触れないリハビリの可能性。理学療法士が“手を使わずに支援する”時代へ
■はじめに
コロナ禍で「非接触」「オンライン」という言葉が世の中に急速に浸透しました。
診療も会議も学校も、画面越しで完結する。あれほど“対面が当たり前”だった社会が、非接触の形に大きく変わったのです。
でも、医療の現場だけはなかなか変わることができませんでした。
とくに私たち理学療法士にとって、「触れること」が仕事の本質だと信じて疑わなかった。だから、非接触やオンラインという言葉には、どこか距離を感じていた人も多いはずです。
しかし私は最近、ふと気づきました。
「本当に“触れること”が必須なのか?」
「触れずにリハビリを届ける方法はないのか?」
この問いが頭から離れず、模索する中で見えてきた可能性を、今回noteに書き残してみたいと思います。
■なぜ医療現場は“オンライン化”しにくいのか
例えば、内科や精神科などの医師はすでにオンライン診療を取り入れ始めています。患者の話を聞き、画面越しに顔色や表情を確認し、必要に応じて検査や薬を処方する。
もちろん対面に勝るものではないにしても、**「オンラインでもある程度は成立する」**という感覚を、多くの人が共有しています。
では、私たち理学療法士はどうでしょうか?
多くの職場では、いまだに「対面ありき」「触れてなんぼ」の考え方が根強いと感じます。
確かに、急性期や回復期においては、直接触れなければ伝えられない情報・介入も多いでしょう。
でも、それが“唯一の方法”だと決めつけてしまっていないでしょうか?
私はいま、外来リハビリで1回20分という限られた時間の中で、**「患者自身が気づくリハビリ」**を重視しています。
それは、決して“触れる”必要がない場面が多いことを教えてくれました。
■理学療法士の武器は「手」だけじゃない
理学療法士は、目が鋭く、観察力に長けた職業です。
立ち上がりのタイミング、足のつき方、重心移動、呼吸の乱れ——
わずかな動作や表情の変化を見逃さず、そこから問題点を推察し、適切な助言を行う。
つまり私たちの武器は、「手」だけではなく、「目」や「言葉」にもあるのです。
画面越しでも、患者の動作を見ることはできます。
会話の中で、生活背景や困っていることを深掘りすることもできます。
実際、私はこれまで何人もの患者さんに対して、「言葉だけで介入」することで行動変容を引き出せた経験があります。
もちろん、その場で筋膜リリースや徒手的な関節可動域訓練はできません。
でも、“気づき”を得た患者さんが、自分の意思で体を動かすことの方が、よほど大きな変化につながるのです。
■非接触リハビリで提供できるものとは?
具体的に、「触れないリハビリ」で提供できる支援には、以下のようなものがあります。
① 動作・姿勢の評価とフィードバック
画面越しでも動作の確認は可能です。
スマホスタンドと広めの部屋があれば、ある程度の動作観察は十分できます。
「その立ち上がり、背中が丸まりすぎですね」
「足が開きすぎてるので、重心が逃げてしまってますよ」
など、具体的なコメントを返すだけでも、患者は“自分の癖”に気づいてくれます。
② セルフエクササイズの提案
一人でできる体操、呼吸法、ストレッチなどは豊富に存在します。
患者が無理なくできる種目を選び、画面越しに一緒に行いながらポイントを伝える。
「今のは少し腰を反りすぎたかも」「呼吸が止まってるので意識しましょう」といったフィードバックは、まさに理学療法士の強みです。
③ 生活指導・環境調整の助言
「椅子の高さが合っていない」「ベッドの位置を少しずらしてみましょう」など、生活環境に関するアドバイスも非常に重要です。
むしろ、自宅を映してもらえるオンラインだからこそできる支援でもあります。
④ 家族や介助者への指導
本人の動きが難しい場合でも、家族や介助者に画面越しでアドバイスすることが可能です。
「この角度で支えて」「ここにタオルを入れてみてください」といった具体的な指導を通じて、“代行者を通したリハビリ”も成立するのです。
■「気づき」が生まれれば、行動が変わる
私は最近、外来リハの限られた時間の中で、「この人に、今日ひとつでも“気づき”を持ち帰ってもらう」ことを目標にしています。
それは姿勢の癖かもしれないし、痛みとの付き合い方かもしれない。
無理して頑張りすぎていることかもしれない。
人は、「気づき」を得たときに、自分から変わろうとする力を持っています。
その内発的な動機づけが、行動変容につながり、症状の改善へと導かれる。
つまり、「触れること」によって“与えるリハビリ”ではなく、
「触れないこと」によって“引き出すリハビリ”ができるのです。
■海外にも広がる「触れないリハビリ」
すでにYouTubeなどでは、多くのエクササイズ動画が公開されています。
ストレッチ、筋トレ、姿勢矯正など、健康意識の高まりとともに需要は増え続けています。
しかし、それらの多くは**「一般人が一般人向けに発信している」**もの。
あるいは、理学療法士であっても「画面越しの評価力」や「文脈に合った提案力」には限界があるケースもあります。
だからこそ、経験豊富な理学療法士が参入する価値があるのです。
私たちが持つ「評価力」「教育力」「文脈理解力」を活かせば、
日本国内だけでなく、海外に住む日本人や高齢者にもサービス提供が可能になります。
場所や距離、時間に縛られない働き方が、理学療法士にもきっとあるはずです。
■おわりに
「触れることができないから、理学療法はできない」
そう決めつけてしまっては、何も始まりません。
「触れなくても、できることがある」
そう考えることで、私たちの視野は大きく広がります。
理学療法士の働き方に、新しい風を。
目と声、そして“引き出す力”を武器に、「触れないリハビリ」の未来を一緒に切り拓いていきませんか?
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