【せりふ三題噺】 風に押されて
梅の花が散ってから桜の花が咲くと、ずっと知っていたけれど、梅が桜を待っていることは知らなかった。となりあった梅と桜を見て、気づく。
先に梅が、青々と茂る。それから桜が遅れて花びらを散らし、葉桜に変わっていく。背の低い梅の木はそれを見上げながら、桜の花びらを葉に受けながら、ともに新緑の季節を迎えるのを待っている。
「ママ、なにしてる?」
ツツジの群れから帰ってきたルウが、こちらにするどい眼差しを向ける。
「ひなたぼっこ」
「ひなたぼっごって何?」
「ベンチに座って、おひさまの下で、なんにもしないをすること」
ルウの表情はやわらぐ。「ひなたぼっご」が気に入ったようだ。足を伸ばしてベンチのとなりに座り、桜の葉を見上げる。
「綺麗な色だねー」
澄み渡るような青空に黄緑の葉が揺れる。
五月晴れという言葉がぴったりの日。サアア、と葉を揺らし、撫でていく風はやさしい。
ベンチに置いた私のアイスコーヒーが汗をかいている。コーヒーを飲んでいても、連日の寝不足で、私はうとうととする。このまま昼寝してしまいたいが、そうもいかない。
「きゅうけい おしまーい。
ひなたぼっご おしまいになりましたー!」
ほら、大声で呼ばれる。
私はルウの、補助輪をとった自転車の後ろに手をかける。
「大丈夫だから! 離して」
ルウはずっと、大丈夫だと言い続けている。
信じてあげられないのは、私のほうだ。
桜を信じている梅のことを考える。背を高くのばす桜の移り変わりを、低い位置からじっと見守る梅のこと。
追い風が吹いて、「やるなら今だよ」と背中を押された気がした。ルウの自転車はまっすぐに進む。私は風とともに、手を離す。
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はらとけいさんの楽しい企画「せりふ三題噺」に参加させていただきました。
はらとけいさん、ありがとうございます。
お題
◯セリフ
「やるなら今だよ」
◯三題
(アイスコーヒー/葉桜/昼寝)
