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HondaがeVTOLに参入した。純電動が席巻する市場で、売上20兆円の自動車メーカーがあえて選んだ「ハイブリッド」という逆張り

# HondaがeVTOLに参入した。純電動が席巻する市場で、売上20兆円の自動車メーカーがあえて選んだ「ハイブリッド」という逆張り

2023年秋、東京ビッグサイトで起きたこと


Japan Mobility Show 2023が開催されたのは、2023年10月のことだ。

Hondaのブースに、人が集まった。展示されていたのは、空を飛ぶ乗り物のコンセプトモデルだった。「空飛ぶクルマ」は別に珍しくない。Joby AviationもArcher Aviationも、資金が潤沢なスタートアップが何十社も同じビジョンを掲げている。業界に「また空飛ぶクルマか」という空気が漂い始めていた、まさにそのタイミングで。

Hondaが出してきたものは、少し違った。

純電動ではなかった。ガスタービンエンジンと電動モーターを組み合わせたハイブリッド推進方式。業界の「当たり前」に真正面からカウンターを張る設計だった。翌2024年1月には米ラスベガスの「CES 2024」でも披露し、国際的な注目を集めることになる。

この発表を見たとき、Hondaが「空飛ぶクルマ」ブームに乗り遅れた会社ではなく、ある種の確信を持って独自の路線を選んできた会社だと感じた。そしてその確信の正体を理解するには、HondaJetの話から始めなければならない。




HondaJetという「30年の積み上げ」が前提にある


Hondaは自動車会社だ。二輪では世界首位、四輪でも世界5〜6位の規模を持つ。連結売上高は2024年3月期で20兆4,288億円。その会社が、いつから飛行機を作っていたか。

Honda公式ニュースリリース等の公開情報をもとにした整理では、Hondaの航空研究の起源は1980年代にさかのぼる。その積み重ねが結実したのが2015年だ。米国連邦航空局(FAA)から型式証明を取得し、HondaJetとして市場に出た。北米の小型ジェット機市場で出荷台数首位を複数年にわたり維持した(Honda Aircraft Company公式発表より)。

FAAの型式証明というのは、航空機開発の世界で最も取得が難しい認証のひとつだ。設計から製造、整備プロセスに至るすべてを証明する必要がある。資金力のあるスタートアップですら、ここで詰まることが多い。

2024年、ドイツのeVTOLスタートアップ「Lilium」が経営破綻した。認証取得の長期化が経営を圧迫した一因とされている。先行していたはずの企業が、資金ショートで倒れる。これがeVTOL業界の現実だ。

Hondaには、このプロセスを一度通過した経験がある。どこにコストがかかり、どこで時間を食うか。どういう設計をすれば審査が通りやすいか。このノウハウは、スタートアップがお金を積んでも即座には買えない。

eVTOL参入が「新規参入」に見えて、実は30年以上の技術的・制度的蓄積の上に立っているのは、この理由からだ。




全員が純電動を選ぶ市場で、ハイブリッドを選んだ理由


eVTOL市場の競合図を眺めると、ほぼ全員が純電動だ。

Joby Aviation(米)はソフトバンクとトヨタが出資し、2025年の商業化を目標に認証プロセスを進めている。Archer Aviation(米)はUnited航空が購入予約を入れた。Wisk Aero(ボーイング傘下)は自律飛行に特化したアプローチを取る。背景には、モーターの扱いやすさ、環境規制への対応、そして「シンプルな構造」への信頼がある。

Hondaは、そこに加わらなかった。

ガスタービンエンジンで発電し、その電力で電動モーターを回すハイブリッド方式——おそらくシリーズハイブリッドに近い設計と見られる(公式には詳細仕様は未発表)。この方式を選んだ最大の理由は、航続距離にある。

純電動eVTOLが抱える最大の課題は、飛べる距離だ。現在の技術水準では、100〜200km前後が実用的な上限とされている。都市内の短距離移動(空港〜都心)なら成立するが、都市間輸送には届かない。東京〜大阪間(約510km)は、純電動では現時点でほぼ不可能だ。

Hondaが目指す目標は、400km超の航続距離(Honda公式発表より)。ガスタービンとのハイブリッドによって、電池の重量限界を突き破ろうとしている。

これは、市場のど真ん中で戦わないという選択でもある。都市内の短距離エアタクシーはJoby等の先行企業に任せ、都市間の中距離輸送という、まだ誰も取れていない市場を狙う。技術的な差別化と競合回避を、同時に達成しようとする設計だ。

とはいえ、課題もある。ガスタービンと電動モーターのハイブリッド制御は、純電動よりも構造が複雑だ。重量も増える。信頼性の証明に、より多くのデータと時間が必要になる。認証プロセスがどれだけ長引くかは、現時点では見えていない。




