妻をハグした瞬間
時々、妻をハグすることがある。
妻はハグが好きらしい。
私が手を広げると、
"機嫌のいい時"は寄ってくる。
昨日も、いつものように手を広げた。
すると、妻が私の腕の中へ倒れ込んだ。
びっくりした。
まるで、アニメの中で
ヒロインがヒーローを抱いた瞬間、
実は背中に傷を負っていて崩れ落ちる。
そんな感じだった。
「どうしたの!?」
「痛い」
「えっ、どこが?」
「足……」
「え、医者行く?」
「いい。」
「えー、何、何?
昨日から痛かったの?
先週、小指ぶつけたよね?
それ、レントゲン撮ったほうがいいって
言ったよね」
「うるさいから、だまってて」
妻の機嫌が
悪くなりつつあることが分かった。
やばい、と思い、口を閉じた。
結局、息子のレゴを踏んで倒れただけだった。
無茶苦茶痛かったらしい。
「ああ、そうですか」
というのが、この話のオチなのだが、
こちらの心も少し考えてほしい。
妻が倒れ込んだとき、本当にびっくりした。
ほんの一瞬だった。
でも、その一瞬で、
頭の中をいろいろな思いが駆け巡った。
妻がいなくなった未来が、一瞬で頭に浮かんだ。
やはり、話し相手がいないと困る。
話し相手なら誰でもいいわけではない。
長年寄り添った人、
苦楽を共にした人がいい。
息子は、私一人で育てることになるのか。
勘弁してくれ。
いや、成長した姿を、2人で見るんじゃなかったのか?
この齢で婚活する?
……いや、そういう話ではない。
そんなことまで浮かんだ。
結局、取り越し苦労だった。
たった一つのレゴに、
何か心の蓋を少し開けられたような
気持ちになった。
何事もなくて良かったけど。
おわり
