Math Note Ⅰ 第11話
第3章 2次関数
11 2次関数のグラフ――必要な情報を得るには
「鈴木、昨日はごめんな」
ぼんやりしていたら不意に後ろから謝ってきたのでビクッとしてしまい、椅子がガタッと音を立てた。
「お、おう」
鞄の中から意味もなく大量の教科書やノートを取り出し、机の上に置いた。田中はさっきの一言だけで自分の席に戻っていった。ちらっと田中のほうを見るが、田中は何も気にしていないようなすました顔をしている。いつもあいつの表情は何を考えているのか分かりづらい。
田中はもう俺に怒っていないのか、いや、腹立たしい気持ちをぐっと我慢して、まずは殴ったことを謝ってきたのかも。俺の予想通り田中の家では何かが起こっていたんだろうか。気になる。聞いてみたいが、今はそのタイミングではなさそうだ。俺は無理に他人の気持ちを詮索しない男だ。……でも気になる。
意味もなく冬眠から起こしてしまった教科書たちをまた鞄の中に戻そうと思ったが、それらに交じって白っぽいノートがあることに気が付いた。これはもしかして、昨日の数学のノートでは。
「おはよー!」
いつもテンションの高い鳥谷の声でまたビクッとしてしまった。そのとき、ノートのページがパラパラとめくれた。
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〈問〉次の2次関数のグラフをかけ。
また、その頂点の座標と軸の方程式を求めよ。
$${y=2x^2-4x-1}$$
〈解〉 $${y=2x^2-4x-1}$$
$${=2(x^2-2x)-1}$$
$${=2(x^2-2x+1-1)-1}$$
$${=2(x^2-2x+1)-2-1}$$
$${=2(x-1)^2-3}$$
グラフは図のようになる。
頂点の座標は($${1}$$,$${-3}$$)
軸の方程式は $${x=1}$$

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$${y=ax^2+bx+c}$$( $${a}$$,$${b}$$,$${c}$$は実数、ただし$${a≠0}$$ )で表される関数を「2次関数」という。
$${y=ax^2+bx+c}$$ の形の式を「一般形」と呼ぶが、この式ではグラフをかくための情報が不足しているので、「平方完成」という手続きを通して、 $${y=a(x-p)^2+q}$$ という形に変形していく。この式の形は「基本形」と呼ばれる。このとき、頂点の座標は($${p}$$,$${q}$$)、軸の方程式は $${x=p}$$ となる。
もちろん、一般形でもある程度の情報はわかる。$${a>0}$$ならば下に凸、$${a<0}$$ならば上に凸のグラフだ。また、$${c}$$の値はグラフと$${y}$$軸との交点の$${y}$$座標を示している。

……だから何だ。
田中が実際に何を考えているのかは聞いてみないとわからない。でも、少なくとも昨日のことを謝ってくれた時点で、昨日ほどは怒っていないことはわかる。今はなんだか気まずいが、普通に話せるようになれば、あいつも何か話してくれるかもしれない。田中の「一般形」が時間をかけて「基本形」になるような感じかな。
「何見てんのー?」
突然鳥谷が後ろから声をかけてきて、またビクッとしてしまい、机と椅子がガタガタっと大きな音を立てた。周りの女子がクスクス笑っている。
「何でもねえよ」
教科書の束を乱暴に鞄に投げ込む。白いノートは最後にそっと鞄の中に入れた。
「珍しく勉強してるんだー」
鳥谷がニヤニヤしながら冷やかしてきたので、
「三年だから当たり前だろ。鳥谷は勉強しないのかよ」
と逆に聞き返してやった。
鳥谷は戸惑っているようだった。俺がまともなことを言ったからだろうか。しかし、こいつもたじろぐことがあるんだ。普段こんな表情をしないから少し意外だった。お互いやりとりを重ねて少しずつ「情報」がわかってくる。「平方完成」みたいなものだな。
