この出会いは僕に笑顔をくれた【noteでBL】
やって参りました。毎月楽しんで参加させてもらっている小説企画【noteでBL】第19弾!
今回は、三つのお題で作品を描くという形です。
そのお題が、「地獄」「土壇場でキャンセル」「オタク×オタク」という三つとなります。
その企画は、こちら。
前回に引き続き、今回はエイクサイドを書かせていただきました。
これ、あと一回は書きたいなと思っています
。
それでは、あらすじを書いた後で本編となりますので、よろしくお願いします。
ジャンル
ヒューマンドラマ
あらすじ
エイクは八歳の誕生日に父親に街の真ん中で放置された。
地獄のような日々を過ごす中、母を失くし、一人ぼっちの街で、見て見ぬふりをして通りすぎて行く大人たちの中に、たった一人だけ目を逸らさずに通りすぎていくおじさんがいた。
エイクは気がつくと、そのおじさんに向かって走り出す。
おじさんと過ごした日々は、本当に幸せで、僕に笑顔をくれた。
そして、おじさんは僕を愛してくれた。本当の父親は僕を愛してくれなかったのに――。ずっと一緒にいたい。いつしかエイクはそう願うようになっていたんだ。
あらすじはこんな感じでまとめさせてもらいました。
本編もお楽しみいただけたらと思います。
この出会いは僕に笑顔をくれた
生まれた日からきっと、僕の運命は地獄の始まりだったんだ。
お母さんはいつも傷だらけだった。それは僕を守るため。鬼のような父親から僕を守るために必死で立ち向かっていた。
まだ幼かった僕には、それをただじっと見つめることしかできなかった。
お母さんは絵の上手な人で、よく物語を描いては僕に夢のようなお話を聞かせてくれた。
いつか、二人でこんな風に幸せになろうねって頭を撫でてくれた。
僕は、そんな日が必ず来ると信じてぐっと拳を握りながら、アパートの隅で一人、二人の帰りを待っていた。
夜になり玄関の扉が開くと、僕はお母さんが帰ってきたと思い、座っていた格好から立ち上がって玄関まで走って向かう。
でもそこにいたのは、ニタニタと不適な笑みを浮かべて立っている父親の姿があった。
(そうか、もう僕はお母さんに二度と会うことができないんだ――)
心の中でそう思った。
「いいか、お前はこれから金を持っていそうなじじいと一緒に生活するんだ。このペンダントは無くさずに持っておけ」
「なんのために?」
「そんなの決まってるだろ。俺の生活を潤すためにだよ。七年だ。今日から七年後に迎えに行く。それまでにしっかりじじいと仲良く暮らすんだ」
これは僕が八歳になったばかりの日。
誕生日の日に、僕は父親に街のど真ん中で放置された。
もともと年齢基準よりも体の小さかった僕は、他人から見れば未就学児にも見えるはずだ。
何人もの人が見て見ぬふりをして通りすぎていく中で、たった一人だけ僕から目を逸らさずに真っ直ぐに見つめたまま通りすぎていくおじさんがいた。
いや、実際に目が合っていたのかなんてわからないけれど、でも僕は気がつけばその人に向かって走り出していたんだ。
追い付いておじさんの服の裾をぎゅっと力一杯握りしめると、気づいたおじさんは僕に視線を合わせるように屈み、「君、迷子?」と問いかけてくるから、首を横に振る。
そんな僕に向かっておじさんは、優しく目尻を下げて微笑むと、「俺と一緒に来る?」と手を差し出してくれた。
その問いかけに僕が静かに頷くと、おじさんは優しく手を繋いで歩き出した。
§§§
おじさんは僕をエイクと名付けた。
これがまさか僕の本当の名前だったということは伝えたことはない。
運命かもしれない。僕がここにいることは必然なのかもしれないと出会って数時間しか経っていないのに感じてしまうほどだ。
料理を作ってくれているおじさんを背に、つきっぱなしのTVに視線を向けると、そこに映し出された写真に胸がぎゅっと締め付けられる。
(おかあさん……)
溢れ出そうになる涙をぐっと奥歯を噛み締めて耐える。ここで泣くわけには行かない。泣いてしまえば、今TVで流れているニュースが僕のお母さんだとおじさんに知られてしまうから。
そしたら僕はここにいられなくなってしまうかもしれないから。
ダメだ……泣いちゃダメだ。すべての感情を抑え込むようにして食事の用意されたテーブルへと向かった。
テーブルの上には、お母さんのよく作ってくれたオムライスが乗っていて、僕はまたそれを泣きそうになりながら食べたんだ。
おじさんは、野球が大好きらしい。応援する球団の試合を見ながら、時々白熱していることがある。僕は隣に座ってその様子を見ていることが好きだった。
おじさんのいろんな表情を見ることができて楽しいから。
自然と笑ってしまっている自分がいることに気付いた時は何だか可笑しくて、くくっと声を出してしまいそうになる。
