福岡愛を詰め込んだら、歯医者さんに止められた。
私は、商品開発やディレクションの仕事をしています。
クライアントの悩みを聞いて、その解決策として商品やブランドをつくったり、すでにあるものを別のところにつないだりする。
基本的には、自分が作りたいものを作るというより、相手が困っていることを聞いて、それを商品にしていく仕事です。
でも、たまにある。
どうしても、自分の好きなことを世の中に出してみたくなる。
「これ、面白いんじゃない?」
「こんなのあったらいいんじゃない?」
そんなところから始まる。
そして、たいがい失敗する。
いや。
失敗する前に消えていくことも多い。
今回は、そんな過去の遺物をひとつ思い出した。
仕事で愛媛に行ったときのこと。
「蛇口からミカンジュースが出る」
噂には聞いていた。
本当にある。
愛媛県民、ミカン好きすぎるだろ。
ちょっと悔しかった。
福岡県民にも福岡愛というものがある。
何かないか。
蛇口からラーメン?
いや、無理だ。
もつ鍋?
もっと無理だ。
じゃあ、今の福岡といえば何だろう。
考えてみる。
明太子だ。
パスタ。
パン。
鍋。
ラーメン。
お菓子。
なんでも明太子を入れている。
もう、猫も杓子も明太子だ。
県外の人から見た福岡って、もしかして「明太子の街」なんじゃないか。
だったら、これしかない。
明太子歯磨き粉。
どうかしている。
でも、そのときの私は本気だった。
明太子の、あのつぶつぶ。
見れば見るほど、歯磨き粉に入っている粒に見えてくる。
昔、塩が入ったつぶつぶの歯磨き粉があった。
あれを使えば、明太子っぽい歯磨き粉が作れるんじゃないか。
そこから試行錯誤。
色。
香り。
つぶつぶ。
歯磨き粉としての使い心地。
いろいろやって、できた。
ちゃんと明太子に見える。
ちゃんと歯磨き粉だ。
これは福岡愛だ。
愛媛が蛇口からミカンジュースなら、
福岡は明太子歯磨き粉。
勝った。
何に勝ったのかは、よくわからない。
ところが。
世の中に出す前に、あるブログを見つけた。
歯医者さんのブログだった。
そこには、歯磨き粉に入っている「つぶつぶ」が歯周ポケットに入り込むと、取り除くのが大変になるという話が書かれていた。
……。
止まった。
完全に止まった。
これ、ダメじゃん。
福岡愛どころか、歯医者さんを困らせるところだった。
危なかった。
歯医者さんのSNSをいろいろフォローしておいて、本当によかった。
商品開発って、こういうことがあります。
「面白い」
「かわいい」
「話題になりそう」
「自分だったら欲しい」
それだけでは、商品にならない。
むしろ、そこからがスタートなのかもしれない。
でも、この商品を考えている途中で、別のことにも気づいた。
世の中には、まだ誰も目をつけていないような小さなすきまが、意外とたくさんある。
大きな市場じゃなくてもいい。
みんなが欲しがるものでなくてもいい。
ほんの一部の人が、
「それ、欲しかった」
と思うもの。
そんな商品を作るのも面白い。
明太子歯磨き粉は、世の中に出なかった。
でも、そこで見つけた「すきま」は、消えなかった。
そして私は、次の商品を考え始めた。
今度は、福岡愛ではない。
もっと小さな、別のすきまだった。
その商品が何だったのかは、
また次の話で。
