Math Note Ⅰ 第15話
15 2次関数の決定――切り替える
「あみ、バイバーイ!」
自転車に乗って追い越していくミクの声で我に返り、手を振り返した。
ちゃらんぽらんだと思っていたあの鈴木に「勉強しないのか」と言われ、言葉に詰まってしまった。もう三年か。あっという間だな。私もそろそろ勉強しないと本当にヤバいかも。でも、今まで勉強してなかったから、今さらやったって無理なんじゃないの?ミクも結構前から大学の話をしていたし、前からまじめにやってる子たちに追いつける訳がない。でも、だからって何もしなければ本当に何もなくなってしまう。
少し強めの風が吹いて、近くのクスノキの葉がザワザワと音を立てる。
あれ、電柱のそばに何か落ちている。近づいて見ると、それは一冊の白いノートだった。これって鈴木が今朝教室で見てたノートじゃないの?
また風が吹いて、ノートがパラパラとめくれた。開いたページが少し光ったような気がした。立ち止まってノートを拾い上げ、そのページを見た。
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〈問〉2次関数のグラフが3点($${-1}$$,$${-6}$$),($${1}$$,$${0}$$),($${3}$$,$${-2}$$)を通るとき、その2次関数を求めよ。
〈解〉求める2次関数を $${y=ax^2+bx+c}$$ とおくと
($${-1}$$,$${-6}$$)を通るから $${-6=a-b+c}$$ ……①
($${1}$$,$${0}$$)を通るから $${0=a+b+c}$$……②
($${3}$$,$${-2}$$)を通るから $${-2=9a+3b+c}$$……③
②-①より $${6=2b}$$ よって $${b=3}$$ ……④
また,③-②より $${-2=8a+2b}$$
④より $${-2=8a+6}$$ よって $${a=-1}$$ ……⑤
④,⑤を②に代入して $${0=-1+3+c}$$ よって $${c=-2}$$ ……⑥
ゆえに、求める2次関数は $${y=-x^2+3x-2}$$
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2次関数を表す式のうち、もっともよく使われるものが2種類ある。
(一般形)$${y=ax^2+bx+c}$$
(基本形)$${y=a(x-p)^2+q}$$
どちらも、$${x}$$ と $${y}$$ 以外の文字は何らかの数を表しているので、2次関数を決定するということは、$${a}$$,$${b}$$,$${c}$$ もしくは $${a}$$,$${p}$$,$${q}$$ の3種類の数を求めるということだ。
たとえば、頂点の座標が ($${2}$$,$${3}$$) とわかっている場合は、
$${y=a(x-2)^2+3}$$
という式になるということだから、基本形から考えるともう $${p}$$,$${q}$$ の値がわかっているので、あとは $${a}$$ だけを求めればいい。
しかし、この問題は頂点の座標などは分かっていなくて、グラフが通る3点の座標がわかっているだけだ。この3点の座標を基本形の式に代入すると、
($${-1}$$,$${-6}$$)を通るから $${-6=a(-1-p)^2+q}$$ ……①
($${1}$$,$${0}$$)を通るから $${0=a(1-p)^2+q}$$ ……②
($${3}$$,$${-2}$$)を通るから $${-2=a(3-p)^2+q}$$ ……③
というごちゃごちゃした式が3つできてしまう。だから、こんなときは、解答のように「一般形」に代入するほうが、連立方程式が1次式になって、結果的に求めやすくなる。
……だから何。
あ、そうか。鈴木もミクもちゃんと切り替えてたんだ。友達の前の自分と、一人になった時の自分。その時その時で大事なことをちゃんと考えて、楽しく遊ぶ時と、真剣に勉強する時を切り替えていたんだ。このような問題で、いつも基本形に代入するのではなく、時には一般形を使うように。
私はそれに気づいてなかった。ずっと基本形ばかり使っていたみたいな感じだ。だから今、どうしていいかわからなくなっている。
じゃあ、どうする。
「お、鳥谷、こんなところで勉強してんのか?偉いなー」
鈴木の声で我に返った。鈴木はそのまま走り去っていった。しばらくボーっとして立ちすくんでいたが、えっ、このノート、鈴木に返すんじゃないの?
いつも「声だけはでかい」と言われる私だが、今日は二回も声を出しそびれた。ノートを鞄にしまって、歩き出した。これは明日鈴木に渡そう。
過去の自分のままズルズルいくんじゃなくて、気づいた今からでも気持ちを切り替えよう。私も今日からできることをする。
