Math Note Ⅰ 第13話
13 2次関数の最大・最小(1)――今、ここにあることを
今、私たちは上越新幹線に乗り、新潟に向かっている。隆志は隣で眠っている。新幹線の振動音に交じって、隆志が何か言ってるのが聞こえた。
「赤にするか、青にするか、……」
夢の中でネクタイの色でも選んでいるようだ。どこに行くつもりなんだろう。昨日は夜遅くまで話し合って疲れているだろうから無理もない。東京はどちらかというとまだ暖かいけど、時間が経つにつれ、隆志の寝顔越しに見える外の景色がだんだんと白くなる。
三週間前、おなかの中に赤ちゃんがいることが分かった。隆志と話し合って、私たちは結婚することを決意した。しかし、厳しい父がそんなことを許すはずがない。私はこのまま父に黙って東京で子どもと暮らすことも考えたけれど、隆志はちゃんと父と話をするべきだと言ってくれた。隆志は優柔不断なところもあるけど、大事な時にまっすぐなところが私は好きだ。でも、隆志を父に会わせることに、不安な気持ちを抑えきれない。父はきっとめちゃくちゃに隆志を非難するに違いない。
リュックの中にある文庫本を取ろうとして立ち上がり、網棚に手をかけたとき、リュックの下に何かがあることに気づいた。取り出してみると、それは白いノートだった。「Math Note」――数学のノート。誰かが忘れていったのかな。
パラパラとページをめくってみると、あるページだけ少し明るく光っているような気がした。
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〈問〉次の関数に最大値・最小値があれば、それを求めよ。
$${y=-x^2+6x-5}$$ $${(2<x<6)}$$
〈解〉$${y=-x^2+6x-5}$$
$${=-(x^2-6x+9-9)-5}$$
$${=-(x^2-6x+9)+9-5}$$
$${=-(x-3)^2+4}$$
頂点は($${3}$$,$${4}$$),上に凸
$${x=2}$$ のとき $${y=3}$$
$${x=6}$$ のとき $${y=-5}$$
よって、グラフは下のようになり
$${x=3}$$ のとき 最大値は4、 最小値はない。

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$${y}$$ が $${x}$$ の関数であるとき、$${x}$$ の値の範囲のことを「定義域」、$${y}$$ の値の範囲のことを「値域」という。この問題の場合、定義域は $${2<x<6}$$ だ。値域は頂点や定義域の端点の値を調べ、グラフをかいてみればわかる。この問題の場合、値域は $${-5<y≦4}$$ だ。グラフを見るとわかるけど、頂点のところで $${x=3}$$ のとき $${y=4}$$ という値を確かにとる。でも、$${x=6}$$ は定義域に含まれていないから、$${y}$$ の値は $${-4.9}$$ や $${-4.9999}$$ のように、$${-5}$$ に限りなく近い値はとることができても $${-5}$$ になることは決してない。だから、最大値は$${4}$$ だけど、最小値は $${-5}$$ ではなく、「ない」と書くのだ。
……だから何なの。
そうか。私はまだ起こってもいないことに不安を抱いているんだ。どうなるかまだ決まったわけじゃないのに、頭の中で勝手にひどい父を想像し、罵詈雑言を浴びせられる隆志や私を想像している。まあそうなる確率は高そうだけど、そんなことをずっと考えながら実家に帰っても、前向きな話し合いなんてできるわけがない。まだ起こっていないことは、存在しない。そんな暗い時間を過ごすのなら、久しぶりの雪景色を楽しんだり、本を読んだり、隆志みたいに夢を見ているほうがよっぽどマシだ。
誰のノートかわからないけど、とりあえず網棚の上に戻した。文庫本を開こうとしたとき、隆史が横で何か言ったような気がした。また寝言のようだ。ふふ、幸せそうに笑ってる。ネクタイの色、ちゃんと決まったのかな。
その寝顔を見ているだけで私も幸せな気持ちになる。今、ここにあることをもっと大切にしよう。
