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銀杏と上司と俺の怖い話【noteでBL】

今回も参加させて頂きます。
第13回目となる【noteでBL】企画小説。
もとの記事は、下記となります。

今回のお題は、「秋の味覚」「本当にあった怖い話」「パンツはき忘れた」という3つのお題です。
これはもう、うちで生まれたアオハル二人では難しいということで、またまた新キャラの二人に登場してもらいました。はい、今回は上司と部下での作品になります。
エロを書くべきか、どうするべきかと悩みましたが、一切なしとなっております。
それどころか、秋の味覚でほぼ文字数いってるかもなという感じになってしまっているかもです。
それでは、これより本編へ。


銀杏と上司と俺の怖い話


 道端に落ちていると異様な臭いを放つそれは、明らかにそこにいることを主張していて、正直鼻を摘まみたくなるほどだ。
 だけど俺は、それを食べるのが意外と好きだったりする。
 でも、家で調理をして食べるまでではないし、別になくても生きていけないわけではない。
 むしろ幼い頃は、茶碗蒸しに入っていたそいつが排除したくなるほどの苦さで顔を歪めたことを今でも覚えている。
 そうだ、どちらかといえば嫌いな食べ物だったということを今更ながらに思い出した。
 きっかけは、社会人になってから上司の草刈さんに連れて行ってもらった赤提灯の店で食べた時だった。

「とりあえず、銀杏の塩炒りを一つ」

 座席に座る前に店のおかみさんに注文しているのを扉を閉めている背中越しに聞いて驚いた。
 自ら好んで銀杏を注文するなんて、変わった人だなと内心思ってしまったからだ。

「お疲れ様です」
「お疲れ」

 まずはお互いにビールを頼み、運ばれてきたと同時にグラスを手に持つと、こつんと当てる。
 そのまま乾いた喉を潤すために半分ほど飲むと、目の前にはそれを見守るかのように目尻を下げてこちらを見ている上司がいた。

「どうしたんですか?」
「いや、美味しそうに飲むなって思って」
「だって美味いですもん。仕事終わりのビールは最高です」
「他、なんか食べたいものない?」
「じゃあ、えっと……、だし巻き玉子とどて焼きと、やみつききゅうり、もいいですか?」
「もちろん。食べれるだけ頼んでいいから」
「草刈さんは?」
「僕はもう頼んでるから大丈夫」

 頼んでるって、銀杏のことだよな? それだけで腹は満たされるのか? しかも、食べれるかどうかもわからないようなもの。

「銀杏って炒ったら美味しいんですか?」
「苦手な人もいるだろうけど、僕は好きだよ」
「俺、小さい時に茶碗蒸しに入ってた銀杏を食べて臭いし、苦いしで苦手になったっていうか……」
「なるほど。でも、ここのはたぶん大丈夫かも」
「へえ、そうなんですね」

 好きな人を目の前に苦手というのは失礼だったかもしれないけれど、草刈さんは特に気にしていない感じで、ビールを飲んでいる。
 たまにこうして仕事帰りにご飯へ行くけれど、毎回思うのは草刈さんはビールを美味しそうに飲むなってこと。
 飲んだからといって人柄が変わるわけでもない。ただ一つだけ言えることは、柔らかく笑うんだなっていうこと。
 実はその顔が案外悪くないって思っている自分に最近気がついた。

「お待たせしました。銀杏の塩炒りになります」
「ありがとう」

 店員さんが運んできた銀杏は殻がついたままで、焼き目がこんがりとついている。思っていたよりも臭みはなくて、むしろちょっと焦げた匂いが今はちょうど良い。

「じゃあ、先に頂くね」
「どうぞ」

 慣れた手付きで銀杏の殻を剥いている草刈さんの指先に視線が集中していた。
 男らしくかくばっていて大きい指先にある爪はとてもきれいな形をしている。
 器用に剥いて口へと放り込んでは、美味しそうにカリッと音を立てて噛み砕いていた。
 すると、上手く開いていない銀杏を手に取った草刈さんがくすっと笑う。

「どうかしました?」
「いや、ちょっと思い出しちゃって……」
「えっ、思い出し笑い?」
「ここ見て」

 そう言って、すーっと差し出された親指の先を見ると、ちょっとした傷があることに気付く。

「怪我ですか?」
「そう。実は、こういう風になっていた殻を剥いたときに爪と皮膚の間を切ってしまったことがあってね。すぐ治るだろうと思って放置して何日かしたら尋常じゃないくらい腫れてしまったんだ」
「いったっ」
「高熱と感染症で入院することになった時は、さすがに怖くて本気で焦った」
「感染症って……」
「まさか、銀杏の殻で切った場所からばい菌が入って死が頭を過る経験をするなんて思ってもなかったからね」
「そんなに……」
「まっ、今はちょっとした傷が残っているくらいだから、実際はそんなたいしたことではなかったんだろうけど」
「これくらいで済んで良かったですね」

