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セックスワーカーには二級市民の弱者しかいないし、立派な仕事でも何でもない

過激な言説だろうか?
しかし、親に虐待されて、高校を中退して、助けを求めた先で性被害に遭って、そのまま性産業の世界に飛び込んだ自分だからこそ、こう断言するのだ。

義憤に駆られたそこの「おまえ」、まさに「そういうところ」だぞ。

さて、ここでいう弱者には2種類ある。
「境遇面での弱者」「知的能力面での弱者」
もちろん、その両方を抱えているパターンもある。

私は境遇的弱者側の人間であり、知的能力に困難があるような子たちの現実を直視するのが辛くて、そちらについては詳しくない。
だから今回は主に前者の話をするが、後者の人々もまた、この構造の中で同じように、あるいは、より深く搾取されている現実があることを心に留めておいてほしい。


ビッチ嬢ちゃんのおはなし

境遇的弱者というのは、親から性的虐待を受けてきたとか、性暴力の被害者とか、そういう人々だ。
そんな辛い思いをしているのに、なぜわざわざ性産業に…と思われるかもしれないが、それは「辛い思いをしているからこそ」である。

自分の意に反した被害、それも「抵抗しようと思えばできたんじゃないか」「警察に相談しようと思えばできたんじゃないか」というような被害(少なくとも、本人や社会はそう思い込んでいる)の場合、自分のつらさを直視しないために「自分の意思でやった」という認識にすげ替えようとする人は少なくない。

殴る蹴るなどの肉体的な暴力ではない、性暴力の厄介な点として「合意さえあれば、加害ではない」という特徴がある。
被害を受けて、警察や弁護士など、どこまで味方になってくれるのかも分からない他人に相談し、何度も何度も自分のつらさと向き合って言語化するのは、心理的に負担が大きい。

だからこそ、あとから自分の中で「あれは合意だった」ということにしてしまう人があとをたたない。
しかし、それはそれで論理に破綻をきたす。

「なぜ私はあれに合意したのか?」
普通の女の子だったら、とても喜べない行為なのに。

「そっか、私は自分で気付いていなかっただけで、本当はセックス大好きなビッチだったんだ」
これで整合性がとれた。ヨシ!

(なお、今回の文章ではセックスワーカーの女性にフォーカスしているが、似たような心理は男性にも発生するらしい。たとえば、男性からの性暴力を受けたからゲイになった、という告白は少なからず耳にする。とはいえ、私はその当事者ではないので、あまり無責任に語らないでおく)

私は生まれながらのビッチだ、初対面のおっさんのちんぽを舐めるのが心から楽しい、そういう趣味の変態なんだ。
そうと決まれば、自分の肉体を使って稼ぐのが天職である。
こうして、破綻の連鎖が始まっていく。

(ちなみに裏社会寄りの店だと ①「コンカフェキャスト募集」みたいな求人で女の子を釣り ②密室のなかで1人vs複数人の面接をして ③「性風俗だ」と気付いても断りづらい状況に追い込み ④サインのあとで、すぐさま「研修」や「体験入店」で被害者に仕立て上げ ⑤曲がりなりにも報酬を支払うことで認知を固定化し、後戻りできなくする…
という手法もとられており、これは「自分のつらさを直視しないために合意だったと思い込む」という心理を故意に悪用したものである)

女衒君とゆかいなホストたちのおはなし

この業界には、街角で女性に声をかける男性、いわゆるスカウトマンという職業が存在する。
私は彼らを、軽蔑と、憎悪と、ほんの少しの同情と、その他すべての複雑な思いを込めて、スカウトではなく「女衒」と呼ぶことにしている。

さて、「女衒は弱者女性を搾取している」とよくいわれる。
確かにそうなのだが、見方を変えると、彼らは「搾取させられている」という見方もできる。

というのも、女衒となった男性も、結局のところ弱者だからだ。
機能不全家庭で育ったのか、知人の借金を押し付けられたのか、個々人の詳しい身の上については知らない。
いずれにせよ、女衒は定職も家もなく「寮完備!最大月収100万円!明日から働けます!」みたいな求人に飛び付いてきた人が多い。

普通の人だったら「そんな求人怪しいに決まってる」と思うだろうし、実際それに応募したら最後、キャリアを積むべき20代〜30代を性産業の黒子役として刈り取られてしまう。
(おじさんになったあとの彼らがどんな道を歩むのか、私は知らない。履歴書に書けないような仕事では、再出発も難しかろう)

