データワールド(DataWorld)1話
あらすじ
現代日本、高校生の神夜蒼麻は、親友の玄芳暁斗と共に日常を送っていた。しかし、ある日、不可解な現象に遭遇し、二人は突如として仮想世界(データワールド)に転送されてしまう。
その仮想世界は、かつて禁止された「人体粒子化」実験の結果として生まれた場所だった。そこでは、現実世界から転送された人々がNPC化し、記憶を失った状態で存在していた。
一方、霧咲祇那という少女は、長らくNPCとして機能していたが、謎の白髪の男によって記憶を取り戻す。彼女は自分が仮想世界にいることを再認識し、過去の出来事を思い出す。白髪の男は彼女に協力を求めるが、その真意は不明瞭なままだ。
物語は、現実世界での「人体粒子化」実験の真相、仮想世界の本質、そして登場人物たちの過去と未来が絡み合う。神夜と暁斗は新たな環境に適応しながら、この世界の謎を解き明かそうとする。一方、霧咲祇那は復讐の念に駆られながらも、白髪の男の提案に悩む。
仮想世界では200年もの時が流れ、独特の文化や秩序が形成されていた。発光する星空や、現実とは異なる物理法則など、幻想的な要素が日常に溶け込んでいる。
登場人物たちは、自分たちの存在意義や、現実世界との関係性を模索しながら、仮想世界を揺るがす大きな陰謀に巻き込まれていく。果たして彼らは真実にたどり着き、自由を手に入れることができるのか。そして、現実世界と仮想世界の境界線は、どのように変化していくのか。
この物語は、SFとファンタジーの要素を融合させながら、人間の記憶、感情、そしてアイデンティティの本質に迫る壮大な冒険譚である。
□ 仮想世界の開幕
死を考えたことがあるだろうか。
人生の中で、人は誰しも生きていく。
そんな時、前触れもなく突然……。《死》の危機感が訪れる。
ある人は、突然病気や交通事故で、生命維持が困難になり、死を意識する。
運が悪い場合には、生命の灯火が消えてしまうだろう。
運がいい場合には、奇跡的に助かり、再度人生を大切にしようと思い立つ人も多くいる。
心から思い自分のためではなく、人のために自分の時間を費やすことも厭わなくなるなんて事もある。
そう、今まさにそういった状況に出くわしているのだ……。
その死に繋がる原因の根源は鉄の塊。
聞き慣れた音が……「ガタンッゴトンッ」と、迫り来る。
この音は電車。
電車が線路にそって走ってきている音だ。
そう、今まさに少年は電車に引かれそうな状態。
命の灯火が消滅する危機寸前だったのだ。
そんな時、一人の少女が彼の目の前に立ちふさがる。
少年よりももっと小柄な体でお世辞にも筋肉質とは言えない体。
だが、少年には見慣れない風貌の人影だった事はすぐにでも分かった。
なぜなら、少年の救世主になるかもしれないその小さな体には、ヨーロッパ中世をイメージするようなデザイン。
クールで最先端の現代アート的なプラチナ装備を身にまとう少女。
仮装のようにも見えたが、どことなく只者ではない雰囲気を感じた。
その装備を格段と成立させた要因は他にもあった。
それは、彼女の腰にすえられた長い鞘だ。
その鞘からもなにかのエネルギーを感じ取れた。
その少女の体格からは、想定できないほどの何か強いオーラを感じる。
その自分よりも背が低く、か弱い少女の背中が少年には頼もしく見えた。
少年は鬼気迫る状況下で正しい判断ができなかったのであろう。
今になってそんな馬鹿な話はないと……少女が電車を止めてくれるなどと……おかしいことに気づく。
いや、最初から可能性は《0%》のはずだった。
だが、死に近づいていく恐怖心。
押しつぶされそうな状態の中、一筋の光に希望を抱かずにはいられなかったのだ。
その、違和感をトリガーに、恐怖心よりも一瞬理性が勝つ。
その瞬間に正しい判断ができるようになった少年。
―――……少しでも……期待してしまった自分が恥ずかしい―――。
神夜は先程までの期待感が一瞬で消えていき、冷静に自分の思考がまともではないことに気づいた。
―――……こんな小さな体の少女にかてるはずがない……―――。
冷静な思考を取り戻す神夜。
実は、今この場は夜の踏切。
神夜は線路で動けない状態で倒れていたのだ。
神夜が倒れた顔の方向には暗闇。
その闇の中から2つの光が浮かんでいた。
「⁉」
そう、夜に走っている電車のヘッドライトの光だ。
この電車に引かれてしまうのは、時間の問題といった状況。
そんな状態の中、一人の少女が電車と神夜の間に割って入る状況。
やがて巨大な鉄の塊が迫りくる。
少女が頼もしいオーラを放っているからと言って電車を止められるはずがないのだ。
瞬間的に鎧を見て何処かの強い騎士が助けに来てくれたのかと思った。
だがここは日本だ。
侍が居るような世界観の世界ではないし、海外のような騎士など居るはずがないのだ。
居るとすれば、戦いや戦闘など好まない類であるだろう。
そう、現代社会におけるアートや仮装といったカルチャー的イベントの参加者といった所か。
スマホなどが普及普及仕出してから、30年……。
日本経済はIT産業を軸に今もなお経済をリードし続けている現代社会の時間軸にただならない。
一瞬で現実の思考に立ち戻る彼には、もはや仮装を楽しむガチ勢のコスプレイヤーにしか見えなくなっていた。
―――涙が溢れる……。
―――そんな事はお構いなく、電車は迫りくる……。
―――やがて光が目に入り視界は白と黒の2色に統一される……。
―――電車に引かれて死んでしまうなんて……。
―――親友の肩に触れただけだぞ……それだけなのに……どうして……。
◆◆◆
□ 青白い粒子
神夜蒼麻の目の前には踏切がある。
周囲は人気がなくなり夕暮れから、日が落ちる直前で、オレンジ色の太陽の光が沈み、踏切信号や踏切棒などが、ありとあらゆる物体に当たり光を反射させるそんな時間帯。
神夜が立ち止まっている場所は、踏切戦の前で、踏切棒の前。
目の前の踏切棒を俯瞰し、前の男性の肩に触れる神夜。
「⁉??」
神夜は手に違和感を覚える。
―――……手の感覚が……鈍い……―――。
地面と電車の間に位置する鉄製の線路。
正方形の木目が印象的な土台の木盤に支えられている。
この電車が走る振動により、手の感覚が鈍くなっているといったところか?……。
いや、理由はまた別にある……。
これを鈍いと言っていいものか疑問に思うほど、感覚が無くなっている事に気づく神夜。
それとも、踏切付近の注意喚起を示す機械の音。これが……手の鈍さの原因だろうか……。
いや……、室外の低気温の肌寒い季節の影響で、手が悴み……感覚がないのだろうか……。
それも違うように感じる。
神夜は、原因を考えているように一見見えたが、現実逃避をしているかのように、答えを出さないようにしているかのようだった。
再び思考する神夜。
季節は冬から春に移り変わった事で、少し温かい風が空を自由に行き交う事を知っていた神夜はその可能性も低いと判断する……。
そう、手が悴んでいるということでもないのだ。
いくら考えても原因は思いつかない、ただ1つを覗いては……。
そう……、実は……神夜は知っていた……。
だが、信じたくないが先行する思考。
その信じたくない現状の状況を受け入れるべく、自らの脳に司令を送る。
内容はこうだ。「考えろ」と、ただそれだけだ。なぜ、そんな簡単な事ができなかったのかと聞かれるとこう答えるだろう。
非日常だから、信じたくないと……。
だが、それを受け入れないと現状の説明ができない……。
なんせ、今、神夜の目の前にそそり立つ《信じたくない壁》の正体は、「非」が2つつくほどの非非日常だからである。
つまり、今まさに目の前で摩訶不思議な状態の真っ只中なのだ。
その事を自覚するのに数秒。
神夜の目の前にいるのは後ろ姿の玄芳暁斗という人物。
神夜の親友でもあり、同じ高校に通う同級生だ。
その、親友の肩から放たれているのは青白い蛍の光のような大きさの光。
その光は、綺麗でいながら無機質な冷たい光に感じられる。
自然と目線が青白い粒子のような光に導かれ、目線が吸い寄せられるのは暁斗の肩付近。
そう、神夜は目の焦点をその、謎めいた青白い粒子を確認すべく、暁斗の肩に目を向ける。
そして、触れている自分の左手をゆっくりと俯瞰した。
「⁉??」
神夜は驚きを隠せず、目を大きく広げながら自らの手と、暁斗の肩付近を凝視する。
そう、非非日常を目の辺りにしたのだ。
そこには、半透明になった左手の奥に暁斗の方がうっすら透けており、指先から肩にかけて、青い粒子になって居るではないか……。
その青白い粒子は徐々に指先から関節、関節から手の甲と、みるみるうちに消滅していき、消滅していく体の一部は青白い粒子に似変化し、蛍の光のようにゆらゆらと揺れ、ヘリウムガスが入った風船の様に「ふわりっ」と天高くに飛んでってしまう。
実は後々分かってきた事だが……、今まさに《現実世界》から《仮想世界》に飛ばされようとしている瞬間だったのだ。
その事を神夜が自覚するには仮想世界に飛ばされてからなのだが、現在の神夜には理解すらできずに、ありえない原因を受け入れられないまま思考し続けていた。
―――俺は……一体……どうなってしまっているんだ……―――。
―――自らの状態を鏡で見て確認したいが、こんな所に鏡なんてあるはずがない……―――。
だが、それに似て、代わりになりそうな反射する「もの」が2つあった。
1つ目の「物」は、注意喚起を鳴らす赤く点し終えた状態の黒いレンズに映る姿。
この踏切信号では、全体的に二人の人物の影から、青白い粒子が放たれていることが神夜の場所から確認できる。
ここで全体図のシルエットと今自分の置かれている状況が見て取れた。
そして、2つ目の「者」は、神夜と同じ制服を着た暁斗の瞳だ。
肩に触れたことで前にいる暁斗が振り向いたのだ。
瞳には神夜の姿が映る。
この時シルエットだけではなく、瞳に映る自分の顔がアップに見え、体が小さく写っていた。
どちらも、魚眼レンズの様な特殊な写り方をしている。
だが、みるみるうちに自分の体から、青白い粒子が放たれていること事を理解した神夜は頭が真っ白になる。
神夜は数秒の間、暁斗が青白い粒子を放ちこの場から消滅していく姿を眺めている……。
―――これは夢なのか……。
―――それとも、現実なのか?……。
そして、暁斗の消滅率が50%を下回る頃に、自分の番が回ってきた。
玄芳暁斗の肩に触れた事が原因だろう。
夢なのかと思うくらいに非非日常であり、青白い粒子が夕日をバックに上昇していくさまは幻想的で神秘的な光景として神夜の脳裏に焼き付く。
これは、紛れもなく現実であり、これから見る世界は紛れもなく現実に近い仮想世界に飛ばされることになる。
◇◇◇
□ 現実世界
桜の花びらが風に流され散っていく季節。
あの不可解な出来事が始まる日。
神夜はいつも通り学校に行き、授業を受け、解るはずもないプリントの問題式を解いていた。
それもそのはず、神夜は小中ともに学校にろくに行かずいつも、奇妙な絵ばかり描いていたからである。そんな神夜でももう高校2年生だ。
高校2年生にもなって学校をボイコットするほど世間知らずな人間ではないし、神夜は馬鹿じゃない。
《馬鹿じゃない》の定義は、神夜自身にあったのだが、大人になると勉強ができる頭の良さと、世の中をうまく渡り歩く頭の良さは違う。
神夜の頭の良さは、「世の中を上手く渡り歩く」頭の良さである。
だが、その賢さは学校において、発揮できるような万能な思考能力ではないし、人に話しても、「そんなの理想論でしかないよね」と言われてしまう。
先を予想して行動よりも言葉や思考が先行するのが、神夜なのだ。
大衆から見れば、口ばっかりの意見が先行する「やってもいないのに」「結果が出てないのに」の一点張りで「信用できない」と同じ。
つまり、口ばっかりの人間と同等に見られがちなのが神夜だが、本当は思考した上で総発言しているのをほとんどのクラスメイトは知らなかった。
つまり、世の中を上手く渡り歩く視点から見た時、賢い分類に該当する。
だが、勉強での頭の良さとは別の話になる。
そして、神夜は、勉強をろくにしてこなかった。
神夜の成績は良いと言えるレベルではない。
成績は下の中。
そんな神夜の日常はというと、学校の窓から、外を眺める日々。
授業を終え、下校時刻になると神夜は学校指定のカバンに教科書や筆箱を詰め込むと、教室を後にした。
学校も後にする神夜の背後からツンツン頭の毛先が鋭い金髪男子高校生が神夜の背後から飛びかかってきた。
「一緒に帰ろうぜ!」
「ああ、帰るか!」
いつも通り幼馴染であり、親友の玄芳暁斗(くろば あきと)と帰ることにした。
学校から、神夜の家までの帰り道に、パン屋があり、そこのパン屋に度々寄っては、パンをごちそうになるのがいつもの下校後の定番ルートであった。
なぜ、そんなに神夜に対して、度々パンをごちそうしてくれるかと言うと、何を隠そう幼馴染の親友でもある玄芳暁斗の、ご両親はパン屋さんなのだ。
「おっ! そうだ。今日も俺っちよらないか。奢るぜ!」
下校途中に前方を歩いていた暁斗が、急に思い出したような口調で言った。
神夜はそのことを言われるだろうと薄々言ってくるのではないかという予感していた。
「あ……あぁ、別に断る理由はないけど、昨日も、その前も、クロワッサンだったじゃん……もしかして今日もか?(まじで、ありがたいんだけど……飽きてきた)」
暁斗は、嬉しそうに飛び跳ね答えた。
「あたり前のこと言うなよ~! 俺がクロワッサン大好きなのを知っているだろ~。うまいからだろ! あとな、その独特のサクサクした食感は、生地を伸ばして、バターを均一にはさんで折りたたみ、それを、また、伸ばしては折りたたむことで、生地とバターが、それぞれ多重に薄い層をなし、それを焼き上げることで生み出される…………」
暁斗は得意げに話す。
暁斗は、パンの話になるといつもこうだ。
大好物のクロワッサンを汚そうもんなら、どんな相手であろうと、文句を訂正する。
性格は、かなりの頑固者だ。
パンの悪口を発言してしまった人は、2時間も放課後に説教をされたことがある。
変な所で人の上に立てる変わった才を持つ存在だ。
神夜は、そんなことを思い出して、ここは大人しくしていようと思い、クロワッサンの自慢話を黙って聞いていた。その間にパン屋玄芳工房に着いた。
暁斗はすぐさまパン屋に入り、華麗なステップを神夜に見せつけながら、カウンターまで行き父親に了承を得る。
「クロワッサン2つもらうよ~‼」
と言い出てきた。
神夜はあまり、お金を使わないため、タダでほぼ毎日パンを貰えるのは、嬉しかったが、ほぼ毎日パンの種類は変わらず。
―――クロワッサン……―――。
クロワッサンを見つめたあと、ふと玄芳工房の入り口付近を見ると、同学年で、同じクラスメイトの光野 愛果(こうの まなか)がスマホ片手にパンを品定めしていた。
光野とは、同じクラスと言うだけの関係だったが、玄芳工房のパンが気に入ったらしくよく見かけることがあった。
今日もそんな一日常の風景として神夜には映る。とても平和な学生生活だ。
神夜達はクロワッサンを袋から出し、豪快に齧りながら、電車が通る踏み切りの線の、前まで来た。
「やっぱクロワッサン……うめ~なぁ~……」
暁斗がいつも通り、クロワッサンを味わっている時だった。
踏切の信号が、ピカピカ光り、「カーン! カーン! カーン! カーン!」と、鳴り始まったのと同時に神夜と暁斗は足を止めた。
なぜ、神夜はともかくとして、暁斗がこの踏切まで来るのか疑問を抱く。
だが暁斗は、この踏切を通る必要はないのだ。
とっくに、暁斗の家は通り過ぎたはずなのに、なぜ、俺と同じ踏切を通過しようとしているのか……。
一瞬、神夜は疑問に思ったが、最近暁斗といて暁斗が新しくクロワッサン以外の事に熱中している事を思い出した神夜はすぐに理解した。
パンの雑誌だ。
その理由は、とても単純だが神夜には、理解しがたいことだった。
そう、神夜達は書店に行こうとしていたのだ。
神夜達は、電車が通り過ぎ、この道が通れるようになるのを待った。
暁斗はなぜ、自分の家でもある玄芳工房を通り過ぎ、神夜とはるばる近くの書店へ行くのかというと、同じことをゆうようだが神夜には理解しがたい。
毎週発売されるパンの事がいろいろ詳しく書いてある雑誌を、暁斗は十二月頃、書店で発見し、その時から、その雑誌がやたら気に入ったらしい。
その雑誌をその日から、毎週かかさず、発売日当日に買っていたのだ。
そして何を隠そうその発売日が今日である。
電車が神夜達の前を通過する。
神夜は、電車が通り過ぎるのを待たずに大声で暁斗に言った。
「なぁ~! 暁斗~そのパン俺の分だよな~!」
と、言ってみたが、……暁斗に届いたか分らない。
そんな時だ。
だが、暁斗の頭上から、一筋の雷のような半透明だが、かすかに青白い光が、ほんの一瞬だけ確認できた。
「⁉」
だが、電車が通る線路や光の反射など、電気が一瞬見えたのかどうかはわからないし、そんな場面に出くわしたこともないし、聞いたこともない神夜は、自分の体調が優れないのではと考え、あまり気にもとめなかった。
不思議に思ったが、何気ない日常がいつもどおり流れていく。
神夜の思考とは裏腹に、先程の一瞬で、どことなく周囲の雰囲気が変わる。
本当に少しの違和感から、徐々に変化していく。
電車が過ぎる前に、暁斗も気づいたのか「二コリッ」として話しかけてきた。
「……は、お前と会へ……本当に……よ……た、ありがとう……」
暁斗の声は、電車の車輪と、線路のかみ合い走る音にあっけなく掻き消された。
そのあと悲しげな顔をしてクロワッサンの袋の中をモゾモゾあさり初めた。
少しすると、クロワッサンを一つ手に取り、自分の口へと運び一口噛み切る。
「やっぱうまいなぁ~クロワッサン……この生地の層がたまんね―んだよなぁ~」
そう言いながら、暁斗は神夜に紙でできたパンの袋を差し出してきた。
その奇妙な暁斗の行動に、少しの間、神夜は黙り込み固まってしまった。
「……急に、どうしたんだよ……お前……なんか今日のお前変だぞ」
「!」
神夜は暁斗の表情を見て再び驚く。
その表情は、今まで暁斗が神夜に見せてきた表情の中でもダントツで奇妙な表情を浮かべていた。
なぜか悲しげでいながらも、寂しげでいて、その眼の奥の瞳は正反対な、楽しそうな、嬉しそうな、眼にもなぜか見えた。
―――不気味だ……―――。
人間の感情表現の仕方から、かけ離れたとても奇妙な感じの雰囲気にその場は包まれる。
いつもの暁斗からは、感じられなかった異様な雰囲気をその時の暁斗からは感じられた。
電車の最後尾が見えてきた。
最後尾の車両が、奇妙な暁斗の横を通り過ぎる。
それと同時にいつもの暁斗が見せる笑顔で……。
「またな……」
と、神夜を見て小さく……。……神夜の所には聞こえる音量で一言呟く。
その一言の言葉と同時に小さなノイズがかかる。
「‼」
神夜は自分の目を疑った。
音のノイズではなく、目に見える目の前で起きたありえないノイズだ。
これは確実におかしいと感じる神夜。
その雰囲気に自然と合わせるかのように、風が吹き、木の葉っぱがザワザワと音を立てて揺れ動く。
そのノイズは足元から頭の先まで、暁斗を歪ませていた。
暁斗は、有り得ないような目で見ている神夜を見て、悲しそうに横を向き、踏切の棒を擦り抜けて線路の上に立った。
その時の一瞬の中にあまりにも信じられない出来事が起きた。
見ての通り、暁斗が踏切の棒を擦り抜けたことだった。
完全に人間技ではない……。
途端に暁斗の足元から細かい青白い光の粒子が見えた。
その光が、頭まで到達するのには、さほど時間はかからなかった。
その青白い不信な光の粒子は、小さな粒のようにも見えたが、よく見ると、確かな正方形型の小さな青白い光の粒子として認識できた。
その正方形型の青白い光の粒子は、暁斗を包み込んだ。
それと同時に、暁斗を包み込んだ青白い光の正方形型の粒子から、
《転送中です》
と、どこからともなく、PCの表示で見る転送画面が、暁斗の前に現れた。
神夜は、絶句してしまった。
そしてすぐさまこうも思った。
有り得ないことが起きても神夜の親友であることには変わりない。
―――なのに、俺が暁斗に対しての、向ける目は人を見る《眼》ではなかった―――。
自分が情けないことに気づく。
―――何してんだ……俺……―――。
―――怖くったって、有り得なくたって、こいつは俺の親友……親友なんだぞ‼―――。
神夜は、この数秒で、暁斗が親友で、大切な存在だということに気づいた。
そう思えるようになった神夜は、急いで暁斗に駆け寄り、恐る恐る肩に手を伸ばした。
その途端に暁斗と神夜は、眩い光を放ってこの世から消滅した。
「‼」
◇◇◇
□ 現実世界の《DW研究所(株)》
《仮想世界》
現実世界では電脳技術で《精神転送技術》が発展した。
精神転送技術の特徴は、人の精神を一時的に仮想空間に留めるという革命的な技術であった。
だが、一時的な精神転送ができただけで、一定時間が立つとその世界から強制的に退場させられる。
その欠点を補うために、生まれたのが《人体粒子化実験》だ。
人体粒子化技術は、精神転送の欠点である長期滞在できない部分を克服するため、考えられた技術で、人体をデータに送ることで本体が、仮想空間に存在させるといった高度な実験を担っている。
この実験はあと一歩まで研究が進んでいたが、政府に危険すぎるという理由で予算が減らされ研究が行き詰まっていた。
それに加え、研究自体が、良くないと言われ始め、研究者達は責任を負いたくない人々を筆頭に研究所を後にし、家族や自分の将来のために研究の真っ只中で、去っていった。
だが、その中でも、一際才能がある男により、極秘で再稼働を始め、世間の目を盗み《人体粒子化》計画が実行され、成功した。
その被検体として初めての成功者は研究者の男本人だ。
自ら、実験体となり、見事人体を粒子分解して、仮想世界のデータと結ぶ事で、肉体ごと精神とともに転送できるようになった。
だが、その成功の裏には、失敗した大切な命も複数……。
更に、その男は、自分自身が精神的におかしくなった時の制御装置として、仮想世界(データワールド)にある人物を転送させた。
その一人の人間に仮想人格(制御システム)を植え付けて、2番目の人体粒子を実行し、成功させた。
―――それから、数日後……。
◇◇◇
□ NPC化の開放:記憶の復活
一人の少女は一人暮らし。
見た目からすると中学生くらいの身長とで、一人暮らしには少し早いような幼い体型と表情。
少女の髪の毛は、黒髪ロングで、目は少しキリッとしており、瞳は大きく童顔だ。
容姿から予想できるのは無邪気な姿が自然だが、この少女には笑顔という概念がない。
笑みを浮かべるどころか、悲しげな表情すら自発的に表情筋を動かすことができない。
そんな世界の……そんな住民の一人……。
だが、生活はまともで、むしろやり過ぎるくらいのルーティーンを送っていた。
感情のゆらぎなど微塵も感じず、表情も変えないまま、日々の日常を規則正しく繰り返していた。
少女は朝早くから、一人散歩するのが日課だった。
少女の朝は早い。
起きて直ぐに顔を洗い、歯磨きや着替えなどの身支度を整える。
冷蔵庫から、キンキンに冷えたコーヒーを取り出し、透明のティーカップに黒い液体を流し込む。アイスコーヒーを一気飲みすると外出の支度をして外に出かける。
決まった時間に決まった動きを取り、決まった物を食し、決まった時間に消灯。
これが、少女の決まった日常であり、繰り返す日常だ。
眠ったあとも、お決まりの夢を見て朝を迎える。
少女はこの世界の住民。
そう、ここは現実に存在しない仮想空間の中。
―――少女が暮らしているこの世界は紛れもなく《「偽物」の「世界」》―――。
―――そう、言い方を変えると《仮想世界(データワールド)》―――。
そして、少女は感情のない人形のようにただそこに存在し、何をするでもなく淡々と一人で行動し、一人で眠りにつく。
少女の今の状態は、ゲームで言うNPCという立ち位置になる。
今日も朝のコーヒーを飲んでから、出かける少女。
いつも通りの周回ルートを歩きながら、自宅に帰宅しょうと折り返す。
いつもの通りのいつもの道の折返しだった。
景色は桜が咲いている公園の前を通り過ぎる。
この公園はリアル世界とは違い、仮想世界の仕組み上ランダムに、水晶のような物が地面から生えている。
現実世界で言う《電柱》のような役割を果たしているのだ。つまり、この世界全体にデータワールドのビジョン構成に必要だったり、稼働するエネルギーに活用したり、この世界でなくてはならない構成オブジェクトの一つだ。
ただ、この世界はすべてがデータで構成されているため、その数は膨大にあり、至る所に張り巡らされている。
多くは透明の水晶のような見た目をしているが、そのすべてのデータを受信する中継地点のようなものもある。
そういった複数のデータが集められるポイントの中継地点にはエメラルドやルビー、サファイヤなど、鮮やかな色とりどりの宝石のような見た目を採用しているようだ。
そして、この公園には、サファイヤのような宝石が地面から突き出しており、公園の真ん中に生えている。
こういった宝石の見た目をしたデータの通り道が複数存在している不思議な世界。
―――見慣れない人影―――。
いつもどおりの公園付近でいつもとは違うNPCが少女の前に立ちふさがる。
雰囲気はNPCとは見た目は変わらないようだ。だが、何かが違う。
いつも通りの周回ルートで出くわしたいつもとは違うイレギュラーだった。
少女はもとのルートに戻るため、正面に立つ男のNPCを避けて、元の周回ルートに戻り、再び歩きだした。
動きはまさに、ゲームのNPCの動きだった。
その動作の少女を目にしたNPCが口を開く。
「やっぱり、記憶をなくしているようだね……」
普通のNPCであれば、決められた声を発して決められたNPCとしか会話わしない。
つまり、イレギュラー中のイレギュラーということになる。
NPCにできる範囲を超えている。つまり、このNPCはNPCでありながら、NPCではない。
だが、感情を持つNPCはいない。
少女の心臓には、赤い粒子の心臓が灯っている。
少女は元現実世界の住民だ。
そのNPCにはその光がない。
どうやら普通のNPCではないらしいようだ。
何者かわからないが、人間のような感情がその男に宿っているらしい。
そんな不思議な男には反応を見せず、少女は歩みを止めることはなかった。
自宅に戻るルートを歩んで行く、やがて、少女がいつも通っているルートの中でも一番綺麗な桜が咲き誇る坂道にたどりついた少女。
その坂道を下って行き、丁度半分下りきった時だった。
「ひどいな、僕を無視して行くなんて……まるで、NPCじゃないか……いや、でもこれはこれで自然な流れか……」
初めて合う人物が少女に話しかけて来ているようだった。
だが、この世界で少女は一度も他の人と話したことがない。
そんな世界で淡々と同じ行動を取るのが彼女の日常。
何ヶ月もNPC化してしまっている少女には言葉が届くことはない。
「薬学の知り合いだと言ったら話を聞いてもらえるのかなぁ?」
少女の表情が変わることはなかったが、何かを感じているのか、ゆっくり振り返り、その場から動かず、反応するように男を見る。
その下り坂の男が立っている坂道付近に視線を向けた。
「ほぉ~完全に取り込まれたというわけではないようだね。君をそこまでの気持ちにしたのはやはり、未練があるからかな?」
「ミ……レ……ン」
この世界に来て、何ヶ月も言葉を発していなかった少女がか細く小さな声を出した。
魂が抜けたような瞳からは何も見えなかったが、瞳の奥にはなにか禍々しい何かが灯っているように見えた。
「うん、未練だよ……いや、別の言い方をすると……復讐かなぁ?」
風が途端に強く吹いた。
近くにある桜の花びらが、微風で木から離れ天高く舞い上がる。
「いいね! 気に入ったよ! 無意識なのに、気迫だけで風を吹かせるなんて、思いは強いようだね」
そう言うと、男は一瞬にして、姿を消し、少女の目の前に突然現れ、一言つぶやきながら少女の頭の上から、試験管に入った真っ白い粒子をふりかけた。
「記憶を戻してあげるよ」
これまでの瞳にはなかった生命の光が少女の瞳に宿る。
その間、白い粒子と舞い落ちる桜の花びらが相まって綺麗な光景にも見えたが、その綺麗な光景は一瞬で切り替わる。
なぜなら、少女が坂道から、転げ落ちたからだ。
少女は、白い粒子を周囲に纏った途端に、体が固くなり、足に力が入らなくなり、体制を保てなくなってしまい、そのまま倒れ落ちたのである。
倒れた衝撃で、頭をうちその衝撃だからか、体が動くようになったが、そのままダンゴムシのように丸まり、後転して、坂道を転がり落ちた。
後転している途中にスピードが増し、段々頭が丸まらなくなり、空中に浮くようになった。