だけど一瞬でも本当の感情を見せてしまったら、繋ぎ止めている細い糸がぷつりと切れてしまいそうで、そうなればもう戻れなくなりそうで、またそれをぐっと飲み込むことで居場所を確保する。
眠る時はここに来た夜からずっとおじさんの隣でおじさんの肘を摘まみながら眠っている。お母さんがいた時はお母さんの肘を摘まんで眠っていた。なんでだろう、少しざらざらとした感触が妙に心地よくて安心する。でも、男の人と女の人ではまた触り心地が違って、摘まむ大きさも違って、それなのにおじさんの肘は僕の胸の奥にふわりと温かい何かを与えてくれるんだ。
だから僕は、ここにずっといたいと願うようになっていた。
おじさんは何も聞いてこない。だから、僕がここにいる意味を知るわけもない。迎えの来ないこの幸せだと思える日々が続けばいいのに――。そう願わない日はなかった。
§§§
一度だけ、おじさんは僕を家の中から連れ出してくれたことがあった。
人目につかない夜の海。涼しい風が頬を掠めていく中で、僕たちは月明かりに照らされた穏やかな地平線を眺めていた。
「エイク、何があっても俺は君とずっと一緒だよ」
「おじさん?」
「きっと、大丈夫。俺が必ず君を守るから」
「急にどうしたの?」
「別に。ただ、伝えておきたかっただけ」
「へんなの……」
本当はすごく嬉しかった。
そっと包み込まれた手の温もりを今でもよく思い出す。あの優しさがなければ、きっと僕はとっくに壊れてしまっていただろう。
いつだっておじさんは僕のことを一番に考えてくれていたこと、ちゃんと知ってたよ。
だからね、僕はおじさんと離れる選択をしたんだ。
最後におじさんに愛されているという証をしっかりと体に刻み込むことで、すべての感情を心の奥にしまいこんで生きていこうと決めた。
おじさんは僕のことをどう思ってくれてるの?
僕にとっておじさんは、家族よりももっと、もっと大切な人になっているんだよ。
14歳にもなれば自分の体に変化が出てくることもわかる。
隣にいるだけで触れたくて、でも触れられなくて、膀胱のぐっと奥の方が疼いてくる。それが何を意味するのか、僕はもう知っていた。
気がつけばおじさんの隣で僕は、自身の中心に手を伸ばし、すぐ側にある温もりを感じながら握りしめているそれを高めていく。
微かに変化のあった息遣いを聞き逃すことなく気付かないふりをして行為を続け、僕はそのまま果てた。
ねえ、おじさん……僕、大きくなったでしょ?
もう小さな子供じゃないんだよ。
だから、僕から逃げないで――。
そう強く願っても、あの日からおじさんは僕の眠った後で部屋から出ていくことが増えた。
それが僕を意識してくれていると思ってもいいのかな?
もうすぐお父さんとの約束の日。
あの人は必ず迎えに来る。
だって、自分の欲望のためなら人を殺すことが出来るくらい狂った人間だから。
「明日は、早く帰ってくるからお祝いをしよう」
「無理はしないでね」
「無理なんてしないよ。でも、明日はエイクがここへ来た日だから」
「うん。楽しみにしてる」
二人で食べる最後の食事。
おじさんが帰ってきた時の様子は、明らかに普通ではなかった。
明日があの人との約束の日。
そして、僕とおじさんの別れの日となる。
こんなにも別れが惜しくなるなんて出会ったあの瞬間には思いもしなかった。ただ、この人の真っ直ぐ僕に向けられる視線だけは信じられると思えたんだ。
離れたくないな――ずっと一緒にいたいな。
でも、俺があの人の息子である限り、それは永遠に叶わない。
だから――僕は決めた。
§§§
ピンポーンとインターホンの音が部屋の中に響いた。
僕の肩が震える。
恐る恐るインターホンに映る人物を確かめると、パーカーのフードを被った男がにたりと笑って立っている。そう、僕はこの人物を知っている。
あの日、一人で帰ってきた日と同じ笑いをしていた。
「はい」
「エイク、迎えに来たぞ」
「僕が自分で出ていくから、そこで待っててくれますか?」
「そんなの、いいわけないだろ」
「どうして?」
「その部屋にある金になりそうなものを探してからだ」
「でも、それは……」
「お前はなんのためにそこにいるんだ?」
「お父さんのため……」
「だったら拒否権は?」
「ない、です……」
「じゃあ、ここを開けろ」
大丈夫、おじさんの大切なものは今朝のうちにお風呂の天井に隠しておいた。
もしもなにかあった場合はと、おじさんは僕に自分の大切なものの置いている場所を教えてくれていたから、それだけは守らなきゃならないと思った。
久しぶりに会うお父さんは、ずいぶんと荒れた生活をしているようで、七年前よりもずっと老けている。
部屋中を見回りながら、金目のものをどんどんと大きなバッグの中に詰め込んでいた。
この人は、今までどうやって生活をしてきたのだろう?
