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軍事基地が、世界最大の劇場になった理由6/18#382


高雄市の繁華街から地下鉄で数駅、
緑豊かな公園の奥に、
巨大な有機体のような建物がたたずんでいる。

うねる白い屋根は木々の梢とつながり、
どこまでが建築でどこからが自然なのか、
境界が見えない。

この場所がかつて軍隊の訓練場だったという事実を、初めて訪れた人の多くは信じられないという。

なぜこの場所は、
世界が注目する文化施設になれたのか。
設計とブランドの視点から、その構造を読み解く。

■ 軍営から公園へ——市民が10年かけて奪い返した土地

清代から日本統治時代にかけて、
衛武営は一貫して軍用地として使われてきた。
戦後の中華民国政府のもとでも新兵訓練センターとして機能し、1979年に軍が撤退したあとも、
広大な土地は長らく市民に閉ざされたままだった。

転機は1992年。
医師の曾貴海氏を中心とした
市民グループが「この土地を市民に返せ」と声を上げた。

いわゆる「南方緑色革命運動」と呼ばれた
公園化運動は10年以上にわたって続き、
2003年にようやく政府が「衛武営芸術文化センター」計画を正式採択。

2018年に開館するまで、
実に15年の歳月と総工費107.5億台湾ドル(約500億円)を要した。

■ ガジュマルから生まれた建築

設計を担ったのはオランダの建築事務所Mecanoo。
建築家フランシーヌ・ホウベンが高雄を訪れ、
最初に目を留めたのは公園に立ち並ぶガジュマルの木だった。

高雄市民はガジュマルの大きな樹冠の下に集まり、日常の会話や集会を営む。
ホウベンはその光景を設計の起点にした。
うねる巨大な屋根が公園全体を覆い、
内と外の境界が溶けていく。
建物に「入る」という感覚ではなく、
気づいたら建物の中にいる
——そういう空間体験を設計している。

建物の「皮膚」となる外装は、
2,300枚の鉄板を造船技術で溶接したものだ。
高雄はかつてアジア有数の造船都市であり、
その職人技術が文化施設の外観に転用されている。ただの意匠ではない。

都市の産業記憶を建築に埋め込む、
ブランディングの手法だ。

施工難度は極めて高く、
鉄骨使用量はエッフェル塔3本分(21,000トン)。地中には台北101の2倍以上となる
789本の杭が打たれ、
鉄骨の組立難度は北京の鳥の巣スタジアムをも超えるとされた。
建設には延べ100万工数を要している。

■ ホールではなく、都市の再生装置だ

衛武営が単なる文化施設と異なるのは、
設計の出発点が「市民の日常」にあることだ。

一つ屋根の下に5,861席を収める世界最大の舞台芸術複合施設でありながら、
入場料なしで誰でも立ち入れるロビーと広場を持つ。

かつて軍が市民を締め出していた土地が、
今は市民を招き入れる場所になった。
この逆転が、この建物の本質だ。

台湾南部に初めて誕生した国立ホールという意義も大きい。文化インフラが台北に集中してきた台湾において、「南部にも世界水準の場をつくる」という意志が、15年という工期と500億円という投資に表れている。

衛武営を訪れたとき、
ガジュマルの下に集まる市民と、
ロビーで譜面を広げる演奏家が同じ空間に溶け込んでいる光景を想像してほしい。

建築は、都市の記憶を書き換えることができる。
衛武営はその証明だ。

台湾・高雄を訪れる機会があれば、
ぜひ足を運んでほしい。
軍事基地の面影は、もうどこにもない。

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