その反動で、今度は体が横たわるような体制になり、そのまま転がり落ち、最後には、桜の木の下に頭を強く打った少女。
「いたい……」
「痛覚が蘇ったか……成功だね」
そう言うと男は少し後ろに瞬間移動をして、少女の様子を伺う。
「痛い……」
少女は坂の真中付近から、転がり落ちたのだ。無理もないが、相当痛いはずだ。
服はボロボロになっている。
その様子を伺う男。
「暗い……」
初めて発した言葉は「痛い」だったが、目を開いた少女の言葉の第一声は「暗い」だった。
少女の視界から見えたのは、以前とは違う光景がそこには広がっていた。
実はNPC化していた少女には光が満ち溢れている世界だったが、一瞬にして、周辺の明るさが嘘だったように真っ暗に変化したのだ。
この世界でのNPCには朝のように見える明るさだが、実は、暗い夜の世界がそこには広がっていた。
そう、実はこの世界は、朝も昼も薄暗く、朝が来ても雲で遮られて、光はほとんど届かない。これが本来あるべき世界の姿だった。
その証拠として、ここがデータワールドだという事がわかるにはこういった雲から漏れた柱のような光や、空の暗さが証明してくれる。
―――そう、ここは現実世界ではない―――。
この時、少女の存在は《NPC(ノンプレイヤーキャラクター)》から《PC(プレイヤーキャラクター)》に変化していた。
その証拠として、少女の視界に変化が起きていた。
《PC(プレイヤーキャラクター)》に昇格した事をお知らせする表記が記載されていた。
その表記は一瞬で現れて一瞬で少女の視界から消えた。
普通のゲームであれば、ここで体力のパラメーターが出てもおかしくはないのだが、この仮想空間はゲージが見えない仕様で、ダメージを食らうと画面がだんだん赤くなっていき、真っ赤になると《GAME OVER》になる仕様として研修と開発を重ねた仮想世界。
そう、この世界こそが、研究を禁止されたあの計画の行く末だ。
仮想世界で構築されたデータの世界。
データのみで構築された世界(ワールド)なのだと再び少女は理解した。
そう、現実世界で実験が危険なために中止になったあの《人体粒子化》の同意なく、強制的に実行されたいわゆる《被害者》がこの少女であり、元は人間。
NPC化していた少女の見ている世界が男の不思議な白い粒子により、一瞬で景色が変わったのだ。
少女の瞳に光が満ちたのを確認すると、再び一言。
「お帰り、未来の現実(データ)世界にようこそ……」
その言葉を効いた少女の瞳からは、一筋の光が輝いた。
水滴が急に涙から溢れ出したのだ。
記憶が蘇ったことへの涙。
かつての過去に起きた自分への無能さに涙。
今頃記憶を取り戻した所で何をすればいいのかわからない虚無感からの涙。
少女の涙の意味は、外見からは判断がつかない。
だが、1つだけ、判断できることがある。
それは、彼女の涙は、記憶が蘇った事を意味している。
自分を自分だと思える自我の回復。
そして、自分が仮想世界にいることを再び自覚した瞬間でもあった。
明るかったNPC視点から、ガラリと代わり、プレイヤー視点の暗い世界に切り替わる。
この世界はゲームのように思えるが、人体を粒子化して構成されているので、痛みも感じる。
この世界は基本的に薄暗い世界。
だが暗闇だからといって視界が見えないわけでもなく、以外に良い所はある。
なぜなら実はこの世界は色んなものが発光している世界であり、星空もまた例外ではない。
つまり、見方を変えれば素晴らしいほどの夜景が日常的に楽しめるのだ。
夜空の星々が主張し合う。
暗いはずの夜空が、夜空なのに発光し、プラネタリュームのようなロマンチックな空を眺めることができる。
その景色を見る限り現実出来ではない事が見て取れる。
例えるのであれば、この空は、夜行性しか見えない目でしかその世界を見れない幻想的な空。
一人の少女は赤や青など様々な色の輝く星々を眺める。
いつも、こんな空を夜行性の動物たちは目にしているのだと思うと考え深い。
そんな事を考えているのだろうか、少女はその幻想的な夜景に数秒浸る。
―――これが、仮想世界。ここが、データワールド―――。
少女は、ひしひしと忘れていた現実を綺麗で幻想的な星々を目の当たりにして、この世界に来る前の尋常ではない想いに駆られる。
綺麗な夜景を目の前にした反動なのか一筋の涙とともに、あの悲惨な出来事を思い出してしまう。
―――心臓の鼓動が高まる―――。
涙が止まらない。復讐の思いか。自分自身を認識できるようになったからか。はたまた、復讐ができる喜びの涙かは、本人しかわからない。
少女は高ぶる感情を抑え込み袖で涙を拭うと、その潤んだ瞳で男の名を問いかけた。
「あなたは誰?」
白い髪の毛の男はびっくりした様子で考え始めた。
「今の僕は僕であって、僕ではないのかな? まあぁ、難しいことは分からないや。……時が経てば分かるよ……霧咲祇那さん」
「⁉」
「どうして、名前がわかるんだって表情をしているね」
男は、身を細めて怪しげな表情で言葉を続けた。
「細かいことは話したら長くなってしまうから、手も直に言うとね。薬学の知り合いだから、当然だよね」
「あなた……一体誰なの……」
「僕にもわからない。ただわかることが一つだけある。それは、薬学と敵対する未来が見えてるんだ。でも、そのためには君の力が必要なんだ。」
「あなたに協力すれば、あの男を倒せるのね」
「そうだよ。でも、僕たちの計画に賛同してくれるならって条件だけどね……」
「計画の賛同⁉」
「そうだよ……僕たちの計画はね……………何だよ」
その男が語った内容を聞き終わると頭で整理する少女。
少女は先程までに見せていた穏やかな表情から、一変して、男をにらみつける視線に変わる。
「あなた……その計画に賛同すれば手助けしてくれるって話なのよね……」
「そうだよ。賛同してくれるかな?」
少女はしたお向き、少しの間、沈黙の時間が流れる。
少女が口を開き返答をしようとした時だった。
「あっ、焦らなくていいよ、また会える時が来る。その時に答えを聞かせてくれ」
そういうと、男は転送中という画面とゲージが出現し、青白い粒子に変換され消えてった。
――――――それから……仮想世界(データワールド)で200年が経過した――――――。
◇◇◇
□ 記憶を取り戻した少女の日常
彼女の日課は、朝の鍛錬から始まり、昼の巡回や情報収集を間にはさみ、夜には、武器を開発し、実装試験を行う。
この生活を何百年と繰り返してきた。
繰り返すうちに、鍛錬で刀の使い方はみるみる上達し、この世界の情報も数多く集まった。その情報を元にして、PC(パーソナル・コンピューター)内の独自開発したツールで仮想世界地図を作成した。
この地図には、霧咲祇那が訪れた地名やデータ内の特殊な機能など、ありとあらゆる築きなども細かく霧咲視点で記載されていた。
なぜ、そんな高度な技術をマスターしたかというと、才能や飲み込みの速さなどが当然核としてあるのだが、一番大きな理由は「孤独」だったからである。
なにせ、200年間も年を取らず生活していたのだ。大抵の遊びや、暇つぶしを終えて、やることがなくなったのだろう。
そのため、最終的に行き着いたのが、この世界の一部を改変したり、自分の武器や装備を開発するという思考になったのだ。
この新たな時間つぶしを覚えた霧咲にはもう一つの悩みであった孤独感も解消されたのだ。
つまり《孤独という寂しさに気づかなくて住む遊び》を彼女は手に入れた。
彼女は《仮想世界(データ・ワールド)》で生活をしている。
生活していると不自由なことが数多く出てくる。
普通かもしれないが、その悩みを解決するアイテムや情報を欲する欲求が出てくるのが人間の自然な思考判断である。
つまり、基本的にこの世界の情報やアイテムは更新されないので、自分で生み出していくことが最も効率的な方法だったからだ。
そうして、優先順位が高い順番に取り組み、刀の技術などの項目を制覇した頃から、プログラムの情報を集め始めた。
これにより、仮想世界のありとあらゆるオブジェクトをいじったり、改変することがある程度できる用になるようだ。
少女には、プログラム開発の技術を習得する事はそこまで、レベルが高い内容には感じなかった。
なぜなら、何百年も長くこの世界に閉じ込められている状況だ。
そんな世界でやることといえば読書くらいだろう。
少女の読書のレベルは初め、絵本から始まり「雑誌」「漫画」「小説」と殆どの本をある程度読み終えた頃だった。
(私……この世界で何十年もいるのに、何十年前とやることがかまっていない……)
つまり、成長していなかったのだ。
この世界に順応していくに当たり、努力して「外に出てやる」や、その原因の根源の人物に「復讐してやる」という気持ちが薄れていき、精神までもが何十年立ったことにより、怠惰担っていたようだ。
その事に気づき始めた少女は、目覚めたように、読書する本のジャンルを、小説から思考本に変更し、思考を鍛えた。
少女はその頃から、自分に利益があるような本を読み漁るようになり、手始めに「心理学」を読みまくった。
心理学の本から得た思考を活用して、次に読むジャンルの本を選定したのだ。
その思考から、、最も利益がある読み物として選んだのが、「プログラミング」の知識だった。最終的にたどり着いたのが、この世界を構築している根源となる力「プログラミング言語」にたどり着いたのだ。
なぜなら、それ以外はNPCとの会話の選択やNPCとの戯れなど、NPCと何かをするという行為すら退屈で仕方がないなどと思うのは至って普通の思考であろう。
また、本だけにとどまらず、動画での学習も進んで習得していった。
何より、少女意外の人間という生き物は、この世界に存在せず、孤独を感じることもあったが、邪魔が入らないとてつもなく学習が進む最適な環境下だ。
この環境を有効活動しない手はないと思うのは、これもまた、ごく普通の思考だろう。
その影響もあってか、プログラムの基礎知識と開発技術を習得するのは、さほど難しくわなかった。
そんなこんなで、少女が作り出した仮想世界の地図はプログラム技術も加わり、高性能な3Dマップ機能を追加できるようになっていたのだった。
その作成された情報マップには、多くの情報が記載されており、この世界の大まかな全体図は完成していた。
そのマップには、多くの情報を日々書き加えて、情報が間違っている部分は、繰り返し追記したり、修正を加えて、情報をできるだけ正確なものに仕上げたりして、情報の密度や制度を高めていった。
だが、この世界に訪れた人間は、年を取らないとされ、さらに、生身の体が、現実世界には残らない特殊なテクノロジーで開発されている。
つまり、少女の様に現実世界から仮想世界に転送される仕込みは、データワールドに来る過程で、粒子要素に分解され、その状態でデータワールドに送られる。
時空を超えるとは違った最先端技術だが、《粒子分解転送技術》が成功した事により、生身の人間が、データ世界に変換し、実体をデータに送れる《人体粒子化》が可能になったのだ。
だが、この技術には重大な問題点が1つ。
それは、この計画はブラックな企業による極秘裏で進んでいた研究計画だった。
つまり、開発者のトップに問題があったということだ。
その開発者は、とても優秀な能力があったのだが、性格に難あり。
異常なまでに研究実験に特質しており、研究が自分の意以外だと追わんばかりで研究付の毎日。
まさに、《マッドサイエンティスト》系の頭脳の持ち主だった。
その性格が影響して、データワールドに送られた人間は、リアルワールド(現実世界)に変えるシステムを開発していない事……。
人体をデータに送る研究は進んでいるのだが、その帰還方法については研究しておらず、まさしく安全策は考慮していない。
あくまでも研究の成果を出したいがための成果。
つまり、元の世界に戻れる保証はないし、この世界で死んでしまうとどうなるかはわからない。なんせ、この世界に来れるだけでも最先端の技術なのだが、その後の帰還方法の開発なんてできるはずがないだろう。
もしできているのであれば、膨大な時間と労力が必要なはずだ。
そう、最大の欠点は、送られた人間は、一度データワールドに送られてしまえば、もとに戻ることができない状態ということが最大の問題だ。
これは、あまりにも、非合理で、危険性のあるシステムだった。
更に、家族である妻を人体実験の素材として、強制的に実験を実行。
マッドサイエンティスト系の頭脳の持ち主は、自らの最愛の家族すら実験の材料として起用したのだ。
案の定、実験は失敗し、男の妻は、腕が獣化して暴れだし、研究所を破壊し、その後、実験の副作用で、急に苦しみだし、命を落とした。
その光景は、あまりも残酷な光景で、気づくと多くの研究者の死体が、その場にロゴロゴと転がっていた。
研究所の崩れた瓦礫が山積みになる光景がその景色の大半を埋め尽くしている。
それ以外に目に移りだされるのは、研究員の死体の山。
その瓦礫の山と研究員の死体の山の中で、一人の男と幼い少女の二人だけが、その場に残されていた。
助けに来た人間ではない。
この中で生存できたのがこの二人のみなのだ。
この状況を見れば二人しかではなく、二人も生存していたことのほうが驚くほど、研究所の状況は悲惨なものであった。
この場で息をしている生き残りがその2人。生存者だ。
その男は、その少女にある特殊な注射を打った。
その男こそ、化け物化した妻の夫。
その少女に注射をした男と同一人物。
その事実は、その少女に注射をした男が、実の父親である。
そして、化け物化した女性が実の母親だったことである。
つまり、少女の父親が研究を実行して成功させたマッドサイエンティストの性格の持ち主であり、少女の遠くで横たわっている女が少女の最愛の母親ということだ。
更に、少女には、姉がいたのだが、その姉も母親同様実験体となり、母親の近くで息がなく、冷たく横たわっていたのだ。
これが人類最先端の研究の行き着く末路。
その時の残酷な出来事から、仮想世界(データワールド)では200年。
彼女の脳裏で再生されるのは、あの出来事……。
そんな感情が溢れるのを止めるように、自分の感情を無視するように少女は静かに眠った。
その眠りを妨げるかのように、少女が過去に起きた忘れたい出来事が、鮮明に脳裏に映る。映るという表現よりも、無意識に夢の中で悪夢を見る、と言ったほうが正しいだろう。
少女はその過去の出来事を、思い出しては、夜な夜な苦しみながら、朝を迎える事が日常化していた。
そして……数年もこの悪夢に苦しめられているのだ。
何年もの時間とともに、見続ける用になったその悪夢。
長い間見続けていることで、頭の中で情報が整理されていき、誰に聞かせるでもないが、ナレーションがつくようになっていた。
丁寧に悪夢の字幕まで付いている。
この現象は、恐らく小さい頃に少女が見た、SF映画の影響だろう。
その鬼気迫る緊迫感や、映像のバックで効果音が無意識のうちに、悪夢とSF映画が結合され、いつしか脳裏で再生されるようになった。
意識が薄れ、見たくもない悪夢が、また彼女の意識を支配する。
抵抗した時期もあったが、何十年何百年もの月日がすぎることで、少女の抵抗は無力だという事に気づく……。
◇
□ 少女の悪夢
その悪夢は……研究所の一室から始まる。
悪夢の冒頭は決まっていて……真っ白い光りに包まれてから……ぼんやりと、研究所の内装が見えてくる。
眩しい光の正体は、白い光を放つ蛍光灯の光だ。
―――その少女の力はある男のあやまちを後悔させること―――。
そこから生まれる感情は―――……「憎悪」……。
―――それは少女の《力の源》―――。
―――その少女の願いは、ある男に抱く、恐怖で縛られた重く、苦しい過去の鎖で固められた、現状から脱するために、心の開放を強く願う―――……「希望」……。
―――それは少女の《推進力》―――。
―――その少女の目的は、ある男の記憶の憎悪と心の鎖から開放させるため、その根源となる男を屍に変えることを強く望んだ―――……「復讐」……。
―――少女の果たす《目的》―――。
つまり、その少女が抱えている内の《闇》を解き放つために生きている。
そのためだけに力をつけ、その日のために眠りにつく。
そうして、長い時の時間を過去の出来事に縛られ引きずる―――一人の少女。
少女が見る夢は今夜も同じ夢だ。
赤い景色。
人の体温以上の熱が感じられるその場の背景は空が真っ黒く、地面が真っ赤担っている。
―――それは空の夕日でもなく……背景の色でもなく……自分の瞳から落ちる涙の色でもない―――。
―――少女が見る夢は《今夜も同じ夢》―――。
あの悲惨な出来事から、数日が立つ頃だろうか。
この仮想空間ではだいぶ長い期間滞在していることになる。
そのまま現実で数日経過している事と比例して、仮想世界のデータワールドでは約200年。
現実世界では短い日数が経過しているが、仮想世界では長期に渡って少女の頭についてまわるのはあの出来事……。
少女は、火の海とかした研究所の中で、目線を外さず凝視する。
火の海。
その光景は建物や周囲の木材が焼ける光景と山積みの瓦礫と人の死体。
なんとも言えない匂いと立ち込める黒い煙。
(どうなってるの……お父さんとお母さんはどこにいるの??)
「……ゴホッ……ゴホッ」
呼吸をするたびに、肺に暑い空気が入り込み、胃の中が焼きただれるような危険な空気とかしていた。
その場の匂いは建築物の焼け焦げる匂いや薬品と死体の匂いが混ざり合い凄まじい異臭を放っていた。
(なに……この匂い……)
この匂いは少気を失いそうなくらいの異常な異臭を放ち一人の少女に襲いかかる。
少女は異臭のせいで目眩や吐き気などをもようし、気分が悪くなる。
「ゴホッ……ゴホッゴホッ」
(苦しい……息が……しづらい…………視界が・・・・クラクラしてきた・・・)
そんな状態の少女の目に映るのは……《赤い空》と《赤い地面》。
《赤い空》は、火の壁だ。
とてつもなく膨大な火の壁が少女の体温を上昇させる。
そして《赤い地面》は、人体の体の中にある無数の血管を日々流れている赤い液体。
そう……人の血で出来上がった赤い地面。
その《血痕の海》が少女視界の半分以上を締めている。
血痕だらけの骸の中に、少女の見慣れた親しい顔が、屍の1つとして横たわっていた。
「⁉?⁉?」
少女は一瞬で気づく。
母親の骸だと……。
少女は、母と過ごした幸せな思い出を頭に浮かべながら……。
か細い足で大地を踏みしめながら……。
恐る恐る骸との距離を近づけるため……。
歩みだす……。
その少女が、凝視する母親らしき人物。
母親の面影を残したその骸の腕は、方から手の先までごっそり、引きちぎられており、服の袖が荒く無造作に破けていることから、普通ではない状況だったことが見てわかる。
事故とは言い難い。
何者かの仕業だろう。
人間の腕の代わりにそこには獣の腕が付いていた。
これが研究の集大成だ。
そう、これが成功の裏側にある残酷な現実……。
数分前までは歓声を浴びていた視線の先の正体がこの腕だ。
―――狂っている―――。
獣の腕がついた彼女の横には幼い少女が横たわっていた。
獣の腕ではない人間の優しい腕に抱かれている。
その状態で研究所の残害などの瓦礫に埋もれていた。
少女はこの時誓う。
復讐を糧にこれから生きていくと。
少女は誓う。
この気持ちの根源となる原因を打ち倒すと。
少女は誓う。
自ら手を下すため、力をその身に宿すと。
夢のなかで、過去に起きた悲惨な事件を胸にいだきながら、多くの誓いを心に宿した。
その誓いは毎晩のように夢の中で誓う。
……「憎悪」……。
―――それは少女の《力の源》―――。
……「希望」……。
―――それは少女の《推進力》―――。
……「復讐」……。
―――少女の果たす《目的》―――。
その状態の夢の中の少女は、現実世界の身長や容姿に時間軸が戻っていき、仮想世界(データワールド)内の200年後の少女の容姿戻される。
夢の中で急激に成長を遂げた少女は、今時分がいる世界が夢なのだと気づきはじめる。
少女の睡眠も浅くなり、現実の世界へ意識を切り替えた。
そして復讐と過去の出来事は、夢が冷めても脳裏に焼き付いている。
少女の心は晴れ晴れとしない。
そんな生活をこの世界では永遠のように続いた。
そんな朝が再び訪れた。
◇
□ プレイヤー
実は、朝という概念が、この世界には無い。
厳密には、あるのだが、その恩恵を受けられる者はこの世界の既存の住民に限定される。
つまり、ここの住民から見たこの世界は、明るく見えるが、少女には、一年中夜。
たまに、夕日が、差し込むが、データ世界では、それが、朝になる。
つまり、データ世界の季節に、分厚い雲のフィルターが、かかっているイメージだ。
そんな不思議な世界で、行きてきた少女は、洗面所に向かう。
浮かない顔で少女は洗面台に足を運び、眠気眼のまま顔を洗う。
冷たい水で顔を洗い、眠気を冷ます。
その後は外出する身支度を済ませ、朝(夕日)の日を浴びるために、カーテンを開いた。
光が差し込むような朝はないが、夕日の差し込みはある。
「眩しい…」
差し込む光は、部屋の中の微細なホコリを照らした。
浮遊しているホコリがキラキラ光る。
少女は、その光の反射を利用して、光を放つホコリを払いのける様に、黒衣をまとった。
更に、ホコリが舞あがり、キラキラと光を反射させていた。
その風圧は、とても大きく、女性用というより、男性用の服の大きさだった。
少女が着るはずもない、男性用のロングコートを身に纏うと、その足で冷蔵庫に向かった。
冷蔵庫からアイスコーヒーのパックを手に取り、開封した。
透明のティーカップを傾けながら、アイスコーヒーを豪快に注ぎ込む。
起きたばかりの体の体温を冷ますように一気に飲み干す少女。
少女がアイスコーヒーを飲み干した透明のティーカップには、先程飲み干したはずのアイスコーヒーが青白い光とともに復活していた。
「……はぁ」
少女は睨むように、アイスコーヒーに視線を送ると、一言つぶやく。
「Delete」
《Delete》という画面が、透明のティーカップの上部に表示された。
「アイスコーヒーが飲みたいのに……一口飲むと常温に戻っちゃうのよね……」
そう言葉を漏らした後少女の感情はイライラがつのり、高ぶっていき、怒りを抑えきれず、物に当たるように、コーヒーパックのそこを、テーブルに叩きつけた。
「これだからデータの世界はイラつくのよ!」
少女はそう言って《Delete》画面の下に《YES&NO》が表示されている画面のボタンを確認する。
ティーカップの上部には《アイスコーヒー【温度:2℃】冷えています》と表示されていたはずの画面だったが、今となっては、過去の温度である。
《コーヒー【温度:25℃】常温です》
少女の言葉通り、アイスコーヒーだったはずのコーヒーは常温に温度が変化しており、その証拠として、コーヒーの温度がティーカップの上部に表示されていた。
少女はふてくされたようにも見えたが、冷ややかな小さい声で、腕に装着された端末に言葉を発した。
ボタンを押すことなく音声認識でことを済ませるようだ。
「イエスよ……」
ロードゲージが表示され、《音声データを解析中》と表示された数秒後に、《音声データが認識できませんでした》と表示された。
《YES‼》
初めはクールな口調で端末に発していたが、目を大きく開きながら先程より、大きな声を張り上げた。
なおかつ、ネイティブ発音も加えて言葉を放つ。
《Deleteが完了しました》
少女はふてくされた声でまたつぶやく。
「コーヒー意外にも匂いはたまに感じるけど、味は感じないのよねぇ……」
再びクールな口調で静かに独り呟く。
「食事を楽しいと思ったのは、何年前だったかしら、でも、なぜか……コーヒーの味だけは、感じるのよね……この世界は……」
少女の気持ちは、ここでも晴れない曇り空のように感情もブルーであった。
◇◇◇
□ 仮想(データ)世界(ワールド)の《日常とイレギュラー》
少女は身支度を済ませると、玄関からではなく、ベランダから「こっそり」飛び出した。
ベランダの手すりに足をかけ少女。
朝というのに、空は曇り。
NPC化していた時には見られなかった安定の曇り空。
そう、この世界は常に暗く、曇り空が多い。
一部のくもがない空の隙間部分からは、本来あるべき光が、差し込むが、それも、夕日のような淡い光だ。
そんな空を直視しながら、一呼吸して、足に力を入れると、少女は驚くべき行動をとった。
ベランダから、飛び降りたのだ。
ベランダから飛び降りたというよりも、大きくジャンプするといったほうが、しっくり来る。
少女は、朝の光(夕日の光)に、手を触れて、一言。
《光段(こうだん)物理(ぶつり)システム実行》
すると、夕日の光そのものが、形を一瞬に変化させ、階段に変化した。
その生成した不思議な階段を、少女は駆け上がる。
ある程度の高さまで登ると、下を確認した。
「この民家も、もうだめね……あんなにデータ人間がいるとなると、明日にはドアが破壊されて、入ってくる頃ね……」
その言葉が意味している場所は、先程少女が飛び出した民家の玄関付近の様子だった。
その民家の玄関には、数十人のデータで構成された、魂を宿さない人形達が壁を壊そうと殴ったり蹴ったりを繰り返し続けていた。
つまり、データ人間とは《魂がない動く人形》と言い換えても、問題はないだろう。彼らはこの世界がゲームだとしたら、「NPC」という立ち位置になる。
NPCの立場のデータ人間達の役割は、この世界に入ってきた《プレイヤー(魂宿る人間)》の問に答えたり、場合によってはプレイヤーのサポートとして使役したりすることができる。
何もしなければ、データ人間たちは何もしてこないが、敵視するプレイヤーがいたものなら、「データ世界のウイルス」と判断され、データワールド内の住民は襲ってくる。
もはや、少女がこの世界の住民であるかいなかは、この光景を見れば明白だ。
「これで何回目かしら……この世界やっぱり……不便!」
少女は眉に縦シワを寄せ、ほっぺたを膨らませて一人呟く。
この世界の正式な住民であるデータ人間達の暮らす世界には、一定の法則がある。
仮想世界で暮らすための校則のようなルールだ。
この一定の動きや、動作をして、「暮らす」という表現には、違和感を覚えるが、ここは紛れもなく、データのためのデータの世界だ。
少女が先程いた民家、いや、豪邸といったほうが正しい。
なぜなら、民家と言っているこのあたりの民家は、いわゆる裕福なお金持ちが住んでいる民家レベルであり、もはや民家と言うよりも、豪邸にしか見えないレベルだ。
その豪邸には、元々データ人間の住民達が複数いるのだが、その一部が少女の寝床だ。
簡単に言えば使っていない部屋を貸してもらっているだけなのだが、現実世界でやってしまえば《不法侵入罪》で罪に問われることは間違いないだろう。
だが、ここは仮想世界だ。
そして、彼女の家は研究所内の一部屋に暮らしていた。
つまり、現実世界の研究所は血の海と死体の山だ。
現実世界でおき、仮想世界では反映されていないとはいえ、そんな事が起きた場所に足を運び自ら事が起きた悲惨な場所に寝泊まりするほど精神は強くない。
そんな悲惨な出来事が起きた場所で寝泊まりする精神状態にはなれなかったのだ。
また、それ以外にも理由は複数あり、一箇所にとどまるメリットがなかったという理由も大いにあった。
なぜ、そんな事をしているのかは、このデータワールドの仕組みにある。
少女は、点々と次から次へと調べる目的に合わせて、データ人間の家に忍び込み使っているのだ。理由は単純で、ウイルスとして少女が認識されているからだ。
その対策として、データ人間に見つからないように、データ人間の移動範囲外である、家の一部を寝床にしているのだ。
「ウイルス認定されると、ずっと襲ってくるなんて……本当……この世界ハードモードすぎるでしょう……」
「また、次の寝床探さなきゃ……次はもっと長く入れる場所にしたいなぁ……はぁ~……」
そう少女はつぶやくと、新たな寝床を確保するため、点々と空いている部屋や、データ人間が立ち寄らない区間に狙いを定めて、寝床になりそうな場所を捜索した。
こんなときに、自前の地図が役に立つ。
「あっ! ここ良さそうじゃない! この近くに確か夜景が綺麗な絶景スポットがあったのよね」
豪邸が密集している民家の屋根をつたって、さっそうと雲が厚く、光が届かない方角へ寝床を探しに少女は消えていった。
◇
この仮想世界にも治安が良い区間と悪い区間がある。
それは、県をまたいだり、地域ごとに異なるのだが、行ってみないことにはわからない。
だが、一つだけ言えることがあった。
それは、《治安が悪い》=《警察官》が増え、それと比例する様に警察署が多くなる。
これは至ってふつうのコトだが、この仮想世界では無限のように警察官が湧いて出てくるのだ。これぞ、データの世界ならではの現象だろう。
