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Math Note Ⅰ 第16話

16  判別式――かんたんにわかる方法

 絵美先輩……
 こんな気持ちになるのは生まれて初めてだ。
 高校まではジャガイモみたいな仲間たちと泥だらけになって走り回っていればそれで楽しかった。東京の大学に入学したら勉強とバイト、と思ってたから、大学まで野球を続けるつもりはなかったが、それでも野球部に入ってしまったのは女子マネージャーが五人もいたからだ。その中でも絵美先輩はとびっきり笑顔が素敵だ。みんなそう思っているだろう。先輩も含め、全員がライバルだ。いや、もう誰か彼氏がいるんじゃないか。
 ダメだダメだ、集中しなければ。煩悩を追い払うように、バットを振り続ける。
 
 ベンチの上に一冊の白いノートが置いてあるのが目に留まった。「Math Note」――数学のノート?誰かが家庭教師のバイトでもしてるのかな。
 手についた土と汗をぬぐい、注意深くパラパラとめくってみた。懐かしい気持ちにもなったが、ついこの前まで受験生だったことを思い出した。ちょっと光っているように見えるページが気になり、そのページを開けてみた。
 
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〈問〉2次方程式 $${x^2-6x+m=0}$$ が、異なる2つの実数解をもつように、定数 $${m}$$ の値の範囲を求めよ。
 
〈解〉この2次方程式の判別式を $${D}$$ とおくと、
 $${D=(-6)^2-4・1・m}$$
 $${=36-4m}$$
 $${D>0}$$ より $${36-4m>0}$$
 これを解いて $${m<9}$$

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 たとえば、2次方程式 $${x^2-2x-3=0}$$ の実数解は $${3}$$ と $${-1}$$ の2つあるが、 $${(x-2)^2=0}$$ の実数解は $${2}$$ の1つだけだ。また、$${x^2+1=0}$$ の解は実数では存在しない。
 このように、2次方程式の実数解の個数は、2個ある場合、1個だけの場合、ない場合(0個)の3通りある。その個数を判断するには「判別式(Discriminant)」という式が便利だ。
 2次方程式 $${ax^2+bx+c=0}$$ に対して、判別式を $${D}$$ とすると、
 $${D=b^2-4ac}$$
 となり、$${D>0}$$ であれば実数解は2個、$${D=0}$$ であれば実数解は1個(「重解」という)、$${D<0}$$ であれば実数解はなし(0個)となる。逆もまた然りで、2次方程式の実数解が2個なら $${D>0}$$ 、1個なら $${D=0}$$ 、実数解がないのなら $${D<0}$$ だ。
 この問題の場合は「異なる2つの実数解」をもつのだから、$${D>0}$$ であればよい。あとは出てきた不等式を解けば、$${m}$$ の値の範囲がわかる。
 
……だから何だ。
 
 ていうか、絵美先輩に彼氏がいるのかどうか、判別する方法はないだろうか。直接聞いてみるのがもっとも早くて正確だが、俺にはそんな勇気はない。情報通の高橋に聞いてみるのもいいが、逆に俺が絵美先輩に気があるという情報も共有されてしまう。
 
「馬場くん」
 ビクッとして飛び跳ねた。振り返ると、絵美先輩が笑っている。
「あはは、ごめんね。馬場くん、顔が真っ赤だよ。そんなにびっくりした?」
 俺の気持ち、絵美先輩にはもう判別されているのだろうか。

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