Photo by
kishimojin1969
【せりふ三題噺】 藤棚
日差しが急に強くなった。四月半ばだというのにゴールデンウィークのような気候だ。
私は帽子を被り、サンダルを履き、日焼け止め片手に散歩に出かける。
公園の藤棚が目に入る。蕾の開き始めの頃だ。近づいて、まだ満開とは言えない藤を見上げると「暑い」と声が聞こえた。
何の声かはわからない。木のツルに、アリでもいるのかも。
「どうしてこんなに急に暑くなるんだ」
天候に文句を言っている。黙って聴いていると、「ねえ、そこのひと……ここだけの話だよ」とひそひそ話が続く。
「日焼け止めを塗りたいんだ」
「どうすれば塗ってあげられるの?」
「手のひらにだして、風に溶かしてくれたら良いよ」
私は日焼け止めの白い液体を手に出して、高くかかげる。とても声の主までは届かない。
強い風が吹いて私の手から日焼け止めをさらう。白い液体は揺れ、さらさらと風に溶けていく。
「ああ、これでいいよ。ありがとう」
どうやら届いたようで、満足げな声がする。
それきり喋らなくなった。
数日後、通りがかりに公園の藤棚を見ると、垂れ下がる満開の紫の中に、ひとふさだけ白い花が混じっている。
「気に入った?」
聞いても返事はないが、良いお天気に機嫌良さそうに。紫の花も白い花も、風にそよそよと揺れている。
◆
はらとけいさんの楽しい企画「せりふ三題噺」に参加させていただきました。
お題
◯セリフ
「ここだけの話だよ」
◯三題
(サンダル/日焼け止め/藤棚)
