できなくなった「当たり前」と、心に空いた穴
毎日を過ごす中で、「どうしてこんな簡単なことができないんだろう」と、立ち止まってしまうことはありませんか?
高次脳機能障害を抱えると、昨日まで当たり前にできていたことが、突然目の前で高い壁に変わります。かつての私は、どちらかと言えば器用な方でした。特別に自分が有能だと思っていたわけではありません。ただ、「できることが当たり前」だったんです。だからこそ、その「当たり前」が砂のように指の間からこぼれ落ちていく感覚は、言葉にできないほど苦しいものでした。
できないこと自体が失敗だとは思いません。でも、そのせいで誰かを失望させてしまうのではないか、期待を裏切ってしまったのではないか。その恐怖が、じわじわと自己肯定感を削り取っていきました。
気づけば、視線はいつも足元ばかりを向いていたように思います。
私たちは今、「シャボンディ諸島」にいる
この感覚を何かに例えるなら、大人気漫画『ONE PIECE』の「シャボンディ諸島」のエピソードがしっくりきます。
圧倒的な力を前に、麦わらの一味がバラバラに弾き飛ばされてしまったあの絶望の瞬間。ルフィが「仲間一人も救えない…!」と地面を叩いて泣いたあの姿は、高次脳機能障害によって、自分の中の大切な能力(ピース)をバラバラにされた私たちの姿に重なります。
記憶、注意、感情のコントロール。自分を構成していた「一味」が散りぢりになり、思い通りに動けなくなる。それはまさに、自分という船が難破してしまったような感覚です。
なぜ「できない」と心まで沈んでしまうのか
なぜ、私たちはこれほどまでに自分を責めてしまうのでしょうか。そこには科学的な背景もあります。
高次脳機能障害によって脳の「前頭葉」などの機能が低下すると、「情動の抑制」や「認知的柔軟性」が維持しにくくなります。つまり、予期せぬ失敗に対して「まあ、そんなこともあるよね」と受け流すブレーキが効きづらく、ネガティブな感情のループに陥りやすくなるのです。
脳が一生懸命に修復しようとしている最中は、非常に疲れやすく(易疲労性)、その疲労がさらに「自信のなさ」を増幅させます。あなたが自分を責めてしまうのは、性格のせいではなく、脳がそれだけ必死に今の状況と戦っている証拠なのです。
顔を上げるだけで、世界は少しだけ変わる
うつを経験し、心理学を学ぶ中で、私は一つの言葉に出会いました。それが「パワーポーズ」です。
社会心理学者のエイミー・カディらが提唱した概念で、たとえ自信がなくても、堂々としたポーズをとることでホルモンバランスが変化し、ストレスが軽減するというものです。
「自信があるから顔を上げるのではない。顔を上げるから、少しだけ前を向ける」
今でも私は、自己肯定感が底辺だと感じる日があります。でも、そんな時こそ意識して背筋を伸ばし、空を見るようにしています。体だけでも上を向くと、不思議と胸の中に隙間が生まれ、四季折々の風や光を感じる余裕が戻ってきます。
バラバラになった麦わらの一味は、絶望のまま止まりませんでした。彼らは今の自分にできることに集中し、再会のために力を蓄えました。私たちも同じです。「完璧にできない自分」を責める必要はありません。
最初からできる人なんて、いない
「自信がないままでも、行動していい」
「一歩の勇気があれば、できなくてもなんとかなる」
そう自分に言い聞かせています。そもそも、最初から何でもできる人なんてこの世にはいません。今はただ、バラバラになったピースを一つひとつ、ゆっくりと拾い集めている時期なのだと思ってみませんか。
環境を整え、無理のない習慣を作り、ときには道具や周りの力に頼る。それは逃げではなく、新しい自分という船を再出航させるための、立派な戦略です。
足元ばかり見ていては見落としてしまう空の青さを、一緒に眺めていきましょう。私たちは、バラバラになったままでは終わりません。顔を上げたその先に、新しい景色が必ず待っています。
📝 今日の実験ノート:30秒の「視界ハック」
自信がなくても、心がバラバラでも、体は今すぐ動かせます。一緒にこの「実験」をしてみませんか?
スキャン: 今、自分の視線がどこを向いているか確認する(大抵、スマホや地面など下を向いています)。
ポーズ: 椅子に座ったままでもOK。グーッと背伸びをして、目線を「斜め15度上」に向ける。
観察: その状態でゆっくり3回深呼吸。胸の開き具合や、視界に入ってくる色の明るさがどう変わるか、ただ観察してみてください。
「自信がわいてくる」まで待たなくて大丈夫。体温や呼吸の変化を「データ」として受け取るだけで、今日の実験は成功です。
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