アナタにはワタシがいればいい|ss|創作大賞2025
私が好きな人は一生私に振り向いてはくれない。
そうと知っていて尚、私は彼女に執着し続ける。
好きなのだ。狂おしい程に。愛していると、そう思えた存在は後にも先にもただ一人、あの人だけだった。
数年の空白。再会したあの人は相変わらず私の心を掻き乱した。
好き。こっちを向いて。私だけを見て。
だけどそんなことが叶わないことは百も承知。
昔あの人は私を好きだと可愛がってくれた。
でもきっともうそんなことあの人は覚えていない。
私に興味がないのならもう近付かないで、そんなことすら思った。
近付いたり離れたりして。それでもこの胸に抱える好きという気持ちは掻き消すことなど出来ず、寧ろ深い深い傷になって私を苦しめた。
私を好きだと言ったあの人が帰っては来ないか。愚かな懐古。
もう何年前の話だと言うのか。
私は人生の半分、あの人のことを愛し続けているのだ。
他の誰でもあの人の代わりにはならなかった。
私にはあの人しかいないのだ。
そう思っていた矢先、あの人は彼の地に飛んでしまった。
そんな折にポスティングされた広告。
『あなただけの大切な人を生涯隣に』
胡散臭い謳い文句だ。
けれど、そのフレーズは頭の隅にぶら下がって、地に落ちることはなかった。
半年後、その広告を持って製作会社へ赴いた。
これこれこういう人を造ってはくれないか。
相談したところ、その相手の生死を問われた。
生きている。そう言えば、渋い顔。
生きている人間を複製するのは危険性が高い。
何故、と問えば、複製物が本物と顔を合わせた時、己の存在を逆転の位置に置いてしまい兼ねないからだ、と。
なんだ、それならあんな広告をポスティングしないで欲しいとそう思った。
だけど同時に。もうきっとあの人に会うことはないだろうと信じていたから、私は制作をお願いした。
それは、私の空虚だった心を埋めるには充分だった。
好きだと言ってくれる。愛していると抱き締めてくれる。
幸せな日々が続いた、そんなある日。
それと街を歩いていたら、後ろから、それ、と同じ声を聞いた。
大きく肩を跳ね上げて振り返ったら、それ、のモデルが……本人が、私の目の前に立っていた。
ねえ、なに、それ?
自分そっくりな機械人形を見て訝しむあの人。
それもその筈だ。自分と同じ姿形なのだから。
これ、は……。それ、と繋いでいた手を離したら、それ、は不機嫌そうに私を見てから一歩あの人に近付いた。
アナタがワタシの大事な人を苦しめてきたんだね。
滑らかな機械音があの人の首元に手を伸ばす。
待って! そう叫んだのは刹那遅くて。
ゴキ、と鈍い音。それ、が手を離すと、あの人はその場に崩れ落ちた。
「ーーーーーーッ」
ザッと血の気が引いた。目の前がモノクロになって、耳が遠くなる。
それなのに、それ、の声だけは嫌になる程鮮明に聞こえた。
アナタにはワタシがいればいいでしょう?
違う。そうじゃない。そうじゃなかったんだ。
事件が起きたのは街中。目撃者は多数。
『殺人』を犯したとして、それ、はすぐさま私の手から離れて廃棄された。
私は、一度に大切なものをふたつも失ってしまった。
自分に都合の良い複製を造るということは、こんなにも罪深いことなのか。