この事業が「GO」になった社内の論理


公開情報を読む限り、Hondaがeवटओルを「経営の柱の一つ」として位置づけていることは明確だ。

代表取締役社長の三部敏宏氏は、eVTOL含む「2030年ビジョン」を推進する最高責任者として、航空・宇宙・ロボット領域への進出を公言している(Honda公式プレスリリースより)。そしてHonda Aircraft Companyの社長であり、HondaJetの生みの親とされる藤野道格氏の存在が、航空機事業の技術的な軸になっていると見られる。

大企業が新規事業を社内で通す時、いちばん難しい問いがある。「なぜうちの会社がやるのか」だ。

この問いに答えられる事業は、稟議を通りやすい。逆に、いくら市場規模が大きくても、「なぜうちが?」に答えられない事業は、部門間の調整を経るうちに死ぬ。大企業の新規事業が潰れる理由の半分くらいは、ここにあると思っている。

HondaのeVTOL事業は、この問いへの答えがある。HondaJetという実績が「できる根拠」を作り、「すべての人に、移動の喜びを」という創業哲学が「やるべき理由」を補強する。担当者が稟議書を書くとき、この2点が揃っているのは、他の大企業の新規事業と比べてかなり恵まれた条件だ。

あなたの会社で「空飛ぶ乗り物を作りたい」という企画書が上がってきたら、どんな反応が返ってくるか想像してみてほしい。「なぜうちがやる?」「本業と何の関係があるの?」という問いに、どれだけ答えられるか。Hondaの場合、その答えが30年の歴史としてすでに存在している。




2028〜2030年の事業化目標。この数字を僕が少し疑う理由


Hondaが示している事業化の目標時期は、2020年代後半——2028〜2030年ごろとされている(公開情報および業界観測をもとにした推測を含む)。

この数字、楽観的すぎる可能性が高いと見ている。

理由は複数ある。まず、eVTOL向けの型式証明基準は、FAAも国土交通省も整備途上だ。Joby Aviationが2025年の商業化を目標としながら認証プロセス中にある現状を見ると、業界全体のスケジュールが後ろにずれているのは明らかだ。Hondaのハイブリッド方式は、純電動よりも審査が複雑になる可能性がある。設計の選択肢として正しくても、認証の観点では「ハイブリッド」という新しさが審査官の判断を慎重にさせるかもしれない。

もう一点。2024年12月に報道された日産との経営統合協議は、2025年2月に破談した(報道各社より)。Hondaは現在、EV戦略の再構築という経営課題と向き合っている。EV転換コストが膨らむ中で、eVTOLへの経営資源がどう配分されるか。優先順位の変化は、ゼロではないリスクだ。

ただし、だから「この事業はうまくいかない」という話ではない。

eVTOLが本番を迎えるのは、都市内短距離市場が立ち上がる2025〜2027年ではなく、中長距離市場が開く2030年代以降かもしれない。そのタイミングにポジションを持っておくための先行投資として考えれば、事業化が2〜3年ずれても、Hondaの戦略的な意図は壊れない。問題は、その間の財務的な余裕と組織的なコミットメントを維持できるかどうかだ。これが、この会社が今後5年で直面する最も難しい問いだと思っている。




月曜の会議に持ち帰れる視点


HondaのeVTOL事業が教えてくれるのは、「技術の正しさ」よりも「参入経路の設計」だ。

純電動かハイブリッドか、という技術論争はある。でも今回Hondaが持っているポジションは、「ハイブリッドが正しい」から取れたものではない。HondaJetというキャリアがあったから、この技術が選択肢になった。型式証明の取得経験があるから、スタートアップにはない信頼性を持って市場に入れた。

どの技術を選ぶかよりも先に、「自分たちのどんな資産・経験・実績があるから、これをやれるのか」という問いに答えられる事業設計——Hondaはそこを押さえている。

大企業で新規事業を提案するなら、この逆算の問いは使える。「この事業ができるのは、うちにしかない〇〇があるから」という一文を、提案書の冒頭に置けるか。置けないなら、まだ準備が足りない。逆に置けるなら、「なぜうちが?」という最初の壁を越えられる可能性が高い。

あなたの会社の「HondaJet」は何でしょうか。社内で宝の持ち腐れになっている技術や実績があれば、コメントで教えてください。




*出典:*
- [Honda公式ニュースリリース](https://www.honda.co.jp/news/)
-
 [Honda Aircraft Company(HondaJet公式)](https://www.hondajet.com/)
-
 [Honda Newsroom US](https://hondanews.com/)




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