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大人の歯列矯正体験記


コンプレックス

物心ついた時から、自分の歯並びの悪さがコンプレックスだった。
出っ歯で八重歯で大きな歯にガタガタの歯並び。

写真を撮ると、友達はキュッと口を閉じていたりきれいな歯並びで笑っていたりするのに、私はガタガタの歯で笑っているか、口がポカンとだらしなく開いているか、閉じた口元のアゴに梅干しができて不細工だった。
そのことに気づいてからは、なるべく口を閉めようと心がけるようになり、笑う時も口元を隠すようになった。

歯列矯正というものを知ったのは小学生の頃。
友達が矯正を始めたのだ。
歯にワイヤーをつけて、給食も皆と同じものは食べられない。
その子だけプリンやパンなど柔らかいものを持ってきていた。
とても大変そうだったし、自分も矯正できるなんてことは想像もしなかった。

歯が命取り

私が学生の頃、「芸能人は歯が命」というキャッチフレーズの歯磨き粉のCMがよくテレビで流れていた。真っ白できれいな歯並びの俳優さんたちの笑顔を見るたびに、私は「歯が命取り」になっている自分に嫌気がさしたものだった。

大学時代にサークルを退部する時、とある後輩から私たち先輩一人一人へプレゼントが贈られた。
笑いのネタとしてか、誰に対してもブラックジョークを含んだプレゼントが贈られた。
私が受け取ったのは、大きなブラシ。それも歯ブラシで有名なメーカー「GUM」のものだった。
すぐにその意味がわかり、恥ずかしさと悔しさで頬が紅潮していくのが分かった。

けれど、私の八重歯を「かわいい」と言ってくれた人も少しはいた。
そんな言葉をもらえた時は少し複雑な気持ちも混じるもののやはり嬉しかった。
その時ばかりは自分を否定する気持ちから脱することができた。

歯並びは治せないけれど、化粧や髪型、服装、ダイエット、人への思いやりなど、自分が魅力的な人間になれるよう、自分に自信を持てるようにできる限りの努力はしてきた。

私が結婚したのは27歳のとき。
とても幸せだったけれど、結婚式もやはり歯並びはガタガタのままだった。
後から写真を見て、「あぁ、歯並びさえもっとよければ…」と感じたものだ。

大人でも矯正できるの?

長女を妊娠している時に参加した妊婦さんのための歯科検診。
歯並びが悪すぎて、先生や歯科衛生士さんに見られるのも恥ずかしく、歯医者に行くのは苦手だったのだが、妊娠中は歯の健康にも気をつけないといけないと知り、市が主催する歯科検診に申し込んだ。

この健診時に、私は大人でも歯列矯正ができるということを知ったのだ。

私の歯並びの悪さを見て、先生は
「噛み合わせのせいで磨き残しが多いようですね。本当は今からでも矯正することをお勧めします。」
と私に告げた。

私は思わず聞いた。
「今からでもできるんですか??」
歯科医は答えた。
「できますよ。私なら、歯を並べるために上下2本ずつ抜歯して、ワイヤーで矯正していくかな。最短でも2、3年かかるでしょう。費用は100万円くらいになると思います。」
少し惹かれたが、4本も歯を抜くのは怖いし、なにしろ費用が高すぎる。

このときは結局夫に相談することはなかった。

きっかけ

28歳で長女を出産し、長女が1歳8ヶ月のときに職場復帰。

毎日それはそれは忙しくてバタバタの毎日だった。
職場の更衣室で過ごす昼休憩だけがひと息つける自分の時間。
友達と話すのも気を遣って疲れてしまうので、私はいつも一人で過ごしていた。
周囲では数人のグループで食事をしている人たちもいた。

そんなとき、聞こえてきてしまったのだ。

「笑ったときに歯並びが悪いと、その人のイメージ下がるよね。」

その言葉を口にした人と面識はなかった。だから私に向けた言葉ではなかったはずだ。
悪気もなかったのだろうとは思う。

ただ、このとき、きれいな歯並びの人には分かりっこないだろうが、私は自分を全否定された気がした。

その日から、私はインターネットで大人の歯列矯正について調べるようになった。
30代から矯正を始めた人のブログなどを読んで情報収集した。
しかし、やはり多額の費用がかかる上に何度も受診しないといけない。

