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どす黒くて儚い、短い夢・第八話〈依存〉

みんな、何かの依存症だ。
私の妄想の中で彼はセックス依存症。
私は、彼に依存していないと思っていたけど依存していて、世の中の人は必ずなにかに依存して生きてるはずだと思った。

そんな私を1番悩ませたのは「イベントや旅行の度に子供を使って電話をかけてきたり、子供と近くまで来て邪魔する元嫁」の存在だった。
元嫁と彼の間には「お前じゃ勃たない」という理由で同じマンション内で永らく別居していて「子供が生まれたら別れる」という条件で精子提供してできた子供がいる。
元嫁は誰からも愛されたことがないのかもしれないと思うくらい、男女問わずマウントを取りたがり、一度でも関わった男には執着する依存症だった。

世の中って本当に狭くて
元嫁の元彼の元嫁と私は偶然、知り合いだった。

なので「元嫁の元彼の元嫁」にも
ストーカーのようなことをして嫌がらせをしていることも知っていたから、私たちの邪魔をするのもまあ……そんな人ならやるだろうなと思っていたけれど
「元嫁の元彼の元嫁」には彼のことは話してないので「世の中にはこんなヤバイ奴がいる」という笑い話として、いらない情報が次から次へと入ってきた。
整形したのにブスが強すぎてブス戻りしてるとか
パグみたいな顔してるのにナルシストだとか
何かにつけてマウント取ってくる痛い女だとか。

過去にSNSでの自作自演を晒されていたなんてこともあるらしく、必死に嘘をついてまで注目されたいと思ったことのない私には彼女のコンプレックスは全く理解不能で気持ちが悪い化け物のような存在だった。

私の誕生日に連れて行ってくれた旅行で彼がベッドから起き上がって電話をしに行った時、チラッと聞こえた子供の声に、また子供を使って断れない状況を作る元嫁にどうしても我慢ができずに、彼が戻ってきてから
「元嫁はなんでいつも人質を使って邪魔をするの?」と聞いた。

ギクっとした表情になり、何もなかったように曖昧に流された。
……そうか。たとえ誰が見てもブスだろうと、ほとんどの人に嫌われていようと、笑われるようなダサい事をしようとこの世は非常識で強欲な嘘つき人間が、相手の弱みさえ握れば 一生得をするようにできてるんだ……


──私はもう、我慢せずに非常識で強欲になろうと思った。

子供ができてからも別れず、慰謝料のためにコツコツと女遊びの証拠など集めて固めて、周りを巻き込んで固めてから、彼が子供に愛情が湧いたタイミングで被害者ぶって
「すべて認めて支払わないなら子供とは一生会わせない」と別れを切り出したと噂されていた元嫁。
そのやり方や計画も全て聞いた。
「あいつらは一生幸せにはさせない」「こっちには人質がいる」と言っていたことも。知らないのは、彼ただ1人だけ。

元嫁が私の邪魔をすることも嫌だったけど、そのコンプレックスで腐った性根から来る憎悪を彼だけでなく無意識に子供にまでに向けていることは私にとっては嫌悪の対象でしかなく、彼には真相をなにも伝えないまま「元嫁大嫌い」と言うしかなかった。
そんな裏事情を知らない彼は元嫁からの子供を使った電話と不機嫌な私との板挟みだったと思う。

そんなある日、楽しみにしていたクリスマスイベントの前に夢を見た。

レストランで食事の最中に、前年と同様に元嫁から子供を使った鬼電。
そして、その電話に出るために席を立つ彼。
……その間に、私も席を立って、携帯をノールックでゴミ箱に投げ捨てて帰宅した。

その夢を彼に話し「正夢になりそう」と伝えた。
「ならないよ」と言い、その後に元嫁にも今年は電話もかけてくるなと言ってくれたとも話していた。

そのイベント当日は私もとてもとても楽しみにしていて、人生でこんなことがあっていいのかという演出を沢山してくれた。

五つ星ホテル内のミシュラン掲載レストランでのクリスマス限定フルコース。
デザートにはチョコレートのプレートに
「来年の誕生日はどこに行こうか?」と書いてあり、食事が済んでそのままスイートルームに行くと
ベッドに100本のバラの花束と真珠のアクセサリーが置いてあり
「たくさんの愛を込めて」とメッセージカードが添えられていた。
その部屋で彼と二人で、過去に色んな客と見てもう何も思わなくなっていた夜景を見て、心から綺麗だと思った。