 無意識だった。その傷をもっと近くで見たいと、そっと手を取って自分の方へ近づけていた。

「山下くん?」
「あっ、すみません……」
「いやっ、大丈夫だけど」
「どんな傷かなって気になって……。けっこう深くやったんですね」
「そうだね」
「それ、俺が剥きましょうか?」
「硬いよ」
「貸して」
「じゃあ、お願いしようかな」

 反対の手に持っていた銀杏をこちらへ向かって差し出されて持っていた手を解放すると、それを受け取って殻の筋に沿って挟むようにして力を入れた瞬間に、パキッと音を立てて殻が剥けた。

「はい」
「ありがとう。いただきます」
「どうぞ」

 殻を割った状態のまま草刈さんに戻すと、すぐに殻を取って口の中へと放り込んでいる。そして、自分の剥いた銀杏を一つ「はい」と目の前に出されて受け取る。

「騙されたと思って食べてみて」
「ほんとに?」
「嘘なんて言わないよ」
「じゃあ……」

 いらないと突き返すわけにもいかないから、言われるまま目をぎゅっと閉じて口の中へ入れて歯で挟むけれど、なかなか噛めない。
 その様子を見ていた草刈さんが、またくすりと笑っているのを感じた。

「なんですか?」
「なかなか噛めないみたいだね」
「ま、まあ……」
「ほらっ、こうやって噛めば、香ばしさと塩気が口の中に広がって旨いよ」

 カリカリと音を鳴らして美味しそうに食べているのを見ていたら、気がつけば挟んでいた銀杏をカリッと噛んでいた。

「あっ、うまっ」
「でしょ? 僕は、茶碗蒸しの銀杏より、断然こっちの方が好き」
「全然臭くないですね」
「しっかりと下処理をして、炒ってくれてるからだろうね。気に入って貰えた?」
「いや、気に入るもなにも。俺もこれ、好きかも」
「良かった」

 苦手だと思っていたのに、噛んだ瞬間に口の中に広がった香ばしさと塩加減の絶妙なバランスに驚いた。
 まさか自分が銀杏を美味しいと思える日が来るなんて思ってもいなかった。

          §§§

「今日は、山下くんの怖い経験を聞かせてくれるんだよね?」
「いいですよ。でも、ビビんないでくださいよ?」
「それは聞いてからの話かな。さっ、教えて」

 この間の帰りに「今度は、山下くんの忘れられない怖い話を楽しみにしてるよ」と言われ、一ヶ月ぶりに二人でやってきたのは、草刈さんの一人暮らしのマンションだった。
 金曜の夜で残業終わりということもあり、今から店を探しても見つからないだろうということで、会社からさほど離れていない草刈さんの家で飲もうということになった。
 コンビニで宅飲み用のアルコールと肴を買って、初めてお邪魔する家に少し緊張している。
 部屋には無駄なものがなく、シンプルだけどシックな家具で統一されていて、お洒落な感じだ。
 部屋も綺麗に片付けられているし、脱いだら脱ぎっぱなしの自分の部屋とは雲泥の差だ。

「さっ、じゃあ始めようか?」
「えっ?」

 コンビニの袋から買ってきた缶ビールや酎ハイ、肴などをばさっとダイニングのテーブルの上に置くと、ガサガサと音を立てながら広げ始めた。
 あまりにも抵抗することなく行動しているから、この部屋の住人だということを疑いそうになる。