やっぱり難しいかな・・・

そんな思いを持っていたところに二女を授かり、33歳で出産。
二女が1歳半になるまで育休を取ることになった。

保育園に入所させるまでには卒乳しておきたいと思っていたので、二女が1歳になったタイミングできっぱりと授乳をやめることにした。

そして私は再び歯列矯正について考え始めた。
今ならもう薬を飲むこともできるから抜歯されても問題ない。
育休中なら時間が取りやすいので、歯列矯正を開始する絶好のチャンスかもしれない、そう思った。

まずは夫に相談。
「歯並びがコンプレックスで、ずっと歯列矯正したかったねん。でも、100万円くらいかかるらしい。矯正が終わるまで、私のお小遣い減らすから、矯正してもいい??」

夫からの返事はこうだった。
「歯並びのことなんか何も思ったことないけど。まぁ、お好きなようにしてください。別にお小遣い減らさんでええわ。」

最初の一歩

私は勇気を出して矯正歯科に行くことを決意した。

市内の歯科をたくさん検索した結果、矯正実績が多く、大人の歯科矯正の症例もたくさん紹介してあり、できる限り健康な歯を抜歯せず、インビザラインというマウスピース矯正に特に力を入れているという歯科を選んだ。

インビザラインは、1日20時間、つまりは食事中と歯磨きの時間以外は常にマウスピースを装着するというものだった。
マウスピースは約2週間ごとに交換し、少しずつ歯を動かしていくので、ワイヤー矯正よりも痛みが少ない。
さらには、透明で薄いマウスピースは目立ちにくく、食事も歯磨きもいつもと同じようにできることがメリットとのこと。
しかも、治療開始から治療終了までのすべての段階のマウスピースを最初にまとめて製造するので、一定数をまとめて受け取ることができ、1か月から1か月半に一度の受診でよいというのだ。
ただ、ひどい不正咬合には向いていないらしく、私の場合はきっとワイヤー矯正になるだろうなと覚悟はしていた。

歯科に行くと、優しそうなスタッフの方々が迎えてくれた。
ドキドキしながら問診票を記入する。

とにかく恥ずかしいくらいに歯並びが悪い。診察台の上で口を大きく開くことは屈辱と言っていいほどだった。

まずは検査のために、レントゲンや歯型取りをしてもらった。
私の歯は予想を裏切らない困難な症例だった。

○舌の位置が悪いから前歯を押していて出っ歯になっている。
○顎のアーチが狭いのに歯が大きいので並びきらない。
○親知らずが4本あり、1本は横向きに埋没している。

約2週間後の次回来院時に矯正の方法や費用、スケジュールについて先生から説明を聞くこととなった。

2週間の間、私はインターネットでたくさんの症例を探し回った。
私ほど歯並びが悪いと、インビザラインでの矯正はおそらく無理だろう。
ワイヤー矯正となれば、見た目もそれなりに目立つし、食事制限も必要になる。
大好きなお餅も3年間は食べられないだろうな。

だけど、最近は芸能人でも堂々と歯列矯正をしている人を見かける。
八重歯だった人がきれいな歯並びになっていると、私は焦りを感じた。
もうワイヤー矯正でも何でもいい。とにかくこの歯並びを治したい。

ドキドキしながら迎えた再診の日。
先生の提案はこうだった。

○親知らず3本は抜歯する必要がある。埋没した親知らずは抜歯が困難と思われるが、矯正に大きな影響はない。
○狭いアーチを広げることで抜歯せずにインビザラインで矯正することができる。
○逆にワイヤー矯正では、歯磨きがしづらく、歯がボロボロになるだろう。

「インビザラインでできるんですか??無理だと思ってました!」
思わず聞き返した。

私の場合、とにかく顎のアーチが狭いのがガタガタの大きな要因なので、アーチを広げることができるインビザラインこそ、私には向いているらしい。

ということで、もし矯正するならインビザライン。費用は75万円。それにプラスして1ヶ月に一回の受診時の調整料、矯正終了時のリテーナー作成などにも費用がかかるとのこと。