そんな素敵な素敵な、忘れられない夢のような一夜を過ごしたその日は元嫁からの電話もなく、今年は「子供がたまたまここのイルミネーションを見たがったから」という言い訳で寝ている子供を連れて寒空の中、ホテルの下で何時間も待ち構えることもなかった。

それでも私は、彼と元嫁は別の人間だから……ましてや、子供は被害者だからと我慢した。

来年の誕生日は海外にしようか....なんて話もしてたっけな……

──あの日、幸せの絶頂にいたあの時、あの場で私を殺してくれたらよかったのに。



今まで、どんな浮世離れした計画も戯言に終わらず全て実現させてくれた彼。
仕事を一区切りさせたら、一緒に船で世界一周しようかなんて事を言われても、彼が言うならそうなんだから、その時までに準備しておいた方が良いかなとまた英会話にも通った。
そのくらい、彼は全て叶えてくれた。
沢山未来の話をして、個人的な計画も教えてくれた。
けどその度に「その時も一緒にいられたら良いな」という祈りのような感情と
「何もしてくれなくても一緒にいられるだけでいいのに」という感情があった。

何もなくてもって、色々してくれるし豪華な基準にいるからそう思うんでしょう?と思われるかもしれないが、彼が望むならまた風俗で昼夜問わず働くくらいは余裕でできるし、彼のためならばまたあの地獄のような会社経営に戻っても頑張れると思ってた。

「彼が望むなら」「彼のためになるなら」
私はなんでもできると思った。

ホストに貢いで立ちんぼする人たちやいただき女子なんて言葉も耳にするようになってしばらく経つけれども、その人たちもきっとその最中は、黒歴史なんかじゃなくて人生で1番愛に生きてる輝かしい時期だと思ってたと思う。

内臓が必要なら差し上げます。
戸籍が必要ならどうぞお使いください。
命が欲しいなら喜んで差し出します。
……恋は、それほどまでに人を盲目にする。

私は歳をとってからの初恋に、ホストにハマる若い子よりも盲目になっていた。
盲目になりつつも、わがままになることで対等になったように錯覚していた。


──その頃から
彼はセックスの最中に強く私の首を絞めるようになっていった。


イキ続けて失神しそうな首を、軽く手を当てるのではなく強めに絞める。
彼の体は普通の男性よりも大きく、手も私とは比べ物にならない程、大きく力強い。片手でも私の首なんて簡単に絞められるのに両手で。
その力は出会った頃に感じた印象よりもずっと強くて、力なんてほんの少ししか入れていなくても私は逃げられない。

自分の声が遠くなり、耳鳴りがして、頭が真っ白になる。
噛まれても何も感じず、ただただ「このまま彼に殺して欲しい」という幸福感だけの世界になる。

「死にそう」「死ね」「はい」 から
「はい」は声に出せない「殺してください」になっていった。
聞こえない「殺してください」はいつか
「せっかく絞めてくれたのに死ねなくてごめんなさい」に変わっていった。

死なないのは当然で
彼としては自分は殺人犯になりたくないし、その気で加減しているんだろう。
そりゃそうだ。
いつだって彼は私には本気じゃない。
それは私が我儘で気狂いじみた行動をする巨顔のブスじゃないからとか、子供という人質がいないからではなくて……
私は、たまたま呼んだら居着いてしまったただの全自動の穴だから。
……私が人間でいられるのは彼の前でだけだもの。

でも、ここまで傷が残るほど自分を出せる相手はきっと私だけ……
私は 、彼にとって唯一、曝け出せる特別な存在んだから……




そんなふうに必死に現実に目を瞑って平穏だと信じる日々を過ごしていたある日、決定的な出来事の発端となる噂が耳に入った。

──知りたくなかった。
元嫁の話もそうだけど、知ろうともしてなかったのになんで知ってしまったんだろう。

成績も優秀で、仕事を頑張って、死にたい衝動を我慢して、自分の会社とはいえ他人のために風俗をして、そして、初めて人を好きになった。

……私、何か悪いことした?

性病を2度もうつされても、嫌がらせをされても、お金が足りなくても、洗脳されても、暴力のようなセックスでも意識がなくなるほどに彼だけを愛してたのに。
私と彼の関係どころか彼のことも知らない、事情も知らない人からなんでこんな仕打ちを受けなくちゃならないの?

──だがそれは「偶像が支配する世界」から私が脱却するための、ある意味「本物の神からのプレゼント」だったのかもしれない。


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