のぞみ1号、南極2号、鉄人28号、では台風何号? 台風ガラパゴスのお話
はじめに
私は鉄オタ(鉄道オタク)でも、アダルト系マニアでも、アニオタ(アニメオタク)でもありませんが、台風の話をするにあたり、語呂がいいので、新幹線、ラブドール、巨大ロボットに登場していただきました。
キャッチコピーのセンスが全く無い(マイナス無限大レベルの)自分としては、なかなかナイスなタイトルが思い浮かんだと自己評価してますが、やっぱセンスないですかね?
軍オタ向けには「震洋一号」、50代以上のシニアや宇宙オタには「ボイジャー1号」(今ごろ、宇宙空間のどこを旅しているのかな)、「スプートニク1号」とか「アポロ11号(13号)」、ドラゴンボール好きには「人造人間8号(ハッチャン)」などでも良かったのですが、やっぱ誰もが馴染みがあるのは、のぞみ1号、南極2号、鉄人28号ではないかと。(南極2号、鉄人28号とも昭和用語で、今や通じない人が多いのかな)
な~んて、本論からどんどんずれて言ってしまうのが私の悪い癖ですが、本題に戻りましょう。
日本人は、台風1号、台風2号とか台風28号といった表現を当たり前のように使っていますが、世界広しといえど、台風をこんな風に数字表現するのは日本だけで、世界常識からは完全逸脱したガラパゴス用語だということを、ご存じでしょうか。今回は、そのあたりの雑談です。
台風とは
台風とは、「北西太平洋(東経100度から180度の間)または南シナ海に存在する熱帯低気圧のうち、中心付近の最大風速が34ノット(およそ17.2m/s)以上にまで発達したもの」と定義されています。
ちなみに、ツナミと同じよう、タイフーンは日本語由来の国際用語と思い込んでいる人が少なくない(自分もでした)ですが、これは誤認です。かつては、大風(おおかぜ)・嵐(あらし)と呼ばれていたほか、文学では、清少納言に紫式部から松尾芭蕉に至るまで、秋口の台風(暴風雨)を「野分(のわけ)」呼ぶ例もあったようです。
英語タイフーンの語源については、諸説あるようですが、中国広東語の「大風(ターイフォン)」やアラビア語のtufanなどがヨーロッパに渡り、「typhoon」という言葉が定着したようです。明治時代になって、typhoonの訳語として中国の文献にある「颱風」が当てられ、1946年に当用漢字として「台風」の名前が確立した経緯があります。
台風の命名権者
1947年から1999年までは、米軍の気象当局が決定した名称が、国際的に正式な台風名称とされてきました。1947年から、米軍の気象部隊を総括するアメリカ航空気象軍団(AWS)がリスト作成をはじめ、1959年からは米国海軍と空軍が共同でハワイに設立した「合同台風警報センター(JTWC)」が一元的に管理を行っていたのです。
具体的には、あらかじめアルファベット順に用意された英語の人名リストに基づき、aではじまる名前、次はb、そしてc、dと順に台風発生順に名前が付けられていました。初期の頃はもっぱら女性の名前が用いられ、ハワイに単身赴任していた軍の気象学者が、本国にいる愛しい妻や恋人、娘の名前を付けていたとか。
例えば、1947年に日本で死者数行方不明者が計2000名近くに及んだ「カスリーン」とか、日本でやはり500名以上の死者・行方不明者を出した「ジェーン」とかです。
ところが、1970年代にフェミニストグループなどが「破壊的な災害に女性の名前ばかり使うのは性差別である」との批判を展開しました。これを受けて、1979年以降は女性名と男性名を交互に使用するルールに変更されました。
その後、アジア太平洋の国々から、米軍が台風の命名権を独占していることへの反発が強まり、2000年からは台風の常襲地帯に所在する14の国と地域で構成される国際機関「台風委員会」のルールに基づき、加盟国が提案した名前(アジア名)が台風発生順に付与されます。そして、このアジア名が国際的なスタンダードとして、ほぼ世界中で台風の名称として使用されています(一部例外があり、例えば台風直撃率の高いフィリピンは、独自の台風命名も行っているようです)。
台風委員会の台風命名ルール
「14の国と地域」というまどろっこしい表現をしているのは、中国の一地域である香港やマカオがそれぞれカウントされているからですが、この14国・地域がそれぞれ10の固有名詞を台風委員会に提案し、計140語からなるリストがあらかじめ作成されています。そして、台風発生順にリストアップされた固有名詞が順番に台風の名称に割り当てられ、一巡すると元に戻って同じ名前が再利用される仕組みです。
各国・地域が、台風名を提案するにあたっては、アジア各国・地域の文化の尊重と連帯の強化、相互理解を推進すること、防災意識を高めること、という目的への配慮が求められています。各論的には、文字数が多過ぎないこと(アルファベット9文字以内)、音節が多くなくて発音しやすいこと、他の加盟国・地域の言語で感情を害するような意味を持たないことなどの条件があるようです。
ちなみに日本は、星座名に由来する名前10個を提案しています。星座名を提案した理由として、「自然」の事物であって比較的利害関係が生じにくいこと、大気現象である台風とイメージ上の関連がある天空にあり、かつ、人々に親しまれていることが挙げられています。