先程のように、ドアを叩いたりしている住民を見ればこのあたりの治安は悪いことがおわかりであろう。
だが、実はこのあたりはかつて治安が良かった地域だったのだ。
そのため、少女は引っ越してきたのだった。
だが、治安が悪化して、今では危険地域になってしまった。
実は、この地域の治安の悪さは、この少女が引っ越してから悪化した。
そして、その治安の良いとも言えるこの世界にも、現在のように治安悪化が急激に促進される時がある。それは異物が近くに存在する時だ。
つまり、部外者がこの世界に侵入した時に、決まって治安が悪くなる。
それは、ウイルスが仮想世界に入り込んだときに、そのウイルスを排除しようとして、その地域一帯の住民が戦闘モードに切り替わる仕組みなのである。
つまり、データ人間たちが、少女をウイルス認定したのと同様、一時的に、他の世界から、この世界に何かが送信された時に治安が悪くなる。
それと同時に、データ人間の警察官も巡回し始めるのだ。
つまり、この世界にとっての異物が入ってきた時に異物を排除しようとするのだ。
警察官やその地域の住民など、ありとあらゆるデータで構成された存在が異物を排除しょうとして考動し始める。
それが、治安の悪化に繋がるのだ。
その治安の悪さは3日間過ぎると、ある程度沈静化する。
そう、沈静化して、いつもどおりの動きを見せるのだが、収まりはせず、住民の戦闘モードは解除されず、継続していた。
「おかしいわね、そろそろ落ち着いてくる頃だと思ったんだけど……。ね? アク」
「・・・」
「聞いてるの? アク」
アクという《人物》はいないが、アクという《物》はいる。
正確には、アクと名前をつけたのは少女で現状では仮想世界を生き抜くためのパートナーといった所だ。
そう、アクとは、ものに宿る精神。
この仮想世界に来たときにかつて研究所に実験体。
物に精神を定着させる実験の成功例の武器の一つだ。
この精神体の元はわからなかったが、少女とまともに会話できる武器の実験体はこの鞘だった。
そのため、200年前に、少女が唯一の理解者として、武器として、愛用している。
今では、良きパートナーとなっているのだ。
「聞こえているよ……。私が思うに、君以外の部外者に当たる何者かが、こちらの世界に干渉してきた影響の可能性も否定できないなぁ……。なにせ、200年以上もこの世界で暮らしているのだからな……主よ」
少女の腰に据えた、ワインレッド色の鞘から、禍々しい男性の声が発せられた。
「もし、それが本当の事だったら一体誰が……」
「データワールドに来れるものは、データ化できる者しかいないはずだ」
「それもそうだけど……もう一つあるわね……」
「その選択肢を外すとデータ化できる何者かに接触することで、この世界に干渉できるようになり、こちらの世界に来れるのだからな、はて……?」
「そこが引っかかるわね」
「そのようなものならば、ウイルス認定されるのは、目に見えているのだから、気配を消す対策ぐらいしてると思うのだが……」
そう言うと二人は息ぴったりに思考した。
「ん~~~……」
「ん~~~……」
考えに、深ける二人の背後に、迫りくる黒い影。
アクと少女は、気づかず考え、思考し続ける。
「バサッ‼」
少女の首にかけられたプラチナペンダントが、何者かに奪われてしまった。
「わっ‼」
「何者だ!」
「バサッ!」
カラスにペンダントを盗まれたのだ。
夜に見える暗がりだが、この世界で言うと現在は朝の時刻になっている。
その証拠に、学校に通うデータ人間も確認できる。
夜中に、学生が歩くはずがないのだ。
だが、カラスを追う少女の瞳には、夜の道を歩く学生たちが視界に入る。
つまり、データ人間から見たこの世界の見た目は、眩い光が照らしているように見えるシステムとなっているのだ。
本来は、少女が見ているように、一年中、夜や夕方に近い状態なのだが、データの書き換えでどうとでもなるようだ。
つまり、カラスは夜行性ではなく昼行性だ。
カラスからしたら、今は朝か、昼の天気として、認識しているため、少女の動きがはっきり分かる。
そう、このカラスもNPCと同じように、データで作られており、その見る世界は現実世界と瓜二つ。
たいして、少女はプレイヤーのため、朝でも昼でも、暗い夜に見えている。つまり、カラスが、闇と同化して、よく見えないのだ。
「カー!」
「クソ! あのペンダントは、あいつを倒すために、必要なエネルギーの塊……逃さない!」
カラスは、プラチナの首飾り(ペンダント)を、少女から盗み、翼ばたきの回数を増やして、飛ぶスピードを加速させた。
「あのカラス! やるわよ! アク!」
「承知した……主よ」
少女はそう言うと、構えたポーズ姿勢をとり、目を閉じ、ゆっくりと呼吸する。すると、鞘から刀を素早く抜きそのまま鞘に戻した。
「瞬殺(しゅんさつ)抜刀(ばっとう)斬り(きり)……」
アクと呼んでいた鞘から刀を一瞬で抜き、そのまま戻しただけに見えたが、カラスに一太刀の刀傷が刻まれており、青白い粒子になって消滅していった。
だが、その青白い粒子は風に飛ばされ、周辺に散りばめられ、綺麗なイルミネーションのように見えたが、少女には不思議に感じられた。
なぜなら、青白い粒子は、数秒や一瞬で消えていくはずなのだが、この青白い粒子は消えずに空に散らばっているのだ。
やな予感しかしない……。
青白い粒子はそれぞれ個体を形成するように、粒子同士が結合し、またたく間にカラスの姿に変化していくではないか。
更に、一匹ではなく両手で数えられないほどの大群に変化してしまったのだ。
少女が一匹のカラスを切った事により、無数のカラスが出現してしまったのだ。
「う……嘘でしょ……カラスに……私の瞬殺抜刀斬りが通用しないなんて……」
少女は困惑した表情を浮かべ、ただのカラスに、これほどてこずるなんてと、精神的ダメージを受ける。
そのダメージの表現として、眉をしかめながら、目を大きく開く表情をしたことで、見た目からも、相当精神的ダメージを受けていると分かる。
その驚きで少しの間下を向き、ショックを隠せないでいたが、プラチナを奪われたことを思い出し、本来の目的となる。プラチナの首飾り奪還を考えたが、「時」既に遅し。
少女と喋る刀のアク達の前から、複数のカラスが姿をくらますのには、十分な時間が過ぎた。
だが、少女もこの世界で長く暮らしているため、こんなときのために用意をしていたのである。そもそも、少女が持っていたプラチナの首飾りは研究所の研究物であり、特殊なチカリを宿した力の塊なのである。
そのため、盗まれることも想定していた少女は《発振器》を事前に付けていたのだ。
その発振器を頼りに追尾していた所だった。
途中から、カラスの翼ばたくリズムが崩れた。
その崩れたリズムは一定のリズムに変化していたのだ。
滑らかな動きで、なおかつ、速いスピードの動きに変化していたのだ。
遠くからだが、少女にはそれが何なのかが、ひと目で理解できた。
「電車⁉」
「カラスが、電車に乗っているとは思いもしなかったな……だが、カラスであれば、飛べばいいだけの話だ……これは……例のウイルスではないか? 主よ」
「それはありかもしれないけど、実際はどうだかね……アク……」
電車の進む線路通りに発振器の反応が確認できるため、電車を追尾していく少女は、線路通り進んでいることを確認すると、電車より早く線路の先回りを考えた。
先回りをして線路に近づいた少女は異変に気づく。
ちょうど、線路の上に仮想世界(データワールド)の住人が線路を塞いでいた。
それと同時に、電車の上に立っている女性の姿が、確認できた。
「あれは⁉ 青い鬼の仮面⁉」
電車の上に乗っている青い鬼の仮面を被った黒いゴシック服の女の肩には、先程の盗まれたペンダントをくわえたカラスが女の肩に止まっていた。
「あの仮面の女がウイルス⁉ この女が入り込んだから、また治安が悪化したに違いないわ! アイツを倒すわよ! アク!」
「主よ……その青い鬼の仮面を被った人物が主の存在に気づいたようだ……主よ……」
その瞬間だった。どこからともなく黒い球体が少女を襲う。
「‼」
少女はプレイヤーのため周囲は暗く見え、闇に溶け込む黒い球体に気づくのが遅れた。
だが、ギリギリ球体を交わし、体を一回転するように周り、地面に一度足をついた。
その足で、すぐさま高く飛び上がる。
そのまま、青い鬼の仮面を被った不気味な人物に攻撃を繰り出しため近づく。
「主よ……早まるな‼ 周囲をもるんだ‼」
「何よアク⁉」
「黒い球体に囲まれている‼」
「クッ⁉」
とっさに少女はその場で一回転して刀を振り回した。
そのおかげでなんとか球体の攻撃をすべて打ち消すことができた。
だが、その背後に潜んでいた6つほどの黒い球体に、囲まれた事に気づくことができなかった少女。
再び黒い球体を回転斬りで、一層してみせた。
「⁉」
黒い球体を一層して丁度体制を立て直す時だった。
突然青い鬼の仮面が目の前に現れて刀を振りかざしてきた。
青い鬼の仮面の女は、黒い球体の攻撃の後ろに隠れて少女に近寄ってきていたのだ。
だが、とっさに少女は一歩引いて体制を立て直し、攻撃の構えを撮っていたためすぐに攻撃を繰り出すことに成功。
少女の刀さばきもそうであるが、とっさの体制の立て直し方も、日頃の訓練の賜物であろう。
「瞬殺(しゅんさつ)抜刀(ばっとう)斬り(きり)‼」
すると、少女の攻撃で仮面が割れ、素顔が半分見えた。
なんと、その顔はどことなく、少女に似ているが、少し、大人っぽさも感じられる容姿。
更に、致命傷を追わせていたらしく、首からは赤黒い粒子が出ており、それを止めようと手で抑えている。
青い鬼の仮面で顔を隠していた女の上空には黒いカラスが飛んでいる。
女は、そのカラスを一瞬にして黒い球体に変形させた。
そして、カラスで構成した黒い球体を地面に叩きつけると、砂ぼこりと共に消えてしまった。
「待て!」
仮面を壊されたゴシック服の女に逃げられた少女。
発振器で追尾しようとしたが、発振器剥がされていたようだ。
カラスを黒い球体に変形させた奇妙な技により、外れてしまったらしく、地面に落ちていた。
この戦闘の間、遠くにあった電車が近くまで迫ってきていた。
「クソッ……逃げられた……あの女は……」
少女は知っている口ぶりであった。
「主よ……あの女がこの仮想世界に来ているとはなぁ……だが、なぜだ……」
「なぜって、あの男の護衛か、戦力増強とかに決まってるじゃない……」
そうゆうと、逃した女とペンダントを追いかけるすべをなくした少女は、アクと話し始めた。
あの仮面の女が完全に怪しかったが、実は先程からもう一つの原因があると感じていた少女と鞘のアク。
その事について話をし始めた。
「主よ……では、アレのほうが可能性的には高いぞ……アレが見えるか……」
そう、あの女を逃してしまった今手がかりになるものは、線路の上に存在しているNPCだけだ。
「あれは……NPC……でも……なんで、あんな場所にいるのよ!」
「もしかすると、本当に主以外のウイルス(現実世界からの転送者)かもしれぬなぁ……主よ」
「一定の周回ルートから、外れているはずよ! 確か、あそこを通るデータ人間は、いないはず……」
「あのNPCはイレギュラーなわけね。いいわ……アク……あの、データ人間(NPC)を助けましょう。私のような転送者の可能性がなくなったとしても、あの男の、実験体の可能性もあるわ。助けて損はしないはずよ。どっちにしろイレギュラーはこの世界で手がかりになるからね。行くわよ。アク!」
少女はそういうと、《透明のバリア障壁》をNPCの周囲に展開させた。
「流石に、電車は骨が折れるわ……例のやつ使うわよ!」
「主よ……承知した……戦闘モードに切り替える」
そう言うと、黒衣がみるみるうちに白く光、青白い粒子が無数に飛び散り出した。
その青白い粒子は輝きながら、《ヨーロッパ中世の鎧》の形に形成し始めた。
だが、それは、時代を感じさせないほど、現代的で、洗練されたデザイン性も、兼ね備えた戦闘用武装チェンジだった。
その武装は、頑丈そうな素材ではあったが、とても軽く、身軽に動ける仕様になっており、全てにおいて、欠点がない仕上がりと言える。
凛々しくも花がある武装チェンジ。
霧咲はその鋭い刀は、鞘から抜かず、NPCと電車の間に立ちふさがる。
それと同時に、NPCの様子に異変が生じた。
NPCと、データの読み込む際に、確認できる表示が《NEW・PLAYER》に変化していたのだ。
少女の目線はもはや、電車の頭部先端に目線を絞っていた。
その小さな異変には、気づくことはなく、鞘に宿された魂のアクすらも、気づくことはできなかった。
2人の目線が電車に注がれる中、NPCに異変が起きていたのだ。
2人はその光景を見逃してしまっていた。
そのNPCは、一度青白い粒子とともに、消滅し、バグのようにノイズが一瞬入る。
元々、様子がおかしかったのだが、ノイズと共にデータ人間である彼の姿が、変化し、見慣れないプレイヤー表記が記載され、一瞬で消えてしまった。
その表記は《NEW・PLAYER》として……。
そう、少女以外の何者かがこの世界に転送された瞬間でもあった。
再びデータワールド内のNPCが、消滅した位置にリアル世界から何者かが転送された。
無機質なデータの世界の住人に新たな存在と魂が転送されたのだ。
ちょうど、NPCと入れ替わる(置換する)ようにそのものは青白い粒子を放しながら変化していった。
転送されたのは、リアル世界の人間である高校生。神夜蒼麻。
現実世界から、仮想世界に転送された少年と少女が初めて出会った瞬間でもあった。
◇◇◇
□ 転送者と滞在者
「俺は確……」
今、自分を取り巻く環境を、見て神夜は、ここで数時間気を失っていたことを理解した。
神夜が倒れて居た所は、気を失う前にいた線路だった。
神夜は直ぐに暁斗を探した。
―――いない―――。
だが視界があまり良く見えない……。
周囲を見渡しても、暁斗はどこにもいなかった……。
それもそのはずだ……。
暁斗といた時は、4時過ぎだったはずだ。だが、今は真っ暗闇だ。
この状況で、判断する限り、2時間はとっくに過ぎて、気を失っていたことになる。
暁斗が居るはずがない。
「もう一人で家に帰ったのだろうか」
そう思えることならそう思いたかった。
なぜなら、神夜の記憶が正しければ、暁斗は普通では有り得ないことを神夜の目の前で、起こしたからだ。
そのことを確かに受け止めた神夜は、単純に思った。
「あの時見せた暁斗の表情といい、あの暁斗の周りに着いた青白い発光体は、何だったのか」
そんなことを考えている内に、段々と何も起きていないことに「ホット」して、ひとまず安心感を覚えた。
神夜は脚の力が抜け、その場で崩れ落ちるように、手を線路のレールに着き、自分が崩れ落ちるのを止めた。
「!」
ふと、奇妙なことに気が付いてしまった。
「えっ! 俺は2時間この線路の上に居たのか……?」
―――ザワッ―――。
「だとすると……俺は……もう……死んでいる……」
神夜は、「死」の恐怖を感じた。
それと同時に体全体が震えた。
なぜなら、ここの電車が通る線路は、30分おきに、通る電車だということを知っていたからだ。
―――でも、俺は生きている―――。
「何で?」
電車が通っていない……?
それに気づいた神夜は、線路の上から、道路にある白線まで行こうとした。
そう考えていた時だった。
急に暗闇の向こうから「2つの丸い小さな発光体」が見えた。
微かに聞こえる……聞きなれた音。
その音は、いつも書店に行く時に聞く「電車」の音だった。
2つの発光体が段々と大きくなってくる。
「ガタンッ……ゴトンッ……」
―――ゾワッザワッゾワッ―――。
神夜は電車が通ることを知り、ここは危険だと思い始め、急いで脚に力を入れようとする。
「……動かない……」
―――足が―――。
―――動かない―――。
神夜は、動かない自分の太ももを、無理矢理でも、力を入れるため、手で触れて立とうとした。
その時だった。
神夜は違和感を覚えたのだ。
その違和感の正体は、衝撃的なものであった。
なぜか自分の脚に触れられない神夜は、自らの「脚」に違和感を覚えた。
恐る恐る……。
―――正直見たくなかった―――。
―――理由は、薄々自分の脚がどうなっているかは、感づいていたからだ……。
―――自覚をしたくない―――。
だが確かめないことには、今後の「未来の決定」ができず、電車に引かれる「死」が待っている。それを自覚していた神夜は、覚悟を決めて、脚を見た。
「脚がない……」
神夜の両脚は、太ももから、足先まで、脚が無くなっていたのだ。
その代わりに、両脚には、青白い正方形型の光が筒状の丸い円になって、ふとももの付け根から足の先まで、「ぐるぐる」と回っていた。
「何だ! これは!」
その上には、暁斗の時と同じような画面が展開されていた。
その画面にはこう表示されていた。
《復興中です》
《実体化中です》
神夜は頭が真っ白になった。何背先ほど両脚で立っていたのにも関わらず両脚が消えていたのだからだ。
神夜は、困惑していたが、電車から逃げる危機感だけはまだあった。
神夜は、とっさに腕で移動する手段に換えると、手の重みを使ってジャンプし、近くの踏切までたどり着いた。
懸命に地面を這う、踏切棒までたどり着いた神夜は踏切棒を両手で掴んだ。
すると、先ほどまで力が入っていたはずの、肩から手先に、全く力が入らなくなっていた。
なんと、手の先から青白い光が放たれ神夜の腕は、段々と燃え落ちていく様に……。
その燃えカスは青白い綺麗な粒子になって、輝きながら暗い空へと散っていくではないか、その散っていく腕の前にもまた違った画面が展開された。
そこにはこの様に表示してあった。
《エラーしています》
《現在の実体化率55%で一部に集中して使用したため、エラーしています》
《現在復興中です》
と、複数の画面が表示してあった。
自分の身に、立て続けに起きるこの現実から、かけ離れた有り得ない状況を見て、理解が及ばず神夜の頭の中は真っ白になる。
そして、電車はそんなことがあろうとも知らず刻一刻と迫ってくる。
「ガタンッゴトンッ、ガタンッゴトンッ……」
ドンドン迫ってくるレールの上を走る電車の音。
神夜は自分自身に言い聞かせた。
「戻ってくれ……手……足…………どっちでもいいから戻ってこい‼」
神夜は必死だった。
「戻れ……戻れ、戻れ、戻れ、戻れ! 俺の手足、もどれ、もどれ…戻れ! 戻ってこぃよ‼」
すると両脚の画面が消えて、新たな画面が展開した。
《復興中です》
《実体化中です》
から、画面が変わり。
《復興成功しました》
《実体化成功、定着しました》
と、その画面が展開したのと同時に、脚の付け根から青白い光を放ち、脚が戻ってきた。
「ガタンッ、ゴトンッ、ガタンッ、ゴトンッ」
―――やったあぁ!―――。
神夜は、無我夢中ですぐさま立ち上がり、まだ、腕がない状態で踏切棒を脚だけで、越えようとした。
そして、神夜はまたもや、有り得ない状況に遭遇した。
「‼」
何と、電車が通る信号と信号の間の踏切がある場所だけ、透明で丈夫な板が四方八方に張り巡らされており、密閉されていたのだ。
神夜と電車の距離はまだあったが、神夜は理由もなく戦意喪失した。
(あ~もう意味わかんねーよ……手足が急になくなったと思ったら、今度は見えない壁とか……ふざけんなよ…………まじで……)
―――もう駄目だ……電車に引かれて、俺は死ぬのか……‥…―――。
冗談交じりに言った神夜の言葉は、冗談ではなく本当にそうなるのだと、心の奥から思った。
―――腕も戻ってこない……それよりも、なんだこの透明な壁は……―――。
もうどうすることもできなくなった神夜はここで、「死」を覚悟した。
どんどん迫ってくるレールの上を走る電車の音。
「……ガタンッ……ゴトンッ」
自分が死ぬ直前の光景を見る勇気がなかった神夜は下を向いた……。
自然と涙が出た。
「……ガタンッ……ゴトンッ」
目から出てくる涙がこぼれない様に上を向く。
真っ黒な闇にも似た、空を見上げた神夜……。
何ともこの時涙で濡れた瞳には神秘的な夜空に見えた。
「ガタンッ……ゴトンッ」
神秘的な夜空を見てから、神夜はゆっくりと覚悟を決め、目を細め静かに、最後の一時に浸りながら下を見て、神夜はゆっくりと瞼を閉じ様とした……。
「……ガタンッ……ゴトンッ」
その時だ、地面に映った2つの電車の光は、片方から段々と二本の黒い影が浸食していく。
その影は、段々中心へと、移動していくではないか……。
神夜はその影を見て直ぐに何なのかが分かってしまった。
――人だ――。
二本の黒い影は人の脚だった。
ゆっくりと頭を上げてみると脚が見えた。
「……えっ!」
神夜は驚いた。
暗くてよくは見えなかったが、そこに居たのは確かに人間だった。
しかも、その人間は黒髪で、髪が長く、背が小さく、腕も脚も細い中学生位の少女だったからだ。
神夜が、驚くには十分な理由だった。
その少女は、コスプレと言っていいものか、派手な感じではなく、実践で使用するような、リアルな戦闘用の武装をしていた。
見せかけの見せるような派手な作り、ではなかったが、洗練されているが、見た目にも花がある斬新なデザインをしていた。
そんな不思議な格好の少女が立っている。
電車のライトの逆光でハッキリとは見えていなかったがそんな感じだろう。
その時、神夜は ―ゾクッ― とした。
なぜなら、この少女も神夜の様に、ここで死ぬと思ったからである。
神夜はその時だけ、叫ぶ力と勇気が出た。
声を張り出した時にその反動と死の恐怖からか目から涙がまたあふれ出てきた。
「おっおい‼ 早く逃げろ‼ 君も死ぬぞ‼」
神夜は、泣きながら叫んだ。
だが、その少女には届いていない。
聞こえていないのだ。
レールの上を走る電車の音で掻き消されてしまっている。
それが理由じゃなかったとしても、透明な壁で密閉されているため、もしかしたら、完全に聞こえないかもしれない。
「ガタンッゴトンッ!」
神夜はとっさに立ちあがり、透明で丈夫な密閉された空間で聞こえていない少女に向かって大声で叫ぶ。
「馬鹿やろ―‼ 何してるんだ! 早く逃げろ―‼ 早く! 早く……」
電車と少女の距離はもはや無いに等しい。
「もう無理だ……」
神夜も遥かに電車に近い前に居る少女の目の前に電車が来てしまった。
それを望んでいたかのように、少女はか細い手を右手だけ前に出した。
「もう死ぬ!」
神夜は顔を下におし覚悟する。次の瞬間。
「ガッーン!」
大きな音がしたが、自分の見に何も起きていないことを自覚すると、恐る恐る顔を上げて目の前の電車と少女を見た。
すると、青白い光を放ち、少女は片手で電車を止めてしまったのだ。
止めたとはいえ、かなりの強さで少女は押されている。
「‼」
神夜は思わず呟いた。
「……嘘だろ……片手で止め……電車を、止めた……電車だぞ……」
その時だった、少女は空いている、もう片方の腕から青白い光を放つと大きくしゃがみ込み、電車の下から上に向けて、アッパーを繰り出す。
すると電車の前車両が浮いた。
「⁉
すかさず、少女は軽々と何メートルもジャンプして、右脚に青白い光を放ち、空中に体が浮いているのにもかかわらず、左脚を軸にして豪快に右足で電車を蹴っ飛ばした。
右足の青白いなにかの力でこんなにも威力がでている喉と思ったが、それにしてもありえない光景を目の当たりにした神夜。
電車の全車両が軽々しく吹っ飛んで行き、青白い光を放ち《GAME OVER》と何かの音声機(ボーカロイド)によって発した音が聞こえ、電車は前方から後方まで散っていった。
その後、少女の着ていた斬新な鎧は、青白く発行して電車のように細かい粒子となり、消えていった。
「このシステムはこれで限界のようね……今度は、耐久性に難ありか……」
そう呟く少女の武装がどんどん透明になって青白い粒子を放ち消え散ってゆく。
数秒で、少女は武装要素がなくなり、ロングコートを来ている少女に切り替わった。
そして少女は振り返り、神夜の方向へ歩み寄ってきた。
神夜は、またあの時と似た光景を見にした。
PCの画面の中にある、消去画面のゲージの様なものが出てきて、《消去中です》と書かれてあり、ロード中のゲージもあった。
暁斗の時とは違う画面ゲージが出ていた。
暁斗の時は《転送中です》で、この電車の時は《消去中です》……一体全体どうなってるんだ。
助かったよりも、何て有り得ない光景を見てしまったんだという思いと、あの少女は何なんだという気持ちの方が大きく、今一番の神夜の中の問題でもあった。
そして神夜は背を向けている少女に問いかけた。
その問いかけは、透明な何かにより、少女には聞こえていないようだった。
「今のは……一体……君……電車を素手で……いや……吹き飛んだ⁉……」
「《GAME OVER》とか《消去中です。》とか一体どうなっているんだ……」
―――どういうことなんだ―――
神夜の慌てふためく様子を見て、少女は絶句した。それもそのはず、両腕が無くなっていて、しかも、謎めいた透明で丈夫な密閉空間の中に居るのだから。
誰がどう見たって、その反応を見せるだろう。そう思っているうちに神夜の手が戻ってきた。
《復興成功しました》
《実体化成功しました》
少女は少し時間がたつと、片脚で透明の丈夫な板を意図も簡単に蹴り壊した。
その後少女から急に質問攻めにされた。
「君……感情表現ができるの⁉」
「もしかして、君は私と同じ世界から来た人?」
とっさに神夜は答えた。
「え? 今の出来事を見たらだれでも表情くらい……! 暁斗も転送中とか出てきて、何なんだ一体あれは……同じ世界⁉……」
神夜の問いかけに答えず、少女は驚きながら更に質問をしてきた。
「その暁斗って人、ホントに転送中ゲージが配信されていたの⁉」
「あぁ…そうだけど配信とかPCデータじゃないんだからそんな言い方はないだろ……」
神夜の回答に少女は理解して、納得したのか、急に真面目な顔で話し始めた。
「PCデータだよ」
「えっ!」
「そういうことね、だから私以外のウイルスを排除しようとしていたのね。君は暁斗って言う人に転送ゲージが出ている時に恐らく触れたよね⁉」
「あぁ…触れたけど、何でそんなことを……そもそもウイルスって何だよ」
「ウイルスっていうのは君と私みたいな存在を、この世界ではウイルスというのよ、君は暁斗と言う人と一緒にこの世界に転送されたってこと」
「人格がデータ化してしまうのよ」
神夜は、話を信じず、自分の主張を始めた。
「よくわからない……というか暁斗を知らないか⁉ 俺と同じ場所にいたはずなんだ……」
「この場所には君しかいなかったわよ……。単純に消滅した可能性もあるわ……存在の力が少ないと転送できずに消滅することもあるから……」
「ありえない⁉ 転送って元々ここに神夜は居たぞ、この世界って俺が今住んでる世界じゃないか……さっきからこの世界がデータだって面白くない……冗談だろ⁉」
「本当よ、この世界は分かりやすく言うとコンピューターで言う内部メモリー、そして、その中にあるデータ情報がここにあるもの全てだってこと」
冗談のような言葉を並べる少女。
だが、そんな話を真に受けるほど冷静さを失ってはいない神夜は、段々といらだちが隠せない口調になっていった。
「ふーん、じゃあ暁斗は俺達と同じだよな~。何で暁斗の事はウイルスって言わなかったんだ」
「そこなんだよ。暁斗という人は、もしかしたら、人間じゃないかもしれないわ……」
「⁉」
「そもそも、人間がこの世界に来ることが出来るには、この世界で作られた情報に触れた人だけよ。もし、普通向こうの世界で話せたとしたら、情報ではなく、人工的に作られたこの世界の新たな人間のサンプルの可能性が高い気がするわ……。私の知っている限り、それは可能なのよ……」
「サンプル?」
「そう、暁斗っていう人は、実験のためのサンプルにされたのよ、多分それもまだ一段階のね……」
「なんだよ……なんだよ、それ……サンプル……要するに人体実験……」
「恐らくこの《仮想世界(データワールド)》には、《現実世界(リアルワールド)》と比べて唯一足りないものがあった」
神夜はその時に「ピーン」と足りないものがなんなのか頭の中に浮かんだ。
その浮かんだものを言葉にして発してみた。
「それが人間の心……」
神夜の予想は当たり、少女は何の躊躇いもなく話を続けた。
「そう……人間の心……気持ち、思いやる心、友情、恋愛感情など人間の全てのものが足りないってこと、そして自分が望む偽りの世界を作ろうとしているのよ。そう……アイツはそのためならどんな事でもするのよ……誰だろうと命さえもたやすく奪う……例えそれが自分の大切な人であっても……」
「自分の大切な人って…………アイツって……まさか……君の家族……」
神夜は恐らく当たってしまったのだろう。
