サルヴァドール・ダリは何故オセロットを溺愛したのか?
スペインの芸術家、シュルレアリスムの画家サルヴァドール・ダリはオセロット(山猫)を飼っていて、大変可愛がっていた。彼の邸宅には、いつもオセロットのために、取り寄せていた肉や魚があったと言われている。制作中にはダリの一番のお気にいりだったオセロット『バブー』がいつも側にいまた。サロンや会見、パーティ、そしてファーストクラスと5つ星ホテルの旅行にまでも連れて行ったのだ。
オセロットは比較的、人に懐きやすく、愛くるしい顔と美しい模様の毛皮を持っているので、好感を持つ人は結構いるのではないだろうか。 しかし、既に富と名声は手中に収めており、最愛の妻までいたダリが、何故それほど、オセロットを愛おしんだのだろうか。
サルヴァドール・ダリがオセロットを溺愛した、幾つかの要因を探ってみた。
奇才の芸術家としての必要性

ダリは奇人変人を自称した。天才芸術家は、人とはかけ離れた言動や生活をしなければならない、と思っていたようだ。
<エピソード>
◊ カリフラワーを満載したロールスロイスでスピーチ会場へ行く。
◊ 象に乗り、凱旋門を訪れる。
◊ 書店に病院のベッドを置き、ニセの医者と看護婦を横たわった自分の側にいさせる。そして本を買ってくれた人には、ダリの脳波のコピーをプレゼントする。
◊ 潜水服を着て、講演会に壇上に立ったはいいが、途中で酸欠となり転倒。スパナでヘルメットをはずす騒動となる。
などなどあるが、これらは芸術家としてのパフォーマンスであり、実際のところは常識人であったと、ダリと親しくしていた人達は語っている。
「天才になるには、天才を演じればいい」と彼の残した名言がある。ダリにとって「天才」=「奇行」というのが、インスピレーションを開花させる信念だったようだ。
それでは、その信念で「奇行」をするために、野生のネコ、オセロットを飼ったのだろうか。
当時は、野生動物をペットにするのが流行りだった。ワシントン条約がまだ成立してなかったので、映画俳優や歌手の家に野生動物がいるのは、珍しいことではなかった。「エキゾチック・ペット・カタログ」なるものがあって、一般人までもが、気軽に飼えたのだ。


ダリとオセロットの出会いは、ホームレスが連れていたオセロットを買い取って、彼のマネージャーに渡しという説がある。実際のオセロットの飼い主は、マネージャーであり、ダリは始終、マネージャーのオセロットを借りていたのかもしれない。
ライオンやトラのように獰猛ではないので、色々な場所に連れて行くことができ、猫のように愛くるしい顔なのに、平凡ではなくひと目を引くオセロットは、さぞダリの「奇行」のパフォーマンスに貢献したことになる。そして、ヒョウを思わせる美しい毛皮は、制作時には、「天才」としての創造性を十分に刺激したのではないだろうか。
自分が富裕であることの誇示

ダリは、30歳前後で世界的に有名になり、彼の作品には常に高価な値段が付けられるようになった。商業的作品を多く制作していくと、嫉妬を込めた批判で「ドルの亡者」と呼ばれていたようだ。
<エピソード>
◊ ススメバチの毒入りだと言って、法外な値段で絵を売りつけた。
◊ 大勢でレストランで食事をして、支払いの小切手の裏に、落書きをする。レストランの店主は、ダリの絵が描いてあるので、小切手を現金化できない。
◊ オノ・ヨーコに自分の髭を一本1万ドルで売りつける。
と、少し詐欺まがいの行為もしていたような気もする。しかし、彼はお金を儲けることだけしていたわけではなく、自分の芸術のために派手に使っていた。
「人生は継続的なパーティでなければならない」と言ったように、頻繁に宴を催し、奇才を演じるために多額な出費をした。
「富」は「名声」であり、ダリの芸術的自己肯定感をあげるものだったのだろう。オセロットは、「冨」の象徴のひとつとして、彼の横にいたのではないだろうか? 毛並みの美しさは最上級の高価なネコは、ダリがいかに裕福であるかを、一目瞭然でわからせる調度品のような役割を果たしていたのかもしれない。
妻ガラからの愛を渇望していた

ダリは妻のガラをこよなく愛して、彼女は「ミューズ」でありベストビジネスパートナーだった。精神的に弱っていた20代にガラと出会い、一目惚れをして以来死ぬまで熱愛だった。ガラが亡くなると抜け殻のようになってしまったという。
<エピソード>
◊ 「ダリはガラ、ガラはダリ」「ガラ以外はみんな敵だ」と公共の門前で叫ぶ。
◊ ダリの多くの絵画には、ガラが描かれており、「ガラとサルヴァドール・ダリ」と署名していた。
◊ ガラのために、お城を買ってあげた。そして、お城の訪問者は自分以外許さなかった。
シュルレアリズムの芸術家ならではの、ユニークな盲愛の表現ともいえる。
ガラはビジネス能力も高く、ダリの作品の値段は全て彼女が決めていたようだ。ダリが多額の財を成したのも彼女の功績で、魅力的で才女であったガラは、恋愛に奔放だった。
10歳年上のガラにとっては、ダリとの結婚は3度目。しかし、若い芸術家が好きなガラは、ダリと結婚後も、恋人を何人もつくり、元夫とも交際を続け、時には同居することもあったそうだ。
愛する妻の破廉恥な行動に対抗するように、ダリも60歳を過ぎてから、ディスコクイーンと付き合ったりした。しかし、ガラの魅力には及ばなかったようで、長続きはしなかった。
女性恐怖症であった彼が、初めて愛した女性が恋多き女であり、そして自分の芸術と人生にはかけがえのない人物であるのは、さぞ苦悩したことだろう。
ダリは妻の不実で空いた心を埋めるために、人懐っこいオセロットを愛したのかもしれない。 「天才」でいる彼も、いつも側にいてくれ、自分だけを愛してくれる者を求めていたのであろう。
