【連載 第0回】AI時代のBtoBはどこへ向かうのか ― 「SaaS崩壊論」への違和感と、日本市場のリアル
こんにちは、おやむです。 いつもnoteを読んでくださり、ありがとうございます。
私は普段、上場企業の営業マネージャーとしてゼロからの新規事業立ち上げや組織構築に携わりながら、外部の営業サポートや講師を行っています。また、管理部門(人事、総務、経理、法務、情シスなど)向けのBtoBメディア・プラットフォームの現場責任者として、SaaSやシステム、BtoBサービスのマーケティングおよび営業支援に約10年にわたり携わってきました。
今回、多くのBtoBサービスを展開している企業様から頂いた意見や、相談事項として多くなってきている分野として、新たに「AI時代のBtoB営業・マーケティング再構築」をテーマにした連載コラムをスタートしていこうと考えております。
目的は、昨今叫ばれている「AIの進化によるBtoBビジネスの劇的な変化」について、単なる抽象論や上澄みのトレンド解説ではなく、“現場の泥臭いリアル”から本質を紐解き、これからの企業の生存戦略をお伝えするためです。
「SaaSは崩壊する」という議論への強い違和感
ここ最近、「SaaSは終わる」「SaaSは崩壊する」といった議論を目にする機会が急激に増えています。
AIの進化、とりわけ高度な生成AIの登場によって、これまでの業務アプリケーションのあり方が根本から変わる可能性がある、という文脈です。確かに、大きな地殻変動は起きています。自然言語で指示を出すだけで、データの整理から分析、レポーティングまでが完結する。こうした体験が当たり前になれば、「人間が画面を操作して入力するSaaS」の価値が相対的に下がるのは自然な流れと言えるでしょう。
しかし、私はこの議論に触れるたびに、強い違和感を覚えます。 それは、「テクノロジーの進化」と「企業の現実(現場)」が完全に切り離されて語られているからです。
日々、多くの企業の現場と接し、泥臭い課題に向き合う中で私が強く感じていること。それは、テクノロジーの進化スピードと、日本企業の実態(活用レベル)には、気が遠くなるほどの明確なギャップがあるということです。
SaaSは“崩壊”しない。起きるのは「明確な二極化」である
結論から申し上げます。 日本市場において、既存のSaaSビジネスが明日から急激に崩壊するようなことは起こりません。その代わりにこれから起きるのは、企業側の「明確な二極化」です。
1. AIを使いこなす企業(SaaSを“部品”化する層) 一部のITリテラシーが高い企業は、AIを前提に業務プロセスそのものを再設計していきます。データ基盤が整備され、AIを業務に組み込める人材が存在する組織です。こうした企業において、SaaSは「それ単体で完成されたツール」ではなく、自社のAIシステムに必要に応じて連携させる“部品(モジュール)”のような位置づけへと変わっていきます。
2. SaaSに依存し続ける企業(より手軽なSaaSを求める層) 一方で、圧倒的多数を占める多くの企業は、すぐにAIを自社向けにカスタマイズして使いこなせる状態にはありません。DXが十分に進んでおらず、IT人材が不足し、業務が属人化している。こうした企業にとって、SaaSは今後も業務を支える不可欠な存在です。むしろ、最初からAIが組み込まれた「より簡単で、考えなくても使えるSaaS」への依存度は、これまで以上に強まっていくはずです。
本質は「何を使うか」ではなく「誰が使うか(組織の成熟度)」
この議論において本当に重要なのは、AIやSaaSといった「技術そのもの」ではありません。それを利用する“組織の状態”です。
同じAIでも、使いこなして飛躍する企業と、持て余す企業がある。
同じSaaSでも、業務効率化を実現できる企業と、形骸化してコストだけがかさむ企業がある。
つまり、今後のBtoBビジネスの未来を分けるのは、プロダクトのスペックではなく「企業の成熟度」そのものなのです。
リード獲得偏重のマーケティングは限界を迎える
そしてここからが、本連載の本題です。 この「企業の二極化」は、単なるIT部門のトピックではありません。BtoBマーケティングと営業の構造そのものを根底から変えてしまう大きなうねりです。
なぜなら、市場では以下のような変化が同時に進行していくからです。
顧客(企業)ごとに、テクノロジーに対する理解度が大きく分断される。
情報収集の手段が「検索」から「AIへの質問・要約」へとシフトする。
結果として、顧客の「検討プロセス(カスタマージャーニー)」がベンダー側から見えづらくなる。
これまで日本のBtoB企業が当たり前のように信じてきた、「リード(個人情報)を獲得し、インサイドセールスが電話で接触し、商談化する」というモデルは、徐々に成立しづらくなっていきます。
いかにリードを大量に獲得するかを中心としたマーケティングは、前提自体が揺らいでいます。 そもそも問い合わせが発生しない。比較は人間ではなくAIが代替する。AIの候補リストに最初から入らなければ、存在しないのと同じになる。
つまり、リードになる前の段階(入口)で、すでに勝負が決まる時代へと突入しているのです。
今回取り扱うテーマ 「変わるのは手法ではなく“前提”」
本シリーズでは、この強烈なパラダイムシフトを前に、BtoB企業がどのように戦略を再構築すべきかを、以下の全5回の流れでロジカルに整理していきたいと思っています。
第1回:AIはBtoBの“入口”をどう変えるのか (検索・比較・情報収集はどう変わり、SEOの価値はどうなるのか)
第2回:管理部門の意思決定はどう変わるのか (AI時代における選定基準と、社内稟議メカニズムの変化)
第3回:なぜThe MODELは機能しなくなるのか (リードから商談への分業構造が抱える致命的な限界)
第4回:リード獲得では勝てない時代のマーケティング (AIの候補に挙がり「選ばれる状態」をどう設計するか)
第5回:AI時代に勝つBtoB企業の設計図 (マーケ・営業・プロダクトの再統合とこれからの組織論)
~おわりに~ AIはSaaSを終わらせるのではなく、本質を問う
最後に、本シリーズ全体を通じた立ち位置を明確にしておきます。 AIは、SaaSを終わらせるものではありません。また、BtoBマーケティングという営み自体を無効化するものでもありません。
ただしAIは、私たちがこれまで見て見ぬふりをしてきた、あるいは曖昧にしてきた「前提」を、すべて残酷なまでに可視化する存在です。
そのサービスには本当に価値があるのか?
現場で本当に使えるのか?
他社ではなく、自社が選ばれる明確な理由があるのか?
これらが、より厳しく、データに基づいて問われるようになります。
重要なのは、新しいツールや流行りの施策を次々と取り入れることではありません。「何を前提にマーケティングを設計しているか」を疑うことです。
「顧客は自ら情報収集してくれる前提」なのか。「リードさえ取れれば営業が説得できる前提」なのか。これらの前提を見直さなければ、どれだけマーケティング予算を投下し、施策を増やしても成果は出ません。
もし今、あなたの組織で「施策は増やしているのに成果が落ちている」「リードは取れているのに受注につながらない」と感じているのであれば、その原因は“やり方”ではなく、“前提”にあるのかもしれません。
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