ステる、デブる、ブラる、タキる、の意味は?(外来語動詞化ターム20選)(面白医学用語集②)
はじめに
日本語においては、ディする、パニクる、ググる、バズる、コクる、テンパる、といった類の、外来語や名詞の語幹に動詞化接尾辞の「る」を付けた、「外来語動詞化」「新造動詞」が無数に存在しますね。これらの語は、音韻の響きが心地よいこともあり、日々、新造されています。
医学・医療の世界においても、記事タイトルにあげたステる、デブる、ブラる、タキる、をはじめとして多数の「外来語動詞化」された言葉が存在します。医療現場において、業界スラングとして外来語動詞化タームが多用される背景としては、患者の命や健康にかかわるセンシティブな事象を部外者に知られないよう医療従事者間限りでコミュニケーションを図るよう留意されていること、あるいは一刻一秒の猶予もない緊迫した救急医療の臨戦態勢において極力短い用語で的確に情報伝達を図る上で便利であることが挙げられます。
医療の部外者が聞いて面白可笑しく感じる用語がある一方で、患者やその家族が耳にすると不謹慎だと不愉快に感じる用語も含まれています。だけど、医療従事者が非倫理的だからこのような言葉を使用する訳ではありません。基本的には、れっきとした学術用語に基づく略語であることをご理解ください。
てなことで今回は、「る」がつく外来語動詞化タームの中で、比較メジャーなものを一挙に20語を紹介します。
ちなみに、プロンプトとして単に「「ステる、デブる、ブラる、タキる、の意味は?」というタイトルのnote記事に合致する画像を作成してほしい」と、詳細条件を一切付与せずに生成AIに作業発注したところ、次のような完全にスレチなイメージ画像を生成してくれました (;^_^A)

次いで、救急医療現場を描いて欲しいと指示して、生成されたのがこちらです。医療関係者であれば、患者や医療従事者の笑顔はあり得ない病態だとミスマッチが可笑しく感じるかも知れません。シリアス感を出すよう、再度指示して再作成されたのが、冒頭の画像です。

① ステる
ゴミや不用品のように、患者さんをポイ捨てすることはありません。医療用語としての「ステる」の反対語は「拾う」ではなく、「生まれる」です。といっても、意味不明の謎解きですが、「ステる」は、ドイツ語ステルベン「Sterben(死亡する)」に由来し、「死ぬ」ことを意味します。
②アポる
日常用語として「アポる」は「予約する」ことのスラングとして使用されますが、医療業界では、英語のアポプレキシ「Apoplexy」に由来する言葉として、「脳卒中で倒れる」ことを意味します。
③タキる
モータースポーツ界隈では、タコメーターに由来し、エンジン全開で疾走することを「タキる」といい、また、ゲーム『ウマ娘 プリティーダービー』に登場するマッドサイエンティスト風のキャラクター「アグネスタキオン」のようにテンション上がることを「タキる」と呼ぶことがあるようですが、どちらも医学用語でタキっていることでしょうか。
英語で、頻脈(脈拍や心拍数が異常に速くなること)のことを、タキカルディア「Tachycardia」といい、「頻脈になる」ことを病院では「タキる」と略称します。
④ブラる
「ブラブラすること」「ブラジャーをつけること」ではありません。タキるの反対語です。すなわち英語で、徐脈(脈拍や心拍数が異常に遅くなること)のことを、ブラディカルディア「Bradycardia」といい、「徐脈になる」ことを意味します。
⑤ネクる
壊死(皮膚や内臓などを構成する細胞が腐って死んでしまうこと)を意味する英語ネクローシス「Necrosis」に由来し、「壊死する」ことを意味します。
⑥デクる
「デクの坊」みたいな響きがあり、「役立たずの操り人形」のようなイメージが伴いますが関係ありません。英語で褥瘡(床ずれ)のことをデクビトス「Decubitus」といい、医療現場では「デク」とか「デクビ」と表現します。「デクる」とは「褥瘡ができる」ことを意味します。
⑦デコる
日常語感としては、デコレーション(装飾する、可愛く並べる)のようなポップでポジティブな用語ですが、医療現場では一転して、「心不全(患者の心機能が破綻して救急処置が必要な状態)に陥ること」を意味します。代償不全(身体機能のバランスが崩れること)を意味する英語ディコンペンセーション「Decompensation」に由来します。
⑧デブる
「「デブる」とは「メタボる」の類語で、「太ること」を意味します」、といった解説がAIで提示されても信じてはいけません。
フランス語で「残骸」や「破片」のことをデブリ「débris」と呼び、スペースデブリ(宇宙ゴミ)、燃料デブリ(原発事故で生じた核燃料瓦礫)のように用いられますが、医療現場では、ネクったりデクったりした状態の「傷口のゴミや死んだ組織」を指します。形成外科、皮膚科、整形外科、救急医療などの現場で、壊死病変や褥瘡の創口をきれいに除去する処置をデブリードマン「Debridement」と呼び、このような処置を行うことを「デブる」と表現します。