その言葉を聞いた途端、少女は我慢していたのか、顔を歪ませて今にも泣きだしそうな目で下をうつむき小さな声で言った。
「私の……母と……姉の命を奪ったの……父が……」
「!」
神夜は、その話を聞いて黙ることしかできなかった。
「……」
沈黙が続いた。
それもそのはず。
人の不幸な話を聞いて何か言える方が少ないのだ。
だが神夜は必死にその何かの答えを探していた。
今ここで少女に何か一言を言いたくて下を向いて考えていたその時だ。見覚えのあるものを発見した。
―――クロワッサンが入った紙袋―――。
あの時、暁斗から渡されたパンの紙袋だった。
神夜は、今頃気づく所かと思ったが、悲しげな表情を浮かべている少女になにか言葉を投げかけてやりたがったが、そうそう、気の利いた言葉を思いつかない。
そんな事を、考えながら、クロワッサンが入っているパンの紙袋を拾おうとした。
すると、少女がそのパンの紙袋の中身を見てあることに気づく。
「あれ……この紙袋の中に、スマートフォンが入っているわよ⁉」
周囲は暗い。
当然紙袋の中に何が入っているかすら、見えない状態だったが、神夜はその言葉を確かめるようにパンの紙袋の中身を確認した。
恐らく少女の目は暗闇でもよく見えるのだろう。
神夜はそんな事を思いつつも紙袋の中を確認した。
「あっ! ホントだ!」
紙袋の中に潜んでいたスマホを手に持った。
「……これは、俺のスマホ⁉……」
だが、スマホの電池切れで、起動しない。
神夜は直ぐに気がついた。
暁斗が俺に《何らかのメッセージ》を残しているのではと思う神夜。
その要素として一番スマホでやり取りをしていたのはコミニュケーションアプリ。
もしやと思い、アプリを開こうと何度も起動を試みるも、やはり、電池切れ……。
打開策を見出すため、少女に問いかける神夜。
「電池切れだ……PCかバッテリーを持っていたら貸してくれ。あとUSBコードも」
そう思った神夜は少女からPCを借りようとした。
先程、の少女の様子から、聞けそうな状態ではなかったが、今のタイミングで聞かないほうが逆におかしい雰囲気だったため、少し可愛そうだが、対応してもらうことにした。
そんな、神夜の思考を知ってか知らずか、少女は先程の暗い表情が消えていた。
こんな世界に長年いるに違いない。
そのせいで、ポーカーフェースが染み付いたのであろう。
普通の少女であれば泣きじゃくってもいいくらいの嫌な過去を思い出したに違いない。
そんな事を考えていた神夜の顔を「ジー」と少女が見つめていた。
「それの中身の情報を見たいのでしょ、いいよ、USBケーブルもあるから充電してもいいわよ」
少女の様子は至って冷静。
先程の出来事が嘘だったように淡々と言葉をかわしてきた。
「あっ……どうも」
神夜は少女からPCを借りた。
スマートフォンをノートPCに差し込んでその中身のデータを見た。
PCからの電気の供給を受けることができたスマホは、起動するようになった。
神夜は自分の推測があっているかを確認するため、アプリを起動させた。
アプリ内の通知アイコンには、1つの未読メッセージが赤く光っていた。
そのアイコンをタップする。
「何だ……これ……音声データ」
神夜のスマホのコミュニケーションアプリには音声データが入っていた。
《ジッジ―――イ》
「俺は、暁斗だ。結論から話すから、聞いてくれ。まず、2つ伝えたい事がある。1つ目は、データコードを送るから、そこからログインし、コードを入力してくれ」
神夜は、音声を再生した状態で、スマホを操作し、概要を確認する。
「2つ目は、俺はもう、そっちの世界にいない……でも、持っていてほしい。それだけだ。細かいことははなせないが、データワールと、リアルワールドが繋がればまた会える。時間がない――――――……」
《ジッジ―――イ……ブチッ!》
「その……俺も……お前と同じ世界に居るんだけどな……」
神夜は暁斗の伝言を聞いて一人で嘆息を漏らした。
「え~と……このコードを個々に打ち込んで送信……」
暁斗に言われたとおり、スマホの端末に送られてきたURLをクリックすると、コード入力画面が表示された。そして、コードを打ち込んだ。
《コードを承認しました》
《指定先の該当者にデータを配信します》
すると、神夜の目の名に青い画面が表示された。
《データを配信しました》
《ダンロード中》
《実行中……》
《実行完了》
《能力を獲得》
《シークレットデータに追加》
という画面が表示され一瞬で消えた。
「シークレットモード……」
神夜のつぶやきに鞘が反応する。
「そのような情報は200年データワールドにいるが知らないな」
「私も見たことないわね」
神夜は、見たこともないという言葉を信じようとしたが、疑問にも感じた。
理由は200年の部分だ。
200年という発言で、シークレットモードのことは頭から飛んでいってしまった神夜は、鞘に問いかける。
「鞘の声の方? でいいんだよな? 200年この世界にいたってこと⁉」
「その通りだ」
それ以降に、少女と出会ったのだろうそう思っていた。
「じゃぁ鞘とであったのはいつ頃?」
「はぁ⁉ 勿論200年前に決まっているじゃない!」
長い間この世界に住んでいて、順応しているとは思ったが、そこまでとは思わなかった。
この瞬間、神夜は少女が夜でも周辺のものがよく見える目を持つ事に納得がいった。
「え……じゃぁ……もしかし……年上⁉」
「そうよ お姉さんよ」
「お姉さん……なのか……⁉」
少女?の目線が鋭くコチラを凝視する。
「勘違いしてもらっちゃ困るけど……データワールドで、200年ていったら、現実世界の2時間位なのよ! だから、リアル世界に戻れば確実にお姉さんなの! わかったわね‼」
「分かりました!・・・」
神夜は少女の怒りに圧倒されて、つい敬語になってしまったが、理由は他にもある。
それは鞘から、禍々しいオーラが漂っていたからである。
案の定、丁寧に返事をしたことで、禍々しい黒いオーラは消え、少女の怒りも収まった。
よくわからないが、命拾いをしたような気がする。
一息すると、神夜は空を眺めてふと疑問に思う。
―――夜だからかもしれないけど……なんだか現実世界より暗く感じるなぁ―――
その影響かも知れないが、道の白線など、明るい色は、この世界では発行して見えるようにも感じた。この感覚は現実世界になかった感覚である。
まるで、柔らかいLEDラインの輝きにもよく似た、東京の夜景にも匹敵する美しさ。
―――星も、現実世界より輝いているように見えた―――。
こんな時に夜景が綺麗だなんて、平和ボケしているとは思ったが、今の状態を逃避するかのように少しの間時間が止まって見えた気がした。
「ま、暁斗は昔、俳優になりたいって言ってたから、演技の練習がてら俺をおちょくってるんだろう」
暁斗ならやりかねない。
だが、その言葉は神夜に……自分に、言い聞かせるように、独り言を呟く。
そう、自分に言い聞かせているのだ。
神夜は、スマホのコミュニケーションアプリで暁斗に電話をかけるが、待っても待ってもつながらない。
いつもの暁斗なら、すぐに電話に出て「よ! 相棒! どうした?」と陽気な明るい声が聞こえてくるはずだ。
だが、その声はもう聞けないみたいだ。
そもそも、この世界はよく理解できていないが、暁斗とは小学生からの腐れ縁だ。
恐らく、パン屋の手伝いをしているのだろう。
ここへ来て、ここが現実の世界じゃない事を理解したはずだった。
そう、頭では理解していた。
だが、気持ちがついていかなかった。
神夜に気持ちはまだ、現実世界と仮想世界の区別がつかず、混合している状態。
簡単に言うと脳に送られる正しい情報(現実世界)と今起きている正しい情報(仮想世界)の情報をうまく処理できないでいるのだ。
つまり、パニックを起こしている状態。
そこには、希望すら感じられるほど、信じたくない気持ちが優先していた。
ごくまずかでも、ここが、リアル世界だという現実身ある何かを求めて……。
神夜は完全に現実を少駆使できず、ごく僅かな逃避の可能性を求めた。
「パン屋の手伝いをしている時は、電話に出れないからな」
また、一人で発した内容は自分に言い聞かせるようにとっさに言葉が出ていた。
「君、別にいいんだけど……現実理解してる?」
「あぁ、今パン屋で働いているから、電話に出れないだけだよ! 暁斗のパン屋に行けば会えるだろ」
鋭い口調で、少女が指摘した。
「この世界は、現実世界とは異なるのよ」
少女が言うことが正しい。
現実世界の人間がいる確率は少ない。わかっている。頭ではわかっているが、感情がついていかない。
「行けばいるさ! うん! 君もパン屋行こうよ! クロワッサン以外にも、メロンパンとかアンパンとか定番のパンがあるし、どれも絶品だよ!」
「まぁ……いいわ……ついてくわ(頭では理解しているけど、気持ちが理解を拒んでいるといった状況かしら、気が住むまで待つしかなさそうね……)」
少女は、呆れたのか諦めたのか、しかめっつらで神夜の提案に乗っかった。
そういうと、約2メートルの間をあけながら神夜の後をついてきた。
パン屋に行く間も、何度か電話を掛けるがつながらない。ためしに、親にも電話をしたが、つながらなかった。
何かがおかしい。
とっくに気付いているはずだが、受け入れられない。
少女は、神夜の動向を探るようにあとをついてくる。
不自然だが、それでも、現状起きた出来事を把握し受け入れるより、いつも通りの生活に戻るほうが、遥かにマシに思えた。
それは、脳の防衛本能であり、精神的ダメージを回避するための変わらない日常を脳は欲していた。
信じられない。いや、信じたくないという方が近い。
少女は、黙っているが、2メートル感覚を継続しながら、後をつけてくる。
その足取りを意識しながら、玄芳パン屋に足を運んでいた道中。
たまに見かける《黒猫と白猫》に遭遇した。
この猫達を神夜はよく知っていた。
どちらの猫も、日頃、お互いに威嚇しあって喧嘩しているイメージだったが、今回は仲良くと言っていいのか、並走している。
珍しく仲が良いのか。不思議な違和感を覚えた。
「白! 黒!」
神夜はその2匹の猫をそう呼んでいたのだ。
呼びかけるといつもなら、喧嘩をやめて、近寄ってくるはずだったが……、今回は様子が違う。
様子が違うどころか、神夜の声が通じていないのか、こちらを気にする素振りも見せないまま並走して、いつもどおりの位置書きの上に飛び乗り、草むらへと消えていった。
2匹の猫が草むらへと姿を消した瞬間ふとあることを思い出し、血の気が引けるのを自分の頭で理解した。
―――ゾワッ―――
なぜなら、神夜の幼少期に出会った猫で恐らくそんな長くは生きているはずがない。
なぜなら、2匹の猫は子猫のままだったのだ。
神夜は違和感を覚えた。
成長が止まっている。
神夜が知っていた猫じゃない可能性も選択肢としてはあったのだが、片方の黒猫は、しっぽが2本に分かれている特徴を持っており、白猫のほうが耳は、片目が赤くなっている猫でその二匹のまれな組み合わせはそうそう無いだろう。
その理由は、どちらも虐待を受けたとされ、動物保護団体に引き取られ、近所のおばあちゃんが飼い主として志願したという流れである。
この時点で、少女が言っていたことの信憑性が増していたが、それでも現実を受け止めたくなかった神夜は、玄芳パン屋の玄関にたどり着く。
玄芳パン屋の店内に入り、一目散に工房の中に入る神夜。
そこで目に入ったのが、いつもどおりのパンを焼いている玄芳父と玄芳母の姿があった。
神夜は玄芳母に問いかけた。
「こんにちは! 暁斗はまだ帰ってないんですか?」
「・・・」
「え~と・・・暁斗はもう帰ってるんですよね?」
「あの~すみません! 聞いてますか?」
「・・・」
返答がない。
神夜の存在に気づかないのか、いないものとしてパンの製造を続ける玄芳母。
「なんでだよ……なんで、返事をしてくれないんですか……」
神夜は、無意識に下を向き一番大きな原因を思い出す。
―――仮想……世界(データ……ワールド)―――。
◇◇◇
□ 仮想世界(データワールド)のパン屋玄芳工房
その様子を店の壁によりかかり、横見をして監視する少女。
神夜は、言葉を失い、店を後にしようと、扉を出ようとした時だった。
「温かいクロワッサン! できたてですよ! どうぞ試食もありますので、食べてみてください!」
玄芳父が喋った。
「暁斗のお父さん! 俺です! 神夜ですよ! お久しぶりです!」
玄芳父の目線は神夜に向けられたものではなかった。
扉から入ってきたお客に言葉を投げかけたようだった。
勿論そのお客さんも魂が抜けているような表情で、頬に笑みを浮かべながら、クロワッサンと食パンをトレーに乗せてレジに移動してきた。
「うちの子が毎朝クロワッサンしか食べなくなっちゃってね! やっぱり、ここのパンが1番美味しいわ!」
世間話をしながら、神夜をスルーするお客さんに、それに対応する玄芳の父親。
「いつも、お買い上げいただきありがとうございます! 今回新商品を作ってみましたので、お試しに1つ差し上げます! 後で感想を聞かせてもらえたら嬉しいです!」
「本当ですか! ありがとうございます! また来ますね!」
―――なんでだよ……―――。
神夜は玄芳の父親をにらみつける。
「なんで無視するんだよ!」
そう言うと、玄芳父の胸倉を掴むと、力を込めて壁に叩き付ける。
「またのご来店お待ちしておりますね! ありがとうございました!」
「そうじゃなくて……。暁斗はどうしたんですか⁉」
「ありがとうございました!」
「だから……。暁斗と連絡がとれないんですよ‼ 一体どうしたんですか‼」
「またのご来店……」
「こんなときに、何ふざけてるんですか‼ 外の様子も変なんですよ‼」
「・・・」
神夜の言葉にだけは、返答がない。
「なんなんだよこれ……。何がどうなってんだよ……」
神夜は、あまりにも、返答しない玄芳夫婦に不気味さと、感情が感じられない表現力に恐怖すら感じた。
そう、目の前にいる玄芳夫婦はどう考えても暁斗の両親であり、人間のはずだ。
―――人間・・・―――。
―――人間だよなぁ……―――。
―――人間じゃなかったら一体何だんだよ……―――。
神夜はあまりの怖さに顔真っ青になる。
ここにいる何者かは神夜が知っている人間ではないのだろう。
わかっているが、真実を突きつけられたような衝撃が神夜の脳を貫く。
玄芳父は胸倉を掴まれ壁に叩きつけられているにも関わらず、満面の笑みを浮かべてお客さんの対応をしていた。
なにかに気づいた少女は、屋根の上に登り姿を隠した。
《ビ―――! ビ―――! ビ―――!》
《危険な行動を確認。この時点で、現在の危険値が高い個体データをウイルスと認定しました
直ちに行動を停止するか、周囲の警察官達で排除する必要があります。繰り返します……》
「なんだ⁉」
すると、先程まで柔らかい笑顔を浮かべていた玄芳父の魅が赤く光り、神夜の存在を認識したように神夜をにらみつける。
《ウイルスを感知しました。周辺の個体データは速やかにウイルス個体の排除をお願いします》
すると、白バイクが飛び込んできた。
店内の棚や商品であるパンを撒き散らし、突っ込んできた白バイクの男。
白バイといえば、治安を守る警察官だが、パン屋のガラスを突き破ってくる警察官は、もはやヤクザの荒行にしか見えない。
逃げようとする神夜だが……。動けない。
それもそのはずだ、先程胸倉をつかんでいた玄芳父をバイクの衝撃で話してしまっていた時に、逆に胸倉を掴まれていた。
必死で解く神夜。
意外にも握力が弱いのか簡単に解けた。
そのまま解いた勢いを利用して玄芳父を跳ね飛ばした神夜。
命が助かると一瞬ホッとして、逃げようと走ろうとした時だった。
またもや、動けない。
足が動かないのだ。
恐る恐る足を見てみると、玄芳母が玄芳父と同じく目を真っ赤に光らせて神夜の足にしがみついていたのだった。
《ウイルスを感知しました。周辺の個体データは速やかにウイルス個体の排除をお願いします》
白バイクの突進で店内がめちゃくちゃになった影響で怪我をしているのであろう。
片目はガラスが突き刺さっており、片足は、パンの棚に挟まれて身動きが取れない状態で神夜の足を掴んでいた。
つまり、動けないのだ。
神夜は焦っていたこともあり、ものすごい勢いで蹴っ飛ばそうとしたが、なかなかはなれない。
力はそんなになかったが、焦っていたことなどの状況が相俟って、周りの飛び散ったガラスやパンの影響で、とっさの判断力が低下していたのだ。
バイクのエンジン音が吹き荒れる中。
屋根の天井外から、少女がパン屋の中に入ってきた。
少女は、天井の横に伸びる建物内の木の柱を活用して、鉄棒のようにぶら下がり、そのまま、遠心力を利用して、神夜の足元の玄芳母の顔面を蹴り飛ばし、白バイクと神夜の前に着地する。
「外にも警察官が迫ってきてるわ」
「まじかよ……」
「一体一体は大した事無い力だけど……少し量が多いわね」
「少し力を使いすぎるのは良くないけど……アク行くわよ!」
「承知した主よ」
「あれがないから、慎重に戦うわよ! アク!」
そう言うと少女は、鞘から刀を引き抜く。
バイクに乗っている警察官の体ごとバイクを斜め切りに切り裂いた。
《敷くテムに異常な……破壊部位を検知しました……直ちに……ビビビー》
「ドカーン!」
バイクの爆発音とともに少女と神夜は、パン屋の外に吹き飛ばされた。
「いって……」
神夜が吹き飛ばされていた影響で、服がボロボロになっていたが、さほど、怪我はしていなかった。
外を見渡すと先ほどの通報で、複数の警察官が集まってきていた。
外にいた警察官は警棒を持った警察官。
「イジョウナニンゲンケンシュツ……ウイルストダンテイ……ハイジョ……ハイジョ……」
神夜はその光景を目の当たりにすると思わず声が漏れた。
「…は?」
次の瞬間一人の警察官が襲いかかりに来た。
その警察官は神夜のすぐ近くまで走ってきて、神夜の頭にめがけて警棒を振り下す。
「私のこと忘れてない?」
気づいた時には、少女の回し蹴りが、警察官の顔を粉砕。
《GAME OVER》
膝蹴りして着地しようとしたとき、既に二人の警察官が上空で警棒を振り、かざし少女に襲い掛かる。
少女は着地した後深くしゃがみ、数秒動かない。
警棒でたたかれたと思ったが、そうではない。
実は少女の刀の鞘と刀に警察官が突き刺さっていたのだ。
それぞれの着地地点に垂直に置くことにより、落下の勢いを利用して体に突き刺指すと言った荒業を見せた。
警察官は鞘と刀のそれぞれに1人ずつ突き刺さっており、動きが取れない状態になっていたのだ。
そのおかげもあって、警棒の先が少女に触れることはなく、力尽きた2人の警察官は、警棒を落とした。
その身動きが取れない警察官の刺さった鞘と、刀を同時に振り上げ周囲の警察官に鞘ごとぶん投げる。
放り投げた警察官を盾にして、発砲してくる銃弾のカバーにした。
最後に銃弾を発砲している場所にたどり着き、鞘を引き抜き回転切り。
警察官の半数が青白い粒子となって消滅していく。
その少女の1つ1つの動作が洗練されて、動きに無駄がない。
神夜に再び警察官が警棒を振り下ろした。
「今度は何なんだ! 俺が何をしたんだ!」
少女が持っている鞘を放り投げ、警察官の持っていた警棒を叩き落とした。
狙い通り、警棒が吹っ飛んだすきに、少女は警察官のふところにスライドして入る。
しゃがみから上方向に回転蹴りを繰り出した。
警察官を、空中に飛ばすと、着地する前にサッカーボールのようにけり飛ばした。
もちろんゴールは無傷の警察官の塊周辺。
蹴り飛ばした警察官に身を隠しながら、素を低くして銃弾の縦として身代わりに使う。
違う角度から、飛んできた銃弾に気づき、その銃弾を1発かわす。
交わした後に、2発目の銃弾が飛んでくる。
その2発目の銃弾をスライディング&体を捻り回転してかわす。
その方向に少女の刀があった。
その刀を引き抜いた瞬間、目の前に3発目の銃弾が飛んでくるが、体を柔軟に使い、回避する。さらに、4発目の銃弾からは、刀で弾き返し、そのまま銃弾で敵を倒す。
少女の背後には、2つの黒い影が現れる。
赤い4つの光が、背後から飛びかかってきた。
玄芳父と玄芳母が飛びかかって着ていたのだ。
少女は冷い言葉を発して刀を一振りする。
「まだいたの……」
玄芳父と玄芳母の頭が中に舞って青白い粒子を切り口から放出し、徐々に消えていった。
少女の背後で消えていく光は、先程の争いの悲惨さとは対比し、綺麗な、粒子がキラキラと光り、少女の背後を照らしていた。
その間に、外にいた複数の警察官たちをバッタバッタと軽々倒していく少女。
「つ……強い……」
呆然とその戦いを眺めていることしかできなかった。
だが、警察官は少女が倒すスピードよりも、増えるスピードの方が遥かに上で敵が減らず、増えていく一方。
これはもう手がつけられなくなってしまう状態と言えるだろう。
警察官を倒すと、警戒態勢が引き上がり、更に、警察官を呼ぶスタイルのようだ。
少女が警察官に囲まれて見えなくなるくらいに警察官が集まってきた。
「君! 逃げなさい!」
「でも君が⁉」
「君がいると、私の攻撃が出せないのよ! 貴方ごときることになるから、この場にいなければ全範囲攻撃で一層出来るわ!」
「わかった!」
神夜はその場を離れるため、走っていった。
運動神経は意外とよかった神夜は、無心になって走る。
走る。
走る。
ひたすら走る。
その時だった、ふと神夜は、思ったのだ。
「なぜ……俺は……逃げてるんだ……」
何も悪いことなんかしていないのだ。
ふと目の前を不意に見ると、クラスメイトである、新城作(しんじょうさく)が神夜の目の前に、立ちふさがる。
目が赤い。
「新城なのか⁉ でも……」
そう、目が赤いのだ……。
この世界には、見覚えがある人たちがいるが、その人であってその人ではない。
つまり、別人……いや……ただのデータだ。
どこかのデータに保存されているということになるが、目の前の新城作は、昨日見たままの姿をしていた。
そう、眼鏡が割れているのだ、これは、偶然なのかもしれない。だが、眼鏡のガラスのひび割れ具合が、現実世界の「新城作」と重なるのだ。
◇◇◇
□ 現実の作と仮想の作
―――新城作は、親しいクラスメイト―――。
いつも通り、授業を終え下校していく生徒達。
そんな時間に屋上に上がる1人の少年。
この少年は神夜蒼麻。
その神夜蒼麻が屋上に来た理由は、クラスメイトに呼び出されたからだ。
呼び出したのは新城作。
そして、呼び出した理由はいじめの相談だ。
そう、新城作は、いじめられていたのだ。
新城作は、うちの学校でも有名な、ガラが悪い不良たちにパシリとして扱われて、いじめを受けていた。
新城作が神夜になぜ相談してきたのかというと、過去の出来事にある。
どんな学校でも、派閥はある。
勉学に励んでいる者同士でつるむ者。
勉強ができないで悩んでいる者。
自分たちが楽しければそれでいい者。
グレて、先生や生徒に八つ当たりする者。
派閥というよりは、見た者同士でつるむといったほうが正しいだろう。
そんななか、誰ともつるむことなく、一人で、過ごしているマイペースな生徒もいる。
それが、神夜蒼麻だ。
そう、派閥なんて気にしないマイペースな男子生徒が彼なのだ。
神夜は、派閥などに興味がない、中立の人間だと周囲からは思われていた神夜。
実は、中立の人間ではなく、どちらかでいうといじめられる側の助けとなる役割を担っている。
神夜がいつも行なっているのは、いじめられ始める前に、その原因を叩いてしまうという高難易度な心理戦を一人で繰り広げていた。
誰にも気づかれず、でも、誰かの助けとなる言葉遊びのような心理戦を。
具体的には、いじめられそうや、いじめが始まっている段階で、以下にいじめている相手の感情を高めさせず、落ち着かせて、いじめられている相手から、意識をそらし、自然を装い引き離せるかといった心理ゲームだ。
実は、これも、意外に楽しく、趣味の一環として、密かに楽しんでいたが、一人のクラス名の「新城作」にだけには、見向かれていたようだ。
いじめを最小限に抑えていたことが、新城作はある時勘付き、こうして相談してくるようになった。
神夜は、屋上で、新城作と話していた時の出来事を思い出す。
「ありがとう……神夜くんのおかげで、いじめられなくなったよ!」
「そっか! それは本当に良かったな!」
「うん、お礼と言ってはあれだけど……神夜くんよく教科書忘れてて、先生に怒られてるよね」
「まあなぁ……悪気は無いんだけどな……なんか身が入らなくて」
「僕が、そんな時に教科書貸してあげるよ!」
「まじか! ありがとう新城! 助かるよ!」
過去には、こんな事を約束したことがあって今では助けてもらってばかりだ。
◇
その新城作が、今目の前にいるのだ。
そんな出来事があった関わりがあるクラスメイトの顔をしたデータ人間を前に神夜は動揺する。
そして、メガネを割ったのはつい最近で、実は、目が悪いのではなく、目の色素が薄いことで、光や赤外線を抑えるためにメガネを付けているのだ。
そして、とても高額になるという事で、なかなか買うこともできず、外すこともできないので、割れたまま使っていたその時の新城作を再現していた。
背後からは、ゾロゾロと警察官が神夜を追尾してきている。
屋根から飛び降りてくる警察官。
塀を乗り越えてくる警察官。
そして、新城作の顔をした何者かが、行く手を阻む。
クラスメイトの顔を見てしまったせいで、足が完全に止まり、数秒動けなくなった。
そんな一瞬で警察官に囲まれてしまった。
「くそ……。一体……俺が、何したっていうんだよ!」
その時だった。
神夜のはるか頭上の空から、新城作の見た目をした何かと、神夜の間に、少女が降り立った。
降り立つ瞬間に刀で周囲の警察官を回転斬りで一掃した。
「何足を止めてるのよ! 逃げなさいっていったでしょ!」
そう言うと少女は目の前にいる新城作を切りつけようとした。
「待ってくれ‼」
霧咲は振り下ろそうとした手を一旦止めそのままの状態で神夜の話しに耳を傾けた。
「そいつ……君が切ろうとしている……目の前の奴は、俺のクラスメイトの新城作……何だよ……」
「はぁ?」
「知ってるやつなんだ!」
「あんた……馬鹿なの? この世界の人間に見える人物や、この世界にある全ての生物は、データから作られているだけなのよ。君が知っているクラスメイトじゃないのよ!」
「・・・」
「そう見えるだけ……、ただのデータよ」
「でも……」
「わかったわ。じゃ君があのデータ人間のとどめを刺しなさい」
「???」
《ビューン》
少女は、青い光を片手から放つ。
見たこと無い近未来的なデザインの拳銃を、手のひらに一瞬で出してみせた。
そう、近代的な拳銃を想像し生成したのだ。
これは、この少女がPCを活用してプログラミングし為せる技だ。
その証拠として、独特の手のポーズをすると、一瞬で消えたり現れたりできるように設定されているようだ。
驚いたが、少女が生成した拳銃の上部には、説明書きのような文字が記載されていた。
拳銃を神夜に放り投げると、持ち前の運動神経の良さなのか、この世界の力なのかは、分からないが、一瞬で飛び上がり、背後の追尾してきた集団を倒し、飛び去っていった。
人間には真似できない力を少女は発揮した。
「え‼? 拳銃なんて、危ないよ! 銃刀法違反で捕まるよ!」
少女は、空中に飛び上がった状態で、後ろに目をやると再び神夜に正論を言い渡す。
「だから、君、この世界がデータだってこと、また忘れてるでしょ‼」
「あっ……」
神夜は、手に持った拳銃を見つめる。
「銃くらい持っていないと、ここでは生き残れないわよ! わかったわね!」
さらに、少女は、言葉を続けた。
「そろそろ追尾してくるデータ人間達を倒してくるから、ここは頼んだわよ!」
そう言うと、背後の有象無象の警察官立ちを一掃するため、遠くの地面に着地し、走っていった。
神夜は、拳銃の銃口を作に向ける。
「・・・」
―――ドクッン―――。
神夜の心臓が、速いスピードで鼓動を始める。
―――ドクッン―――ドクッドクッドクッ―――。
それと、反対に回りの《時間》が遅くなるように感じた。
その感覚や雰囲気は、雨の落ちるスピードでも遅く感じられたのだ。
そう、今気づいた。雨が降っている。
迫ほどまで、降っているかどうかもわからなかったが、今は完全に振り始めていたのだ。
その雨雲から、降り注がれた雨の速度がスローモーションになる。
銃口の標準を合わせる精度が、正確になるにつれ、更に、スローもションになっていく。
雨の音が、無数に鳴り響く中、スローになった雨が1粒地面に落ちた。
「……ポツンッ」
それと同じタイミングで、銃口の引き金を引く。
「バン!」
弾丸は、雨を弾き飛ばし、作の顔をした何者かの頭部を直撃。
青白い光を放ち頭部から消滅していく。
「はぁ、はぁ……」
