Math Note Ⅰ 第14話
14 2次関数の最大・最小(2) ――いろんな場合を想定して
重低音で目が覚めると、窓の外は銀世界だった。典子は隣で開いた文庫本を手にしたまま口を開けて大きな鼾をかいて眠っている。昨日は遅くまで話し合ったから、相当疲れているのだろう。典子は普段しっかりしてるけど、時々ちょっとおっさんくさいところも俺は好きだ。
これから典子のご両親に会いに行く。典子によると、お母さんはとても優しい人だが、お父さんは古風で厳格な性格だそうだ。「サザエさん」に出てくる「磯野波平」のような人だろうか。立体的に描かれた「バカモン!」という言葉とともに、玄関を追い出される絵が思い浮かんだ。いや、現実はそんなコミカルなものではないだろう。殴られることも覚悟しなくてはいけない。
行かなくていい理由があるなら行きたくない。それが本音だ。新幹線が雪で止まって行けなくなったとか、お義父さんが急にお腹が痛くなったので今度にしてほしいと連絡があったとか、そんなことはないだろうか。……ないだろう。であれば、覚悟を決めなくてはいけない。
典子の手から文庫本が離れ、床に落ちた。典子は気づかずに眠っている。本を拾おうと手を伸ばすと、本と一緒に一冊の白いノートが落ちてあった。典子のものだろうか。
「Math Note」――数学のノート?開いてみると、典子の字とは違う筆跡でたくさんの問題とその解説が書かれていた。なぜか少し光っているように見えたページがあったので、そのページを開いてみた。
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〈問〉 $${a}$$ は正の定数とする。次の関数の最小値を求めよ。
$${y=x^2-6x+7 (0\leqq x\leqq a) }$$
〈解〉$${y=x^2-6x+7}$$
$${y=(x-3)^2-2}$$
頂点($${3}$$,$${-2}$$)下に凸

(ⅰ) $${0<a<3}$$ のとき 最小値は $${a^2-6a+7}$$ ($${x=a}$$ のとき)
(ⅱ) $${a≧3}$$ のとき 最小値は $${-2}$$ ($${x=3}$$ のとき)
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定義域の右端が $${a}$$ になっていて、$${a}$$ がいろいろな値をとる可能性があることが難しいところだ。問題の2次関数は下に凸の放物線だから、最小値は、定義域の中に頂点(軸)を含んでいるのか含んでいないのかによって変わる。だから、2つの場合に分けてそれぞれに答を出す、というのがこの問題の概要だ。
……だから何だ。
そうか。ぶっつけ本番でお義父さんと会うのも悪くないが、せっかくなのでいろんな場合を想定して準備をしておこう。
まず、こちらが挨拶をしてもお義父さんが何も言わず仏像のように座っている場合。そして、こちらが挨拶をしようとするといきなり「出ていけ!」と言われ、話も聞いてくれない場合もあるだろう。あとは……何だか気が滅入ってきた。しかし、典子のためにもできることはすべてやりたい。今できるのは、心の準備だ。そしてご両親に何を伝えるかを考えることだ。
結局誰のノートかわからないので、ノートを網棚に置いておくことにした。腕を組み、目を閉じて考える。よし、まずは「(ⅰ)仏像タイプ」の場合だ。その時は――
ああ神様、お義父さんに何を言われても、理性と誠実さを失わない勇気を俺にください。
