ハッピーロンリーノスタルジー 3話
○ 古いアパート・居間(夜)
日波、パソコンに手をおいたまま、目を閉じて動かなくなっている。朔、部屋に入ってきて、日波の隣に座る。
朔「日波……」
日波「っ、……嘘。私、寝てた……」
朔「あんなことがあった後だもん。疲れてるんだよ、少し休んで」
日波「休んでなんかいられない! 3億だよ! 早くなんとかしないと、音斗が……!」
朔、日波の肩を抱き寄せて、日波の頭をなでる。
朔「大丈夫、僕がなんとかする」
日波「なんとかって……」
朔「少し休んで。明日には、全部うまくいくから」
日波、何度か瞬きをした後、力が抜けるように目を閉じる。朔、日波の額にキスをする。
○ 音斗の病室(夜)
病室には、酸素呼吸器をつけた音斗が眠っている。朔、音斗のベッドに腰掛けながら、音斗の頭を撫でる。音斗、目をさます。
音斗「パパ……?」
朔「起こしちゃった?」
音斗「んーん……」
音斗、体を起こす。酸素呼吸機で動きにくそうにする。両手を広げて、朔に抱っこを求める。朔、音斗を抱きしめる。
朔「起きてて、しんどくない?」
音斗「うん……」
朔「……パパね。音斗とママのことが、世界で一番大事なんだ。この世界の何よりも、自分のことなんかよりも、ずっと……大事なんだ」
音斗「パパ……?」
朔「生まれてきてくれて、ありがとう。パパって呼んでくれて、ありがとう。音斗と一緒に入られた時間は、一生のうちで、一番幸せな時間だったよ」
朔、音斗をグッと抱きしめる。
音斗「……」
朔「苦しいの、すぐにとってあげるからね」
朔、音斗をベッドに寝かせる。音斗の頭を撫でる。音斗、眠るように目を閉じる。
朔の背後、病室の入口のドアのところに、いつの間にか天使が立っている。
朔、音斗から手をはなし、まっすぐに立つ。
朔「もどしてくれ」
天使、両手を広げる。一本締めをするように、手をパーンと叩く。
○ 朔のマンション(朝)
朔、キングサイズのベッドの上で目をさます。
朔「…………」
朔、飛び起きてスマートフォンをとる。
点灯した画面には、『12月24日 6:28』の文字。資産管理アプリを開く。『評価資産額合計 6,240,0(以降、見切れている)』
朔「よし……」
○ 古いアパートの駐車場(昼)
アパートのベランダには、さんさんと朝日がさしている。アパートの前に高級車が停まり、運転席から、スーツ姿の朔が降りてくる。朔、アパートのベランダを見上げて、歩きだす。
○ 古いアパート・廊下(昼)
朔、階段を登って、扉の前に立つ。扉の右上にある表札には、『多摩(たま)』の文字。朔、インターフォンを押す。
ドアが開いて、多摩(たま) 太郎(たろう)(32)が眠そうな顔で出てくる。
太郎「はーい」
朔、太郎の顔をじっと見つめる。
太郎「……何か?」
朔「あっ。失礼しました。あの、実は私、以前この部屋に住んでいた浦島という者なのですが……」
音斗「おとうさーん!」
部屋の奥から、音斗が走ってきて太郎の脚にしがみつく。
音斗「おきたら、あそぶっていったー」
朔「…………」
音斗を追いかけて、部屋の奥から日波が現れる。
日波「音斗! 今、お客さん来てるから、あとに……」
日波、朔の顔をじっと見つめる。
太郎「知り合い?」
日波「知り合いっていうか……」
日波、太郎に耳打ちをする。
日波「前の夫……」
太郎、眉をひそめる。
太郎「音斗、お父さんとあっちで遊ぼうか」
音斗「うん!」
音斗、太郎に抱っこされて、部屋の奥に消えていく。
日波、困惑した顔をしている。
朔「急にごめんね。実は、話したいことがあるんだ」
日波「うん……」
朔「僕が借りっぱなしになってたお金があるの、覚えてる?」
日波、首を傾げる。
朔「それを返しに来たんだ」
朔、現金封筒を日波にさしだす。
日波「別にいいよ……そんなの。忘れてたし……」
朔「こういうの、キッチリしないと落ち着かないんだよ。受け取って」
日波、首を傾げながら封筒を受け取る。
朔「今まで、本当にありがとう……」
朔、日波に手を振る。音斗が廊下を走ってきて、朔に手を振る。
音斗「ばいばーい! またねー!」
太郎、音斗を追いかけてくる。
太郎「こっちおいで」
朔「うん。またね……」
日波、扉を閉める。
○ 古いアパート、居間(昼)
太郎が音斗をひざに乗せて遊んでいる。封筒を持った日波が、居間に入ってくる。
太郎「なんだって?」
日波「なんか、お金を返しに来たんだって」
太郎「ふーん……」
日波、ちゃぶ台の上に封筒の中身を出す。封筒の中には、一枚の小切手とメモが入っている(メモが上で、小切手が下)。
小切手には、「¥500,000,(以降、メモが重なっているせいで見切れている)」と書かれている。メモには、「これはあなたから借りたお金を元手に稼いだものです。遅くりましたがお返しします。電話番号XXX-XXXX-XXXX 不足があれば連絡ください。この紙をなくしたら、僕の名前をネットで検索すれば、会社の電話番号がでてきます」と書いてある。
日波「なにこれ……? いち、じゅう、ひゃく、せん……!!!??」
○ 古いアパートの駐車場
朔、高級車のドアにもたれながら、アパートのベランダを見上げている。日波の悲鳴が、アパートの外まで響いている。
日波「――――――!!!!!!!!??????」
朔、その声を聞いて少し笑う。いつの間にか、高級車の助手席に天使が座っている。
朔「ありがとう。願いを叶えてくれて」
天使「これでよかったんか……?」
朔「音斗が元気で生きられるんだ。これ以上、嬉しいことはないよ」
朔、高級車に乗る。高級車、走り出す。
朔「そういえば、音斗が新しい父親をお父さんって呼んでたんだ。僕のことはパパって呼ぶのにな」
天使「そうか」
朔「それにさ……パパじゃなくたって、音斗をそばで見守る方法はある」
天使、尻の下の違和感に気づいて、体を傾ける。尻の下から一冊の本が出てくる。タイトルは『保育園経営 はじめかた』
朔「ちょうど、この辺りには、待機児童がたくさんいるらしいんだ」
○ 保育園・運動場(朝)
運動場に、バスが停まり、多くの園児がバスから降りてくる。園児の群れの中から、保育園の制服を着た音斗が飛び出してきて、朔の方に走ってくる。
音斗「えんちょうせんせい、おはよう!」
朔「おはよう」
朔、笑顔の音斗を抱っこする。
了
