2,438人への謝罪の言葉が続いたが、辞職と離党の理由については、一切触れられていなかった。
理由が伏せられたまま発表されたこの投稿は、当然ながら憶測を呼んだ。

さらに2日後の6月24日、3本目の投稿で経緯が説明された。
4月21日、市長から議長に対し「議会での質問等の作成は本来市職員の業務ではないので是正してほしい」という申し入れがあったという。
つまり、議員本来の仕事である議会質問の原稿づくりを、市の職員にやらせていたことが問題視されたというのだ。
吉村氏はこれを「真摯に受け止め責任を執り」、辞職と政界引退を決意したと説明している。

3つの投稿を時系列で並べると、奇妙なねじれが見えてくる。
問題の発端である市長からの申し入れは4月21日。
しかし実際の辞職・離党は6月22日まで持ち越され、その2日前の6月20日には、現職の肩書きと政党名が入ったビラを「辞める前に」必死に配り終えている。
理由を説明する前に、まず辞職という結果だけが発表された。
この順序そのものが、何かを示唆しているように見える。


なぜ議員は職員に「やらせる」ことができたのか

ここからは、当事者ではない外部の人間としての推測の域を出ないことを、あらかじめ断っておきたい。
議会での質疑作成は、本来、議員にとって最も重要な仕事のひとつであるはずだ。
それを職員に依存していたのだとすれば、一体何が議員としての仕事だったのか、という疑問が浮かぶ。
2期目にもなって、質疑を自分で作るという議員の基本動作を知らなかったとは考えにくい。
知っていて、なお依存していたと見るほうが自然だろう。
もうひとつ気になるのは、この件について他の市議からの言及がほとんど見られないことだ。
同じような依存が他の議員にも広がっていたのなら、誰も声を上げにくい構造があるのかもしれない。
あるいは、職員側から市長へ苦情が伝わった経緯を考えると、依頼の「度合い」や「頼み方」自体に、高圧的なものがあった可能性も想像できる。
これらはあくまで外部からの推測にすぎない。
だが、この推測を成り立たせている背景には、浦安固有の事情ではない、もっと一般的な構造がある。


「政治のじゃんけん」という構造

議員と職員は、法律上は上司と部下の関係にはない。
地方自治の二元代表制のもとでは、首長と議会はそれぞれ別の権限を持つ存在であり、議員が職員の人事権を持つわけでもない。
だから、議員が職員に何かを依頼しても、それを拒む自由は制度上保障されているはずだ。

しかし実態は違う。
ある地方議員が語った例えとして、政治家・公務員・市民の関係を「じゃんけん」に見立てる説明がある。
政治家がパー、公務員がグー、市民がチョキだとすると、政治家は公務員より立場が強く、公務員は市民より立場が強く、市民は政治家を選挙で選ぶ立場として政治家より強い。
三者がそれぞれ別の相手には弱いという三角関係になっている、という見立てだ。

なぜ政治家が公務員より強いのか。
行政が進めたい施策の多くは、議会の議決を経なければ実行できない。
だからこそ職員は、議員に議案を通してほしいという立場にあり、結果として議員の依頼を拒みにくくなる。
制度上は上司部下ではないのに、実質的には逆らうことが難しい関係が生まれる――この構造そのものが、議員から職員への依存や、行き過ぎた依頼が起きやすい土壌になっていると考えられる。


全国で起きている同型の問題

浦安の件が特殊な事例なのか、それとも構造的に起こりやすい問題の一例に過ぎないのか。
それを考える手がかりとして、他の自治体の事例を見てみたい。

千葉県柏市では、議員によるハラスメント行為を防ぐための条例が制定された。
その制定に先立って市役所職員を対象に行われたアンケートでは、1,827人のうち157人が議員からハラスメントを受けたと回答している。
約1割弱の職員が、議員との関係で何らかの被害を経験していたことになる。

東京都国立市では、男性市議が女性市職員にセクハラ・パワハラを行った事案を契機に、議会が政治倫理条例を制定した。
埼玉県川越市でも、男性市議から女性市職員へのハラスメント事案があったと報告されている。
制度面でも興味深い経緯がある。
地方議会のハラスメント防止条例は、2022年に福岡県議会が条例を策定するまで、すべて「職員が被害者となるケース」や「首長が行為者となるケース」を想定したものではなかったという指摘がある。
つまり「議員から職員へ」という方向のハラスメントに対する制度的な備えは、実はごく最近になってようやく整い始めたばかりなのだ。
ある自治体の職員アンケートには、議員から大声で叱責された経験や、「職員をいじめるのを議員の特権だと勘違いして楽しんでいる」議員がいるという、別の議員からの伝聞すら記録されている。
こうした証言を見ると、議員と職員の力関係がいびつな形で固定化してしまう構造は、決して浦安に限った話ではないことが分かる。


浦安への接続、そして開かれた問い

繰り返しになるが、浦安市議会の内部で実際に何が起きていたのかは、外部から正確に知ることはできない。
ブログという当事者本人の説明だけでは、全体像の一部しか見えてこない。

ただ、全国の事例が示す構造――議員は制度上職員の上司ではないのに、議決権という実質的な力を背景に、職員が依頼を拒みにくい関係が生まれる――を踏まえると、浦安の件もその構造のひとつの現れだったのではないか、という見方は成り立つように思う。
そして、他の市議からの言及が見られないという点も、職員側が「グー」として声を上げにくい立場にあるのと同様に、議員同士もまた互いの問題に踏み込みにくい慣習があるのかもしれない。

浦安市議会に、議員から職員へのハラスメントを想定した相談窓口や条例があるのかどうか。
それは今後、検証されるべき論点だろう。
制度として上司部下の関係にない者同士のあいだに、なぜこれほど実質的な力の差が生まれるのか。
そしてその力の差は、本人の自覚なしに、いつのまにか「依存」や「依頼の行き過ぎ」へと変わっていくものなのか。
今回の一件は、一人の市議の引責辞任という個別の出来事を超えて、地方議会という仕組みそのものに向けられた問いを残している。

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