台風名の永久欠番(引退)ルール
台風の命名にあたっては140語のリストがあって、順繰りに使うのが原則であると述べましたが、例外もあります。「将来にわたる情報の混乱防止(同名台風の混同を避ける)」と「被災害地域の感情への配慮・記憶の風化防止」の観点から、その台風が加盟国に甚大な被害(大災害)をもたらした時には、プロ野球の永久欠番のように、2度と同じ名前が使用されなくなります。
そして、その名称をもともと提唱した国が、かわりとなる新たな固有名詞を提案し、リストに載せられることになります。
例えば、2017年の台風「ハト」(日本のローカル名称では台風13号)は、中国・マカオで甚大な被害を与えたために引退となり、かわりに「ヤマネコ」がリストに載りました。また、同年の台風「テンビン」(日本の台風27号)は、フィリピンで甚大な被害を与えたため引退となり、「コイヌ」に交代しました。
また、一旦リストアップされた固有名詞の中で、別の国の言語で「不適切な意味(感情を害する意味)」を持つことが後から分かった場合や、発音が他の単語と紛らわしく防災上の混乱を招く恐れがある場合、中立性を欠くなど政治的リスクが指摘される場合も、引退となることがあります。
例えば、フィリピンが提案した「Malakas(マラカス)」はタガログ語で「力強い」ことを意味するようですが、ギリシャ語で軽蔑的な意味を含む単語だという物言いが入り、別の語に変更されました。また、韓国が提案した「Nabi(ナービー)」は韓国語でチョウを意味するようですが、イスラム教の預言者と同音だと反発する国があり、別の語に変更されました。
このあたりの台風にまつわるトリビア情報に興味のある方には、「デジタル台風」という、国立情報学研究所の北本朝展氏が運営している情報サイトをお勧めします。
https://agora.ex.nii.ac.jp/digital-typhoon/help/tcnames.html.ja
台風発生の判定権を持つ日本の気象庁
ところで日本の気象庁(JMA)は、世界気象機関(WMO)の「RSMC東京(台風センター)」として、北西太平洋と南シナ海で発生するすべての台風について、国際的な「発生の判定」を行う唯一の公式決定権を持っています。
中心付近の最大風速が34ノット以上に達したかどうかの判断は、気象観測機関や専門家によってしばしば見解が分かれますが、日本の気象庁(JMA)が台風に達した、と判定すれば国際的に台風誕生の瞬間となります。台風委員会のリストに準拠して、2026年の1つ目の台風であればNOKAEN(ノケーン、リストの62番)、2つ目の台風はPENHA(ペンニャ、リストの63番)と名付けて、気象庁(JMA)が世界中に情報発信しているのです。
厳密にいうと、気象庁は、西暦の下2桁とその年の発生順(2桁)を組み合わせた4桁の台風番号(International Number)も付番して、「TY NOKAEN(2601)」「TY ENHA(2602)」という情報発信の仕方をしています。
ただ厄介なことに、米軍「合同台風警報センター(JTWC)」も独自に付番して台風情報を発信しますが、日本の気象庁(JMA)と判断基準が異なるため、番号ずれが生じることがあります。JMAとJTWCの両方の情報を常にチェックしている船舶関係者などは、数字で台風を把握すると勘違いで命取りになりかねないとして、世界共通のアジア名での台風理解が必須となっています。
台風表記の大本営的情報統制の仕組み
ここまで説明してきたように、台風委員会がリストアップしているアジア名が、国際的にスタンダードな台風の個別識別名称として、広く用いられています。そして、台風発生の判定権を持つ日本の気象庁も、このアジア名で国際的に情報発信をしています。
ところが、なぜか気象庁は、日本国内向けには「台風○○号」というローカルな表現を徹底しています。ゴリゴリのグローバリストからは、国際常識から逸脱した旧弊であり、グローバリゼーション(国際協調・国際相互理解の推進)の観点から日本でも台風のアジア名表記を標準化すべし、といった指摘がなされるかも知れません。
実際、日本気象協会やウェザーニュースなどの民間会社などでは、台風情報でアジア名を併記する動きが一部で広がっています。しかしながら、NHKや民放各局(日本テレビ、TBS、フジテレビ、テレビ朝日、テレビ東京)、および主要新聞社(読売、朝日、毎日、日経など)、いわゆる大手マスコミはいずれも台風速報や日常の天気予報においてアジア名を一切用いていません。(ところがどっこい、NHKも国際放送ではアジア名表記で報道するという、二枚舌)
気象庁の業務を定めた法律「気象業務法」の中には、「台風は番号で呼ばなければならない」という具体的な記述はありません。番号での運用は、あくまで気象庁の内部規定に基づく方針に過ぎません。しかしながら、民間企業が予報業務を行う際には、許可条件として「台風であるかどうかの別及び台風の名称は、気象庁の予報事項に従うこと」 と明記されていることから、報道機関は、番号表記を主軸に報道せざるを得ない仕組みになっているのです。いわば、大本営による情報統制が敷かれているといっても過言ではありません。