ただ、彼らは、それに怪しさを感じながらも踏みとどまる余裕などない人々だ。
「今、生きるために、住む場所と金を手に入れなければ」と必死な若い男性が、それに手を挙げる。

ここで、性産業を取り巻くシステムを軽く説明しよう。
女衒は、紹介した女性の売り上げの何割かをバックとして受けとることができる。
逆に、紹介した女性が飛んだり、店でトラブルを起こしたりすると、その分の損失を肩代わりする羽目になる。
下手したら、何百万円規模のの借金を突然背負わされるリスクすらも。

「生きるために決死の覚悟で飛び込んだとはいえ、こんな話だったとは…」
しかし、この恐ろしい現実を理解したときにはもう遅い。

「やっぱりやめます!」と言っても、面接のときに利用したホテルラウンジの飲食代やら、歓迎会の開催費やら、たった1週間入居しただけの寮費やら、新人教育にかかった人件費やら(という名目の謎の大金)を請求される。

「契約のときに説明されなかった!」などという主張も、この業界では通用しない。
(最近改善されたとは聞くが、どうせそんな劇的な変化でもないだろう。しんどいので、その手のニュースはあまり追わないことにしている)

彼らは、女衒になろうと一瞬でも思った時点でそのルートから逃れることはできなくなり、生き延びるために「飛ばない女」に目を付けることとなる。
そして冒頭で述べた「境遇面での弱者」「知的能力面での弱者」こそが、飛ばない女の筆頭である。

嬢も女衒も、自分のつらさと向き合えないくらい傷ついている

こうして女衒になった男性は、毎日のように街角で「搾取できそうな弱者女性」を探し回ることとなる。
しかも、単に店に紹介するだけでは駄目で、その子がすぐ飛んでしまわないようアフターフォローも必須だ。

このような事情もあって、たいてい、嬢と女衒はLINE等のメッセージサービスで繋がっている。
女の子が「私、やっぱりこんなの辛い」と一瞬でもこぼしたら黄色信号だ。
なにしろ「目覚め」られては困るからだ。

「そんなことない、立派な仕事だよ」「○○ちゃんが来てくれて、お店の人も助かったって言ってた」「自分で選択した道を突き進む○○ちゃんは格好いいじゃん」

こうして女の子は、自分のつらさに気付きかけるたびに、女衒によって「やりがい」という麻薬を打たれてしまう。

しかし、女衒とて生まれながらの鬼畜ではない。
自分が生きるためとはいえ、このような形で女性を搾取し続ければ、罪悪感から精神は磨耗していく。

だからある日、悟りをひらくのだ。
「女体は価値ある商品だ。女性自身にこれといった意思はない。その価値を少しでも換金するのが俺たちの仕事だ、それが社会貢献になるんだ」

\テレレレッテッテッテー♪╱

おめでとう!
人間だった新人女衒君はレベルアップし、次のステージに進んだ!

――ようこそ、修羅の道へ。

支え合えたかもしれない未来、すらも潰されて

このように嬢と女衒は、別の出会い方さえしていれば、互いに支え合えたかもしれない人々だ。
実際、LINEやカフェで「面談」を繰り返す中で、少しずつ互いの本音に気付き、親密な関係に至る人たちもわずかながら存在するらしい。

しかし、女衒が嬢に入れ込むのはご法度である。
「もうジュリエットにこんな仕事なんてさせられない!一緒に逃げよう」
「ロミオ…ありがとう、私のために…!」

目覚めたふたりにのしかかるのは、「通すべきスジ」という名の莫大な借金。
20歳そこそこで夜の世界に飛び込んでしまった彼らは、昼の世界で稼いでそれを返済する手段など持っていない。

職歴なしだってブランクがあったって、20代なら適当な飲食店スタッフやコンビニ店員にでも応募して、いつでもやり直せるはず――生きていくために稼げばいいだけなら、まさにその通りだ。
しかし、歌舞伎町レートの借金は、最低賃金のアルバイトで返済できるような金額ではない。

そもそも金融機関から借りているわけでもないし、一方的に「損害賠償だ」と難癖をつけてくるような奴らに、自己破産など通用しない。

なお、嬢と女衒の真剣交際は禁止だが、女衒が色恋をちらつかせて嬢を管理するのはなぜか問題ないとされている。
実際、夜の世界でしばしば見られる「君がいるから、夢に向かって頑張れるよ!」というテンプレなセリフは、そういったテクニックとして生まれたものだ。

