資料①:「会社の一室」20●●年11月20日 案田亮さんへの取材
※以下、マチルダ・マチェ=エールことエスプリットの音声翻訳による聞き込み調査を文章にしたもの(マチルダの声はAI補正により、案田さんが聞き取りやすいように加工されている)。
マチルダ:『聞き込み調査にご協力ありがとうございます』
案田:はい、よろしくお願いします。総務部の案田です。まさか噂の御門探偵事務所の二代目所長をお目にかかれるとは思いませんでした。
マチルダ:『翻訳するためにヘルメット被ってるけど、緊張しないで自然に答えてくださいねぇ?』
案田:はい、ええと、確かうちの会社に導入している監視AIについてお尋ねしたいんでしたね。
マチルダ:『そうです。今まで、何か気になることやおかしな点はありませんか?』
案田:おかしなことはそりゃあ、ありますよ。とはいっても、あくまで私が体験して個人的におかしいと思った不思議な出来不事ですがね? この会社の一室で起きた出来事とでも言いましょうか。
マチルダ:『教えてください』
案田:はい、一室とは言いましたけど、正確には、丁度ここなんですよ。
マチルダ:『それは話が早いですねぇ。ここで監視AIの変なことが起きたと』
案田:このスペースはちょっとした話し合いや面接のスペースになっていて、あの時は会社の資料をまとめていた時だったかな、周りに人はいなくて、時間は昼間だったんですけど。突然音が鳴り響いたんですよ。なにか警告音みたいな音が。最初はなんだろうと思いまして辺りを見渡したんですよ。でもそれらしいものが見当たらなくて。そしたら、いつの間にかその、今マチルダさんがいる辺りに清掃員がいたんですよ。
マチルダ:『いきなり現れたんですか?』
案田:そうですね。辺りを見渡している間にそこに来たのか、一瞬ビックリして身をすくめましたよ。でもここからが奇妙で、だってその清掃員さん同じ所を行ったり来たりと繰り返しているだけで、こっちには目もくれなくて。
マチルダ:『お掃除の人なら、不愛想なのかも? お仕事に集中してた…?』
案田:そう、最初見たときはそうだと思いました。でも気付いたんですよ。清掃員さんの体の輪郭がおかしくて、そう、光の揺らめきって言えばいいのかな? よく映画であるCGの通信映像で人が映し出されるやつ、そう、ホログラム! あの姿まんまだったんですよ。しかも一切無音だったんです。それどころか人の気配とか呼吸音すら無い。この清掃員は何者なんだとゾッとしたんですよ。
マチルダ:『それで、監視AIに繋がると? どうやって気付いたんですか?』
案田:ちょうどマチルダさんの後ろに装置が設置されてるんですが、それが視線に入った時に、何かチカチカとランプが点滅してるのが見えたんですよ。普段はそんな光り方見たことなかったから、おかしいなと思って近づいて見てみたんですよ。そうしたら一筋の光の線が丁度清掃員に向かって伸びていて、まさに映像を映し出しているような感じで、それでピンときたんです。もしかして、監視AIの装置がなにか誤作動を起こしてこの清掃員のホログラムでも見せたのかと。
マチルダ:『なるほど、それで、その後はどうしたんです? お掃除の人の映像は映し出されたまま?』
案田:いえ、しばらくしたら先程聞いた変な警告音が装置から流れたと思ったら、そのホログラムはいつの間にか消えちゃいましたね。幽霊だったとかそういう類のオチではないですね。
マチルダ:『その後、またホログラムが映し出されたりとかは無かったんですか?』
案田:いや、あの一度きりですね。僕が体験したのはこれくらいで、他にも変なものを見たっていうのは聞いたけど。
マチルダ:『他にも見た人がいるんですか?』
案田:怖いもの見たさで全員話を聞いたんですが、全部僕と同じで監視AI装置の誤作動みたいなもんでしたよ。映し出された人の特徴もホログラムのそれと一致してましたから。ただ、特に何か支障が出ているわけでもなく、滅多に起きないからその内皆忘れてしまう程度でしたからね…話せるのはこれぐらいですかねぇ。
マチルダ:『ありがとうございます。なにかありましたら、その時は御門探偵事務所にお申し付けください』
案田:「はい、その時は是非、本日はありがとうございました」
