ハッピーロンリーノスタルジー 2話

○ 古いアパート・居間(夕方)
朔、仕事から帰ってきた。音斗が駆け寄ってくる。日波はスマホを触っている。ちゃぶ台の上に、四通の封筒が乗っている。
音斗「おかえりぃ!」
朔「ただいまぁー、音斗―」
音斗、朔に抱きつく。朔、音斗を抱き上げる。
朔「パパ、明日からお休みだから、いっぱい一緒に遊べるぞー」
音斗「ほんとう!?」
日波「おかえり。何かいっぱい届いてたよ(ちゃぶ台の上の封筒を指し示す)」
朔「おっ、届いたか」
日波「なにそれ?」
朔「保険と電気と証券取引口座開設の契約書。あと、これは賃貸契約書」
日波「賃貸? 引っ越しでもするの……?」
朔「違う違う。大家さんに家賃下げてもらったんだよ」
朔、封筒を開いて、契約書に目を通しはじめる。
朔「そうだ。日波のスマホさ。SIMカードだけ格安のにしたら嫌かな? 平日の昼間とかは、ネットが重くなるけど、それ以外は特に問題なく……」
日波「待って。話についていけない。どういうこと?」
朔「給料が上がらないからさ。せめて、固定費を削ってみたんだ。年間でみればかなりの節約になるよ」
日波、目を丸くしている。
日波「最近、ホントに人が変わったみたいだね」
 
 
○ 公園(昼)
広い芝生の公園。音斗が走り回っている。朔と日波、レジャーシートを広げて、音斗を見ている。
戻ってきた音斗と一緒に、お弁当を食べる。三人は楽しそうに笑っている。
 
 
○ 公園(夕方)
朔がレジャーシートをたたんでいる。
日波「音斗―。そろそろ帰るよー」
音斗、朔と日波に背中を向けている。声をかけられても、振り返らない。
日波「帰りたくないの? でも、公園が閉まっちゃうから……音斗? 音斗!」
日波のただならぬ声に、朔が顔をあげる。音斗が胸をおさえて、芝生の上に座り込んだ。
音斗「くるしい……」
朔と日波、音斗に駆け寄る。音斗、呼吸があらい。朔、音斗を抱えて走り出す。
朔「休日診療の病院、調べて!」
 
 
○ 軽自動車・車内(夕方)
朔と音斗が後部座席に載っている。を抱えて、軽自動車に乗り込む。日波が運転席に乗り込み、ハンドルを握る。車が急発進する。車が赤信号で停まる。
朔「日波、シートベルト」
日波「あ、うん……」
日波、バックミラー越しに音斗の様子を伺いながら、シートベルトをしめる。
軽自動車は片側三車線の道路を走っている。見通しがよく、流れの良い道路には、他の車がいない。
朔「音斗、大丈夫?」
音斗「はっ、はっ、はっ(息苦しそうな呼吸を繰り返えしながら、うなずく)」
朔、音斗の額に浮かんだ汗をタオルで拭う。音斗の状態は、目に見えてどんどん悪くなっていく。
日波、不安そうな顔をする。アクセルを踏む足に力がこもって、車の速度メーターがどんどん上昇していく。
日波「そうだ、救急車……」
日波、車を走らせながら、スマホを取り出す。
朔「日波! 前!」
日波、顔をあげる。眼前に高速道路の橋脚が迫り、急ブレーキをかける。
間一髪のところで、車は急停止する。日波、真っ青な顔をして、肩で息をしている。
朔「僕が電話するから。落ち着いて……」
朔、自分のスマホで119番に電話をかける。
朔モノローグ『この後、救急車に迎えに来てもらい、音斗は病院に運ばれた』
 
 
○ 病院・診察室(夜)
診察室の中で、医者(45)と向かい合い、日波、朔が座っている。机の上にある液晶画面には、心臓のCT画像が映っている。
医師「先天性の心臓疾患です」
日波「治るんですか?」
医師「心臓の移植を受けられれば、100%治ります。ただ……日本では、移植を受けることができません」
朔「…………」
医師「海外で治療を受ける必要があります。費用は最低でも3億……。募金をつのることもできますが、それまで音斗くんの体力がもつはか、運次第です……」
日波「運次第って……」
医師「音斗くんの心臓は、半年もつかわかりません……」
日波「っ……」
日波、手で口元を抑える。目に涙が浮かぶ。
 
医師「どちらにせよ、今日から入院が必要になります。一度、家に帰って、必要なものを持ってきてください……」
 
 
○ 音斗の病室(夜)
音斗、鼻に酸素呼吸機をつけて、ベッドの上で眠っている。日波と朔、入り口のところから、静かに音斗を見ている。
 
 
○ 古いアパート・居間(夜)
朔、キャリーバッグに音斗の荷物をまとめる。買ったばかりのぬいぐるみと、ロボットのおもちゃも、キャリーバッグに入れる。
日波、無言でパソコンを操作している。検索画面で「募金活動」について検索している。
朔「日波……」
日波「荷物は朔ちゃんが持っていって……。私、やることあるから……」
朔、キャリーバックを持って外に出る。ふと、昔のことを思いだし、足を止める。
 
 
○ 朔の回想・銀行(昼間)
対面のソファーが設置された応接室。銀行員の早良銀之介(さわらぎんのすけ)(45)が、記帳を終えた通帳を朔に差し出しながら、笑顔で営業をしている。
銀之介「融資の相談であれば、いつでもご連絡ください! すぐに都合をつけますので!」
 
 
○ 古いアパート・廊下(夜)
朔、キャリーバックを運んでいた足をとめ、スマホを取りだす。
朔(確か……電話番号が……)
電話番号を入力し、発信する。2コールで電話がつながる。
銀之介「お待たせ致しました。早良です」
朔「夜分に恐れ入ります。私、以前、早良さんに法人口座の開設の件でお世話になりました、浦島と申します」
銀之介「浦島様……? 本日は、どのようなご要件でしょうか?」
朔「取り急ぎ、融資について、お願いしたいことがあるのですが」
銀之介「……。ちなみに、資金調達の目的は、どのような内容でしょうか?」
朔「息子の、治療費が必要なんです。3億、貸していただけないでしょうか」
銀之介「……申し訳ありません、浦島様。こちらの電話番号は、企業様の融資案件を取り扱う番号となっておりまして、ご相談いただいたような内容ですと、私共ではお力になれないかと……」
朔「……」
銀之介「失礼いたします」
通話が終了する。朔、耳に受話器を当てたまま動かない。
朔(ダメ元なのはわかっていた。冷静になれ……。元手ゼロから、てっとり早く3億稼ぐ。考えろ。前の僕なら、3億ぐらいすぐに稼げただろう……!)
朔「前の、僕なら……」
朔、スマホをポケットにしまう。
朔「………………天使、いる……?」
朔の背後で、翼が羽ばたく音がする。朔の足もとに、白い羽が舞い落ちてくる。
朔モノローグ『大丈夫だ、なんとかなる……』
朔「僕になら、音斗を助けられる……」
 

#創作大賞2024 #漫画原作部門

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