(参考)気象業務法(昭和27年法律第165号)第40条の2及び気象業務法施行規則(昭和27年運輸 省令第101号)第49条の2の規定に基づき、予報業務の許可等に付す条件
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/minkan/kyoka_jouken.pdf
日本では台風がかたくなに番号表記されている理由
ではなぜ、日本の気象庁は、「日本の常識 世界の非常識」とも言える、台風の数字表記をかたくなに死守しようとするのでしょうか。気象庁の公式見解はわかりませんが、おそらく、次のような背景があるのではないかと想像します。
(1)「同名台風」による過去データの混乱
アジア名は140個のリストを順番に使い回します。そのため、数年経つと同じ名前の台風が再登場します。過去の災害データや統計(例:「〇〇年の台風第15号」など)を振り返る際、名前だけでは「いつの台風か」が瞬時に判別できず、実務での混乱が懸念されます。
ただ、この懸念は世界中どこの国でも存在するので、日本だけがアジア名表記を拒む合理的理由ではないような気がします。
(2)日本語の言語特性と「聞き取りやすさ」
アジア名は14の国と地域が提案した多様な言語(カンボジア語、中国語、タガログ語など)で、「アルファベットで9文字以内」と決まっています。これを日本語のカタカナに変換すると、「ハギミス」や「ヒンナムノー」「ダムレイ」のように、日本人にとって発音しにくく聞き取りづらい語感になりがちです。緊急放送などで、一瞬で聞き取る必要がある防災情報としては、致命的な弱点となります。
この懸念も理解可能ですが、世界中どこの国でも存在するので、日本だけがアジア名表記を拒む合理的理由ではないような気がします。
(3)戦後期に米国名を強制されたことへの国民的負の感情
日本が1947年から1951年にかけてのGHQ占領下、気象業務では「カスリーン(1947年・死者数行方不明者計2000名弱)」「ジェーン(1950年、同500名以上)」などの英語の女性名で台風を呼ぶよう強制されていました。多数の死者を出す激甚災害に対し、馴染みのない外国の女性名で呼ばされ続けることに、強い心理的抵抗や違和感(トラウマ的な記憶)が残ることになりました。
かつて外国から命名規則を押しつけられたへの反発・警戒感や、日本の防災実務には合わないという判断から、2000年にアジア名の導入が国際的に決まった際も、気象庁は国内向けには従来の番号表記を継続するというダブルスタンダードを決めたようです。
おわりに
台風のアジア名は、14カ国・地域がそれぞれの文化(神話、植物、動物など)を踏まえ自国語で表記するものであり、特定の国にとって馴染みのない概念や、言語的なニュアンスの誤解を生むリスクを内包しています。
しかしながら、日本以外のほぼ全ての国々では、各国・地域の文化の尊重と連帯強化、相互理解推進の意義を優先し、台風を国際スタンダードのアジア名で呼称しています。
他方で、日本だけは、気象庁そして大手マスコミはガラパゴス的に自国の慣習的な呼び方である番号表記を維持しています。一方、日本気象協会やウェザーニュースなどの民間会社などでは、台風情報でアジア名を併記する動きがあります。これはありがちな、国際協調主義(グローバリズム)と国内慣習・伝統文化の優先主義(ローカリズム・土着主義)のせめぎあいの一例と言えるでしょう。各国・地域の文化を尊重してアジア名を使うのは文化相対主義、自国の歴史的慣例を優先して番号表記するのも文化相対主義なんですよね。
筆者は、日本のような番号表記は防災上の実用性の観点からは大ききなメリットがあり、この慣行を全否定する必要はないと考えます。ただ、他国からは国際常識から逸脱した奇異で不便な因習と見なされがちであるという事実を気象庁は隠蔽するのではなく、国民に知らしめる必要があると思っています。
最後に、半ばジョークの提案です。今後、国際協調の観点から、日本も国際スタンダードのアジア名表記に変更することを仮にお上が提案した場合、国民の間で反発や動揺が生じることも想定されます。その際、経過措置的に数年間、番号表記を1、2、3と順番に振るのではなく、軍隊組織が敵を欺くために用いるのを倣って飛び飛びの番号をつける、あるいはブラフ?で台風21号とか台風82号からスタート(マツモトキヨシの最初の店舗は21号店だった。米陸軍精鋭部隊は「第82空挺師団」)して、遊び心で国民の抵抗感を緩和してみるというのはいかがかしら。
おまけ
最後の最後に、鉄人28号にちなんだクイズを1問。台風は平均して、年間25個程度発生していますが、2000年以降に、台風28号が存在した年(年間台風数が28個を超えた年)は何回存在するでしょうか?
正解は、2004年(年間29個)、2013年(31個)、2018年(29個)、2019年(29個)の4回です。日本式の番号表記だと、このようなカウントも容易だという利点があります。
(参考)台風の国際名称(アジア名)のリスト

