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どす黒くて儚い、短い夢・第九話〈不幸の手紙〉

それは、私の知らない女が、彼とのセックス中に首を絞められたり噛まれたと名指しで言いふらして
ネットや人伝で拡散しようとして、1年以上、不幸の手紙のように色んなところを彷徨いながら伝達されて、その時たまたま一緒にいた私の知り合いのところにも届いた写真だった。

しかもその事件の日付は私と彼が付き合って2回目のイベントである私の誕生日旅行の直前であり、その日は私の最初の誕生日の2日前だった。
私の見間違いだと思いたくて、友人たちに
「酔ってて読めないー、いつのやつ?」「うちらもう老眼なのかもー?」と必死に笑って読み上げてもらった。

………..間違いじゃなかった。

「えーこれひどいー」「やば」「私ならキレてお金取るわー」「警察行くでしょ普通ー」「なんなんこいつー」「最低」「クソ男じゃん」とその場にいた女子たちは口々に非難し、男性陣はドン引きしてた。
「こいつ誰なの?」とスマホで調べ始める人もいる。

「あー、こういうの好きな人っているよねー」とか冷静を装いつつ、生まれて初めて血管の音を聞いた。

血が逆流してるのかと思うほどの体の変化を、酔って笑っている素振りで誤魔化して……

──お手洗いで吐いた。

吐いて、震える手で「私を裏切って怒らせた人はみんな不幸になる」「懺悔して、もうしないと約束して」「いまならまだ許すから正直に話して」という趣旨のメールを彼に送った。

言わなくても知ってしまった。
許す気でいた。
約束して欲しかった。

けどひとつ、すれ違ってしまったのは「私を裏切った人」が不幸になるのではなく「怒らせた人」が不幸になるという意味で、拡散した女のことを言ったつもりだった。
現にその時もまだ彼に対しては怒りの感情も裏切られたという思いもなかった。
それほどまでに、私はおかしくなっていた。

酔って潰れているのかと心配した友達がドアをノックし、泣く私を心配した人たちに「実家の猫が死んだ」と嘘をついて、その場にいた知らない人たちまで巻き込んで、色んな人に抱きしめられて、励まされて……「落ち着いたら連絡してね」と見送られ、泣きながら帰った。


違う

猫なんていない。
けど、それはその時の私にできる精一杯の嘘だった。
なんでも取り繕って演じるのは得意だったのに。
必死に見ないふりをして、気づかないふりをして、それが幸せだと信じて我慢していたのに。
もう限界だった。


そこからははっきりと証拠を持っているのに問い詰められないままだった。
というか、まだ信じないようにしていて、彼の口から「これはたまたまそこにいてしつこく誘ってきたただの穴だよ」「もうしないよ」と言ってもらえたら今後しようがしまいがまた同じやりとりを繰りしてくれるならそれだけでよかった。
「なんだ、穴か」で忘れられるのにとまだ思っていた。

実際にそのブスは自撮りエロ動画を専門サイトで売っているような人で、芸能系にも顔が広い彼に枕営業しようとしたのに、あまりの暴力的なセックスに我慢できずに逃げてきたというやりとりをしているスクショもあり
普段は動画販売の他にもそのサイトを通じた個人売春を仕事とし、愛情がないことはブス本人が証言していることもそのメールにまとめられていたが、体に残る痣は色も大きさも、位置までも私のものと一緒だった。

私だけに心を開いているからこそしていると心から信じて、お互いに全て捧げる覚悟でしていたと思っていたことをこんな豚のような女ともしていたなんて……と相手の容姿も許せなかった。

加工してもまだずんぐりむっくりしたその体は若くても風俗店なら格安〜大衆に埋もれるのが良いところで、私のいた店では面接にもたどり着けないどころか身の丈に合った店で過剰サービスをしても私の半分の金額にもならないだろう。
下手したら彼女たちの一本の手取りは私の指名料と同じ。まあ、だから個人売春してるのか。
自分を落ち着かせるためにはそう思うしかなかった。


転生前、風俗の世界に助けられ生きていた私の女の価値基準は風俗店のランクやスカウトがつけるランクだった。中身なんてどうでも良い。
客観的に見て大多数の男がやりたいかやりたくないか、いくらまでなら出せるかという世界。
高額がもらえるなら、どんな悪女でも淫乱で優しい理想の淑女を演じられる。
現に、アセクシャルで不感症の私でもレジェンドと言われるほど沢山の信者がいた。

その価値観には憤慨する人もいるかもしれないけど、少なくとも私はその評価によって救われたうちの1人である。なので私はその価値観を否定はしない。
むしろその基準があることで正規ルートで1日でOLの月給以上に稼ぐこともあった私が風俗嬢として自慢できることはそこだけだ。

風俗は手っ取り早く誰でも何百万も手に入れられると思われているようだが、実際は指名されないといつまで待っても0円。
そういう厳しい世界で勝ち抜いてきたことだけが、その時の私が唯一、掴まっていられるこの世との繋がりだった。

いや、本当はその価値観はよくないことはわかってる。けど、間違いを認めたら……この世にもう私の居場所がなくなるのが怖くて認められなかった。







#創作大賞2026
#恋愛小説部門







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