銃弾を放ち、弾丸が撃ち抜くまでの一瞬は、スローモーションに見えるほど、集中して現場の状況が見えていた。
「ザ―――――」
集中が切れて、スローモーションになる感覚が解けた神夜の耳に聞こえたのは、大降りになる雨の音。
そんな中、ありえないが、弾丸の回る速度、弾丸が到達する方向にどのくらいの雫がぶつかるか、その回転から、飛び散る円状の水滴の弾き飛ぶ様子も見えたような気がした。
体験したことのない感覚。
緊張感に支配され、放心状態になる神夜。
「……」
もうどこから突っ込んでいいのか、分からなくて呆然とする神夜。
座り込み、少しずつ頭の整理をする。
少しすると、少女が、警察官を一掃して戻ってきた。
「来る途中にウィルスメッセージを受信する中継地点も破壊してきたから、一旦は、しばらくデータ人間(警察官)は追ってこないわ」
雨の中、少女の発言を黙って効く神夜。
「・・・」
分けが分からなさすぎて、驚く気力もない状態だったのだ。
「……今のは……一体……」
「データ人間よ」
「さっきから、警察官のことをデータ人間って?…」
「この世界の住人に、そのまま危害を加えるとウイルスとされるのよ。
今のはそれを排除するための、データで構成された人間、要するにアンチウイルスプログラムよ。それをデータ人間と呼ぶわ」
「じゃあそこの暁斗の親は何なんなんだよ? 何で同じ言葉を繰り返してるんだよ」
「元のデータはリアル世界の人間だからよ」
「なら他もみんなそうなのか?」
「そうよ」
「もう訳分かんねぇよ……」
神夜の頭の中は整理がつかず、放心状態がしばらく続いた。
(…これ以上は話すだけ無駄ね)
少女は、神夜の様子を見て、何を思ったのか追い打ちをかけた。
「あと、私は200年間この世界にいるけど、まだ、この世界から抜け出す方法は見つけられていないわ……だから、過度な期待は抱かないことね」
神夜は更に、追い打ちをかけられた様子で、目を大きく開き動揺を隠せないでいた。
「・・・」
だが、言葉が出ない。
頭が真っ白。
ただただ、先程の出来事を、受け入れるのみ許される……。どうしよもない違和感と矛盾感に押しつぶされそうになる神夜。
「あまり遅くなってから外をうろつくと、危険なデータ人間とか、魔獣が出没するから早めに帰ったほうがいいわよ。」
「あとね、この世界の情報がだいたい知れるすシステムが用意されているから、見ておくと、これからスムーズにこのデータワールドに順応出来るはよ」
そういう少女は、腕についている端末をいじり、メニュー画面を開き説明した。
「こんな感じで、ゲームのように、《入門ガイド編》があるから、見ておくと良いよ。名前は、《ガイドAI》っていう項目ね」
そう言って、どこかに立ち去ろうとしたが、何かを思い出し、一回転して、こちらの方向に向き一言。
「それとさっきのようなデータ人間が、もし出たらその銃で応戦して」
「まー、知ってる顔のデータ人間を消滅させるのは、誰だってそうなるわよ……疲れたでしょう……今日はゆっくり休みなさい」
「さっきのように、データ人間を刺激しなければ、奴らは襲ってこないわ」
その事を言い終わると、まだどこかにジャンプして、大雨の中、どこかに消えていった。
神夜は、無言で、家に変える。
「家……そういえば俺の家にもデータ人間がいるのか……」
そんな事を考えながら帰宅した。
「ガチャ!」
見た所神夜の自宅には人がいないのだ。
理由は家に帰らない仕事をしているのだ。そのはずだった。
「おかえりなさ~い!」
神夜は、―――ビクッ⁉―――と体が反応し、緊張を覚えたが、データ人間に危害を加えなければ、何もしてこない事を思い出した。
その事を思い出した時、スーと緊張が解けた。
部屋に鍵をかけてそのまま眠りにつくため、靴を脱ぎ、階段を上がるとそのままベッドに横たわる。
「確かあの子が言っていた、ガイドAIってこれかな……、また後で……、確認してみよう……今日は、眠い……」
神夜は、今までに起きた出来事が、あまりにも衝撃的すぎて、現実世界ではありえない出来事が次々起きていたため、もう起き上がることができないくらい心身ともに疲れていた。
いつの間にか腕に付いているデータワールド特有の端末のシステムから、メニュー画面を開いたまま、睡魔が押し寄せる。
「……さっきの少女に色々……聞きたいことは山程……」
神夜は、少しだけ、このデータで作られた世界が、リアル世界と違う事を受け入れ始めた夜であった。
別の世界に来たことをここでしっかりと自覚してきた神夜。
「そういえば、少女の名前……聞いてなかったな……」
夢の中に思考が溶け込んでゆく。
映画のフラッシュバックのように今日あった出来事が蘇る。
フィルター越しに見ているようなそんな感覚。
当事者のはずが、全然実感がなく、自分の出来事だとは思えない。
―――もう、あんな思いはしたくない……したくない……―――。
データで作られた知り合いの顔だと知っていても辛い……。
そう、かりにデータ人間とわかっても、見た目は完全に、クラスメイトの新城作だったのだ。
その顔めがけて弾丸を打ち込んだ神夜には、荷が重いだろう。
どう考えても高校生には異常な体験だったのだ。
そんな事を無意識に夢の中で考えていた神夜は朝を迎えた。
◇
朝は早かった。だが、気分はとてもよかった。
目覚まし時計がなるのを想定していたのだが、今回は目覚まし時計の設定を忘れて、寝てしまったのだ。
「ヤバ! 学校に遅刻する!」
身支度を速攻で整える。
程度準備ができたとこで、急いで階段を降りる。
「わぁ‼」
そこには、神夜の母親が立っていた。
「おはよう! 朝ご飯できてるからね!」
本来であれば、朝早くから仕事に行っているはずだが……、この世界では、仕事してないのか?―――。
朝ご飯を食べるため、食卓に向かうとそこには、朝からカレー・・・。
実は、朝からカレーは神夜家の定番メニューだったのだ。
「少しは、再現されてるんだな……基準がよくわからん」
そんな事を愚痴りながら、カレーを食べようとする。
そして、夢で見た出来事や内容を思い出していた。
―――一生ウイルスとして、この世界で追われ続ける《ターゲット対象》として、生きていかなくてはいけないなんて……俺は、ゴメンだ―――。
そんな事を思いながら、カレーを口に運んだ。
いつものように美味しそうな匂いがする。
この匂いは、神夜家の秘伝のルーで、作り込まれた絶品料理の匂いだ。
匂いがしっかり再現されている。
いつもの匂い。
美味しいカレー。
カレーを食べる。
味がない……。
味がなかった。
どうやら、データワールドでは、食事の味がしないようだ。
味のデータを再現するのが、難しいからかは、よくわからなかったが、匂いだけが再現された料理。
とても残念に思えた。
その後は、冷蔵庫にある食材は一通り、食べて確認したが、匂いがある程度再現されているようだが、味はなかった。
「これも、味だけがないのか……」
また、珍しい食材は、そもそも触れることさえできない仕様になっていた。
「どうなってるんだ?」
神夜は、今現在、データ人間が大量に集結する場所に、向かわなくてはいけなかった。
なぜなら、データ人間と行動を合わせることで、データワールド内で、襲われなくて済む用になるからだ。
つまり、襲われないための対策ということだ。
何より、落ち着いて暁斗を探すことが出来ることもあり、データ人間とともに、暮らしていく道を選択した事になる。
ここで、問題となるのが、実際に溶け込めるかどうかだ。
何もしなければ、ウイルスとして判断されないようだが、データ人間を1体消した神夜は、既に取り返しがつかないようにマークされているのかと、内心はビクビクしていたが、やってみないとわからない。
夕日のような木漏れ日以外は雲でほとんど覆われて暗い朝の登校時間。
いざ、外に出て、学校の通学路に一歩踏み出してみる。
「おはよう!」
「お……おはよう……」
「暁斗は元気か?」
「おう!……元気だぜ!……お前も元気そうで良かったよ!」
「追うよ! なんか面白いことあれば、呼べよな! じゃーな!」
「またな!」
誰かに話しかけられた。
話をかけてきたのは、たまに通学路で出くわす高校違いの最刃学(さいばがく)。
最刃学とは、高校は違うが中学の時の同級生で、暁斗3人でよく遊んでいたいわゆるいつものメンバーの一人。
学は、超天才で、俺達のような普通の高校生とは、本来は縁がないのだが、その時に流行っていたアニメ好きが影響して、意気投合したのだ。
―――こいつも……データ人間で本物じゃないのか……―――。
なにか、もやもやしながら、やるせない気持ちをとどめ学校に向かった。
「よ!」
誰かにまた話をかけられた。
見覚えがないただのイケメンだった。
「お……おう……」
「何だ! 低ション低めじゃね―か! お前人生楽しんでるか??」
―――誰だ。このイケメンは‼! やけに馴れ馴れしいな⁉ こんなやつ知らねえぞ‼―――。
「いいや……何だ。今日のお前つまんね~の……先行くわ」
「おう……、・・・」
この世界では、なぜか、神夜のことを知っているやつがいるらしい。
どっからどう見ても神夜が知らない存在のイケメン。そう、ただのモテそうなイケメンだった。
―――まあいい、1日だけでも、話を合わせてみれば、ある程度データワールドでの俺の立ち位置と学校の状態が、どうなっているか分かるだろう―――。
その後、神夜は、学校にたどり着き、教室へ入ると、話しかけてきた見知らぬあのイケメンがいた。
―――うわ……こいつと同じクラスじゃん……あまり、関わらないでおこう―――。
授業中、その謎のイケメンは神夜をからかってくる。
神夜の目線が合わない背後からでも、おちょくられているオーラが感じられた神夜は、単純に腹がっていた。
―――うざいな……。うざいが、順応するためには我慢しないとなぁ……―――。
そんな事を考えながらひたすら、従業中意外の休みという休み時間の間は、うつ伏せになって寝ているふりをし続けた。
―――つーか、こいつはなんで俺のことを知っているんだ? 意味がわからんが、襲われないのためだ。我慢。耐えろ、耐えるんだ俺‼―――。
「なんだよ今日のお前やっぱり、つまんねーな~」
―――いつもの俺一体どんなやつなんだよ!―――。
やっと学校が終わり、そそくさと逃げ帰るように神夜は下校した。
「あ~~だり~~つーか、この世界で知り合いとかいるのかよ……。知り合いらしいやつもいたけど……」
疲れが溜まっていたのか、そのまま深い眠りについた。
だいぶ、違和感と、困惑感を感じた神夜の頭の中は、整理がつかず容量オーバーで、パンクしていたのだ。
その、頭に溜まったキャッシュデータをリセットするかのように、眠りにつく。
◇
2度目の朝は早かった。
目覚まし時計がなるのを想定していたのだが、今回も目覚まし時計の設定を忘れて寝ていようだ。
「ヤバ! 学校に遅刻する!」
身支度を速攻で整えあると、ある程度準備ができた所で、階段を降りる。
「おはよう! 朝ご飯できてるからね!」
「おはよう!」
朝ご飯を食べるため、食卓に向かうと、そこには、朝からカレー。定番メニューだ。
「うまい! やっぱり神夜家の味つけのカレーは絶品だな!」
香ばしい香辛料の匂いに、いつも親しんでいるが、飽きることのない美味しい味。
神夜は、朝からテンションが高く、絶品カレーの味に感極まり、舌鼓していた。
《―――データワールド―――》
《―――そこは、平和に暮らすもう一つの世界―――》
「やっべっ! こんな時間だ! ごちそうさま! もう学校行かなきゃ間に合わない!」
ご飯を食べ終わると、急いで玄関を飛び出す神夜。
雲ひとつもない明るい青空が広がる。小鳥のさえずりが聞こえてくる清々しい朝。
「やばい! やばい! 遅刻する! いってきます!」
玄関を飛び出した瞬間、車に引かれそうになって、神夜は驚き一度バランスを崩すが、体制を立て直した。
軽快に走り出す。
「なんだよ! 遅刻しそうなのか! 乗っけてやろうか!」
自転車で神夜を小馬鹿にする同級生で、同じクラスメイトの青衣白夜(あおいびゃくや)。
「うるせ!」
「じゃ! 先言ってるぜ~!」
といいながら、小馬鹿にする態度を見せる青衣はさっそうとペダルをこいでいった。
実は、こんなふざけたやつだが、学年1のイケメンと言われるほど、ルックスがよく、学校1モテ男だ。
「キィー‼」
「あぶね!」
「危ないのはこっちだってば青衣!」
「なんだよ! お前も遅刻かよ!」
「私は、車を待ってただけです! 渋滞しているから、遅れるって! 爺やから連絡が入ってて、今待っている所なのよ!」
「そっか! 遅れんなよ!」
赤坂水紅(あかさかみく)。この美少女は、青衣白夜の幼馴染だ。
この赤坂も青衣と同様に、トップクラスの美形と言われているうちの学校の2トップ。
学校に向かう途中、黒いマフラーを首に巻いた、ひときわ目立つ少女が視界に入る。
銀色の髪をした変わった雰囲気の少女を見かけた。
違う学校の制服を着ていたが、やけに、不気味さが漂っていたので、神夜は、視線をずらして、見ていなかったようナソぶりで、学校へ向かう。
銀色の髪をした少女は、不気味に笑みを浮かべて、笑っていたように神夜には見えた。
「フフ……」
学校の目の前まで来た神夜。
「でもなんで、こんな2人と関わりがあったんだっけな?……」
覚えていない。
神夜は遅刻ギリギリで学校につき、教室へ行く。
そして、いつもどおり、授業を受け、いつもどおり、帰宅する。
「今日も暁斗いなかったなぁ~いつ来るんだよう」
そんな日常が数十日続いた。
―――この時、神夜はすでに仮想世界(データワールド)に順応していた……いや……もはや、取り込まれていたという方が近いかもしれない―――。
次の日も、次の日も、神夜は平和な日常生活を送る日々が続いた。
―――問題が一つ―――。
「暁斗は……いないか……え~と暁斗って誰だっけな? まいっか……」
神夜は、暁斗の存在を忘れてしまっていた。この世界に順応していくに連れ、神夜自身の現実世界がこの世界に置換されていく。
そう、神夜の記憶や精神が、現実世界の上に書き換えられるように仮想世界に変更され、綺麗に置き換えられていく。
違和感なく。
時間をかけて、仮想世界が現実世界に変わっていく。
授業中。
外を眺めていた。
平和な日常を送るたびに、神夜の瞳から、生命の根源エネルギーが薄くなっていくように、瞳の色がだんだん薄くなっていった。
「平和だな~~」
外の背景はキラキラ糸まばゆい光と暖かな陽だまりが校舎に降り注ぐ。
空いた窓から入ってくる風も心地よく、眠気と暖かさが混じり合う絶妙な過ごしやすさ。
なんて心が穏やかな日常なんだとリラックスしていた神夜は、そんな事を思いつつ窓の外を眺めていた。
遠くを眺めている神夜。
視線の遠くの先には一人の少女。
その少女は、学校の窓からよく見える隣の建物の屋上に設置してあるフェンスの上に両足で立っていた。
「⁉」
その少女は、ロングコートを身に纏、コートの端が風に煽られ、バタバタとなびいている。
長いロングヘヤーの少女。
その少女の髪もロングコートと同様、風の影響で斜めになびいていた。
なぜかその少女に見覚えがあった。
そんな事を思い少女を疑問に思いながら、眺めていた神夜に声をかけるものがいた。
「神夜! 聞いているのか神夜……おい! 神夜蒼麻‼ 先生の言葉が聞こえないのかね!」
「わぁ! す……すみません!」
「ページ・・・」
「・・・」
「このページを読まんか! 神夜‼」
どうやら英語の先生に英文を読むよう言われていたらしい。
言われたらしい、と他人事のように神夜が思うのは無理がない。
授業中話の途中で、ほうけて外の景色を見ていたのは神夜だ。
当然のお叱りだったのだ。
その様子を見て青衣は、笑いを堪えるように、教科書で顔をお隠した。肩を上下させていることから、笑っているようだった。
教科書もページ数もわからない。
だが、神夜蒼麻に限定して問題はなかったのだ。
理由は、俺の後ろにいる新城作が、こんなときのために、教科書を貸してくれる予定だったからだ。
なぜなら、神夜は新城作の悩みの相談相手になった代わりに、困ったことがあったら、助けてくれるという、約束を交わしていたのだ。
その中の1つとして、授業中に指名された時、教科書を貸してくれる手はずになっていた。
「わり~な……作!」
「いいよ……僕の相談に乗ってくれてるんだからさ!」
神夜はなぜか頭痛がしてきたが、気にせず、教科書を借りて英文を読む。
実は、神夜は英文が苦手だったが、スラスラ読んでしまった。
周りの生徒や、先生もびっくりしていたが、さほど気にせず着席した。
カラクリは、こうだ。
先読みを得意とする神夜は、いつでも指名されてもいいように、事前に英文を丸覚えしていたのだ。
つまり、教科書がなくても、音読できている状態だったが、読まずに英文を読んでしまうと奇妙がられるので、一応教科書を借りて音読して見せた。
今日の事業の内容は前回の授業で予測がついていたため、予習をしていたのだが、頭は回るが、その他の学習は今ひとつ。
本当に避けたい面倒な授業の先読み以外は何もしないでスルーが神夜の日常だった。
「イテッ」
音読し終えて着席した時だった。
頭に痛みを感じた。
神夜は、事なきを終えたが、音読するまえから、少しずつ頭痛が強くなっていき、声に出るほど痛くなったのは、読み終えてからだ。
謎の頭痛を感じていた。
そんな事を思いながら、また外を眺める。
先程まで、いた少女の姿はもう確認することはできなかった。
その後を確認すると、少しずつ頭の痛みも弱くなり、引いていった。
―――どこかで見たことあるような~遠くてよくわからなかったな~まいっか―――。
そして、いつものように授業が終わり、学校の下校時刻。
神夜の教室は、二階にある。
二階にある教室から、出て、階段で降り、一階にいき、下駄箱で靴を取り、そのまま履き外に出て下校する。
そんな時だった。
校門にもたれかかるコートを着た少女が誰かを持っているように待ち伏せしているではないか。先程神夜が見た屋上にいた少女である。
関係ないので、その場を通り過ぎようとした時だった。
「待ちなさいよ……ちょっと君!」
―――知り合いに無視されているのか、なんだかよくわからないが、関わらないようにしとこう―――。
神夜はそんな事を思いながら、家に帰る道なりに下校。
「ちょつと! 聞いているのかな⁉ 君!」
「ねえ! 私のこと忘れたの⁉」
「足を止めなさい!」
神夜の近くから、少女が離れていくはずだが、小走りで神夜付近に近寄りながら、言葉を投げかけていた。
ここまで来ると誰に話しかけているか明白だ。
「・・・え~と俺⁉」
「そうよ! あんた以外に話せる人間なんていないでしょう? 頭でも打っておかしくなったの??」
「・・・」
いや、頭は痛いが頭は打っていないと思う神夜は、ふと、少女に問いかけた。
「君は俺のことを知ってるのか? というか、人間は他にも沢山いるだろ? 君の方こそ頭がおかしいんじゃないか?」
とんだ頭のおかしい少女に絡まれたものだと思っていた。
「はぁ~~これだから、この世界に来たばかりの人間は面倒・・・」
少女はオーバーリアクションで、海外ドラマのように頭を抱えて下を向く。
そんな少女に冷たい視線で言葉を発した。
「話はもういいか? じゃ、ほかを当たってくれ」
そう言うと神夜はまた、家に帰る方向へと歩み始める。
次の瞬間、神夜の頭上に細長い影。
神夜が上をむこうとした時には、既に遅い。
「ガーン‼」
「イテ!」
少女が刀の鞘ごと、頭部めがけて頭に振り下ろしたのだ。
そのまま、神夜は気を失った。
◇
目を覚ました神夜の目の前には、顔を伺う少女の姿が目に映る。
「・・・」
「やっと起きたわね」
「何があったんだ⁉ 俺は寝ていたのか?」
「そうよ、君は、データ世界に順応するために、思考までデータ化していたのよ」
「思考のデータ化? ・・・そういえば、なんで俺は日常生活を送っていたんだっけ?」
「それに、新城作が……俺が……この手で」
「あ~それ、モブキャラは、何度死んでも復活するから」
「え⁉」
「無限に復活するの」
「まじ……」
俺のクラスメイトに向けた決意の銃弾には、あまり意味のない行為だったようだ。
「ほら、また、友達を撃ったわよ。これで21人目」
「え⁉」
なにか左手に硬いものの感触がある。
そんな違和感を覚えていた神夜の手には、拳銃が握られており、その引き金を少女が引いていたのだ。
つまり、勝手に神夜の手で、クラスメイトをバンバン打ち消していたようだ。
「何やってるんだよ‼」
「何って君を助けたのよ! ほら、見なさいよ。君の記憶も、蘇ってきたでしょ?」
《―――そういえば、この少女のことを俺は知っていた―――》
「こうでもしないと君は、人格までデータに汚染されて、戻れなくなっていたわよ。感謝してよね」
「そうだったのか・・・ありがとう・・・」
神夜はいつの間にか、自分がデータワールドに取り込めれていたことを理解すると、自分がどれだけ危険な状態にあったのか何となくだが理解した。
「バン!」
「バン!」
「バン!」
「てっ! もういいだろ‼」
《ウイルス確認。敵対行動を確認。周囲のデータ人間はウイルス数値の多いターゲットから排除を開始してください》
「ピ―――! ピ―――! ピ―――!」
「言ってるそばから! また見つかって追われることになるじゃないか!」
「やりすぎたかしら……」
霧咲は根本的な問題を思い出し、その怒りの矛先を神夜へと向ける。
腕を組み威圧感をオーラの様に体から放出。本来はそんな野見えないはずなのだが、目の錯覚なのであろう。それか、この世界の影響を受けているのかもしれない。
「いや……根本的に君がデータワールドに順応したことが原因でしょう! こうなるのは日時用茶飯事なのよ! いい加減この世界の暮らしになれなさいよね!」
キリッとした眉と釣り眼を細めながら神夜をにらみつける。
だが、その表情を見ても、神夜の言い分もあるようでふてくされたように言葉を吐く。
「さっきまで、順応してたのに……」
「記憶がある順応の仕方じゃないと意味ないでしょう⁉ 君……本当に馬鹿なの??」
正論の罵倒に反論すらできない神夜。
「うるさいな! 今は逃げるのが先決だ!」
「そうね。私に付いてきて!」
「あぁ、わかったよ」
少女と神夜はデータ人間の追手が追尾を巻くため、電波を遮断できる工場に逃げ込んだ。
神夜がいた学校の近くの工場には、例のクリスタルが設置されていない場所があり、その場所にいればデータ人間も追ってこれないとされている。
つまり、こういった工場が度々あり、少女は常にこういった安全地帯をマップに印しているらしい。
「はぁ……はぁ……」
「戦えないのは仕方ないは……でも、この世界の仕組みくらい勉強しなさいよね!」
「そんなことはわかってるけど、そもそも勉強できるマニュアルなんてどこにもないだろ?」
「えっ⁉ マニュアル読んでないの?」
霧咲は予想もしなかったと言わんばかりに「キョトン」とした表情で目をまんまるにしながら神夜を見つめていた。
先程の怒りが嘘のような穏やかな表情の霧咲。
神夜もまた、先程の意見の食い違いを忘れたかのように、素直な表情で少女に問いかけた。
「マニュアルあるの?」
「その反応読んでいないのね……まあいいわ……教えてあげる」
そう言うと少女は右手を前に出し、自販機のボタンを押す時の手の形を取り、なにもない空間で人差し指を上に上げてから、下方向に素早く移動させシステムのメニュー画面を開いた。
つまり、この動作を行うと、腕についている端末のが動きを検知して、メニユー画面を開いてくれるようにできているらしい。
その画面の左端には、左と右のどちらでも作動するような設定になっていることが確認できた。
つまり、メニュー画面の開き方から、自分好みのカスタマイズができるようだ。
「いい⁉ ガイドAIを操作すると、このAIナビが開くのよ。これ、教えたはずなんだけど覚えてないの? まぁ・・・いいわ。はじめはこれを見てからテキストを読んだほうが早いわ」
そう言い、空中に表示された《ガイドスタート》を押す。すると、複数の粒子が2つの塊に変換されて人形の少年と少女に変化した。
「赤と青のフードをかぶった少女と少年が、この世界のことを簡単に教えてくれるわ。細かい部分はテキストマニュアルに書いてあるから」
「青いフードをかぶった銀髪少年で、戦い専門情報を学べ、赤いフードをかぶった金髪少女が、環境専門の情報を教えてくれるのよ」
複数の操作をして、いろいろな画面が閉じたり、消えたりしており、高速処理をするかのように、ある程度表示して、見せた。
「はじめは、戦いよりも環境を知っていったほうがいいわ」
「先にAIから学んだほうが会話している感じでわかりやすく、すぐに理解できるよ」
「わかった」
「AIで、なれてきたら、分厚いマニュアルを読むと良いわ」
「ひとまず、これをこうして……」
「ピッピッ……ブオーン」
《こんにちは、AIナビ・リアリティーガイドモードへようこそ》
「うわぁ!」
《私は環境認識情報を中心に解説するよ! 僕は戦闘技術情報を中心に解説するよ!》
神夜の目の前に、人形AIが出現して、話し始めた。
見ての通り、データ人間や普通の人間に見えるけど、バーチャル内のバーチャルといった感じで、プロジェクターのように投影されているだけではあったが、常にくらいこの世界では、まさに存在しているかのように感じられるほど、リアルな作りになっていた。
やはり、リアル感が出るのは3D投影されているからであろう。
データ人間と同じく人の容姿をしているため、神夜は驚いた。
全身赤いロングコートのフード付き金髪少女に目線を向けると、丸いロードゲージが出てきて視線を一定の間固定することで、起動する使用になっているようだ。
金髪少女が喋り始める。
《お兄さんの情報を取得しました。この世界のことを知りたいなら私とおしゃべりすることで、情報を取得できるよ!》
次に、全身青いロングコートのフード付き銀髪少年に目線を合わせて、ロードを行う。
《戦闘能力が低いようですので、僕から、情報や戦闘知識を取得しましょう》
金髪少女の方は、ロングの髪の毛で、活発な元気な少女という印象で、銀髪少年の方は、癖毛で毛先がツンツンではあるが、髪は長めのクールでけだるそうな表情をしている。
AIとはいえどちらとも感情があるかのように、呼吸や瞬き、体の揺れや、仕草など、実際に底にいるように感じられた。
《私達がこの仮想世界(データワールド)の様々な疑問を解決してあげるよ! 何でも効いてね!》
「なるほど、じゃぁこの世界は何なんだ⁉」
《この世界は、データワールドだよ!》
「そうじゃなくて……えっとなんて言えばいいんだろう……」
伝え方に困り考えているとガイドAIが話しかけてきた。
《聞きたい内容がうまく伝えられない場合は、浮遊している白い玉をタップしてね!》
ガイドAIの言葉の後に、白い球体が金髪少女の周りをゆっくり浮遊しながらぐるぐる回っている。
「これを押せばいいのかな?」
神夜が押した瞬間ピアノの鍵盤のような白い塊が、複数現れ、少女の周囲を浮遊している。
その鍵盤の1つを見ると《仮想世界とは》や《人体粒子化とは》などと、記載されており、そのうちの1つである《データワールドとは》をクリックしてみる。
《ブォーン》
先程少女の周囲の鍵盤が急に大きな円になり、少女と神夜を囲むように広がりだした。
周囲に広がっている無数の鍵盤は、横から縦に変化しており、惑星の模型のバーチャルシステムのようにゆっくりと回転していた。
そして、クリックした鍵盤だけが、神夜の目の前によってきて、《データワールドとは》と記載された鍵盤だけが、大きく広がり、そこに文章が現れた。
その文章を音声ガイドのように少女が言葉を発した。
《データワールドは、仮想世界と言われている世界。現実世界かと異なり、物体や生命体など、すべてのあらゆる個体、液体、気体などがデータで構成された世界。多くは粒子というなのナノマシンで構成された細かいシステム粒子を何億、何兆と組み合わせることで無限の創作が可能になった技術で構成された世界をデータワールドといいます》
神夜は金髪少女が読み終えたのを確認すると、画面に表示されている黒い戻るボタンをクリックして、記事のようなテキストを終了した。
それと同時に、円として広がっていた白い鍵盤が中心の少女に集まり始め、また至近距離で、くるくると回り始めた。
だが、先ほどとは違いランダムで動きが変わるようだった。
鍵盤は波のようにゆらゆらと揺れていた。
初めの動きはただ首位をくるくる回っていたが、今回は波のように不定期のリズムで回っているようだった。
このような要素を見ていると、やはりゲームのような世界だなと、再びこの世界が仮想世界だということを実感し直すきっかけにもなった。
