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【せりふ三題噺】 藤棚

 日差しが急に強くなった。四月半ばだというのにゴールデンウィークのような気候だ。
 私は帽子を被り、サンダルを履き、日焼け止め片手に散歩に出かける。

 公園の藤棚が目に入る。蕾の開き始めの頃だ。近づいて、まだ満開とは言えない藤を見上げると「暑い」と声が聞こえた。

 何の声かはわからない。木のツルに、アリでもいるのかも。

「どうしてこんなに急に暑くなるんだ」

 天候に文句を言っている。黙って聴いていると、「ねえ、そこのひと……ここだけの話だよ」とひそひそ話が続く。

「日焼け止めを塗りたいんだ」
「どうすれば塗ってあげられるの?」
「手のひらにだして、風に溶かしてくれたら良いよ」

 私は日焼け止めの白い液体を手に出して、高くかかげる。とても声の主までは届かない。

 強い風が吹いて私の手から日焼け止めをさらう。白い液体は揺れ、さらさらと風に溶けていく。

「ああ、これでいいよ。ありがとう」

 どうやら届いたようで、満足げな声がする。
 それきり喋らなくなった。


 数日後、通りがかりに公園の藤棚を見ると、垂れ下がる満開の紫の中に、ひとふさだけ白い花が混じっている。

「気に入った?」

 聞いても返事はないが、良いお天気に機嫌良さそうに。紫の花も白い花も、風にそよそよと揺れている。

     ◆

はらとけいさんの楽しい企画「せりふ三題噺」に参加させていただきました。

お題
◯セリフ
「ここだけの話だよ」
◯三題
(サンダル/日焼け止め/藤棚)

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