【詩】かまくらの食卓
早朝のカーテンを開くと、
庭一面が真っ白な世界に染まっていた。
新雪には足跡もなく完成された美しさがあった。
「よし」
僕はスコップを手にすると、
ためらいなく最初のひと掬いを崩す
きゅ、と音がして
白い塊が形を変える
それを何度も重ねていくうちに
ただの雪は
少しずつ、場所になっていく
腰をかがめて入れるくらいの穴をあけ
内側を手で均していく
指先は冷たいのに
それでも作業は止めなかった
息が白く立ちのぼり
その向こうで
かまくらの内側が静かに整っていく
やがて
小さな空間ができあがる
外の風は届かず
音も少し遠くなる
一度家に戻り
レジャーシートと座布団
小さなガスコンロを抱えて戻ってくる
中にそれらを並べると
一気に生活感が増してくる
コンロに火をつけると
かすかな音と一緒に
小さな熱が生まれる
その灯りが
雪の壁にやわらかく反射する
しばらくそれを眺めてから
家の方へ声をかける
「できたよ」
少し間があって
戸の開く音
眠たそうな足取りで現れた妻は
庭の白さと
その中の小さな入口を見て
一瞬、立ち止まる
「なにそれ」
そう言いながらも
興味に引かれて
低くかがんで中へ入ってくる
入った瞬間
肩の力が少し抜ける
「……あったかい」
その一言で
僕はようやく秘密基地が完成したと実感した
持ってきた包みからおにぎりを取り出す
熱したフライパンの中に、ベーコンを縁に寄せて、真ん中に卵を二つ落とす
じゅ、と音がして
食卓の匂いがかまくらの中を包む
白身が広がり
黄身が静かに揺れる
こんな場所で焼かれた目玉焼きは
少しだけ特別に見える
ふたりで並んで座り
手を温めながら待つ
出来上がったそれを
分け合って食べると
熱は
口からだけじゃなく
もっと奥へと落ちていく
「なんか、いいね」
妻がそう言って
少し笑う
その声が
雪にやわらかく吸われていく
男は何も言わず
ただ頷く
食べ終わって
火を消しても
しばらく
ふたりは動かなかった
外に出れば
またいつもの朝が待っている
けれど今はまだ
この白い部屋の中で
湯気の名残と
わずかな温かさを
手放さずにいたかった