ふとそんなことが頭を過った。
お父さんはおじさんの家の中にあるお金になりそうなものを片っ端から盗むと、僕の腕をきつく握りしめてマンションを後にする。
逆らうことはできないとわかっている。
だって、この人は僕がいないと生きていけないのだから。
「お父さん、おじさんは?」
「今から連れてってやるよ」
車に乗り込み、街からずいぶんと離れた河川敷で停車した。
車のドアが開くと同時に、鈍い音と苦しそうな息遣いが耳に届く。
すぐに何が起こっているのかを察知する。
抵抗する素振りもなく、ひたすら殴られているだけの音が響いてくる。
「また、殺すの?」
「またって何だよ……」
「お母さんのこともお父さんが殺したんでしょ?」
「人聞きの悪いこと言うなよ。殺したのは俺じゃない。あそこにいる奴らだ」
「早く止めないと、おじさん死んじゃうよ」
「俺には関係ない」
「二度目は捕まるかもしれないよ」
「おまえ……」
僕は、おじさんのいる方向へ向かってゆっくりと歩き出す。
ここで焦ったら何も変わらない。
感情を圧し殺して、近づいていく。
「は、やく……かえらなきゃ……」
もう動けなくなっているはずなのに、僕との約束である夕食を作るための材料が入った袋に手を伸ばしている姿を見つけた。
卵はもう割れてしまっている。
僕たちの出会った日に作ってくれたオムライス。毎年、おじさんは僕のためにオムライスを作ってくれた。
「あーあ、今日は僕の大好きなオムライスだったのかな?」
「エ、イク……」
「おじさんのオムライス、大好きだったよ」
「な、んで……」
「おじさんのことは大好きだけど、僕はお父さんのために生かされてるんだ。逆らうことなんて出来ない。だから、おじさんともここでお別れだよ。僕を愛してくれてありがとう。バイバイ」
僕はおじさんの手を握って手の甲へそっと唇を当てる。ずきずきと胸に感じる痛みは気のせいだと言い聞かせながら立ち上がり、お父さんの元へと戻っていく。
お祝いの約束は守れなかったけれど、きっと大丈夫。
おじさん、僕はあなたを信じているよ。
何があっても僕のことを守ってくれると言ってくれたあの日、僕は誓ったんだ。
この人の幸せを守りたいと――。
本当に、大好きだったよ。
お父さんとの生活は、言うまでもなく最悪だった。毎日のように続く暴力で身体中には生傷が絶えなくて、息苦しさしかない。
もう限界だった。どうしようもなかった。
「おい、早く金持ってこいよ」
「無理だよ。こんな身体じゃ誰も買ってくれない」
「お前が言うこと聞かないからだろ。あのじじいからもっと踏んだくれると思ってたのによ。くそったれが」
「どっちがだよ」
「あっ?」
「あんたの方がよっぽどくそだと思うけど」
「なんだと……」
わざと癇に障ることを言った。そうすればきっと地獄の時間が始まる。
何度も身体に打ち付けられる痛み。
でもなぜか僕は、この時間が苦しいとは思わなかった。
ねえ、お父さん。
あなたは僕を一度も愛してくれなかった。これは最大の罪と罰だということを知ってる?
僕は隠し持っていたナイフを取り出して、静かに握りしめる。
そしてお父さんがよろけるようにわざと足を引っ掻けて、こちらに倒れ込んできた瞬間にナイフを立てた。
「いって……」
「自業自得だよ。お母さんも、おじさんも、僕も、同じくらい苦しかったんだ」
「それが親に対する態度か?」
「僕の家族は、お母さんとおじさんだけだよ。あんたなんて、もう知らない」
「おい、エイク。うそだろ……おまえ、俺を見捨てるのか?」
「大丈夫。すぐ楽になるから」
もう一度深くナイフを突き刺す。
これでもう、僕は自由だ。
スマホを取り出して、110番を押す。
「こちら警察です。事件ですか、事故ですか?」
「人を刺しました」
僕は逃げも隠れもしない。
だって、やっと自由を手に入れたのだから。
もう誰にも邪魔させない。
おじさんは、僕のことを許してくれるかな?
「エイク」
「おじさん?」
「迎えに来たよ」
「僕たち、どうしようもないオタクだよね」
「それはそれでいいんじゃない?」
「そうだね」
そう言って、僕たちは笑った。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
エイクサイドのお話となります。
なんか、オタク×オタクが無理矢理な空気があるかもしれませんが、お互いがお互いに依存しているオタクと解釈をお願いします。
なんか書きたいシーンはたくさんあるけれど、それはまた後々となりそうです。
今回も、参加させて頂けて良かったです。
相変わらずギリギリでの参加表明となりましたが、なみさん、よろしくお願いします。
いつも楽しんで書かせてもらえてありがたい。
それでは、しばらくバタバタが続きますので、次回も参加できそうなら参加させてもらいたいと思います。