このようにして、「搾取される側の二級市民」と、「搾取する側の二級市民」という、歪な共犯関係が結ばれる。

ちなみに、最近では特に、ホストがこの構造に荷担しているケースも多い。
ホストが女衒に客を紹介し、女衒がその客を風俗に紹介するという権力関係なのだが、じゃあホストが搾取の黒幕なのかというとそういうわけではないのが厄介だ。

彼らも女衒とだいたい同じ成り行きで、夜の世界に飛び込んだが最後「売り掛けしてでも売上を伸ばせ」とどやされて困り果てている。
しかも、実はホストは売り掛けの金額を自身で肩代わりしているので、回収できなかったらそれはそれで人生終わりなのだ。

ホストは勤務実態としては雇用されているも同然なのだが、なぜか法律上の扱いは個人事業主となっている。
にもかかわらず、労働基準監督署はあまり「偽装請負だ」と指摘したがらない。
これもまた、ネオンの光が作り出す、深い常世の闇の一端だといえよう。

じゃあ、誰が搾取しているのか?

あえて強い言葉を使わせていただきたい。

それは、おまえだ。おまえたちだ。
昼の世界でクリーンに生きることを許された、わたしたち以外の全員なのだ。

「妻が疲れているときくらい、自分の性欲は自分で処理する」という「誠実な夫であり頼れる父」。
「私がずっと相手できるわけではないし、夫の性行動を縛りはしない」という「寛大な妻であり優しい母」。

そして彼らに愛されて育ち、大学で学び、ニュースを見ながら「性犯罪なんて起こす奴の気が知れない、風俗に行ったらいいのに」と善人面する有象無象の「常識的な優しい若者」。

おまえたちこそが、この搾取構造の黒幕だ。

性産業は、きっとなくならない。
社会の歪みを静かに受け入れるためのスケープゴートとして、常に存在する必要悪だ。

それは私も分かっている、だから今さら「被害を受けた」などとはいわない。
しかし、わたしが、わたしたちが、自分を救うために「立派な仕事だ」とごまかすのはいいが、その恩恵だけを享受している社会の側がそれを言うとは何事だ。

本質的におまえたちは、店員に向かって「お客様は神様だぞ」と怒鳴り散らかす客と同じことをしているに過ぎない。
「どの口が言う」と、私は怒っているのだ。

しかも「立派な仕事だ、差別するな」と言うと人権派に聞こえるから、よけいにタチが悪い。
わたしたちは常に二級市民でなければならない存在なのに。

「二級市民だなんてとんでもない、立派な仕事じゃないか」と言うそこのお父さん、就職先に迷う娘に風俗での仕事を勧めたらいい。娘がニートになるよりはましだろう。
「二級市民だなんて言い方をして、差別するのはよくないよ」と言うそこのお母さん、今すぐ熟女ヘルスの面接に行ったらいい。得られる収入は、時短勤務のパートよりもよほど夢のあるものだろう。

そうしない時点で、わたしたちがやっているのが穢れ仕事だということを、おまえたちは直感的には分かっているはずだ。
なのに、それを黙って享受するだけにとどまらず、「立派な仕事だ!差別はいけない!」と言って、自分の「いい人」ポジションのために利用すらしている。

さて――総括すると、夜の世界を取り巻く構造は以下のようなものである。

「買われる」嬢。
「売らされる」女衒。

社会は、そのはびこる欲をすべて「嬢」にぶつけて消費し、そこから生まれる罪悪感はすべて「女衒」という分かりやすい悪役に背負わせている。

そういうことだ。
全部、そういうことでしかないのだ。

つまり、セックスワーカーは二級市民の弱者であるべきだし、立派な仕事なはずもない

「性産業なんて存在してはならない」などと私は言わない。
さきほど「黒幕はおまえたちだ」と主張したが、それが本質的に悪いこととも思わない。
肉食動物が草食動物を食べるのと同じだ。
残酷であると同時に、自然の摂理として成り立っている。

しかし、肉食動物の側が「草食動物も同じ生き物なんだ。彼らの『食べられる』という、自己実現のための選択を尊重しなければいけない」などと言っていたら、それは途端に趣味の悪いギャグに成り果てる。

性産業そのものは単に必要悪としての搾取だから、私は仕方ないと思っている。それは受け入れよう。
しかし、汚い現実に目を瞑ってポルノ的な美談に書き換える行為は、個人が抱える深刻な事情、ひいては夜の世界という舞台装置そのものに対する搾取である
こればかりは許せない。

性産業の恩恵を享受する側、つまり社会全体がこの認識を持ってくれるようになったとき、私はようやく、過去のわたしを「あれでよかったのだ」と認められる気がする。

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