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学園潜入捜査編|エピソード蔦(Tsuta) Vol.5 ~事件の数日前【後編】~


これは、学園に潜入取材をしていたタブロイド紙記者・つたが殺害される数日前の出来事である。

ラグズフォート学園の公会堂旧館。
その地下室へ足を踏み入れたつたは、鉄格子の向こうに広がる真っ白な部屋で眠る一人の女性を発見する。

その姿がれいであることを、つたは知らない。

そして、この発見こそが彼女の運命を大きく変えることになる。



鉄格子の向こう。
濃いパープルのソファに、長い銀色の髪の女性が座っていた。

銀色の髪の毛先は赤いグラデーション。
頭には白いヘッドギア。
そこから伸びる複数の管が壁や天井へと繋がっている。

眠っている。
そう見えた。

けれど、その姿はあまりにも異様だった。


「…え?…何? この子は誰…?」

つたの指が鉄格子を掴む。

冷たい。
その冷たさで、ようやく自分の手が震えていることに気づいた。

「これは…どういう状況なの? 意味わからない…」

その時だった—

「あなたこそ、誰なんです?」
声は鉄格子の向こう側から聞こえた。

つたは弾かれたように顔を上げる。


濃いパープルのソファの脇に、白衣姿の人物が立っていた。
両手は白衣のポケットに入れられたまま。
黒いマスクで口元を隠し、緑の瞳だけが静かにつたを見ている。

白い部屋の中に溶け込むように静かに。
まるで最初からそこにいたのに、つただけが全く気づいていなかったかのように。

「……あんた、誰?」

「それはこちらのセリフなんです…」
抑揚の薄い声だった。

「部外者がここに入ってきてはダメなんです…」
その声に怒りはなく、焦りもなかった。
ただ決められた規則を読み上げるような、平坦な響きだけがあった。

つたは鉄格子を掴んだまま、眠る女性と白衣の人物を交互に見た。

「ここ何なの? この子は誰? 何してるの?」

白衣の人物は、一度だけソファに座る女性へ視線を向けた。

「あなたには関係ないことなんです」
その言い方は冷たいというより、ただ事実を述べているだけのようだった。

「関係ないかもしれないけど…この状況って絶対普通じゃないでしょ!」
つたの語気が少し上がる。

「突然入ってきた部外者に説明する義務は無いんです」
白衣の人物は遮るように言った。

「……意味わかんない」
つたは眉をひそめた。

白衣の人物は、わずかに首を傾けた。
「分からなくていいんです。だから早くここから出ていってほしいんです」

つたは動かなかった。

白い部屋。
鉄格子。
ソファに座る銀色の髪の女性。
頭のヘッドギアから伸びる無数の管。

見なかったことにできる光景ではない。

「嫌よ!」
つたはハッキリと言った。
「こんなの見て、何も聞かずに帰れるわけないでしょ!」

短い沈黙が落ちた。

やがて白衣の人物は、少しも慌てることなく答えた。
「……そうですか」

そして、淡々と続ける。
「それなら、こちらも対処するしかないんです…」


次の瞬間だった。
プシュッ、と小さな音がした。

つたが反射的に顔を上げる。
「え……?」

天井の小さな通気口のようなものから、白いガスが静かに噴き出していた。
光の加減か、その輪郭はわずかに紫がかって見えた。



「そういう人には、こうするしかないんです…」
白衣の人物の声は、どこまでも静かだった。


「ちょっと、待っ……」
言葉の途中で、息が詰まる。

喉が焼けるように熱い。
視界が揺れる。
鉄格子を掴む手に力が入らない。

白い部屋が、さらに白くぼやける…



その白が、やがて光になった。

「…っちゃん…つっちゃん!」
遠くから倫の声が聞こえる。

「つっちゃん!大丈夫!?」

つた、気が付くと学園のキャンパスのベンチにいた。
気を失っていたのか、眠っていたのかは分からない。

目の前にはりんなぎの姿があった。
二人とも心配そうにつたの顔を覗き込んでいた。

なぎりん


「つっちゃん、顔色が良くないけど、大丈夫?」
倫が心配そうにつたに声を掛ける。

「…え?…あれ?たしか私は公会堂旧館に居て…あれ?どうやってここに来たんだろう?」

「公会堂旧館? あそこは普段から鍵がかかっていて、入れないはずだけど…」
梛が冷静に淡々と答える。


「…え?」






それから数日後。

つたは、無惨な姿で発見されることになる――




~Fragment Log~


よもぎ


よもぎは、秘密結社velvetの理化局に所属する科学者である。

理化局は、薬剤・生体反応・特殊設備・環境制御などを扱う、velvet内部の科学(化学)部門である。

ラグズフォート学園の公会堂旧館の地下に存在する白い部屋。
そこで眠り続ける玲の状態を管理している人物のひとり。(なぜ玲を管理しているかは今後のストーリーで明らかになっていく)

穏やかな口調で話すが、善悪の判断よりも“管理上必要かどうか”を優先する傾向がある。
「〜なんです」という独特の言い回しが口癖である。



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