《次は何が知りたい?》
ガイドAIだとわかっているが、とてもリアルな仕草で神夜に効いてくる。
「ここがゲームだったら、楽しめたのにな~あっ……そうだ、この世界で死ぬとどうなるんだ⁉」
総独り言をつぶやきながら、金髪の少女に問いかけると少女は満面の笑顔で答えてくれた。
《人体もデータ化しているので、仕組み的には死なないですが、肉体は粒子化しているため、この世界で体が、なくなればもとに戻りますが、精神的なダメージは現実世界と何ら変わりません。なので、精神が耐えられなければ体も崩壊するので戻ってくることはできません》
「つまり⁉」
《実質的には死と同じ状態になり、死にます》
「……」
神夜は、一瞬恐怖を感じたが、その後ろで効いていたのか、青いフードをかぶっていた方の少年が、言葉を発してきた。
《でも、この世界でダメージの許容範囲を拡張することによって死という状態を限りなく減らす方法があるよ》
「それは、どうするんだ⁉」
《訓練だよ》
「なんの?」
《痛みに耐える訓練。でも、大丈夫だよ! 設定してくれれば僕がプレイヤーにダメージを与えていくことだってできるよ》
「まじか……」
《気が向いたら僕と対戦しよ! 待ってるよ!》
急にクールだった喋り方のガイドAIが年相応の無邪気な表情を見せた。
つまり、戦闘訓練を行うことにより、戦闘能力を向上させていくことで生存確率がアップするのは当然だが、攻撃を耐えることで徐々に痛みのダメージに体制ができるということのようだ。以外になかったシステムを神夜はすぐに理解した。
「なるほど、試しにやってみるかぁ」
そう思っていた神夜は、先程の金髪少女と同じ手順でメニュー画面を開くと戦闘訓練ボタンをクリックした。
少女とは違い、少年のほうが黒い鍵盤で統一されているようだった。もちろん初めの球体も黒色で統一されていた。
《戦闘準備完了》
《訓練用パラメーター表示》
《エフェクトオブジェクト生成》
《5秒後に模擬戦闘訓練が始まります》
ナレーター機能の音声通り、システムが起動し戦闘が開始された。
戦闘が、開始したのと同時に、凄まじいい勢いで、少年はロケットダッシュを決め、神夜の体に一撃を加えた。
《ピポンッ!》
想像もしていなかった可愛らしいエフェクト音がなりHPが減少した。
ダメージが25と記載され、100のHPが削られていく。
元々緑色のゲージで、どんどん減少していったが、減収する時は一度食らった分のゲージが赤くなり、その後少しゆっくりと緑色に回復していく。
この時にもう一度ダメージを食らうと、赤ゲージが一気に消えもう回復しない状態になり、緑ゲージでもないカカゲージでもないHPの空の空間が生まれる。
この様にゲームの体力ゲージが0になると試合終了になるらしい。
その後は先程生成した剣を使い、少年に斬りかかるが、少年の剣さばきが、とてつもなく上手全ての攻撃を弾き返される。
それどころか、カウンターを狙われ、速攻HPが0になる。
「クソ~つえ~……もう一回だ!」
《では、今度は僕が使う武器はバターナイフで戦えるけど、やってみる? こうすれば近さの差を埋めることができるよ》
あまりにも勝負にならないことを理解したのか、少年はパンにバターを塗る用途を武器にして戦えると行ってきた。
神夜は少し、抵抗があったが、相手はシステム、人間ではない。
恥じらいを捨てバターナイフで賽銭することにした。
「じゃ……それで……」
「がぁぁ‼」
神夜は5選中5敗という結果になった。
剣から、バターナイフに変更してもなお少年の圧勝にはゆるぎがなく、その戦闘ですきを突くことすらできなかった神夜。
そう、少年は強かった。
ガイドAIの役割とは思えないほどの強さに感じた神夜は1つ聞いてみた。
「君はこの世界ではどのぐらいの強さなの?」
「僕はこの仮想世界(データワールド)どでは、普通の強さとして登録されています。なので、僕に勝てないということは普通より弱い値になります。やはり戦闘能力が通常の3分の1程度なので、もっと訓練をして強くなりましょう」
《プレイヤーの精神ダメージが戦闘不可能数値まで達しました。リセットしてください》
「わかった……でも、今日はここまでにしてくれ」
《戦闘を終了するにはこのボタンを押してね》
近くで見ていた少女の付近に戦闘終了画面が浮遊している。
そのボタンを神夜は押した。
こうして、学びの手段を得た神夜は、それから度々ガイドAIを開き、AIナビで環境情報を解説してくれる赤いロングフードコートのような格好をした金髪少女から、いろんなデータワールドの知識を手に入れた。
その後はというと、何かと助けてくれるあの黒髪ロングの刀持ち少女と、別れる後、ガイドAIメッセージで登録しあったことで、いつでも連絡が取れるようになっていた神夜。
この連絡先の交換は、データワールドに来て知らない間に付いている端末のIDをお互いに登録することもできるようだ。
方法は、登録専用画面を表示させてお互いに腕を重なるように合わせるだけで交換できると記載されていた。
メッセージが送れるかどうかの動作確認を終わらせると、メッセージのやり取りを開始。
その結果、神夜を助けた時に、少女が盗まれていた物を探す約束を交わした。
約束は交わしたとはいえ実は、あの少女の名前をまだ効いていなかった神夜。
これだけ、様々な状況下で行動をともにしたのにも関わらず、名前を聞けていなかったのだ。
普通ならありえないことなのだが、出会った状況が衝撃的過ぎたのだ。
名前よりもこの世界で生き延びる事が優先していたため、いろんな事を終えて、やっと名前を知りたいという普通の欲求が芽生えた。
「そういえばあの喋る鞘を持っている少女の名前……、まだ聞いてなかったな……。なんて名前だろう……」
色々話していた時に、この世界の探索も兼ねて、次の日に待ち合わせをしていた神夜。
「その時に聞けばいいか~」
神夜は今日も環境情報と戦闘訓練でくたくたになっていたため、そのまま眠りについた。
◇◇◇
□ 待ち人と探し人:神獣との出会い
仮面の女の手がかりを見つければそれが捜し物の手がかりになると考えた少女。
手がかりを探すために神夜を予備一緒に何か手がかりがないか探し始めた。
踏切や近くにある草むらなどを中心に探し始め、徐々に夕方になるに連れ、遠くの範囲である道路や遠くの広い草むらなど、様々な事を探し始める。
やがて、仮想世界は夜になり、2人の視界が徐々に暗くなる。
神夜は少女と距離を取り、別方向の草むらで手がかりを探している時だった。
草むらの向こうから、小さな2つの丸い発光体がこちらの方へ飛びかかってきた。
「危ない‼」
知らない間に、少女と喋る鞘は近くに来ていたようで、突然訪れた神夜のピンチに居合わせていた。
少女はとっさに両足から青白い光を放ち、神夜を抱えて上に飛びあがった。神夜はあまりの高さに驚き叫んだ。
「たったけ――‼」
少女は近くにある民家の屋根の上に着地すると、神夜を屋根に降ろし、暗闇の中へと屋根から飛び降りた。
この世界は、夜か朝かわからないが、今回は本当に夜の時間帯で、いつもより闇が深い。
神夜はとっさに少女を目で追った。
神夜は、とっさに、持っていたスマホで、ライト機能をオンにする。
薄暗い背景の中でスマホの光を当てた丸い部分だけがはっきりと見えるようになり、その光の円を中心にぼんやりと周囲が照らし出される。
少女がたどり着いた先には、スマホのライトで照らされた猛獣がいた。
とてつもない大きな狼が、歯茎を剥き出しにして、今にも噛み殺そうと言わんばかりの眼光。
少女をじっと、睨んでいた。
その狼は、毛並みが真っ白で目は青く、まるでどこかの守り神にも見えなくもない。そのくらい、強そうで馬鹿でかい狼だったのだ。
神夜は、そんなのんきに観察している場合じゃない事にすぐに気付いた。
何せ、その守り神にも見える、とてつもない大きな狼の目の前で、無防備な少女が棒立ちしているからだ。
神夜は叫んだ。
「おぃ! 逃げろ―! 今度こそ死ぬぞ! お前!」
今回ばかりは、少女の耳に届いていた。
聞こえていたが、大きな狼を目の前にして、返答する余裕はなかった。
少女は両手を前に出し、両手から青白い光を放つと、両足からも青白い光を放ち凄いスピードで背後を取り、下から両手で狼の腹めがけて突き上げた。
「ギャオーン‼」
狼が宙を舞った。
神夜は、その光景を見て思い出した。
そうだ、この少女は電車だってふっ飛ばせるような少女だったという事実を。
神夜はひとまず、この場は大丈夫だと確信した。
少女は続けて、攻撃を一方的に繰り出した。
空中で今、何が起きているか、神夜には早すぎて、目で追うのがやっとだった。
「ラスト! これで終わりよ!」
少女は宙に浮いている状態で、足から、青白い粒子エネルギーをためて、豪快に蹴り飛ばした。
狼は、体を上手く使い上体を起こし、鋭い爪を付きたて、その爪で道路に爪痕を残した。
その音はとても大きな音で、近所迷惑どころの騒ぎではない。
「ガッガ――ギギギッ」
だが、ここに居るのは、青白い光を放つ謎の少女と、このとき何をすればいいか分らない神夜。そして、急に飛び出してきた馬鹿でかい狼しか見当たらなかった。
「あの電車を止めた少女の蹴りをくらって、まだ、ピンピンしているだと……」
神夜はもちろんのこと、少女までもが驚いた。
「何よこの化け狼。私の蹴りが効かないなんて、どんな体してるのよ!」
少女は青白い光をドンドンと大きくしていく。
数段大きくなった光は、周囲のもの全てを照らしだした。その光からは、綺麗な粒子が満ちていて天使の翼にも見えた。
その翼のおかげで、少女の体は地面から離れ浮遊していた。
その光景は、まさに、天使。
少女は言った。
「君! ここから早く逃げて……。コイツは化け物よ。私がくい止めるから早く逃げて!」
―――でもこんな化け物相手に、女の子一人を置いて、そそくさと、逃げるようでは、男として……いや、人としてどうかと思う―――。
だが、神夜が援護に加わったとしても、果たして何ができるというのだ。
無力な神夜が少女の重荷になるだけでよけい追い込まれる。目に見えていた。
冷静に考えてみるとこの場から神夜が離れる選択肢が最も適切であろう。
その少女が言ったことは正論だった。
そんなことは分っていた。
でも……悔しい。
「えっ! しまった!」
その時だ。
狼の足の下にノートPCが落ちていた。少女はそのノートPCを見ると急に慌てだし狼のふところへと走っていった。
実は、度々少女が、青白い粒子を放ち翼や足に纏う粒子やら、神夜に渡した拳銃などは、このノートPCを使って生み出していたのだ。
つまり、個体を生成したら、問題ないのだが、粒子やデータの常に出力するような処理の場合は、PCを経由してエネルギーを放出しているため、このPCが壊されてしまうと大幅に力が落ちてしまうのだ。
「バリッ!」
「苦労して改造した私のPCが‼ 書き換えるの大変だったのに……」
狼は足元のノートPCを踏みつけ、それと同時に少女のスピードが減速し、手と足にまとっていた青白い光が消えていった。
それと同時に、天使のような綺麗な翼も、消えてしまった。
そのまま少女は、地面に降り立つと、すぐさま戦闘態勢に入り、腕をクロスさせガード体制に入った少女。
大きく鋭利な爪で勢いよく襲いかかる。
赤黒い粒子が切り裂かれた部位から勢いよく吹き出した。
「キャー!」
少女は、空中に吹っ飛び、そのまま硬い道路に叩きつけられて、少女の服は狼の爪で切り裂かれた部分が破れ、そこから赤黒い粒子が飛び散る。
神夜はすぐさま、屋根の上から一番落下距離が近い所を選び飛び降りた。
脚に衝撃がきたが、そのまま少女に駆け寄った。
「おい……おい! しっかりしろよ! なぁ!」
少女はさっきのダメージで気を失ってしまったのだろう。
目を閉じたまま「ピクリッ」ともしなかった。
神夜はとっさに少女を背中に乗せ一度狼の方に視線をやった。
先程の凛々しい姿とは裏腹で、とても華奢な少女を背に、神夜は狼の足元にあるノートPCを見て悟った。
この少女の力の光(源)は、このPCによってもたらしていると理解すると……。
もはや狼にはどちらもかなわない事を理解した神夜。
だが今は目の前の狼を何とかしなければ、青白い光を放つことも、命が助かる保証もないようだ。神夜は当然こんな馬鹿でかい狼を見るのは初めてで、怖かったが落ち着いていた。
なぜなら神夜はそれと引きを取らないほどの恐怖を、電車や自分自身の身でもう味わっていたからだ。でも何もできやしない神夜にはこの二つしか選択しが無かった。
一つ目は、このまま少女を背負って力の限り突っ走り逃げるか、それとも……もう一つの……とは……。
「よおっ! 白い狼! ここは見逃してくれないかな~……」
「……」
「……」
……馬鹿だ。俺……―――。
そう、2つ目の方法は話をして説得……とっさの判断だったため頭が回らなかったのだろう。
「何狼に話しかけてんだ。もし答えたらどうするんだよ~! てっ、答えるはずないだろ!」
神夜は、テンパっていたのか自分でボケ、自分でツッコミを入れる。
神夜は早くこの場から少女を安全な所へ連れて行こうと、必死で考えた。それがこの結果だった。だが、その直後、重みがあり、体に響いてくる重低音で貫禄がある声がどこからともなく、聞こえてきた。
「……馬鹿だなぁコイツ……ワシの言葉が人間に分かるはずないだろ~ワシは聞こえているがな」
突如と聞こえてきた声はとても低く重みのある声だった。
「えっ! 今……誰が喋ったの⁉」
「おっ、お前……聞こえてんのか?」
「……目の前は白い狼しか居ないけど~どこだ~?」
「ここだよ……ワシしか喋ってないだろぉ! 目の前のしぃ! ろぉ! いぃ! 馬鹿でかい狼だよぉ、小僧」
「お、お……狼が喋った⁉」
「おぉ……おめい、やっぱりワシの声が聞こえてんのか~! ガッハッハ~久しぶりだぜぇ~ワシと話せる奴はよぉ~」
神夜は驚いた。
だが今となってはそんなに驚くほどではない。今の神夜は暁斗の一件いらいから、もう何度も凄いことが起きていて、こういう事には体勢が付いてきているからだ。
そしてこの狼は見た目よりあまり怖そうではないし、その声は老いた狼の声、つまり《老狼》だった。
「こんな所にワシと話せるやつがいたとはなぁ。愉快、愉快!」
「愉快ついでに……できれば、見逃してほしいんだけど……。駄目かな⁉ いや、見逃してください‼」
「ガッハァッハァッハァッハァッハァッハァッハァッハハハ――――‼」
急に奇妙な声で、笑い始めた。
狼は先ほどまで感じなかったもの凄い殺気を放ちだした。
その殺気だけで腕が噛まれた様な錯覚におちいった。
――今のは――幻想か――。
その痛みを感じていただろうと思われる腕は、その殺気の強大な幻想に打ち勝つことはできず、現実に戻ってもなお激しい激痛が襲ってくる。
神夜は激痛で動かない腕を必死で抑えた。
「お前、その小娘の何だ? 付き合いが浅いのなら、ここに置いていけ」
神夜は狼から放たれた殺気で声が出なかった。
「……」
狼は手を抑え、言葉も出なくなった神夜を見て飽きれたのか、夜空を見上げて何か語り始めた。狼は自らの過去を語り始めた。
「ワシは、2000年以上生きている獣の神だ……つまり……神獣……」
そう語ると、続けて語り始める。
「存在の痕跡をくらわないと、この体を維持できないのだ! だが、なぜかこの世界は、人を食っても食っても、存在の力を満たすことができない。
「なんだって……」
「そうだ……人間には悪いが、ワシには供物として存在の力が必要なんだ」
「存在の力……」
「その女からは、膨大な生命力の力を感じる。つまり、食いたくてしょうがないんだよ……ガルルル……すまんが食わせろ」
「なるほど、食わないで済む方法は無いのか⁉」
「1つだけある」
「それは?」
「契約だ」
「だが、そんな事はどうでもいい! やっと見つけたんだ! 食っても問題ないだろう!」
先程まで、食べることしか頭にないと思っていた狼の雰囲気が一瞬にして変化し、恨みのようなどす黒いオーラを感じた神夜。
「⁉」
「何年も前に、その女は急にワシを斬りつけてきた卑怯者だよ……。その時は、コテンパンにやられたもんだ。そんなやつは死んでも問題ないだろう」
「それは本当なのか⁉」
「私は基本的にオーラの強さで識別している。間違いなく、その膨大なエネルギーをその少女から感じるぞ」
神夜はそんな根も葉もない白い狼の話をうのみにできるわけがない。
―――第一このそんな事に縁のなさそうな、少女が神夜を助けてくれたんだぞ―――。
近くにある少女の寝顔を見て、神夜は今まで起きた出来事や、少女に助けられた過去の出来事を思い出す。
―――この少女が……そんな事が出来るわけがない―――。
と、自分のサポートをしてくれている少女が、そんな事をするようには見えなかった。
―――でも、もし仮に神獣と名乗っている狼の話が本当であれば……俺は……―――。
神夜は出会って間もないし、それだけしかこの少女に関しては知らないのだ。そう思うと、今背中に背負っている少女が、急に恐ろしく感じられた。
その話が終わると気を失っていたはずの神夜の背にいる少女が口を開いた。
「夜魅だわ……」
「夜魅だぁ? 命が惜しいからと言って、罪を嘘で消す気かなぁ⁉ 小娘さんよぉ……」
「夜魅⁉」
少女は自分の袖を破り、自らの傷口を止血しながら話し始めた。
めったに居ないと狼は言ってたが、少女も狼の声が聞こえるらしい。
「私の先祖で、不老不死の力を手に入れた夜魅よ」
神夜はその言葉を聞いて思う。
―――そうか……この少女がリアル世界(現実世界)の年数で500年だ……普通の人間ならもうこの世にはいない……。少女の言うことが正しければ不老不死の力を持つというその夜魅なら、説明がつく―――。
神夜はそんなふうに感じていた頃、狼の鋭い目つきが更に鋭くなり、少女を睨みつける。
狼の眼光を迷いのない瞳で見つめ返す少女。
そのまま凝視した状態で少女は話し始めた。
まさに、お互いの様子を伺うかのように。
「不老不死の力を手に入れたのは銀氷夜魅(ぎんひょう よるみ)……。霧咲家の中で最も悪名高いと聞いたことがあるわ……・・・」
そう言うと、少し間を開けて語り始めた。
「私は幼い頃、先祖の歴史が記載されている書物を見つけたの……」
「書物⁉ そんな都合のいいような内容など、ワシの敵意を払拭するでまかせだろう」
「本当なのよ、霧咲家の歴史の書物を偶然見つけて読んだことがあるわ」
白い狼はその話を認めないと言わんばかりの表情で凝視し続けている。
だが、少女はためらうことなく、話を続けた。
「私の祖先は人斬りをして生活していた暗殺者《名称:ウィキッドアサシネイ》と呼ばれていたと記述されていたわ」
「お前が、その暗殺者なのだから知っていて当然だろうなぁ」
白い狼は食い気味で少女の言葉に重ねて発言する。
「その最初の犠牲となった男が芥川最月(あくたがわ さいげつ)つまり、悪魔狩りのトップであり、悪魔狩りの司令塔でもあった貴方の元主よ」
少女は総言葉を発すると狼に同情の眼差しを浮かべた。
「そのワシの主を殺したのはお前だろう‼」
狼は感情を抑えられず、足を前に進ませ、先ほどまで抑え込んでいた感情を爆発させた。
狼の暴言にも屈することもなく少女は更に話を続けた。
「芥川最月の目的は悪魔を倒し人間の命を多く救うことを使命としていたみたいだわ」
だが、屈せす語り続ける少女の姿を確認すると再び理性で自らの怒りを抑え込んだ狼。
しかし、一旦怒りを顕にしたこともあり、落ち着きがなくなり、その場で足を上げたり下げたり落ち着きがない。
怒りの行動とは違い苛立ちを抑える行動に思えた。人間で言うと貧乏ゆすりのようなものように感じた。
「その通りだ。ワシの主は人間の中でも本当に立派な人格者であった」
自らの苛立ちを抑え込むのと同時に自らの言葉で内情が徐々に変化。
主を思い出したことで、怒りよりも寂しさが狼の表情から読み取れるようになった。
それだけ主のことを大事に思っていた存在なのであろう。
神夜と少女は狼の表情から内情を察することができる。
「そう……」
少女は狼の感情に同意するようにゆっくり目線を下に向けた。
「そうだ、主と一緒に旅をした思い出は今でも頭に約付いている」
「大切な思い出なのね……」
「しかし、その記憶の最後は主が女に殺された光景だ……。
「その人が私だといい太陽だけで、私はそんな昔には……」
少女の話途中にも関わらず、狼は食い気味に少女の言い分をかき消し、語りを続ける。
「はっきり覚えているよ……その女のオーラがお前とそっくりなのだよ。小娘」
白い狼の言葉を聞くと、しんみりした表情からキリッと顔つきが変わった少女。
「貴方は今から500年前にしか芥川最月を殺した顔を見ていない。私が夜魅と偶然似ているのは銀氷夜魅の遺伝子を受け継いでいるに過ぎない。それに、私の容姿が5年も経てば違う顔つきになるわ……つまり、外見が似ているだけよ……貴方が探している夜魅じゃないの……」
「馬鹿な事を言うな。小娘……。人違いなどと‼」
少女の言葉は説得力があったのか、白い狼は何も言わずに睨みつけているだけだった。
いや、違う、先ほどと違い歯を食いしばっているようで「ギシギシ」と小さく音を立てていた。狼は先程よりも大きな声で少女を威嚇するように喉を鳴らした。
「ガルルルル‼」
「!」
少女は先ほど見せなかった殺気を狼から感じ、一歩足を引き構えの体制に入る。しかし、少女は同情の眼差しを浮かべて狼の瞳を見つめている。
やはり、狼の貫禄にビビっていたことが今ならわかる。
とはいえ、少女はそれでも狼の瞳を凝視して語りかける。
「信じられないけど……事実なの……人違いの証拠に、髪の毛の色が違うでしょ?」
狼は、少しだけ説得が聴いたのか悔しそうに、牙を剥き出しにして喉を震わせた。
少女は先程までとは違い、穏やかな表情を見せた。
狼の威圧感が薄れたためだ。
その姿を確認した少女は刀から手を話し、再び対話を始めた。
「幼少期の頃に、一度だけ、祖先の不老不死の謎を解明するため人体検査を私の父が行なっていた頃があってね。今の見た目とその頃の祖先がちょうど同じくらいに見えると思う……」
少女はボロボロになっている服のポケットから、銀色の髪の毛を手のひらに載せ狼に見せた。
「信じたくないと思うけど、私があなたの敵ではないということを証明する証拠があるのよ。あなた、確かオーラが見えるのよね。この銀色の髪の毛の色とこの髪の毛から出ているオーラを見れば人違いだって事が分かると思うのだけれど……」
少女は人違いでこんなひどい目にあったのかと瞳に水滴をためて、眉を上げ、目をカッと開きながら狼をじっと見る。
狼はその銀色の髪の毛を見るトタン態度が一変し、少女に対しての敵対心が消えたように見えた神夜。
「確かに、オーラは似ているが……少し異なるな……似ているのは血族ということか……ガァルルルルルル……人違いだというのか……」
神夜を助けた前の戦闘で青い鬼の仮面がそのしていった髪の毛だ。つまり、あの時の少女によく似た女がこの狼の恨みを晴らす相手ということになる。
狼は一人で言うと、神夜と少女の顔を交互に見る。
恐らく敵ではないことを再確認しているのであろう。
そんな時だ。
黒いバラの花びらが空から降ってきた。
「!?」
「⁉?」
「‼!」
その黒バラの振り始める先を見ると、花びらを撒き散らしている人物が民家の屋根の上に確認できた。その人物の顔には仮面。
そう、あの時出くわした《青い鬼の仮面をかぶった女》だ。
その女が高い民家の屋根に、佇んでいたのだ。
白い狼も少女もその気配に気づかなかった。つまり、かなり隠密能力が豊富ということに一瞬で理解できる。
とはいえ、狼も少女も気づいた瞬間に一瞬で戦闘態勢に変わっていた。
少女は黒いバラの花びらを手に取る。
「ビリッ!」
「チクッ」と指すような痛みが少女の触れた指先が傷んだ。
青白い電気が指先に流れ込んだのだ。つまり、静電気だ。
だが、その静電気の電流が流れた腕には端末機器が付いており、その画面には【《報告》探知電流を確認】と記載されていた。
その表示を少女は確認して理解した。目的は何かを探しているということに。
つまり、この黒いバラは探知を目的とした機能を備えているただの花びらで、攻撃ではない。
「探知電流……私のプラチナを奪ったのが目的じゃなかったの⁉?」
「フフッ……またあったわね」
少女は険しい顔になり、青い仮面の少女を睨みつける。
つまり、この黒いバラは何者かを探すためにばらまいている事になる。
目的は分からない。
しかし、少女には好都合だ。
理由は、以前盗まれたモノを取り返すことができるからだ。
そんな中、神夜だけが驚いた体制のままで、周囲の黒いバラを避けている。
「わぁ!」
これが当然の反応であろう。
そう、普通の人間であればありえない状況にびっくりしてあたふたするのは当然のこと。
それを横目で確認した少女は端末の表示を見せて言葉を投げかけた。
「大丈夫よ! 攻撃じゃない‼」
その一部始終を屋根の上から観察していた青い仮面の少女は、がっかりした様子で言葉を発した。
「ここには……いないようね……」
青い仮面をかぶった少女がつぶやくと同時に、狼は牙をむき出しになり、今にも飛びかかる寸前といった気迫を醸し出し、喉を鳴らしていた。
「ガルルルルル!」
「おや……魔獣……がこんな所に……」
「貴様‼ 主を殺した時の女のオーラを感じる‼」
狼の瞳には少女と似たオーラを感じるらしい。
また、主の敵のオーラと同じに思えたらしいのだ。
つまり、少女の話は正しく、恐らく仮面の女は隠密能力が高いことから例の「暗殺者」なのであろう。
「魔獣かしら? なんでこうも初対面なのに好戦的なのかしら……」
「貴様‼ 思えていないのか‼」
「もしかして、誰か家族でも殺されたのかしら? そうだったら、ごめんなさいね……貴方のお友達か家族? 覚えてないわ。いちいち覚えてる暇なんてなかったのよう……あの時は……」
その言葉を聞いた狼は、体の毛並みを立たせた。
赤いオーラを体中にまとい、筋肉質な後ろ足で民家の屋根まで飛び上がり、青い仮面の少女の目の前に着地した。
「やはり、貴様だったのだな! 女‼」
「殺した相手なんていちいち数えてられないわよ……まぁ、魔獣を連れている人間は少数だったけど、それでも……ね……」
「芥川最月(あくたわが さいげつ)という名だ! 覚えていないとはいわせないぞ! 女!」
狼は鋭い牙を歯ぎしりしながら、今にも噛み殺すような気迫で言葉を発した。
「魔獣の一匹や二匹覚えている方が異常じゃないの? え~っと「なんたらさいげつ」って人? 覚えてないな―そんな人間、殺しちゃったかもねぇ~」
一瞬にして、狼の瞳は充血。
真っ赤な瞳に変化し、青い鬼の仮面の少女に襲いかかった。
「バッ!」
「魔獣はこれだから、兄さんの時も……こうやって魔獣が襲いかかって殺したのかしら……」
先程まで声はゆったりしていたが、この言葉を発し終えた女の声にはなにか一筋の線が通ったようにキリッとした口調に変化した。
そうつぶやいた少女の左手には黒宝石(こくほうせき)が握られており、黒宝石を上に持ち上げた。
「もし、兄さんを殺した魔獣があなたならいいのだけれど……フフフッ」
不敵に笑っているような気がしたが、仮面で顔を隠しているため様子はわからなかったが、語尾に笑い声が聞こえていた。
不気味だ。
その不気味な雰囲気のまま、狼の攻撃を華麗にかわし、一言。
「斧生成!」
雲行きが怪しくなってきた。
その声に反応してか、空から、青黒い雷が天から黒宝石に直撃した。
「ゴロゴロゴロッ……ドカーン!」
「今度は何だ!」
「雷を⁉」
神夜と少女は驚いているが、狼はそんな精神状態ではない。何が何でも噛み殺すと言わんばかりの気迫をダダ漏れさせている。
禍々しい雲と、鋭い雷撃が直撃し、黒宝石は白く光輝き形を斧の形に変化。
その状態を待つことなくすでに狼は自我を忘れたように夜魅の飛びかかる。
狼に向けて夜魅は斧を一太刀。
「ズバッ!」
狼は体を回転させてなんとか攻撃を交わしたが、斧の一太刀の斬撃が追尾。
斬撃が地面に当たるとその地面が溶けていくではないか。
「この斧のはなった斬撃は溶けるのよ……当たれば溶けてなくなるはよ……フフッ」
想像もしていなかった強烈な斧の斬撃を見て狼は我に返ったように怒りよりも野生の感だろうか。生命の危機感を感じ取り、冷静になった。
凄まじい気迫が徐々に収まっていく。
目の充血が収まった事も関係しているのであろう。狼の目は充血した目から、通常の状態に戻っていった。
「あと、まだこれだけじゃないわよ」
そう言うと、夜魅は斧に埋め込まれていた黒宝石を取り出し、溶けた屋根の穴に放り込んだ。
屋根の穴の下もドロドロ溶けており、その家全体が黒くドロドロした塊に変化していき、放り投げた黒宝石の周りにまとわりつく。