一旦帰宅してから意思を決定し、連絡することとなった。

帰りの車の中で考える。
やはり100万円以上はかかりそう。
今までずっと諦めてきた。
でも、矯正を始めるなら今しかない。
もう後悔したくない。
歯並びでイメージが下がるなんて言われたくない。
私の歯並びのせいで、子どもたちがいじめられでもしたらどうする!?
今からなら、長女の小学校入学までには矯正を終わらせることができる。

私の意思は固まった。
夫に決心を伝えた。

「やっぱり100万円以上かかるけど、矯正したい。ガタガタの歯並びを治すための矯正やから医療費控除の対象にもなるみたい。私の気持ちが落ち着かへんから、矯正中の私のお小遣いは減らすわ。1ヶ月に1回くらい受診するかもやから、その時は子どもたちをよろしくお願いします。」

夫は快くOKしてくれた。

父母と義父母にも、
「私が歯列矯正を始めることにしたので、子どもたちをみてもらう機会が増えるかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。」
と改めて挨拶した。

治療開始

まずは親知らずの抜歯だ。上の歯2本は担当医に抜いてもらえるが、埋没歯を含む下の歯2本は総合病院を紹介され、抜歯してもらいに行くことになった。

総合病院でCTを取り詳細に検査してもらったところ、埋没歯の方は抜くとなれば全身麻酔となり、下顎を削る必要がある上に顔に麻痺が残る場合があると言われたため、現状で特に悪さをしている歯ではないことから経過観察をすることとなった。
もう一方の下の歯は予定通り抜くこととなり、後日手術の予約をして抜歯してもらったのだが、その時の感覚は忘れられない。
部分麻酔されていたため、痛さは感じなかったものの、ゴリゴリバリバリとすごい音が聞こえた。
抜かれた歯の大きさには正直引くほど驚いた。
抜歯後にぽっかり空いた歯茎の穴も、本当に埋まるの!?と半信半疑だったが、トラブルなく再生してくれた。

残り2本の上顎の親知らずも担当医に抜いてもらい、いよいよインビザラインの型を取ることとなった。

私の歯型は、はるばるアメリカの工場に送られ、約1か月後には大量のマウスピースが製造され、担当医のもとへ送られてきた。

まずは、アタッチメントというものを歯に装着された。
これは歯を動きやすくするためのものらしいのだが、歯と同じ色なので、歯の表面はでこぼこするものの、やはりワイヤー矯正に比べれば目立たないものだった。

その後初めてマウスピースをセットされた日。
何とも言えない感覚。
それなりの違和感があり、これが3年続くのか・・・と思うと少しぞっとした。

痛みとの闘い

初めてマウスピースを付けた日の翌日は、ひどい痛みに見舞われた。
30年以上も固定された歯の位置を動かすのだから仕方ないが、とにかく少し歯に触れるだけで痛いのだ。
しかも、マウスピースのつけ外しがものすごく難しい。
慣れるまでは、外すのに10分近くかかってしまったことがあった。
ガタガタに入り組んだ歯のせいで、薄いマウスピースが割れそうで怖い。

マウスピースは2週間に一回の交換だった。
2,3日すると痛みは落ち着くのだが、新しいマウスピースに交換するとまたひどい締め付け感と痛みが襲ってきた。
この繰り返し。
でも、きれいな歯並びになるためなら我慢できる痛みだと感じていた。
痛いのはその分、歯が動いているという証拠だから。

少しでも順調に動いてほしくて、私は一日22時間近くマウスピースをつけていたと思う。
その甲斐あって、途中からは10日ごとにマウスピースを交換することになった。

治療中困ったことといえば、料理をするときに味見ができないこと。
矯正をしていた頃の料理の味付けは勘で乗り切った。
あとは、外食時。
食事中はマウスピースを外すが、外していい時間が限られているので、料理が届き、食べ始める直前までマウスピースは外したくない。
誰かに見られているかもと不安になりながら、こっそりマウスピースを外していた。
旅行中、おいしそうな試食があっても気軽には食べられなかった。
職場の歓送迎会も、宴もたけなわになってくると、早く終わってくれないかなとヤキモキしていた。
口内炎も少しはできたが、ワイヤー矯正であればもっとひどかっただろうと思う。

