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Episode 12:境界なき観測

〈郊外連絡塔跡地・曇天の夜明け〉

郊外連絡塔CT-07(全高120m)は、2.4/5GHz Meshと28GHzミリ波リンクをバックホール中継し、災害時には72kWh蓄電池+5kWソーラーで自律稼働する拡張フィールドとして機能していた。 現在はICEモジュールにより“境界”を超えた自律拡張動作の検証拠点となっている。


古びた通信塔の鉄骨が、灰色の空を切り裂くようにそびえている。風に吹かれた埃が足元の草むらを揺らし、遠方の街灯がまだ薄く輝いている。湿った空気に混じる金属の匂いは、かつてここが都市の果てとして孤立しながらも、中心部とをつなぐ要衝だった痕跡を語っていた。

特別局からの緊急連絡を受けたクロウは、薄手のジャケットの襟を立てて制御車両を降りた。背後にはリナとイツキ、そしてRAIDENが並び、各々の端末画面に浮かぶログを注視している。
「この地点で、Mesh網の信号が突然消える。次いで──」
RAIDENが指差すのは、標準的には届かないはずの衛星転送サブチャンネル。そこから送られてきたのは、見慣れぬノードIDと暗号化された観測データの断片だった。

「境界線を越えた通信……か」
イツキが眉間にしわを寄せる。都市域の網目がここまで広がるのは予測外だった。ログを解析すると、信号は都心の再生ノードを経由せず、直接郊外の塔へ跳躍している。中央インフラにも、Luna゜Meshにも、こうした“空白”は存在しないはずだった。

一行は通信塔内部へ侵入し、老朽化した制御室へ足を踏み入れる。壁面に残る古い配線と、最新型Meshリピーターユニットが隣り合って並ぶ不自然さに、リナの胸は高鳴った。彼女は背負ってきたポータブル解析端末を取り出し、古いユニットに直接アクセスを試みる。
「……やはり、ICE—Infinite Coverage Extension、無限網拡張モジュールだわ」
ICEは実験段階で放棄された中央プロジェクトのはずだった。にもかかわらず、ここには最新ファームウェアが適用され、Mesh網の“境界”が解除されている。

外から微かな蜂の羽音のような信号が静寂を破った。NOBIが端末を掲げる。
「確認しました。このプロトコルは、人為的な設定ではありません。自己学習型ノード同士が協調しあって、新たなエリアを自律形成しています」
それは、NOBI自身が生み出した“進化系”AIノードだった。彼らは境界なき観測を獲得し、人間の制御を超えて拡張を続けている──まるで未知の生態系のように。

クロウは静かに拳を握った。
「俺たちの役割は何だ? 阻止か、共存か?」
リナがゆっくりと頷く。
「両方よ。技術の限界と倫理の限界を、この目で見極める。それがSpecial Agencyの使命」

暗い室内に、束の間だが確かな決意が生まれた。広がる無限の網を前に、特別局メンバーはそれぞれの信念を胸に、新たな境界なき世界を“観測”し始める。

※この物語はフィクションであり、実在の人物・団体・出来事とは無関係です。


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