Math Note Ⅰ 第6話
6 連立不等式――思いの重なるところ
世間では教師はブラックだとかいうが、俺はそんな風に思ったことはない。学生時代ずっと野球をしてきた者なら、土日は一日練習というのは当たり前のことだし、今でも野球は好きだから、部活の顧問もそんなに苦には思わない。子どもたちは少し教えてやればうまくなるし、結果が出たり成長を感じたりすれば喜ぶし、こちらも嬉しい。こんな充実した仕事はないんじゃないかとさえ思っている。
しかし、結婚して子どもが生まれ、少し事情が変わってきた。子どもが夜泣きするので、朝起きるのがつらい。これまで絵美が朝早く起きて弁当を作ってくれていたが、今はできるだけゆっくり寝かせてやりたいから、今日もカップラーメンで昼食を済ませる。昨日も女子生徒が「愛妻弁当じゃなくなったんですか」などとクスクス笑っていたが、まあ、お前たちもいずれ分かる。妻を愛するからこその、カップラーメンなんだ。
昨日、絵美はうつむいて静かに言った――私も早く仕事に戻りたいな。
俺はその時どうしていいかわからなくて、何も言ってやれなかった。
スープを飲み干し、水回り近くの蓋のあるゴミ箱にカップを捨てたとき、その横に一冊の白っぽい表紙のノートが落ちていた。表紙には「Math Note」と書かれているが、名前は書かれていない。生徒のノートか、それとも数学の先生のものか。とりあえず席に戻って机に置いた。誰かが職員室の扉を開けたとき――風は吹いていなかったはずだが――ノートがひとりでにパラパラと開いた。そして何故か一瞬ぽっと明るくなった気がした。
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〈問〉次の連立不等式を解け。
$$
\begin{cases} 7x-1≧4x-7 \\ x+5<2(1+x) \end{cases}
$$
〈解〉$${7x-1≧4x-7}$$より
$${3x≧-6}$$
$${x≧-2}$$……①
また,$${x+5>2(1+x)}$$より
$${x+5>2+2x}$$
$${-x>-3}$$
$${x<3}$$……②
①、②より $${-2≦x<3}$$

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一次不等式は中学で習う一次方程式と同じように解くことができる。ただし、負の数をかけたり、負の数で割ったりするときに不等号の向きが変わることが注意点だ。
連立不等式は、2つ以上の不等式を並べて作られる。それぞれの不等式の解(範囲)を求めて、すべての解の共通部分が、その連立不等式の求める解となる。
……だから何だ。
これまで平日遅くまで仕事をしたり、土日も一日中部活を見ていたが、それは絵美が家事をすべてやってくれていたからできたことだ。絵美はもう少し落ち着いたら子どもを保育園に預けて仕事に戻りたいと言っていた。そうなれば、週に何日かは早く帰って家事も分担しなくてはいけない。今までは部活漬けだった土日もどちらか一日は家にいて、できれば絵美を休ませてやりたい。もちろん、生徒のために部活も見てやりたい気持ちはある。でもそればっかりじゃだめだ。そうだ、お互いの思いが重なるところが「解」になるんだ。
チャイムが鳴った。昼休みも終わりか。さぁ、授業にいくか。
授業から戻ってくると、机の上に置いていたノートがなくなっていた。誰か数学の先生が見つけて、持って行ってくれたのかな。でもあのノート、どこかで見たことがあるような……。