そのまとわりつくようなドロドロした物体は、ぐるぐると吸い寄せられるように黒い球体に変化していった。
「何だ⁉」
神夜は次々と起こる出来事についていけなくなっていたようで、慌てふためく。
「ヤバいわね……これは……」
「ガルルル……」
「ギャオオン‼」
「ガリウス……やりなさい……まずは白い狼からよ……」
黒い球体が変化して黒狼が構成された。
「⁉?」
「⁉?」
「⁉?」
驚く白い狼と少女と神夜。
「魔獣には魔獣ね」
よる魅はそうつぶやくと、狼に斧を振り下ろし、方向を指定した。
黒い狼は夜魅が構成した魔獣。
「さて、薬学様の発明品はどれほどのものか……フフフッ」
夜魅が独り言をつぶやいている間に、白い狼の背後に黒い影が牙をむく。
そう、先程、夜魅が薬学の発明品で構成した狼《ガリウス》だ。
「ズバッ‼」
「ギャン!」
魔獣ガリウスの攻撃を止める白い狼。
だが、白い狼よりも数倍はデカイ黒い狼《ガリウス》は、赤子のように白い狼を吹き飛ばした。
「ギャルルル……」
ガリウスの声は狼でありながら、狼ではない不気味な声で喉を鳴らした。
「あぁ~暇ね……なんかすぐにやられちゃいそうね……狼ってこんなもんなのかしら?」
女は退屈そうに腰に手を当て、首をかしげてみせる。どうやら思っていたよりも狼が苦戦している様子を見て想定できなかった状況だったのだろう。
つまり、予想外に「弱い」という態度。
「じゃぁその間に他のエリアを探しましょうか」
そう言うと夜魅はその場を立ち去ろうとする。
「待て! 主の敵はワシが取る! やっと見つけた主の敵だ‼」
「私には関係ないは……ただの魔獣にかまってる暇なんてない……」
「待て!」
「まぁ……あの魔獣だったら話は別だけどね……」
今までにない悲しげな声でそう告げてその場をあとにする。女にも何らかの悲しい過去があるかのように被害者のような基調で喋り終わるとその場をあとにする女。
民家の屋根を伝っていく姿はまさに暗殺者のそれ。
その間、斧の切れ味を近くにいたデータ人間を切り裂いて切味を確かめていた。
「この斧まだ消えないのね……先程の斬撃はできないけど普通に使えそうね」
そうつぶやいた夜魅は背中に背負うように斧を刺す。
その状態の斧はみるみるうちに夜魅の体に吸収されていった。
「待て‼」
白い狼はまたもや充血した瞳になり、夜魅を追いかけた。
すぐさま、ガリウスが追いかけて白い狼を切り裂いた。
「キャン!」
先程よりも、深手を負ったのか、白い狼はよろよろとあるきながら、その場で倒れ込んだ。
意識が飛びそうになっていた白い狼は倒れた衝撃で頭をうち記憶が蘇る。
□ 神獣の過去
小さな村の冬。
「はぁ~寒いなぁ~どれ、ここらへんで、一旦飯にするか……ん⁉」
寒い冬の雪山で一匹の野良の狼を見つけた男。
「こいつは……まだ、息があるようだ……」
そう、狼は何かに襲われており、白い雪の上の周囲に赤い血が雪に溶け込んでいたのだ。
見た感じは重症。
早く手当しないと、手遅れになるそんな状態の狼が倒れ込んでいたのだ。
男は、その一匹の狼を大事そうに抱え、近くの屋根がついた空き家を見つけ村人のいない無人の古民家に入る。
古民家の中には様々な道具が備わっており、斧や木の板、治療するための包帯なんかも組内つけられていた。
おそらく、山奥に来た際の一時的住居にしていたのであろう。その証拠に全体的にカビが咲いており、家の中も蜘蛛の巣がはりめぐられていた。
一通り、治療を終えた男は狼を近くにある正方形のテーブルに置くと、自分の袋のなかから、竹筒を取り出す。
「ほら、飲めるか」
男は、自分の為に用意していた竹で作った水筒を狼の口に流し込む。
「ゴクッゴクッゴクッ」
「いい飲みっぷりじゃないか! よし、腹も好かせているだろ。これも、やるよ」
そお言うと、笹の葉で包んでいた白い米を取り出し、白い狼の足元においた。
白い狼は匂いをかいだ後、恐る恐る下で舐めて味や危険なものではないことを確認すると、無我夢中で白いご飯を一気に喉に流し込んだ。
「おぉ! いい食いっぷりじゃねえか、じゃ、これもやるよ!」
男はそうゆうと、再び袋の中にある革で作った入れ物から、魚を取り出して狼に見せる。
先程、近くの川で取れた魚だ。男は魚を釣りにやってきていたのだ。今回の目的である魚をおもむろに狼に見せて様子をうかがう男。
「クンクンッ」
「流石に生の魚は食わないか⁉」
男は面白そうに白い狼の様子をうかがっていると、先程の米のように、匂いと味を確かめると、そのまま、魚を飲み込んだ。
「魚も食える口か! そうか、そうか」
白い狼は男に餌をもらえると分かり、しっぽを振りまだほしそうに男に近寄る。
「クーン」
「⁉? まだ、食いたいのか? そうか、まだ飯がほしいか、でも、あいにくさっきの取り立ての魚でくいもんはなくなったよ。どれ、癖があるが、魔獣の肉でも取りに行くか? てっ言ってることわかんねーよなぁ」
「キャン‼」
「⁉」
「そうか、じゃぁお前さんはここで、待ってろ。俺が魔獣の狩ってくるからよ」
そうゆうと、男はその民家から、雪山にでて魔獣狩りを初めた。
「よし、こいつで3匹目だ! 見た目はあれだが、雪山ガエルはうまいんだよなぁ~」
男は魔獣と言われる雪山ガエルという、季節限定の珍味を3匹目を袋に詰める所に、大奥な黒い影。
「まじか、灼眼の雪グマ‼」
そう、男が食わしたのは、赤い瞳に白い大きな体を持つクマ。
凶暴な魔獣として、知られていた危険度の高い魔獣だ。
灼眼の雪グマは、大きな鋭い爪で、男の顔を切り裂いた。
「がぁ!」
男は、顔から血を流し、雪が積もる山の中を走って逃げる。
人間が魔獣を引き離すほどの脚力は持ち合わせていないのは理解していたが、それでも走って逃げること以外には思いつかなかった。
だが、そんな状況でも、希望があった。
その答えは、男の進む方向の先にある。
男が必死で向かう先には、毒雪バラ。このバラの棘は、魔獣の影響で普通のバラよりも棘が進化し、大きく鋭く変化していたのだ。
その棘はまるで剣のような大きさで、ように尖くどがっていた。更に、トゲの先には毒雪バラの猛毒が先からでているという危険植物だ。
魔獣にあったら、この毒雪バラで撃退するのが、魔獣の撃退方法の1つとして知られていたのだ。
「後もう少しで……後もう少しなんだ! 間に合え!」
「ドスンッ!ドスンッ!ドスンッ!」
灼眼の雪グマが、男に飛ばかかる。
その時だ。
「スタスタスタ‼ バンッ‼ ガブ‼」
「ガァァーーー‼」
白い狼が灼眼の雪グマに凄まじい異スピードで首に噛み付いたのだ。
「ドサッ!」
「お前‼ 待って色って言ったのに、ついてきたのか……待ってろって! 言ったじゃないか……」
だが、そのおかげで、命が助かった男は心の中で出会ったばかりの狼に感謝した。
「でも、そのおかげで命を救われたなぁ……ハハッ」
「クーン」
白い狼は、男のピンチに駆けつけて命を救った。
つまり、お互いに命の恩人というわけだ。
「ありがとな、そうだな、お前に名前をつけないとな」
命を助けられたこともあり、男はその狼とともに暮らしていくを事決めった。
男は、この出来事で白い狼と共に旅をすることにしたようだ。
「そうだな。お前は牙が大きいから……大きな牙で大牙はどうだ⁉」
「キャン‼」
「そうか、じゃ決まりだ! お前は今日から大牙だ! そういえば、俺の名前を医師得てなかったな。俺の名前は芥川最月(あくたがわ さいげつ)だ。これからよろしくなぁ! 大牙!」
こうして、大牙と芥川最月の旅が始まった。
その出来事からはや7年……―――。
旅のパートナーとしていつも横には大牙がいることで、有名になり《神獣使いの最月》として語られていた。
そう、あの名もなきどこにでもいる狼と普通の釣りをしにでかけていた男は共に旅をすることで、徐々に有名になっていったのだ。
そんな旅の道中に魔獣を倒す仕事に向いているのではと、以前行商人であった男は魔獣刈りの道に進むことを決意していたのだ。
つまり、歳月の仕事は悪魔狩りであり、大牙と共に過ぎ過ぎとレベルの高い危険な魔獣を倒していく日々が続いていた。
大牙の体格はみるみるうちに大きくなり、凄まじい気迫を漂わせ、かつての雪グマも寄り付かないほどまでに強くなっていた。
一方、芥川最月はその腕のいい悪魔狩りとして、注目を浴びるようになり、悪魔狩りのトップ来上り詰めるまでに成長していた。
そう、芥川最月最後の日は、そんな人生の絶頂期である。
そんな時に、あの女が現れたのだ。
あるひ、いつものように旅をしていた一人と一匹は廃墟となった雪山の小さな村立ち寄る。
そこで、2人の双子の子供と出会った。
一人は女の子で、もうひとりが男の子の双子だった。
幼い2人は、最月と大牙に良くしてくれ、悪魔狩りの合間に休憩が寺として、その村に休みに来ては双子たちと遊ぶような関係性になっていた。
なぜなら、その事地の母親と父親は悪魔に殺されて今は2人で生きているというのだ。
そんな過酷な状況だったところを最月と大牙が来たことで、魔獣を退治してくれて、更に食料を調達できなかった魔獣の出没エリアもなくなり森から食料を調達できるようになったのだ。
つまり、双子からすれば最月と大牙は命の恩人ということになる。
そんな双子の面倒を見ることになって1ヶ月が過ぎた頃だった。
そんな平和な暮らしが一変する出来事は前触れもなく突然訪れる。
「おい……これはどうゆうことだよ……村人たちは……」
小さな村は白と赤の背景に包まれていた。
白は、雪で、赤が人の血だ。
つまり、この小さな村で人がなくなっている可能性が高いのだ。
―――つまり・・・。
再月はふと頭によぎる。
二人の姿を。
恐る恐る双子の家に向かう最月と大牙。
段々と、赤い景色が増えていく。
呼吸が早くなり、不安感が高まる。
最月と大牙は恐る恐る双子の家のドアを開ける。
2人の瞳に映し出されたのは倒れている双子と双子を傷つけたと思われる女の姿。
女は黒いフードコートをまとっており、フードの先にはふわふわの白い毛がついている防寒対策された服を着ている。
この村では見たことがない高級な素材で作られた服の白いふわふわの毛には、ところどころ赤い血のような色が付いていた。
「その子達をどうしたんだ……」
「貴方は誰??」
「お前の前に倒れている子供のことだよ……」
「あぁ~これ、これは貴重な力を宿している一族の血を引き継いでいるから、回収しに来たんだよ」
「回収……何を言ってるんだ……」
「あぁ~そっか、君たちは知らないよね。天然シナプスを宿した一族の事を……まぁ、天然シナプスは我々の未来に必要不可欠な力だからね」
「貴様!!」
最月は声を荒げてその女に敵意を向ける。
「ガルルルル!!」
「大牙! 待て! 俺がやる! お前は勝てる相手か見極めろ!」
「子どもたちの未来を無くしやがって‼」
そうゆうと凄まじい位気迫で、女に飛びかかり、不思議な術を使う。
「乱撃の札‼」
そお言うと、最月の周囲に札のような青い雷に包まれた札が一斉に女に向けて飛んでいく。
その浮遊している札は最月が持っている札の動きと連動していた。
「人間にしては、まぁ強い方だなぁ。だが、威力が足りない」
そうつぶやくと、雷を纏った札を一撃で粉砕した。
同時に負数空の札を粉砕したように見えたが、周囲の天井や地面に刀の後が複数刻まれているのを確認したことで、複数の攻撃を行った事を意味していた。
「‼」
最月は天井の刀傷に気づき、目を大きく開けたときだった。
一瞬にして、最月の目の前に現れた。
とっさに最月は刀をフリ切っる。
「スパンッ!」
「ぐぁ‼ クソ! 人間に切られるとは、油断しすぎたなぁ……もう、遊びは終わりにしよう」
少し、苛立ったのか先程の余裕な表情から、鋭い目つ気になる。
左目に受けた傷が滴る前に、攻撃を繰り出す女。
「主‼」
大牙が主の危機にっさに反応して、女の一太刀を口で受け止めた。
「ガキィーン‼」
だが、大牙の重さなど感じないくらいに、ハンマーを扱うようにそのまま最月もろとも、壁に叩きつけた。
「狼の方は手応えがあるようだなぁ……」
「ガルルルル……」
主を守ろうと威嚇する大牙。
「だが、悪いなぁ。お前の主の首はここだよ・・・」
―――大牙の瞳に映るのは女の腕で髪の毛が掴まれた主の首だけ……―――。
そう、いつの間にか切断されていたのだ……。
「⁉????!⁉」
後ろにいる主を守ろうと、女を威嚇していたが、女の手元には主と思われる人の頭だけが確認できた。
「ガオオオン!!」
主の死んだ瞳を目にしてしまった大牙の理性吹き飛んだ。
大牙の視界は一瞬で真っ白になり、自らの意識も吹き飛ぶほどの感情の高ぶりを起こした大牙。
大牙は一瞬にして体中から、炎を体から放つ。
その場を炎の海に包み込んだ。
「おっとっ! 危ないなぁ。 まさか、これほどまでの力を宿しているとはなぁ、これが神獣かぁ。」
そうつぶやくと、炎を避けた勢いのままその場を後にした。
そう、大牙は魔獣とは違い人を襲わない。
人助けともに生きる生き物である。
魔獣の中で「稀に人と意思疎通を行い共に生きていくことができる獣」が《突然変異》で生まれる。
これを人々は《神獣》と名付けている。
つまり、その珍しい獣が大牙である。
左目の傷跡を抑えながらどこかに消えていった。
一方大牙は主をなくした悲しみから割れを失い暴走。
女の後を追って周囲を燃やし尽くしていたが、我を失ったことで、知能が低下し、女の追尾もままならない状態。
そのため、簡単に女に振り切られてしまった大牙はやるせない気持ちを爆発させるように、雪山の中の村を焼き尽くす。
小さな村を焼きつくし、その頃に力を失い大牙の瞳から赤い血が流れ、その場で倒れ込む。
―――。
――――――。
――――――――――――。
―――ここで、過去の回想が終わり、意識は現実の体に戻っていく大牙―――。
「……」
ここで、大牙の意識が蘇り、ゆっくりとその場に立つ大牙。
「主……」
なりふり構わず大牙は新たな主時計客をし、かつての力を使いかつての主の敵の女を倒すことを決意した。
どのぐらい時間が経過したのかはわからないが、ガリウスは少女に襲いかかっており、今まさに、戦闘中。
それを見ていた神夜を見つけた大牙が今までにない雰囲気で話しかける。
「ワシの見立てだとお前さん、この子に助けてもらいっぱなしじゃね~のか⁉ オーラも弱々しいし、戦闘は役に立たないとみたぁ~! ガッハッハ‼」
急にフレンドリーな態度になり、神夜をおちょくり始める狼。
「しょうがないだろ……この世界に来たばっかりで戦闘なんて初めてのことなんだからなぁ……」
神夜は強く言い返したかったが、図星過ぎて反論できずに下を向く。
そんな、神夜を見て、狼はなにか決意したのか、大きな口の口角を上げてニヤリとした表示を見せた。面白いおもちゃが見つかったようなそんな無邪気で無責任な目で神夜を見て問いかけてきた。
「よし……お前さん、強くはなりてぃえかぁ~」
「当たり前だ! この世界がどんな世界かは知らねえが、女に助けてもらいっぱなし何て男である以上強くなりたいと思うのは普通の事だ!」
狼は神夜の言葉を聞き終わると凄い眼力で神夜の顔面まで近づいてきた。
「なら強くなれ……」
神夜は狼の言葉にいら立ち、眼元まで近づいてついつい言ってしまった。
「お、おう……強くなるさ絶対に‼」
「奇遇だなぁ……今まさにワシも同じことを考えていたところだ……俺達がこの黒い奴を倒さないと明日は来ないようだなぁ」
狼の言葉に又もやいらついたが、狼の言った事はもっともだった。
だが今度追う時に強くなるなど無謀ではないか、神夜は今になって狼の挑発にまんまと乗ってしまっていた事に気がついた。
白い狼は民家の屋根に飛び乗り一言だけ言い放つ。
「契約を交わすぞ小僧‼」
「どこの神社の守り神の狼かは知らんが、契約ってなんだよ‼」
狼はあまり気にしなかったが神夜の問いかけに答えた。
「馬鹿かぁ小僧! ワシはどこかの守り神じゃねぇ~。ワシの名は、大牙(おおが)だ! あとなぁ~守り神なんているわけね~だろ。そんな化け物が居たらお目に掛りたいぜぇ、小僧……ハッハッハッハッ」
「じゃあこっちも言わせてもらうぞ大牙! 俺の名前は小僧じゃなくて神夜蒼麻(かみや そうま)だ!」
神夜はそれを言い終えた後こう思う。
―――初めは驚いたが、人間のように話しかけてきたからつい普通に話したが、どっからどう見てもお前は化け物の分類に入るなぁ……絶対……―――。
神夜は心の中で大牙にツッコミを入れた。
「だが、この危機を乗り越えてからだなぁ契約は……」
「どうしてなんだ?」
「契約には落ち着いたイメージが必要なんだ。つまり、落ち着いいる時のほうがうまくいく。まぁ。それでも、やばかったら先に契約するがなぁ・・・小僧」
「わかった・・・」
二人の瞳には奇妙だが、心地よい魔が空いた。お互いに通じ合っているようなそんな感覚。
「タッタッタッ……ザァッ」
ガリウスと戦闘中であったが、一時的に離すことができた少女が背後から語りかけてきた。
「じゃあついでに、私も自己紹介するわね!」
ガリウスを再び倒し終えたのか周囲には敵がいなくなっており、今だけは一息つけるそんな状態だった。
神夜は内心これは、負けるフラグなのかなんて思いもしたが、今だけはそんな思考に蓋を締めるかのように今の時間を大切にしようと、少女の言葉に耳を傾ける。
そう、実は神夜もまだ知らないのだ……少女の名を……。
「私の……」
なぜならこの世界はあり得ない事が起こる更にわけもわからない光を出したりと、自分の体が、データ化したりと、意味不明なことばかりだ。
なら名前も……何て思っていたから普通の名前だと逆に違和感を覚える。
やっと名前が聞けるのだと神夜は、そんな事を思い少女の発言に耳を傾けた。
「……名前は霧咲祇那(きりさきしな)って言うの、よろしくね!」
――少し変わっていたが……普通だった――。
―――……とはいえ、まさか、少女の名前を聞く前にこんな馬鹿デカイ狼の名前を先に聞くとは思わなかったなぁ……―――。
神夜は、再びこんな状況の中、心の奥底でツッコミを入れた。
神夜は大牙と霧咲を見る。
なんとも言えない不思議な光景だ。
先程まで命をかけて戦っていた者同士が今はこうして名前を教えあっているとは……。
そんな時、大牙が言葉を開く。
「小娘、ガリウスが突っ込んでくるぞ‼」
「わかってるわよ!」
ガリウスはものすごい気迫を放ちながら、独特のオーラを醸し出して少女に突っ込んできた。
少女が、刀でガードをしようとした時。
「ガルル‼」
その時、大牙が少女の前にたち、ガリウスの猛攻を日本の鋭い爪で受け止めた。
「ギャ大大オン‼」
自ら突撃した勢いで大牙の鋭い爪が顔面に突き刺さる。あまりの激痛で、暴れだし、大牙もろとも、空中にふっとばされてしまった。
「大牙!」
少女の壁となった大牙は空中に待っていたが、守りきったはずの少女(霧咲祇那)の姿が、見当たらない。
「!?」
神夜は霧咲を探すが、どこ見も姿はなかった。
それもそのはず、少女は大牙と一緒に空中に吹き飛ばされていたのだ。
いや、自ら「吹き飛ばされに行った」というのが正しいだろう。
その落下の重力を逆手に取り、上から、強烈な一太刀をガリウスに浴びせる。
「たぁぁああ!」
ガリウスは霧咲の攻撃を避けようとはせず、そのまま飛び上がり、襲いかかってきた。
霧咲はガリウスの頭部から背中にかけて、一刀両断。
「やった‼」
「そんな簡単には行かないようだぞ……」
大牙が神夜の言葉に反論した。
大牙の言葉通り、ガリウスの姿が2匹になっていたのだ。
「⁉?」
「あの男……こんなものを開発したとは……やってくれたわね……」
その話を聞いていた大牙がめんどくさそうに霧咲の言葉を聞いて言葉を発した。
「たっく……たちが悪い魔獣をよこしたもんだ……とはいえ、こいつは人工的に作り出されているらしい位から、魔獣じゃないのかもなぁ」
「でも、これで弱体化したはずよ……」
「そうだなぁ、その証拠に体が小さくなってやがる! もう一つの方は任せたぞ小娘‼」
「わかったわ!」
言葉をかわした一匹と一人の少女は二手に分かれるように、ガリウスを話しながら、お互いに一騎打ちに持ち込む。
そんな状況のときだった。
「?……何だ??」
神夜は地面を凝視してよく見ると、そこにはものすごく小さなガリウスの姿があった。
「・・・」
よく見るとその小さいガリウスはみるみるうちに大きくなっているではないか。
神夜はその光景に驚く。
「⁉?」
更に、そのガリウスの地面は真っ黒の影に覆われていた。
「なんでここだけ、大きな影が、あるんだ・・・」
小さなガリウスはその場から動かない。
2つに真っ二つにされたガリウスたちは、片割れを大牙が相手し、もう片割れを、霧咲が相手をしていた。
―――。
「たぁぁ!」
「ギャルルル!」
二手に分かれたガリウスはじめ見たオリジナルのガリウスよりも圧倒的に小さくなっており、霧咲でも相手ができるぐらいのサイズに勝っており、パワーもそれと同様低下していたため、霧咲が有利。
刀の、リーチをうまく使い、ガリウスの噛みつきや突進といった攻撃をことごとく交わし、的確にダメージを与え続けている。
「これで最後よ!」
「ズバッ!」
「……はぁはぁ……はぁはぁ……やっと倒した……!?」
霧咲が目にしたのは大牙と戦闘をしているガリウス……。
だが、一匹ではなく、2匹だった。
「どうなってるの⁉??」
驚くのは無理もない……。
やっとの思いで倒したガリウスが、生きていたのだから……」
「いや、生きていたというよりは、先程よりも少し違う顔をしているように思えた。
そう、3匹いたということだ。
「何だ! 小娘が相手していた奴がこっちに来てるぞ‼ ……ガルルル……」
「倒したはずだわ! どうして⁉?」
「倒せていないぞ! こっちに来ている‼」
大牙と霧咲はお互いに主張が違う。お互いに困惑している状況であったが、神夜だけには理解できる状況下であった。
「いや、倒したはずだ……だって、ここから、ガリウスが生まれているのだから……」
神夜がありえない事をつぶやいた。
「なんだって……」
「2匹じゃなくて、3匹ってことかよ! 小僧‼」
「違うよ……」
「何が違うんだよ‼」
「新しく生まれてるんだ! この小さな影から‼」
「⁉?」
「⁉?」
二人は目を大きくかけて驚く。
霧咲は目を大きく開けたまま、神夜の方向へ目を向けた。
そこには、みるみるうちに大きくなっているガリウスの姿だった。
そう、3匹ではなく、4匹………いや、これは無数に出現しているのであろう。
「この影が、ガリウス生産機能を持っている影みたいだ!」
神夜が見ていたガリウスは2体目、つまり、今大牙と戦っている2体目がここから現れたガリウスなのだ。
「小僧‼ 仕組みはわからんが我がそこのガリウスを破壊する! この2匹の足止めをしろ! 小娘も手伝え!」
「わかった!」
「わかったわ!」
影を破壊しても、どこからともなく周囲の影からガリウスが生成され、複数のガリウスの攻撃が霧咲と大牙を襲う。
やがて、霧咲と大牙は力を使い切りぼろぼろになる。
ボロボロの霧咲とボロボロの大牙。
やがて神夜も攻撃対象となり、ガリウスの突進を真正面から受けてしまう。
だが、戦闘に不向きの神夜はボールの様にあっけなく吹き飛ばされ、地面に何度も叩きつけられ無残にも転がり倒れる。
「クソ・・・俺は・・・ここ・・・までなのか・・・」
そんな状態の神夜を凝視する視線があった。
そう、大牙だ。大牙はその姿を見て何を思ったのか先程の話の続きとなる内容を話し始めた。
そんな時に大牙が神夜に契約を持ちかける。
ボロボロの体に無視を打つように神夜の前に立ちガリウスの攻撃をガードする。
「小僧・・・おれとけいやくしね~かぁ 本来は契約なんて主に縛られる鎖でしかないと思っていたが、契約することでさらなる力を得られると主から聞いたことがある」
「芥川歳月・・・」
「もう、ワシの主はいないが契約数としたらやつだった・・・だが、ここで契約をかわさなければワシもろともお前らも一緒にお陀仏のようだ・・・」
大牙は今までに見せないような表情で皮肉笑いを浮かべて神夜の目を覗き込んだ。
「あぁ・・・契約する・・・どうすればいいんだ・・・」
「目を閉じろ・・・そして、青い炎を思い浮かべろ」
「わかった・・・」
徐々に真っ暗な視界に青白い炎をともし始めるが、上手く行かない。
火をおこすイメージが上手く行かないのだ。
普段であれば、すぐさまそんな簡単なイメージはできるだろう。だが、今の状況ではガリウスの攻撃が今にも降りかかりそうな気がして心拍数が高まっていくばかりだ。
ガリウスの攻撃を大牙が受け止めてくれているとはいえもうボロボロ。
落ち着いてイメージすることは困難な状況だった。
―――ぽた・・・―――。
「水滴の音・・・」
神夜が目をつぶった瞬間に水滴の音が頭蓋骨に響くように頭中に響き渡る。
初めは水のイメージだったが、神夜にはなんの音なのかが理解できた。
そう、神夜自身が流した血液が地面に落ちる音。
それだけ神夜は瀕死状態だった。
血が地面に落ち着時に音などしないが、地面に血が溜まっていたら、水の波紋を描いて「ぽた」と音もなるようになる。
その事に気づいた神夜はさきほどまで感じなかった痛みを思い出し、激痛が走る。
「がぁぁぁ!!」
「小僧! 早くイメージしろ!」
大牙は急かすように神夜の契約の炎を灯すイメージを急かす。なんせ、大牙も限界だからだ。
「なんでもいい、何でもいいから熱を思い浮かべろ! そこから、炎に変換するイメージだ!」
大牙はそれを言い終わるとガリウスに噛みつかれ、意識すら保てない状態にまでぼろぼろになる。
ハイエナに食われる動物のような光景だった。
「ガルルルル…………」
―――熱・・・そうか、俺の血でイメージすれば・・・―――。
神夜の心臓はバクバクしていたが、自らの出欠と痛みで傷口が熱くなっているのを感じたのだ。その血を脳内でガソリンに変換し、自らの服をこすり合わせることで火花をお越した。
現実ではありえないが、ここは仮想空間。なんでもありだ。
「よし‼ ついた‼」
神夜のイメージは見事日をつけることに成功し、上半身の洋服は日の燃える燃料に変換されて消えていった。
「火を飲み込め・・・」
どこからともなく聞こえる声。
だが、その声は聞き覚えのある声だった。
そう、大牙が神夜のイメージの中に入ってきているような感覚。
神夜は自らの燃やした炎を口から飲み込んだ。
「ぼぁああ‼」
体中が熱くなり、青い炎に包まれる。
そして、神夜の固めには青い炎の刻印が刻まれた。
そう、これは神夜のイメージから生まれたモノ。そのはずだった。
「目を開けて手を前に出せ!」
神夜は大牙の声の指示通りに目を開け手を前に伸ばした。
「⁉」
神夜のイメージで日をともしたはずの青い炎がデータワールドの神夜自身にも同様燃え上がっていたのだ。
だが、熱くない。
青白い炎は神夜の周囲にまとわ血吐いているが、全く熱を感じないのだ。
つまり、幻想のようだ。
「この手をどうすれば、・・・」
そんな神夜に再び大牙の声が聞こえる。
「打て! そのまま相手に向けて青い炎を打て!」
打てと言われても、神夜には打つ手段が思いつかない。
念じればいいのだろうか。
それとも発動動作なんてものがあるのだろうか。
そんなことを感じていた神夜。
「力を放つにはイメージが必要だ! そうだね。 音とか鳴らしてみろ!」
「音!?」
―――そんなもんで攻撃を出すことが・・・いや、その前に、この青白い炎も幻想だからなぁ・・・でも、もし本当に目の前のガリウスを倒せる力があるのであれが、願ったり叶ったりだなぁーーー。
そんなことを心に思い浮かべながらも、神夜は力の発動の引き金となる「音」を発した。
「パチンッ!」
指パッチンだ。
まさかの音が脳裏に鳴り響き鳴らした手元に白い炎が溜まってくではないか。
「こ・・・これは一体・・・」
その光の力を感じ取ったのか大牙はそれだと言わんばかりに語りかけてきた。
「いいぞ、そのエネルギーをやつに放て!」
「放つってどうやって!?(これでできたらしい……)」
神夜は心のなかでツッコミを入れた。
「放てないのならそのまま殴れ!」
「どうにでもなれ‼!」
「ドーン‼」
ガリウスを一匹消滅させることに成功した。
だが、神夜の様子がおかしい・・・。
白い炎に魂を乗っ取られているかのように静かにあるきはじめた。
「まずいなぁ・・・力に飲み込まれてやがる」
大牙はその神夜の姿になることを知っていたのか冷静に神夜の様子をうかがっていた。
そんなとき、神夜の白い炎のオーラが、形を変え3本の槍に変化したではないか。
その三本の槍は一匹ずつ残りのガリウスを仕留めていく。
そのやりの生成した分だけオーラが小さくなって行っているではないか。
「小娘・・・今の小僧には近づくなぁよ・・・暴走してやがる・・・」
「暴走!?」
「力に体を奪われたんだよ・・・でも、力を使い切れば、もとに戻から手を出すんじゃねーぞ」
