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ホンダが宇宙ロケットを作り始めた。売上20兆円の自動車メーカーが「後発」を選んだ理由

# ホンダが宇宙ロケットを作り始めた。売上20兆円の自動車メーカーが「後発」を選んだ理由

年間8,500億円の研究費を持つ会社が、今やっていること


年間の研究開発費が、約8,500億円。

これは、日本のスタートアップが宇宙開発に費やす資金の総量をゆうに超える水準だ(Honda 2024年3月期連結決算より)。そのホンダが今、小型ロケットを自社開発している。超小型衛星を軌道に運ぶ打ち上げサービスの事業化を最終目標に据えた、ハイブリッド推進方式のロケット。四輪車でも二輪車でもなく、宇宙へ。

2021年9月の「Honda Meeting 2021」で、三部敏宏社長がこの計画を公式発表したとき、僕は最初それほど真剣に受け止めていなかった。大企業が「次世代事業」を羅列する、よくある会見に見えたからだ。けれど公開資料を読み直すうちに、この挑戦には構造的な必然性があることに気づいた。




「ハイブリッド」という言葉の裏に何があるか


まずロケットの基本から入る。

ロケットの推進方式には大きく2種類ある。固体燃料と液体燃料だ。固体燃料は構造がシンプルで安全だが、一度点火したら出力を制御できない。液体燃料は制御性が高い反面、極低温の液体酸素や液体水素を扱う複雑な設備が必要になる。

ホンダが選んだのは、その中間に位置するハイブリッド推進方式。固体の燃料に液体の酸化剤を組み合わせ、安全性と制御性を両立しようというアプローチだ。

ただし、これには固有の難しさがある。固体燃料と液体酸化剤の界面で起きる燃焼反応は不安定になりやすく、精密な制御が要求される。宇宙専業の企業でも苦しむ技術領域で、「だからこそホンダが選んだ」という逆張りの論理が見えてくる。




F1で磨いた燃焼技術を宇宙に持ち込む、その論理


ホンダは自動車メーカーだが、実態は「エンジン屋」と呼ぶ方が近い。

F1参戦30年超で積み上げた燃焼制御の技術。内燃機関の熱流体解析。精密製造と品質管理のノウハウ。そしてHondaJetという航空機を開発・販売してきた実績——航空宇宙分野の型式認証プロセスを実際に経験している企業だ。

ハイブリッド推進ロケットの燃焼制御は、自動車エンジンとは環境が桁違いに異なる。それでも「燃焼を数値で読み、最適化する」という知識体系の骨格は共通している。ホンダが「自動車メーカーがロケットをやるのは飛躍だ」ではなく「既存の技術資産の延長線上にある」と判断できた根拠が、ここにある。

僕の解釈では、ホンダにとってこの事業は「未知の冒険」ではなく「既存技術の新しい出口の設計」だ。だから社内での意思決定が通りやすかったはずで、そこが重要な点だと思っている。「まったく未知の領域に飛び込む」提案と、「うちのエンジン技術を宇宙に転用する」提案では、稟議の重さがまるで違う。

もしあなたが新規事業担当で、上司に「宇宙事業をやりたい」と提案するとしたら、「うちの技術の延長線上にある」と説明できるかどうかが、承認を分けると思いませんか?コメントで教えてください。




EV化という本業の地殻変動が、宇宙事業を必然にした


ホンダの2024年3月期の売上高は約20兆4,284億円、営業利益は約1兆3,819億円(連結、Honda IR資料より)。数字だけ見れば盤石に見える会社だ。

しかし自動車産業は今、電動化という巨大な転換期の中にある。内燃機関で圧倒的な強みを持つホンダにとって、EVシフトは「本業の稼ぎ頭が変わる」ことを意味する。ガソリンエンジンの精緻な燃焼制御で世界に勝ってきた会社が、そのコアスキルの「市場価値が下がる」シナリオに向き合っている。

宇宙事業の本当の意義はここにある。「宇宙で直接儲ける」ことだけが目的ではない。内燃機関の燃焼技術という資産を、自動車以外の用途で価値化しておくこと。技術資産の再定義、という言葉が一番近い。

とはいえ、その厳しさも直視する必要がある。年間8,500億円の研究開発費のうち、宇宙事業への具体的な配分は非公表だ。EV化投資が膨らむ中で、長い開発期間と不確実な収益を伴う宇宙事業に、どれだけのリソースを継続的に割けるか。開発を「続ける体力」と「やめない意志」の両方が同時に問われる。




後発が勝てる市場なのか、という不都合な問い


小型衛星の打ち上げ市場は、すでに競争が始まっている。

アメリカのRocket Labは小型ロケット「Electron」で年間数十機ペースの商業運用を続けている。さらにSpaceXが相乗り型打ち上げ(Transporter)を低価格で提供し始め、小型衛星オペレーターの選択肢は広がった。国内では、Space OneのKAIROSが2024年に打ち上げ失敗を経験し、Interstellar TechnologiesのMOMOは宇宙到達実績を持つが、商業規模はまだ小さい。

ホンダが打ち上げサービスを実用化する頃には、先行プレイヤーはさらに実績を積んでいる。後発であることは事実で、そこから目を逸らしても意味がない。

僕はそれでも、この事業が3〜5年以内に「撤退」という結末を迎えるとは見ていない。根拠はホンダのF1の歴史だ。ホンダはF1を1992年に一度撤退し、2000年に再参戦し、2008年に再び撤退し、それでも2015年に戻ってきた。参入と撤退を繰り返しながら、最終的に2021年のホンダパワーユニットはチャンピオンシップを制した。「やめない」という組織的な意志の持続性は、この会社の特徴の一つだ。

ただその「やめなさ」は同時に、撤退判断の遅れというリスクでもある。




2020年代後半に向けて、今の立ち位置


2025年8月時点の公開情報を基準にすると、ホンダの小型ハイブリッドロケット開発は地上燃焼試験・要素技術実証のフェーズにある(プレスリリースより推定。飛行実証の公式発表は確認されていない)。打ち上げサービスの実用化目標は2020年代後半とされているが、具体的なスケジュールは非公表部分が多い。

まだ「市場に出ていない」段階。

だからこそ、この事業を「投資対象」として見るより「思考の素材」として使う方が今は価値がある。売上20兆円の会社が、自社の燃焼技術を宇宙に転用しようとしている。この判断の背後にある「技術資産の出口を再設計する」という発想は、業界を問わず使えるものだ。

精密製造の会社が医療機器に行く。物流のノウハウを持つ会社が農業に行く。自動車の燃焼技術を持つ会社が宇宙に行く。問いの形は同じだ——「うちの技術で解ける問題は、別の産業にも同じ形をして存在しているか?」

月曜の会議でそれを考え始めると、意外と自社のアセットが違って見えてくる。

あなたの会社の技術や知識の中に、今はまだ使われていない「別の産業への出口」はありますか?ぜひコメントで聞かせてください。




*出典:*
- [Honda Meeting 2021 公式資料(本田技研工業)](https://www.honda.co.jp/meeting2021/)
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 [本田技研工業 2024年3月期 決算発表資料(Honda Investors Relations)](https://www.honda.co.jp/investors/)
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 [Honda公式ニュースリリース(宇宙・新領域関連)](https://www.honda.co.jp/news/)




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