#011 お気に入りのテーブルが台無しになって帰ってきた話
設計やインテリアに携わるなかで、私が大切にしているのは、暮らしのなかにある「心地よさ」を具体的に形にすることです。
これから家づくりを始める方が「自分にとって一番心地よい暮らし方」に気づき、それを形にしていけるようなヒントを伝えたいと考えています。
間取りを考えるとき、私はまず「どう過ごし、どう暮らしたいか」という生き方から間取りの骨格を考えます。一戸建ての注文住宅の場合、土地や近隣の状況、外観、日の入り方、室内から見える景色、動線や収納。それらと同時に、家具や照明、カーテンのスタイルもすべて同時に進めていきます。
照明のお話がひと段落しましたので、今回からは「家具」について書いていこうと思います。その前に、私自身の家具にまつわる経験を少しお話しさせてください。
20代の初め、勤務先が新宿だったので、帰り道にはよくアクタスに立ち寄っていました。 輸入物のオーダーキッチン、デザイナーズ家具や照明、センスのよい雑貨とファブリック。見ているだけで癒され、「こんな家具の似合う暮らしをしたい」と夢を膨らませていました。
当時のアクタスには、素朴なパイン材の輸入家具も並んでいました。 オイル塗装のナチュラルで優しい風合いがとても気に入り、 頑張れば手に入る価格だったこともあり、思い切って少し大きめのテーブルと椅子のセットを購入しました。
その後、都内から実家へ引っ越すタイミングで、一度綺麗にしておこうと考え、知人の家具専門の塗装職人さんに預けました。

塗装が完了したと連絡を受け、わくわくしながら工場に向かい、完成した姿を見て絶句しました。
そこにはテカテカの「ウレタンクリア塗装」を施された、別物のようなテーブルがあったのです。
私がイメージしていたのは、マットでしっとりとした質感。確かにきれいにしてくださいとは言いました。
「プロなんだから、この家具を見れば好みがわかるだろう」
という安直な考えが、食い違いを生んでしまったのです。
彼の仕事は百貨店などの店舗什器。ラグジュアリーな雰囲気が流行っていたこともあり、彼なりの正解で、良かれと思って仕上げてくれたのだと思います。
とてもショックでしたが、こちらの説明不足は否めません。知人ということもあり、お礼を伝えてそのまま車に積んで帰りました。
自分の「心地よさ」を翻訳して伝える
それから何年もの間、テカテカした光沢を見るたび、モヤモヤとした気持ちを抱えて過ごすことになりました。作り自体は本当にしっかりしていたので、今でも現役で活躍しています。
「いくらプロとはいえ、伝えなければ伝わらない」
まだ駆け出しだった頃とはいえ、ちょっと苦い経験でした
「暮らしから住まいを考える」とき、どう伝えるかという問題は、設計の側からも言えることです。だからこそ、打ち合わせの時には専門用語ではなく、お互いの「五感」を言葉にすることを意識しています。
「テカテカ」ではなく「しっとり」した質感が好き。
「ツルツル」よりも、木の凹凸を感じる「さらさら」した手触りがいい。
「明るい部屋」よりも、光の移ろいがわかる「陰影のある部屋」にしたい。
こうした、あなたの肌が喜ぶような「状態」を伝えてみてください。
もし、こうした言葉を伝えても、ピンときていなかったり、受け流されてしまうのであれば、その設計士とは「心地よさ」の基準が合わないのかもしれません。
あなたの感性に歩み寄り、それを具体的な形に翻訳してくれるパートナーを選ぶこと。 それが、後悔しない家づくりの第一歩だと私は思います。

次回予告
さて、次回からはこの経験を踏まえた「家具と間取り」の具体的なお話をしていこうと思います。 あなたの暮らしに馴染む家具選びの参考になれば幸いです。
図面の前に、まずは暮らしの風景を描く——
そんな設計の入り口を一緒にのぞいてみませんか?
次回の記事を読むと、あなたの家づくりがもっと心地よく、もっと自分らしいものになるヒントが見つかります。お楽しみに!
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