「ネクる」「デクる」「デブる」は互いに関連深い用語です。
⑨ヘモる
「大出血、流出」を意味する英語ヘモラージ「Hemorrhage」に由来し、「出血する」ことを意味します。
⑩アテる
誰かを宛先として郵便物を出すことでも、物をぶつけること、でもありません。無気肺(気管支閉塞などにより肺の一部に空気が入らず、つぶれた病態)のことを英語でアテレクシス「Atelectasis」と呼び、無気肺になることを「アテる」といいます。
⑪アブる
英語のアブレーション「Ablation」に由来する表現で、手術中に電気メスで組織片を焼灼(焼き切る)したり、カテーテル治療により心臓の不整脈の病変部位を焼灼することを意味します。
「火あぶりにする」という日本語ボキャブラリーと見事に一致するタームだと思っていましたが、アブレーションの元々の意味は、「焼く」ことではなく「取り除く」「削り取る」ことのようです。
⑫アムる
「安室奈美恵さんのように生きる、または彼女のようになりきる」ことではありません。
糖尿病や壊疽などの病気や事故により、四肢切断することを英語でアムピュテーション「amputation」、「アンプタ」と略称しますが、整形外科領域で四肢切断手術をすることを「アムる」と表現することがあります。
⑬エピる
病院や診療科によって、様々な意味で用いられることから、混乱・誤認しないよう気をつける必要がある言葉です。最もメジャーな使われ方として、「てんかん発作を起こす」という意味があります。「てんかん」を意味する英語エピレプシー「Epilepsy」由来の表現です。
次いで、麻酔科領域では「硬膜外麻酔(背骨の中にある「硬膜外腔」という隙間に局所麻酔薬を注入し、腹部から下半身にかけての痛みを一時的にブロックする麻酔法)をかけること」を、「エピる」と表現する医師がいます。こちらは、硬膜外の英語エピデュラル「Epidural」に由来します。
また、心停止状態の患者の組成のため、エピネフリン「Epinephrine」注射を行うことを、エピると呼ぶ病院もあります。
麻酔科医が「硬膜外麻酔」のつもりで「エピの準備をお願いします」と依頼したときに、看護師が誤認してエピネフリンを用意すると重大な医療過誤事件となるので、注意を要します。
⑭ケモる
モノノケ、化け物みたいな響きがありますが、「化学療法(抗がん剤による治療)を行う」ことを意味します。ケモセラピー「Chemotherapy」に由来します。
⑮ラジる
ゴジラが暴れて光線を発射するイメージ、あるいはラジコン(ドローン)を飛ばすような趣のある用語ですが、「放射線治療を行う」ことを意味する医療タームです。ラジオセラピー「Radiotherapy」に由来します。
⑯サクる
「吸引」や「吸い込み」のことを英語でサクション「Suction」と言いますが、鼻水や気管(喉)に詰まった痰、内臓に溜まった浸出液を陰圧をかけて吸引することを「サクる」と呼ぶことがあります。
⑰ゼクる
ドイツ語のゼクション「Sektion(解剖、切開)」に由来し、「病理解剖(剖検)する」ことを意味します。「昨日、ステッた患者は医学的に大変興味深い症例なので、是非とも、ゼクりたいんだけど、家族の承諾取れるかな?」といった使い方がされます。
⑱ネブる
「ねぶる」とは、関西地方を中心とした西日本の方言で、「舌でペロペロとなめる」「しゃぶる」という意味の言葉ですが、古語(昔の日本語)に由来する由緒正しい言葉です。
耳鼻科に行くと、(まじない的に)鼻から霧状の吸入薬を吸入するネブライザー「nebulizer」治療が行われますねよ。医療の世界では、吸入治療を行うことを「ねぶる」と呼ぶことがあります。
⑲ベジる
ベジタリアン(菜食主義者)になること、ではありせん。植物人間(植物状態)のことを英語で「vegetative state」といい、植物人間になってしまうことが「ベジる」です。
⑳ワゴる
ワゴン車を運転することでも、移動式ワゴン販売で買い物をすることでもありません。痛みや緊張などの刺激によって、迷走神経が刺激され、血圧低下や徐脈、顔面蒼白などの症状が生じることを「迷走神経反射」といい、これは英語ヴァゴヴァーガル・リフレックス「vagovagal reflex」の訳語です。迷走神経反射が起こることを「ワゴる」と表現します。
おわりに
今回は、面白医学用語集第2段として、多くの医療現場で使用され、医療従事者の間で比較的知名度が高い「外来語動詞化」タームを20語紹介しました。今回取り上げた語ほどはメジャーではなく、一部の医療機関や従事者によってローカル用語しても用いられている語があります。
次回以降には、比較的マイナーな「外来語動詞化」ターム、産科や精神科で耳にする「外来語動詞化」タームを順に取り上げていきます。ご期待ください。
