[詩]金色のカタチ
朝の流しで
音がひとつ、割れた
白い陶器のコップ
縁に、細いひびが走って
そのまま静かに
二つに分かれた
ごめん、と言った私に
夫は
いいよ、とだけ答えて
破片を拾い上げた
それからしばらく
コップは棚から消えて
代わりに
見慣れない道具が並んだ
細い筆と
小さな皿と
金色の、光
夜になると
彼は黙って座り
欠けた断面を
指でなぞっていた
触れるたびに
何かを思い出すみたいに
私たちの会話の欠片や
言えなかった言葉や
少しだけ冷えた時間を
確かめるみたいに

やがて
割れていたはずのコップは
もう一度、形を取り戻した
けれどそれは
元の白ではなくて
ひびの跡をなぞるように
金の線が走っている
光は傷のかたちをしていた
それを手に取ると
不思議とあたたかくて
ああ、と思った
壊れたのではなく
ここに
残ったのだと
朝の音も
あの時のごめんも
彼の沈黙も
すべてが
この線の中で
ひとつに繋がっている
私はそのコップに
水を注ぐ
透明な水が
金の線をなぞりながら
静かに
光っていた