このようなマイナートラブルはあったけれど、とにかくきれいな歯になるためと思えば、前向きにとらえることができた。

通院回数が少なくて済むおかげで、育休からの復帰後も仕事と家庭と歯列矯正を無理なく続けることができた。

治療を終えて

自分の歯が少しずつ動いていくのはおもしろかった。
歯って、意外と簡単に動くものなんだなと驚いた。
担当医からはいつも、頬づえはだめ、横向き寝はだめ、舌の位置に気を付けてということを繰り返し指導されてきた。
何気ない生活習慣の中で歯に力をかけることが、歯並びに大きな影響を与えるのだ。

2年半ほど経過したところで、予定通りに動かなかった歯のせいでマウスピースに浮きが生じるようになったため、もう一度型を取り直し、仕上げの矯正期間が始まった。この追加アライナーは当初料金に含まれていたので、追加料金は発生しなかった。
この頃になると、マウスピースをつけているのが当たり前となり、逆に外していると落ち着かないほどになっていた。
マウスピースを交換したときの痛みも、少し重い痛みがある程度で、治療当初に比べれば雲泥の差だった。

歯並びがよくなってくると、笑うことも楽しくなった。
これまではずっと手で口元を覆い隠していたけれど、少しずつ勇気を出して笑顔を出せるようになった。
写真を撮るときも、歯を見せて笑ってみようかなと思えるようになってきた。

それでもやはり、30代になってからの矯正が歯茎に与えた負担は大きかったようだ。
治療前からその可能性を聞いてはいたが、歯茎は下がり、異動させた歯の隙間もきれいに埋まりはしなかった。
しかしそれでも、私は歯列矯正をしてよかったと心から思っている。
歯磨きがしやすくなり、歯の裏にステインが付くことがなくなった。
それに、自分に少しだけ自信が持てた。

今では一日10時間、リテーナーをつけるのみだ。
しっかりとリテーナーをつけて、あと戻りしないようキープしていきたい。

最高の知らせ

私に似てしまったのか、長女も二女も歯並びが悪くなってしまった。
娘たちには絶対に私と同じ思いをさせたくなかったため、必ず歯列矯正を受けさせると決めていた。
長女は4年生から、二女も2年生からインビザラインの治療を行った。
子どもにつけ外しできるのかな?
学校で勝手に外してしまったり、給食後に付け忘れたりしないかな?
と心配したけれど、心配することは何もなかった。
娘たちもマウスピースをつける習慣が身に付き、治療は順調に進んだ。
私が同じ矯正を経験していたことから、声掛けやアドバイスができたこともよかったのかもしれない。

長女は6年生で治療を終えた。二女は現在進行形で治療をがんばってくれている。

そして、今年の11月8日。「いい歯」の日。
なんと、中学校3年生の長女が表彰状をもらってきたのだ。
学校歯科検診で、よい歯の児童生徒に選ばれたという。
ガタガタの歯並びだった私から生まれた娘にこんな日が来るなんて・・・
誇らしくさえ感じた。

娘たちは早くに矯正を始めたので、歯が動いた後も歯茎が下がらず、隙間なくきれいに歯が並んでいる。
そんな娘たちの歯を見て、矯正して本当によかったと思う。
これからも、娘たちはきれいな歯で素敵な笑顔を見せてくれるはずだ。

最後に

日本では、不正咬合の歯列矯正にも健康保険が適用されないため、治療には非常に高額の費用がかかる。
しかし、私が歯列矯正をきっかけに歯磨きがしやすくなったように、歯の健康は、まずはきれいな歯並びから始まるのではないかと感じる。
いつかは不正咬合の歯列矯正に保険が適用され、誰もがきれいな歯並びをもっと気軽に手に入れ、その歯で「8020運動」ができる日がくればいいなと思う。

この先80歳のおばあちゃんになっても、自分の歯でおいしく食事を楽しめるように、引き続き歯を大事にしていこう。






#いい歯のために

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