第6回 選べない座標系 ―地理と災害が都市に課す前提条件―
これまで見てきた座標系は、いずれも人為的に設定されたものだった。
行政制度、生活圏、教育、インフラ、治安。
どれも政策や意思決定によって調整可能であり、時間をかけて上書きする余地がある。
しかし、都市にはもう一つ、どうしても避けられない座標系が存在する。
それが地理であり、自然条件であり、災害リスクである。
浦安市と行徳地域を語るとき、この座標系を無視することはできない。
地盤と水系が共有する現実
浦安市と行徳地域は、旧江戸川を挟んで行政区分は異なるが、地盤・水系・成り立ちという点では極めて近い条件を共有している。
埋立地・低地が多い
液状化リスクを抱える
高潮・内水氾濫の影響を受けやすい
広域災害時にはインフラが同時に被災する可能性が高い
これは印象論ではない。
東日本大震災において、浦安市が大規模な液状化被害を受けたことは記憶に新しいが、同様の地質条件は行徳地域にも連続している。
行政境界は被害を分断しない。
地理条件は、自治体の意思とは無関係に現実を突きつけてくる。
災害時に消える「制度の差」
平時においては、
「千葉県か東京都か」
「市か区か」
「財政力や行政サービスの違い」
といった差異は、都市の個性として語られる。
しかし災害時には、これらの差は一気に相対化される。
同じ地盤が揺れる
同じ水があふれる
同じ交通網が寸断される
同じ生活圏が機能不全に陥る
このとき、都市は「制度の違い」ではなく、「自然条件の同一性」によって束ねられる。
浦安と行徳は、競合都市である以前に、同じ制約条件の下に置かれた都市群でもある。
成長論における「下限条件」
ここで重要なのは、災害リスクを強調して「成長は無理だ」と結論づけることではない。
むしろ逆である。
災害リスクは、成長戦略を考える際の前提条件(下限)であり、避ける理由ではなく、設計すべき要素である。
防災を後付けにしない
成長と同時に耐性を組み込む
平時の利便性と非常時の持続性を同時に設計する
これは縮小均衡ではなく、高度化による成長の条件である。
浦安だけでは完結しない現実
ここで改めて見えてくるのは、浦安市単独で都市像を完結させることの限界である。
生活圏はすでに市境を越えている。
災害リスクもまた、市境を越えて連続している。
であれば、成長戦略もまた、行政境界を越えた視点を含まざるを得ない。
行徳地域は、「競争相手」でもあり、「無関係な隣人」でもない。
同じ制約条件を共有しながら、異なる制度の下で都市運営を行っている存在である。
競争と共存を分けるもの
都市間競争という言葉は、ともすると冷たい印象を与える。
一方で「共存」という言葉は、聞こえは良いが、具体像を欠くことも多い。
しかし、地理と災害という座標系に立ったとき、この二つは対立概念ではなくなる。
平時は競争する
非常時は連動する
前提条件は共有する
この構造を自覚した都市だけが、競争と共存を使い分けることができる。
浦安市と行徳地域の関係は、まさにこの問いを突きつけている。
成長を語る資格
多くの自治体が人口減少を理由に、現状維持、あるいは縮小均衡を選びつつある。
しかし、災害リスクを理由に「成長を語らない」ことと、「成長を設計しない」ことは同義ではない。
厳しい前提条件を理解した上で、それでもなお成長を描こうとすること。
それこそが、都市が「選ばれ続ける」ための条件である。
浦安市は、地理という選べない座標系を抱えながらも、それを前提に次の都市像を構想できる段階にある。
次に問われるのは、この制約条件をどう強みに転換するか、である。