「わかったわ・・・」
霧咲と大牙はこの戦いが終わるのを待つように近くにある家の影に身を隠して様子を伺うことにした。
何度もやりを生成しては、その場で増えていくガリウスを消滅させていく神夜。
神夜のオーラも小さくなっていたが、ガリウスは残り、一匹。
だが、神夜は残りのガリウスを蹴り飛ばすと、そのまま、ガリウスの落下を見計らい白い炎をまとわせた拳で一撃をくり出した。
「バァーン!」
神夜が殴り飛ばしたガリウスは空中に引っ飛ばされ、空中で木っ端微塵になって消滅。
ガリウスを殴った拳の力は、神夜がまとっていた白いオーラすべてを拳に集めて放った攻撃。そのため、その力は凄まじいものであった。
白い炎のエネルギーのちから出、空に浮かんでいた黒い雲が晴れていき、影がなくなり、この世界には珍しい光が届くようになった。
だが、この光のしょせんは作り物。
蛍光灯の光のような冷たい光が降り注ぐ。
蛍光灯のような詰めない月の光がガリウス生産影を消滅させた。
力のオーラをなくした神夜はその場で倒れていた。
青白い力のオーラが全身から神夜の左手に移動し、左手の後にマークのような印が刻まれていく。
恐らく、大牙との力を共有できる証のようなものだろう。その刻印がみるみるうちに刻まれていく。その光景は青白い炎に焼かれているような光景。
刻まれた刻印は青白い色から段々と黒くなり、まさしく「黒印」となる。
その後嘘のように「黒印」が逆に消えていき見えなくなっていった。
その、焼かれた黒印は大牙の額にも同時に現れ、燃えるように印が刻まれていた。
神夜が暴走したおかげで影を作る雲を一掃できたのは思いもよらんなかったが、契約することで力を手に入れたようだ。
「今回はたまたまうまく行ったが、次はどうなるか・・・まぁ、今は結果が良かったから文句は言わねぇえよ・・・」
「そうね、少なくとも神夜くんの暴走で私達は助かったのだから・・・」
二人と、一匹はこの戦いに勝利したようだったが、みんなボロオロ。
神夜も先程の力の暴走により、体中傷だらけになっていた。普通の人間ではありえない力を放ったのだから、怪我をしてもお当然。
「神夜くん・・・ボロボロ・・・私達もだけど・・・」
「ワシの刻印が記された。やはり、体が重いなぁ~」
「どうしたの?」
「小娘ワシは力を開放したことで、膨大なエネルギーを小僧に取られてしまったんだ。だから、小僧の影の中で眠りにつく。まぁ~少ししたら、また出てこれるから、小僧に伝えといてくれ。小娘」
「わかったわ」
こうして、3人はその場をあとにし、大牙は神夜の影に溶け込んで消えてしまった。
「本当に影の中に消えた!」
霧咲は度肝を抜かれたまま、神夜をかつぎその場を後にした。
◇◇◇
□ 似て非なる者の存在
あの戦いから数日―――。
実は、大牙は神夜が戦っていた謎の力の源だったため、つけれて影の中に入り休んでしまったのだ。恐らくあれ程の膨大な力を使ったことにより、出てこれないのだと神夜は自らの力の強さから察した。
だが、今となってはその膨大な力の気配は神夜の感覚が消えていた。
つまり、神夜の力は大牙そのものということだ。本来の姿で表に出てくるまで大牙のちからを当てにできないと内心感じた神夜。
NPCからすれば、今は夕方だが、神夜と少女が体感している感覚は夜。
そう、NPC意外は、ずっと、ずっと夜のままだ。
風が吹き、肌寒さが感じられる真夜中。
暗闇にたたずむ霧咲が口を開いた。
霧咲は首から下げた銀色の懐中時計を開いて、時刻を確認した。
神夜を見て一言いうと。
「こんな時間だ! もう帰らないと、君も、え~と、神夜くんも帰った方がいいわよ!」
そのまま暗い夜の中を走って行ってしまった。
「そ、そうだな」
―――まあ、神夜の家には誰もいないから、何時に帰ろうが何も言われない。それに、ここは、データワールド……―――。
―――家には誰もいない―――の理由は普通じゃない父に問題があった。
父は神夜がまだ小さい時。その当時はそこそこ有名な冒険家で、神夜が幼い頃に――世界の秘密を解き明かせるのは、この私だけだ――などと、変な子供じみた台詞を残して家を後にした。その時から、約十年間くらい帰ってこないでいる。
母は母で、そんな父を応援しており、お金を稼ぐために、何個も仕事を掛けもちしてたまにしか家には帰らない。
その家に早く帰ろうが遅く帰ろうが送ってくれる人はいない。
仮想世界では関係のないことだろうが、直接家に帰ろうが途中で寄り道しようが問題がなかった神夜。そのため、神夜は寄り道することにしたのだ。
暗い路上を一人歩きながら、家に帰らず近くにあるコンビニエンスストアへ足を運んだ。
近くのコンビニエンスストアだからといって、いつも立ち寄っているわけではなかった。
その理由は単純だ。
単純に近くにあるだけで行きづらかっだけだ。
その理由は幼少期にある。
小学生だった神夜は、学校の事業で街の人にインタビューをする授業があり、たまたま当時面白いひげをしていた店長さんにインタビューをしたことがきっかけで、その後だんだん行きづらくなっていったのが理由だった。
だが、そこにはあの頃のダンディーなおじさん店長はいなかった。
そこまで、再現されるならむしろびっくりだ。
同然のことだが、淡い期待を抱いていた神夜の瞳に写ったのは、違う意味でびっくりさせる真っ白頭のお兄さん。白髪の外人。
現実世界にいたら、おかしいのだが、この世界ではとても馴染んでいる。
そんなことを思いながら、神夜は陳列された棚の奥へ足を運んだ。
ちょうど店員の目線の先にあるお菓子コーナーに足を運んだ神夜は、何気なくお菓子売り場に行き陳列しているお菓子コーナーを眺め始めた。
チョコ味のポッキーをレジに持っていく。
さあ、この世界では、どうなるのか、見ものだ。
「いらっしゃいませ。ご自由にセルフレジをお使いください」
―――……セルフレジ……店員は監視しているだけか⁉?―――。
コンビニの店員の目線が、神夜を凝視している。
―――……無料とはいえ……これは、抵抗があるな……めっちゃ見られてるし……―――。
そんな事を、気にしながらも、ポッキーを口に含んだ。
その瞬間、違和感を覚え思はず言葉が出た。
「やっぱり……あ、味がない」
その味がないポッキーを半分まで口に入れ折ってみた。
すると、見る見るうちに折れた所から段々と、青白い光の粒子が集まり、元の状態へと戻ってしまったのだ。
「!」
やっぱりそうかと思った神夜。
神夜は以前にNPC化前に、家で色々と食した時に味を感じがなかった事を思い出す。
今回もそのようだ。
コンビニの外に出ると暗い闇の向こうに外灯の明りが一つ、また一つと、道路を照らし始めた。
その奥にも外灯の明りが段々と道路を照らしだしている。
その明りに導かれたかのように神夜は、外灯が明るくなっていく道をたどった。
ポッキーを再び食べて、再生していく青白いに目線を合わせていたが、だんだん街灯の明かりの下部分が暗くなったことをきっかけに、視点をずらし、街灯の手前の影を見る。
「子供?」
そこにいたのは、逆光でシルエットだけが見える子供の姿があった。
ポッキーの青白い粒子越しに目のピントを合わせていたので、粒子がぼやけて幻想的な光景に髪夜には見えた。
子供は、神夜に気づいたのか、こちらにゆっくりと近寄ってくる。
「……だれ?」
子供の影から、聞こえたのは、幼い子供の声だった。こんな所で、何をしているんだと不審に感じた神夜は、子供に問いかける。
「君、なんでここにいるの?」
そう問いかけた時には、子供が神夜に近づいていたため、暗闇にまだ順応していなかった瞳でも姿がある程度認識できた。
子供は帽子をかぶっていた。
「わかんない・・・」
「お家はどこかわかる?」
その問いかけに反応したのか、子供は、暗闇方向へ指を指した。
「僕ね……迷子なの……」
―――迷子で、可愛そうだが、俺も、データ人間に変わっている余裕はない……―――。
そう思った神夜は、その問を効くと、流すように、指差しした方向へ走っていった。
「こっちに家があるから、帰るな!」
神夜は、そんなことを言いながら、その場を立ち去る。
そして坂を下り曲がり角を曲がろうとした時だった。
「あれ? なんだ?」
角を曲り、視界に入ってきたものは、濃い霧と奥まで続くはずの外灯の明りが灯っている光景。ひんやりとして寒気がするようなそんな霧。
こんな霧が濃くかかっている真夜中に人影が薄らと見えた。
その人影は、霧に隠れていてよく見えない。
だが、黒と白と青の色で、全身統一感あるゴシックファッションで身を包む、少女の姿が確認できた。
髪は、黒髪ロングで、毛先が青掛かっている姿ぐらいは霧越しでも確認できる。
その霧の中に居る謎の少女は、神夜の気配に気づいたのか、そっとこちらを見た。
その瞳は、とても悲しげな瞳をしていた。
その少女の周りや、見られているこちらも、凄い寒気を感じ、少女の方から周りの壁が凍っていった。
濃かった霧も、少女の奇妙な異能の力のせいで、雪の結晶に変化。
少女に近い霧から氷の結晶に変化し、手前で外灯の光を浴びて、パラパラと光を纏い一瞬の輝きを放ちその後、光の熱で溶けるものや、地面に落下。
気体から固体へ変化していき、個体から液体になっていく様子は創造しているよりも不思議な光景だった。
そのあまりにも不思議な出来事に驚く。
それと、同時にその美しい景色に見とれてしまい、言葉を失っていた。
少したつと濃い霧が晴れ、我に返った神夜。
その奥に居た少女の姿を見て驚いた。
「……!」
その現象が起きたときには、霧が氷に変化していたため、霧が晴れ、少女の複数がはっきりと見えた。
首に黒いマフラーを巻いた少女。
でも、見覚えがある顔だ。
「!」
「……霧咲? 霧咲!」
――なんで彼女がこんな所に居るのだ――。
神夜は疑問に思い問いかけてみた。
「……お~い。霧咲ここで何してんだ~!」
そこに佇むのは、黒いマフラーを首に巻いた少女。
神夜の問いかけに驚いたのか、目を大きく「カッ」と開き、こちらをかなりの勢いで、凝視してきた。
神夜を凝視して何かに気付いたのか、凝視した目を閉じると、ゆっくりと瞼を薄く開き、口を開き不気味に、なおかつ嬉しそうに笑い始めた。
「…フフ…フフフフフ…ハウンッ」
急に笑い始めた彼女は、笑った最後に息を飲む、奇妙な事をして、何度も似たような独特の笑い方をすると、最後に小さな口で一言だけ放つ。
「子供……見なかった?」
「見たけど……どうしてここにいるんだ⁉ というか、その服装はなんだ⁉」
神夜は不思議な格好と不思議な表情に困惑している。
だが、少女はその質問に答えず、嬉しいそうに頬を上げ言葉を続けた。
「……やっと……見つけちゃった……」
その言葉をいうと、真夜中の夜へと溶け込むように姿を消した。
気づくと、神夜はその不気味さに足が震えていて、その場から一歩たりとも動く事が出来なかった。
彼女が神夜に向けて凝視してきた目は、黒い眼球がどこにも定まらず、ぴくぴく動いていたからである。
その可笑しい不気味な姿に、神夜は身体中が、恐怖と言う名の鎖で縛られてしまったのだ。
「…確かに霧咲、霧咲……霧咲だよな……でも、もしかすると」
道路には、外灯の明りがつき、何も起きて無かったと、言わんばかりに、静まり返る夜。
データ人間から見れば、まだ明るいのかもしれないが、部外者である神夜には、寝ても覚めても、暗い世界。
神夜は、一人外灯の明りに照らされ、呆然と立ちつくしていた。
◇◇◇
□ 2人の少女
―――春から夏へ移り行く境目の四季―――。
現実世界とは、異なる世界の最初の朝を迎えた。
夕べは道草をくって、誰も知らないであろう裏道に行き、あの不思議で奇妙な光景を見にした。
そんなこともあり、家に帰宅する時間は遅く、睡眠時間は無いに等しかった神夜は、布団から出ず時間が過ぎるのも忘れ、そのまま睡魔に負け布団から出れないでいた。
その最初の朝は学校がない土日のいつもの休日の過ごし方だ。
普段と変わらない、ごく普通の朝を迎えたはずだった。
「ピンポーン」
「う~、はーい」
神夜は、布団をどかし、そのままの状態で下に降り、玄関のドアノブを回し、ドアを開けた。
「ガチャ」
そこに居たのは昨夜不気味な一面を見せた霧咲だった。
「わぁっ!」
神夜はとっさにドアを閉めた。
なぜなら、昨夜の霧咲の様子からして、危険なオーラが出ていたからである。
所が、今見た霧咲には、そのオーラを感じなかった。
だが、昨日の出来事を目にしていた神夜。
その事だけで、もう神夜にとっては恐怖を感じた。
急いで鍵をかけ、入ってこれないのを確認し、安全を確認すると神夜はため息をついた。
「ドンドンドン! 神夜くん何で閉めるのよ! 早くここ開けなさいよ! 危険が迫ってるのよ! 今神夜くんは狙われているの! だからここを開けなさいよ! 神夜くん開けて! 早く!」
―――危険が迫ってる……何言ってんだよ……―――。
―――昨夜の霧咲が危険だよ、俺にとっては……―――。
そう思いながらドアを閉めた後、神夜は部屋に戻るため後ろを振り向いた。
「わぁぁっ!」
さっきまで、家の中には神夜しかいなかった。そのはずなのに、そこにはドアの向こう側に居たはずの霧咲が居た。
「神夜くん! どうしたの⁉ もしかしてもう奴がそこに!」
―――……えっ……―――。
神夜の背後のドアの向こうから、霧咲の声がする。だが、神夜の目の前にも霧咲が居る……これは一体……。
と思いながら、目の前にいる霧咲を警戒した。
そして突然目の前の霧咲が笑い始めた。
その笑い方は聞き覚えのある笑い方だった。
神夜の目の前にいる霧咲は、かなりの殺気があるのか、単純に怖いと思った。
そして、その笑い方は昨夜の霧咲の笑い方だ。
「フフ……フフフ……ハウンッ」
その声を聞いたのか背後のドア越しの霧咲が、また違った意味での恐い声で、神夜に話しかけてきた。
「やっぱりそうね! その人を人だと思わない冷たい笑い声……神夜くん! そこに居る……、私に見える奴は私じゃない‼」
「どういうことなんだ!」
「そいつは、私の祖先!」
「!」
神夜は、その言葉を聞いたと同時に、目の前に居る霧咲とよく似た人物は、「夜魅」だということを認識した。
夜魅は、嬉しそうに神夜を見やり一言呟いた。
「リアルワールドの人間」
「!」
「やっぱり……あの子と一緒にいた人ね」
夜魅はそう言葉を漏らすと、ゆっくり神夜の方へと近づいた。
ゆっくりに見えた動作だったが、神夜の所へ来るのは一瞬だった。
神夜の首に手を添えると、どんどん力を入れて、首を絞められ足が地面から離れた。
「クッ……クガッ……」
こんなときこそ、大牙の力を借りたいのだが、大賀は出てこない。まだ回復できていないようだ。
「フハハ……やっと見つけたわ……あの小はどこ? 教えて!」
それは数秒の出来事だった。
その時、背後にあるドアをぶち壊しながら、霧咲が入ってきた。
「何やってんの、放しなさい!」
霧咲は、そう言いながら、青白い光を脚から放ち、夜魅の「腹」を目掛けて、跳び蹴りを繰り出した。
だがその光は電車をけった時とは少し弱めな感じがした。
「……グッ」
夜魅は蹴られた格好のまま吹っ飛んだ。
神夜は首絞めから開放され、転がり落ち横倒れすると、あまりの苦しさに手を首もとにもっていき押さえ、その場で縮こまってしまった。
声も出ないし、動けない。
夜魅はふっ飛ばされた時に、壊れた残骸のドアを掴むと、そのドアを杖代わりに使い立ち上がり、持っているドアを軽々しく片手で二つに破壊した。
神夜はその光景を見ると、同時に思っている事が口から出た。
「……マジかよ」
―――あの細い腕で、あんな力が出るなんて……。これが夜魅。そして、さっきの霧咲の蹴り、この二人……人間か―――。
そう、目の前にいるのは青鬼の仮面を外した夜魅らしいが、霧咲によく似ているとはいえ、どことなく、身長が小さくなっているような気がした神夜。そのせいなのか霧咲と思ってしまったようだ。
「クソッ大牙! 出てぃてくれ‼ お前の敵が今目の前にいるぞ‼ 頼む!」
「実は、大牙はいま体力を使い果たして眠っているの……」
「はぁ? 今が絶好のチャンスじゃないのか⁉? 起こすにはどうすればいいんだ⁉?」
「眠っている事を伝えてほしいとしか聞いてないは……起こし方までは……」
「そうかよ……大牙、こんなときに・・・・・・」
いや、神夜は思い出した。ガリウスの時は神夜に力を渡して危機をまのがれたたことを、つまり、今度は、神夜自身の力でなんとかするしかないことを。
「ハハハハハァ……ハウッ、そうか、そういうことか……生き延び理由はあの魔獣か!」
夜魅はそう言うと、両手を胸の前に出して、邪悪な殺気が漂う黒い玉を作り出した。
「何だそれ……」
「バカ! 見てないで早く逃げて……。あれは、夜魅が今まで生あるものを殺し、その心の闇が形になったもの……」
「心の闇……」
神夜は、その冷たい殺気の強い黒い球体をよく見てみると、その中には髑髏や、人の残骸と思われるものが、渦を巻くように散らばり、直視できないほどの殺気を、放ち夜魅の手の上に収まっている。
初めてこんな不気味なものを、見た神夜はその場で固まってしまった。
「おや~おや、そんな目をして……もしかして、怖いのかい……それとも見惚れているのかい……」
そんなことを言いながら、ゆっくり、ゆっくりと、神夜との距離を縮めて来る。
―――ヤバイ……体が動かない―――。
「はぁ――!」
霧咲が、隙を見て破壊したドアの残骸から、鉄の棒を拾い夜魅の背後から、夜魅の頭部を狙って振りかざす。
その鉄の棒は夜魅の横、すれすれを通り過ぎ、振りかざした鉄の棒は、地面に接触。
その状態を狙って夜魅は、手の先に浮遊している黒い球体を霧咲に向けた。
「!」
「バァーン!」
垂直に伸ばした夜魅の片手。
霧咲を軽々と指一本も触れず。触れたのは黒い球体。
球体を放つことで、霧咲を吹き飛ばした。
霧咲が吹き飛んでいくのを見届けると、顔を少し下斜めにずらし、すぐさまこちらに顔を向け一言悲しげな声で神夜に言い放つ。
「……残った道は一つしかないか……そうか、残念だ、解った、解ったよ……」
夜魅は、うつろな顔で神夜に向けて、先程作った黒い球体を作り出し、殺気で作られた塊の黒い球体を腹に押し付けた。
「ガァーアアアァァァァァァァ!」
神夜に放つ球体の凄まじい殺意の気で、壊れかけの神夜の家が、吹き飛び周りにある物全てを破壊した。
「グハァ……」
崩壊した建築物の残骸が散りばめられ、地面は大きな円を描いたように、神夜を中心にして地面が抉られたように窪んでいた。
その窪みは直径一メートル程度あった。
神夜の口からは、血のような、赤黒い微粒子が湧き水のように流れ、体全体が痛さと怖さのあまり震えて小刻みに動いていた。
その残骸の中に、神夜の母親の容姿をしたデータ人間が、電子レンジと冷蔵庫などの家電の破損部分に触れ感電しているのが確認できる。
―――ヤバイ、何だコイツ……痛い……赤い……あかい?……ち……血……誰の血だ……俺の……―――。
意識が遠のいて行く、瞼はゆっくりと視界を狭め閉じようとする。
必死にあけようとする神夜の目に、さっきから感じている恐怖の根源となる、人物が目に入った。
―――……し……な……違う……よ……み……か―――。
いや、霧咲だった。
その時だった、優しげな風が吹き始めた。
「……彼岸(ひがん)……西風(にしかぜ)……」
その風は段々と強くなり吹き荒れていく。
「!」
すかさず、技を繰り出す。
「突風(とっぷう)……春(はる)嵐(あらし)!」
「桜……」
そしてその嵐は、段々と吹き荒れていき、周囲の木々を薙ぎ倒していった。
嵐は夜魅の周囲を風の霧がかった壁が囲んだ。
そう、見た目は、小さな台風。トルネードだ。
夜魅の周囲を風の壁が囲んだ時、こんな言葉も聞き取れた。
「風絶軌(ふうぜつき)‼」
その言葉を合図に、風で構成された鋭い刃が、その嵐の中に何刃も溶け込むかのように、刺さって行く。
この風は恐らく霧咲が出した風であろう。
なぜならこの場所には神夜と夜魅と霧咲しか居ないのだ。
「何だ、何だ、そんなに私を殺したいのか‼ ハッハッハッハッハッハッ……ハグッ! じゃーあぁ~………彼方から殺してあげるね……」
夜魅は、そう言うと、不気味にほほを上げ笑い始めた。
風の壁の霧で隠れしている外に居る人影を見つけた。
「そこか‼」
夜魅は、邪悪な黒い人の殺気の塊を両手に出して、その塊をその見えた人影に投げつけた。
その邪悪な塊の黒い球は人影の方へと消えていく。
その人影は二つの邪悪な黒い球を切り裂き、風の刃を放ってきた。
「風絶軌(ふうぜつき)‼」
「!」
「シャドーボール‼」
夜魅は、先ほどと同じ黒い塊を両手に構築し投げた。
その黒い塊は、風の刃とぶつかり合い消滅した。
お互いの攻撃が合いうちで終わったと思いきや、夜魅は黒い魂を投げた時、黒い球に隠れ、人影に接近し、距離を狭めていたのだ。
近距離攻撃範囲に届くほどの距離に攻め縮めていた。
「バーン‼」
夜魅の手元には、邪悪な塊で構築した、釜のような鋭い武器で切り裂いていたようだ。
だが風の霧で姿がハッキリとしない。
霧咲らしき、人影は何も持たず、夜魅の鋭く邪悪な殺気を漂わせている。
釜を止めて見せた。
そして両者はそのまましばらく動かず霧が晴れていった。
「誰だ、お前は‼」
「!」
「私? 私は霧咲よ……」
「……何……あの小娘だと……」
夜魅は鋭い目線で霧咲だと名乗っている者を睨んだ。
それもそのはずだ。
神夜もその姿を見て驚いたからである。
なぜなら、中学生のような幼児体系で可愛らしかった霧咲は、外見からして背が高く文句が見つからないほどの美少女に返信していた。
髪の色が白く毛先にいくにつれて薄ピンク掛かっている。
強い気迫が漂っていたからである。
その光景を目の当たりにした後、神夜は出血が酷く意識を失ってしまった。
◇◇◇
□ 少女の隠れ家
神夜は意識が戻り、瞼に暖かい明るい何かを感じた。
それは多分日の光だろう。陽の光と言っても夕日の暖かな光だ。
差しこむ光は揺ら揺らと揺れて、カーテンの動きに合わせて、光と影が交差する。
「……」
瞼を開くと、最初に目に入ったのはどこかの部屋の天井の一部のようだ。
神夜は今、自分の置かれている状況を理解できていなかったのだ。
何か大切なことを忘れているのに気づき、神夜は天井を見ながら考えに耽っていた。
―――……あっ……そう言えば…あの時、俺は夜魅に………そして……―――。
その時だった、神夜の目の前に最近、見慣れた顔が突如と現れた。
「あっ、起きた!」
「わっぁ!」
神夜の顔を覗き見るようにしていたのは霧咲だった。
「良かった~、もう目を開けないんじゃないかと思ったわよ~」
「……」
「あっ! そうだ、お腹すいたでしょう! ご飯作って来るからここで待ってなさいよね! 味は感じないけど食感と香りを楽しめるから食べるでしょ!」
そう言うと、他の部屋と繋がっているであろうドアに行き、霧咲はドアノブに手を掛け、開けて部屋を後にした。
階段を降りる音がした。
この部屋は二階なのだと分かった瞬間でもあった。
―――あれ⁉ ……そう言えば夜魅にやられた時の傷が無くなっている―――。
「どこも……痛くない……」
神夜は自分の上に掛けられた掛け布団をまくりあげると、ベッドから降り、傷口を探すように体中触りまくった。
傷が確かに無いのを確認した神夜は周囲を観回した。
「えっ……」
寝惚けているのかと神夜は自分の目を疑ってしまう。
今神夜がいるこの部屋は確かにどこにでもある普通の部屋に見える。
だが唯一開きっぱなしにされたドアの向こう側を除いての話だったらだ。
「えっ……どうなってんだこれ……」
まぁ……今までのことを見てきたからか、あまり大げさには驚くことは無かったが、その光景を目の当たりにし神夜。
今までの不思議であり得ない出来事が起こっていったことを思い出すと、なぜか納得をしてしまった。
向こう側には部屋の延長となる廊下すら無く、ただ白い壁だけがドアの向こうをふさいでいた。
「あっ、あれ~……おかしいな~確かここから霧咲は……」
「作ってきたよ! 朝ご飯食べよう!」
なんと、突然霧咲はドアのふさがれた壁の中から、コンビニの袋を持ち、両手には箸の重さで蓋をされたカップヌードルを器用に二つほど持って現れたのだ。
「わっ!」
「キャ―!」
そのとき神夜はドアの壁がどうなっているかを確かめたくて、ドアの真ん前まで近づいて来ていたのだ。
神夜と霧咲は当然にもお互いに驚きぶつかった。
その衝撃で霧咲が持っていた片方のカップが神夜に降りかかった。
「アッチィ―‼」
そのぶつかった後、神夜の影が消えてしまった。
だが、ことに神夜と霧差は気づくことはなかった。
それどころの状態じゃなかったためだろう。
「あっ!……あんたがそんな所にいるからでしょ! 私は悪くないんだからね!」
「あはは~ごめん……それより何で壁から出てきたの?」
「あっ、そう見えるんだ~やっぱり、実はね、ここは、データワールドだから、私がこのドアだけデータを書き換えたのよ」
「そうして何度か試したんだけど、唯一成功したのが、このドアなの、機能は、言ったことがある場所に次元を繋げられるのよ。次元転送扉って感じ」
「じゃあ失敗したのもあるの?」
「うん、色々作ってたからね。他にもあるけど、まともに使えるとしたらこのドアだけかな~そんなことより、服着替えてシャワー浴びるでしょ! ドアに付いてるボタンを押したら入れるから1~27番の中の12番がシャワー付いてる部屋だから、好きに使っていいよ。誰も使わないし」
「誰も使わないってことは誰もいないってこと……親は?」
「……」
神夜の言葉を聴くと霧咲は黙り込んでしまった。
霧咲にとってあまり触れて欲しくない言葉を、投げかけてしまったことに気づいた。
霧咲の母と姉はもうこの世にはいず、父は家族を殺したというし、一番言ってはならない言葉だったのだ。
「あっ……悪い……」
「いいの……気にしないで……」
霧咲はそう答えるとまた黙り込んでしまった。
◇
―――でも、カップヌードルかぁ……まぁ……現実世界とは違って味がない分、食感と風味を楽しめるのは納得がいくなぁ……―――。
そんな事を考えながら、神夜は12番の部屋でシャワーを浴び、シャワー室から出て服を置いていた場所へ戻ってみると、神夜の制服が無くなっていた。
そして神夜の服が消えた代わりに、他の制服だけが置かれていた。
―――まぁ~データワールドに来てからは、あの服のまんま、だったし、着替えてなかったからな。色々あって汚れてるし、後で見つけたら洗おうかな……多分霧咲の仕業だな……―――。
そんなことを思いながら、神夜は霧咲の元々着ていた服の在りかを聞く。
「霧咲~俺の制服は~と言うか、何この制服……どこの学校の⁉ 前よりはいいかも知れないな~……じゃなくて! これは俺のか……?」
神夜はそう言いながら、12番の部屋から霧咲が居る部屋に戻った。
「着てきたわね!」
「これが今日から私たちの仲間の証の制服よ」
「私も何年も、元の世界に変える方法を考えたわ……でも、今の所、この世界を作った人間と、そのシステムを壊すことが、唯一元の世界に戻れるのだと信じているわ」
「霧咲も俺と同じってことか……じゃあ何で霧咲はどうやってこっちの世界に来ちまったんだ⁉」
「私は……私も似たようなもの……私がまだ小さかった頃。ある小さな開発研究所のリーダーだった一人の男が、リアルワールドのような世界を作れる謎の粒子を発見したの」
神夜は、少女の話に耳を傾ける。
「でもそんな空想話、誰もがでたらめだといい、話すらも、まともに聴こうとしなかったわ。だから男は、人の研究が正しいことを証明するために、リアルからデータワールドに行こうとしたの……」
少女は、少し下に顔を傾け、静かに、話を続けた。
「そうすれば証明できると思ったからだと思う。他の研究者に見せ付けてやりたかったんじゃないかな……」
なんとも言えない表情を浮かべていたが、悲しさの感情が優先していることは表情から見て取れた。
「そして、ついにその男は完成させたの………。リアルワールドからデータワールドに行く次元転送装置を」
「転送装置……」
「そうよ……男は、自分の脳の記憶を、仮想世界の元となる情報として、活用したの……」
「!」
「でもその時その場所にいた人間も、全てその時の次元転送装置に巻き込まれて、データワールドにきてしまったのよ……」
少女は、あたかも、自分が体験した出来事のように、口調を変えた。
「その中に男の家族もいたの……。ほとんどの人間はその時多くの人が命を落とした…………」
「そして……その男はデータワールドの情報となり、創造主となったのよ……唯一……生き残ったといえば幼い少女だった「私」ただ一人だけ…………」
「その男の人って……まさか……」
「…………そう、私の父よ」
◇◇◇
□ 2つの再開
