ストラディヴァリが権威を持った理由について

前回記事で、ストラディヴァリが目指していた視点と現代楽器が目指している楽器の視点の差異について考察した。

今回は、なぜストラディバリに権威がついたのかという歴史認識を考察してみたいと思う。

ストラディバリはなぜ高額になったのか

参考文献» Benjamin Hebbert
“The innovation of tradition”

彼の論文を読み、
原因は2つあることに、気づいた。

  • 駒やネックの角度の変化

  • 弓の進化

1800年頃まで、ヨーロッパで主流だったのはシュタイナーなどドイツ系の楽器だった。
私はライプツィヒやベルリンの楽器博物館に行った際、ストラディバリとほぼ同年代の多くの素晴らしい楽器を実際に見ることができた。

1800年代フランスに有名なヴィヨームという楽器製作者がいた。
彼の元で、楽器のセットアップ技術が革新された。

弦には、より強い張力がかかり、音量があがり、ロマン派のオーケストラの求める迫力に対応しようとした。それにより、ドイツの楽器は圧力に耐えられない構造をしていた為に、クレモナの楽器に光が当たるようになったとされる。

弓はヴィヨーム工房との関係も深かった(史実としてはっきり残っているものが少ないが、当時の両者の知名度から影響はあったとされる)、トルテやペカットと呼ばれる弓の名工たちにより、よりしなやかで、パワーのある演奏を可能とする構造に進化させた。

そして大きく影響を与えたのが、ヴィヨームによる楽器のブランディング化だ。

ストラディバリの価値を世の中に広めた上で、市場に価値を理解させる事に成功し、更に自身でコピーを極めて精度高く再現することにより、見事にヴィヨームの楽器は当時の楽器製作の権威を獲得したと言える。

さらに、タリシオという当時の楽器コレクターから多くの楽器を手にしたヴィヨームは、それらを販売することにより多額の資産を手に入れることに成功したのだ。

正に産業革命時代におけるフランス楽器市場の拡大、工房経営の最も大きな成功者と言える。彼の功績は、ストラディバリ研究、修復技術の構築、楽器構造の革新など様々な功績がある。

実際、現在でも有名なソリストはストラディバリとほぼ同格でヴィヨームの楽器を演奏する。


そこで、前回記事を思い出していただけないだろうか。

もともとプラトンのイデアを再興するルネサンス芸術の影響を受けながら、美を追求したクレモナの製作者たち。
産業革命以降、この時代に求められる価値を最大限まで生み出したヴィヨーム。

目的が全く異なることに気づかれないだろうか。


ロンドン大学にセミール・ゼキという美学研究者がいる。

美しいものを見た時に、脳神経のどこが反応するかという研究だ。

私たちはストラディヴァリを見た時に聞いたとき、ちゃんと脳が美しいと思った箇所が反応するか自信を持てるだろうか。



ヴィヨームによる、ブランディング化されたストラディバリを美しいと見るのか。


それとも、


ルネサンス的思想による、ストラディバリを美しいと見るのか。



歴史認識と、倫理観、そして美しいとは何かを正しく理解しているか、人としてAI時代に改めて問われていないかと私は思う。



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