「どうしたの?」
「いやっ、豪快だなって思って」
「せっかくなんだし、こういう時はね。気を遣わせるよりは全然いいでしょ」
「それは、まあ」

 こちらのことを考えてのことだとわかるけれど、その気持ちがなんとなく嬉しく感じていた。
 この人は、本当に人の気持ちを優先することのできる人なんだなと改めて思う。

「よし、じゃあまずは乾杯」
「お疲れ様です」
「お疲れ」

 缶ビールをお互いに持つと、こつりと当てて喉を潤す。

「実は、今年のお盆にあった話なんですけど……」
「うん」

 一息ついたところで、俺は約束通りに今年のお盆にあったばかりの体験を話し始めた。

「お盆休みに入る前日に、溜まっていた洗濯物を回しながら風呂に入ってたんです。ユニットバスなんでシャワーで20分ほどで上がったんですけど……」

 こちらの話に真剣に耳を傾けてくれているのがわかり、話を続けていく。
 基本的に風呂上がりは寝る寸前まで裸族のため、何も身に付けていない。洗濯が終わるまでゆっくり過ごしていたら急に洗濯機が大きな音を鳴らして急停止した。
 慌てて駆け寄ると、みるみるうちに水がホースの先端から溢れだしてきた。急いでホースを排水口から引っこ抜き、風呂場へと移動させたことで、何とか家の中が水浸しになることは避けられた。
 ほっとしたのも束の間。今度はスマホが鳴り出して、ホースが動かないようにドアで固定しリビングへ戻りスマホを手に取ると、母さんからの電話だった。

「は、はい」
「雄星、おじいちゃんが亡くなったよ」
「えっ?」
「川に落ちて、近くに誰もいなくてね。引き上げられたときには亡くなってたって」
「そんな……」
「明日がお通夜で明後日がお葬式だけど、どうする?」
「もちろん、帰るよ。姉さんは? 臨月って言ってなかった?」
「それがね、さっき産まれたのよ。女の子だって」
「そっか、わかった。とりあえず、すぐ向かう」
「じゃあ、待ってるね」

 まるでドラマの中の出来事みたいで何だか現実味はないけれど、静かな部屋に水の流れる音だけが響いていて、洗濯機が壊れたのがじいちゃんのことを知らせたかったのかもしれないと思えた。
 そして、同じ日に姉さんの赤ちゃんが産まれるなんて、ある意味奇跡だ。

「行かなきゃ……」

 はっとして、一通りの荷物をボストンバッグに詰め込むと、一番近くにあったカーゴパンツとTシャツを着込む。
 とりあえず、洗濯機の水道を思いっきり閉めて、水ができれば大丈夫な状態にすると、家を出た。

「と、まあ、こんな虫の知らせみたいな体験がついこの間あったんですよ」
「たまにTVとかで観ることはあるけど、実際に身近で起こると不思議だし、怖いな」
「それがですね、俺、実はこのときに、やらかしてます」
「なにを?」
「気付きません? 部屋では裸族なんですよ、俺」
「はっ? まさか……」
「そう、パンツはき忘れて家を飛び出してました」

 はははっと頭を掻きながら伝えると、草刈さんが真剣な顔でこっちを見ている。

「どうしました?」
「その時に僕が一緒にいたら、ちゃんとはき忘れてるよって言ってあげられたのにね」
「いやっ、えっ、なんで……」
「これからは、僕がちゃんと言ってあげるっていうのはダメかな?」
「くさ、か、り……さん?」
「って、いいわけないか……」

 いやいやいや、一人で勝手に言って、一人で勝手に解決しないでもらえます?
 それに、この人はその意味をちゃんとわかって言ってるのだろうか?

「とりあえず、明日また赤提灯の店で銀杏食べるっていうのはどうですか?」
「それは、もちろん。山下くんも、あそこの銀杏気に入ってくれたの?」
「そうですね。草刈さんと同じくらいには……」
「じゃあ、だいぶ好きだね」
「そうですね」
「僕と同じだ」

 嬉しそうに笑うあなたに、俺もつい笑ってしまう。
 でも、店に行った帰りは、どうなっても知らないからね。
 秋の味覚を楽しんだあとは、大人の楽しみがあっても悪くないでしょ? ねえ、草刈さん。


以上が今回のお題でした。
実は、この前のXのスペースでなみさんとかし子さんがお話しされていたのを聞かせて頂いておりました。
なみさんのお話を聞いて、うちの家も似たような体験を母がしていると聞いたことがあり、その時にこのお話がふわりと浮かんできたので、形にさせて頂きました。
母のお父さん、私のじいちゃんですね。
お酒をよく飲む人で、家から小道を真っ直ぐ歩いておりると、目の前に港があります。
そこに落ちて亡くなったと連絡が入る前に、洗濯機が壊れたらしいです。
そして、その次の日に私の妹が産まれました。
じいちゃんの生まれ変わりと言われていた妹には、全くじいちゃんの記憶はないけれど、初めてお母さんから聞いたときは、鳥肌が立ったのを覚えています。
そんなエピソードを添えさせて頂き、今回の企画も無事に参戦できたこと、嬉しく思います。

ありがとうございました。

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